黒夜行

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酒気帯び車椅子(中島らも)

内容に入ろうと思います。
主人公の小泉は、モーレツ社員でありながら家族想いでもある、ちょっと良いパパという感じの平凡なサラリーマンだ。中堅の商社に勤めていて、価値のないと思われているものに新たな価値を提示して儲ける仕事にやりがいを感じている。
今小泉は、ゴルフ場を霊園に変えるプロジェクトを手がけている。小泉自身の発案だ。用地の買収や墓地の設計、協力してくれる寺社などすべて手配しており、計画の6割ぐらいが固まっている。様々にトラブルも発生し、その度に気苦労が絶えない仕事ではあるのだけど、この醍醐味はやめられない。
しかしある日、極秘であるはずの彼の霊園プロジェクトについて話があるという謎の不動産からの連絡があった。向かってみると、それはどう見てもヤクザ絡みの不動産会社だった。東大卒だという切れ者が、小泉が手がけている霊園プロジェクトの土地にカジノを建設する計画を立てているのだ。ヤクザらは、小泉の買収金額よりも多い金額を提示し、土地を売れと迫る。しかし小泉はその提案を蹴る。暴力や脅しにも一切屈せずに、その後も普段通りの生活を続ける小泉だったが…。
というような話です。

読み始めからしばらくはそんな雰囲気をほとんど感じませんが、巻末に『バイオレンス小説』と書かれているように、途中からかなりのバイオレンス具合になっていきます。ほのぼのとした家族小説のテンションから一転バイオレンスに変わるので、その落差に驚く人もいるかもしれません。

ストーリーは、さすが中島らもという感じで、一気に進んでいきます。余計な小細工なんかなく、中島らもは、スタート地点からゴールまで、とにかく直進で物語を進めていきます。普通そういう小説というのは、単調だったり工夫に欠けていたりで、面白くなかったりするものです。しかし中島らもは、何故か読ませる小説を書き上げます。読みながら、単調な展開だな、と感じはするんです。中盤で物語のテンションが一気に変質する場面以外では、ほとんど物語が曲がりくねったりしません。そう展開するだろうなというような想像の範囲内の展開をします。それでも、勢いなのかなんなのか、中島らもは読ませる小説に仕上げてくるんですね。なんだかそこが不思議な気がします。

物語は本当に、前半と後半で別物ではないかというぐらいテンションが違います。前半で面白いのは、小泉と、小泉の周りにいる人間との関係性でしょうか。社長、副社長、事務の女の子、妻、娘、飲み友達。小泉は様々な人間と関わるのだけど、その関わり方が面白い。僕が中島らものエッセイを読んでるからかもしれないけど、小泉のあり方が、中島らもその人であるように思えて、中島らもがこんな風に人と接しているのかもな、と思うことで面白さを感じているのかもしれません。

個人的に好きなのは、事務の女の子とのやり取りと、娘とのやり取りでしょうか。会社の部下と、あるいは自分の娘と、こんな感じに接することが出来るなら面白いだろうなぁ、と感じさせるようなやり取りをします。社長や副社長との関わりも、小泉に対する全幅の信頼ありきのもので頼もしいし、飲み友達との関わりも、世間とズレている世界を垣間見ることが出来て面白いです。

後半はとにかく、小泉自身の執念の凄まじさみたいなものに打たれます。それはもちろん、美しいものであるはずがないし、徹底的に醜いものです。でもその醜さが、不快という感じではない。小泉に降りかかった災厄を考えれば仕方ない、そう感じる人の方が多いのではないかと思います。
小泉は、その昏い執念を絶やすことなく、また自らを襲った状況に絶望して諦めることもなく、前だと信じる方向へ突き進んでいく。実際に同じ行動を取るかどうかは別として、小泉の気持ちが理解できるという人は結構いるのではないかと思います。しかしそのために、とんでもない“兵器”を完成させるという展開は、さすが中島らもの奇想だなと感じたのでした。

タイトルの「酒気帯び車椅子」という言葉も、とてもいいですよね。奥さんが解説を書いているんですけど、奥さんによれば、中島らもはこの「酒気帯び車椅子」というフレーズを思いついてしまったがために、本書を書いたのだそうです。確かに、それぐらい強いインパクトのあるフレーズだなと思います。元々広告屋みたいなところからキャリアをスタートさせた中島らもらしいなと感じました。

メチャクチャな小説ではあります。特に後半は凄いです。中盤に、とんでもなく悲惨でしんどいシーンが出てきます。そういうのが苦手な方は、手を出さない方がいいかもしれません。とはいえ、想いの強さや決意の固さみたいなものを猛烈に感じ取ることが出来る一冊です。

中島らも「酒気帯び車椅子」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)