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ハナシがちがう! 笑酔亭梅寿謎解噺(田中啓文)

内容に入ろうと思います。
星祭竜二は、両親のない、素行不良な少年だった。先生が見かねて、先生の“師匠”に弟子入りさせることにした。
それが、笑酔亭梅寿、上方落語の大看板である。
竜二は落語なんぞに興味はなかったが、逃げられない状況に追い込まれ、しぶしぶ修行をする羽目になる。
しかし、師匠は始終飲んでは問題を起こすし、何かあればぶん殴られるし、稽古はつけてくれないし、そもそも落語に興味はないしで、やってられるかという感じである。
それでも、前座としての修行をこなし、落語の勉強をし、様々な会に足を運び、梅寿のお守りをした。
そんな中で彼は時々、事件に巻き込まれてしまう。それらを、落語からの発想で竜二が解き明かしていくのだが…。

「たちきり線香」
寄席で三味線の弦が三本同時に切れた。何か鋭利なものでスパっと切ったような切れ口だ。しかしその時その三味線は、舞台上でまさに弾かれている最中だった。その三味線弾きの死んだ姉の呪いではないかと思われたが…。

「らくだ」
東京から、吸血亭ブラッドという外国人の噺家がやってきて、事務所の企画でイベントが行われることになった。”らくだ”という渾名を持つブラッドは、人をこき使い、誰かれ構わず罵り、さらに大食漢で絶倫だという噂。楽屋でも酷い態度だったが…。

「時うどん」
いたし・まっせ師匠のいたし師匠からいびられる竜二。若手をボロカスにけなし、よその前座をあごで使う。しかっし、彼らの漫才はどうもキレがない。ツッコミが遅いのだ。いたし師匠の弟であるというまっせ師匠は、楽屋では一切喋らない。テレビ局がいたし・まっせ師匠を『伝説の漫才師』として売りだそうとしているのだが、いたし師匠はそれを頑なに拒む…。

「平林」
竜二の初舞台が決まった。しかし相変わらず梅寿は一切稽古をつけてくれない。兄弟子の梅春に稽古をつけてもらう日々だ。噺を覚えるので必死で、その気はないのに無銭飲食をしようとしてしまった竜二。その肉屋の親父が竜二の初舞台当日…。

「住吉駕籠」
梅毒という兄弟子から、新作をやらないかと声を掛けられた竜二。古典落語のつまらなさにうんざりしていた時だったのでやりたいと思ったが、梅寿から許可が下りない。こっそり新作落語を作って練習する日々。梅毒は、病院長の未亡人をたぶらかし、博打で作った借金で病院がかたに取られたという噂を持つ男で、粗暴なスタイルを売りにしていた。梅毒主催のイベント当日、なかなかやってこない梅毒に皆が痺れを切らしていたが…。

「子は鎹」
梅寿から破門を言い渡されてしまった竜二は、昔の仲間の家を転々とする生活を送る。行き場のない竜二は、ピン芸人としてやっていくことを決めネタを作り始めるが、舞台に上がる機会はやはりそうそうはない。そんなある日、たまたま出会った梅寿の奥さんから、梅寿の孫が誘拐されたと聞き…。

「千両みかん」
「M-1」の落語版「O-1」の開催を記念して開かれたパーティー。それは、巨匠と呼ばれる映画監督が撮った映画の完成披露パーティーと抱合せだった。その場でプロデューサーと喧嘩した梅寿は、竜二と共に散々暴れまわってその場を後にした。その映画監督は完璧主義者で、あるものがないことで映画会社存亡の危機に立たされているらしいのだが…。

というような話です。

面白い作品でした。読みながら、なんか一回読んだ記憶があるような気がするな、と思いながら読んでいましたけど。

まずとにかく読みやすいです。落語をモチーフにしているので、知らない世界の話だし、落語にも興味ないしと敬遠する人もいるだろうけど、その心配はないでしょう。全編、ドタバタコメディのようなタッチで話が進んでいきます。リアリティは多少犠牲にして、読みやすく面白い作品を書いたという感じです。ただこの場合のリアリティは、落語以外の部分についてです。僕は落語には詳しくないけど、解説の桂文珍によれば、落語の描写はかなり正確なようです。また著者自身も、様々な書籍における上方落語の記述が間違っていることに憤りを感じてこの作品を書いた、みたいなことを言っているようなので、落語の部分のリアリティはきちんとしているんだと思います。落語以外の部分だと、人が死んでてこの反応は軽すぎるやろとか、そんなに殴られたら人は死ぬでしょとか、そういう部分のリアルさは結構捨ててる感じがします。面白ければよし、という感じでしょうか。

どの物語も比較的、落語と関わりがあります。どの章題も落語の噺の名前で、その落語が作品全体と関わってくる感じになります。落語との関わりで言えば、特に「千両みかん」が秀逸だったかな。「千両みかん」は、とある事情から恐ろしく高いみかんを買うことになった者の話。その話が、映画会社が必死で探しているものと関わりがあって、なるほどなかなか面白いなと思いました。

読んでいると、本書でやられている落語を聞いてみたくなります。特に、梅寿がやっているのを。竜二はもともと落語なんかになんの興味もなかったのに、梅寿の古典落語を聞いて衝撃を受ける。しかも、ほぼ毎回である。古典落語ということは、ストーリーも笑わせどころもオチも全部知っているわけだ。それでも、梅寿の落語は圧倒的に面白いらしい。普段は、酔っ払ってゲロ吐いて、借金取りに追われまくってるクソジジイなんだけど、落語となると天才的だそうだ。どんな感じなのか、実に気になる。

他にも、新作落語が面白い梅毒、とある事情から能力を発揮できていないいたし・まっせ師匠、新しいお笑いを目指すチカコ、なかなか壁を突破できない梅春など、どんな落語をするんだろうなぁ、と聞いてみたく思わせる人物がたくさん登場する。著者が落語を本当に好きだからこそこういう描写が出来るのだろう。

また、竜二が徐々に落語家として成長していく様がサイドストーリーとして用意されているのも良い。完膚なきまでに興味がなかったところから、稽古を続け、自ら試行錯誤し、様々に舞台を経験し、落語の世界に惹きつけられていく過程はなかなか面白い。古典落語は古いからつまらないと思いたい竜二と、でも梅寿があれだけ面白いのはなんでなんだ?と考えたい竜二がせめぎ合う場面があったり、いつしかどっぷりと落語の世界にハマっている竜二の姿はなかなか愛らしいです。

謎解きの部分で言えば、本書はなかなか珍しく、主人公が探偵役です。普通は、主人公がワトソン役で、探偵役は別にいることが多いけど、本書の場合は竜二が探偵をやります。竜二にそういう素質がどうしてあるのか、的な描写は特になりから、そういう設定なんだなと思うけど、落語絡みで事件が解決していくことを考えると、竜二以外の人間の方が適役だった気もしなくはありません。でも別に誰が探偵役だろうが、物語の面白さが変化するとは思えないので、大した問題ではないでしょう。

サラッと読むにはなかなか面白い作品だと思います。いずれ落語の世界は知りたいと思ってるんだけど、やっぱり奥が深そうだなぁと思いました。

田中啓文「ハナシがちがう! 笑酔亭梅寿謎解噺」


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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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1位 「死のテレビ実験
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)