黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

任侠スタッフサービス(西村健)

内容に入ろうと思います。
この物語は、大きく前編と後編に分かれている。
前編は、連作短編集のような趣だ。7人の一般人が主人公となり、彼らがどのようにして”取り込まれていく”のかを描いていく。
たとえば、最初の”獲物”は、「いいだツアーズ」という小さな旅行会社を経営する飯田だ。社員は飯田を含めて三人だけ。しかも、飯田以外の二人は、やんごとなき理由によって退社してしまっていた。まあ一人でものんびりやるさ、と思っていた矢先、飯田は恐怖の電話を受けることになった。
『飯田さん。ウチよ、ウチ。今年も頼むけんねっ、いつもの通り』
忘れてた!「レディース・ケア」という会社の社員旅行のことを。要求が我儘なオバサンたちの相手に毎年疲弊するのだ。とても一人じゃムリだ。
そこで飯田は、臨時雇いを募集することに。すると、「倶利伽羅紋々サービス」という怪しげな名前の派遣会社から、恐るべき好条件で2名確保出来ることになった。
やってきた二人は、折り目正しい優秀な男たちだが、何故か真っ白い手袋をしているのが気になる…。
と、実はこの「倶利伽羅紋々サービス」という会社は、「馬場一家」という地元ヤクザのフロント企業だったのだ。何故か色々あって、飯田は「倶利伽羅紋々サービス」のメンバーの一人に組み込まれてしまったのだが…。
旅館の経営者、コンパニオン会社の女社長、長距離トラックの運転手など様々な一般人が、「倶利伽羅紋々サービス」と関わりを持つことになる。みな、相手がヤクザだと知り、興奮や恐怖など様々な感情を抱くが、一様に、「馬場一家」が一体何をしようとしているのか、そして自分たちが何をさせられようとしているのか、それに皆目見当がつかず、気味悪がっている。
後半は、そんな風にして「倶利伽羅紋々サービス」に取り込まれていった人たちの動向を中心に、「馬場一家」や警察の動きまでもが描かれ、福岡を舞台に何か大きなことが起ころうとしている…。
というような話です。

これは面白かったなぁ。読みやすいエンタメ作品で、ストーリーにも工夫がある。前編では、ヤクザがどうやって一般人を巻き込むのかという手練手管が見事だし、後半の一般人・ヤクザ・警察の三つ巴の展開もとても面白い。ヤクザ小説、警察小説というほど堅苦しくなく、それでいて、特にヤクザの描写はヤクザがどんな世界に生きているのかが伝わるような感じになっている。描かれるヤクザが、地元を中心とする小規模なヤクザである、という設定も活きているのだろう。ヤクザらしい激しい描写ももちろんありながら、ヤクザらしくない、人情とでもいうような描写も実に多い。魅力的な親分を筆頭に、きちんと組織された集団で、ヤクザなんだけど良い人たちだなぁ、という感想が浮かぶ人が多いだろうと思う。

前半では、様々な人間が「倶利伽羅紋々サービス」に取り込まれていく。読者には、「倶利伽羅紋々サービスが何らかの理由で一般人を集めているのだな」ということは分かるんだけど、まさにいま取り込まれている人たちには、なんでそんなことになっているのかよく分からない、という状態にある。非常に強い警戒心を持って接する人間もいるのだけど、それでも彼らに丸め込まれてしまう。目的を持って行動に移す時のヤクザの手腕の高さ、みたいなものがよく分かる。
とはいえ、ヤクザらしいムチャクチャなやり方もある。飯田の場合など、自分のところの若いのを飯田の旅行会社に派遣して、実際にそこで業務に当たらせる。何故かゲイの世界に引きずり込まれた人間もいる。何故か人が殺される瞬間を目撃しそうになった人間もいるし、本物の賭場を見ることが出来て興奮している者もいる。7人とも違った、個性的なストーリーが展開されていて、なかなか読み応えがある。

そして後半。「馬場一家」にとって必要な面々が揃ってからの話もまた良い。この後半のストーリーを具体的に書いてしまうわけにはいかないから、どうしてももどかしい感じの文章になるけど、三者三様の思惑が、最後ある一点に集中して、見事一番状況を読みきった者が勝利する、という流れになっている。読者の側も、何がどうなっていくのか、分からないだろうと思う。集められた一般人は、自分たちが何故集められたのかという推理合戦をするために集まったり情報収集したりする。ヤクザの面々は、彼らを集め終わると何故かあまり動かなくなってしまう。警察は、「馬場一家」に標的を絞り、彼らの壊滅を目指して作戦行動を遂行する。三者の思惑が同時並行で描かれていき、最後の最後ですべてが明るみに出る、という流れである。なかなかよく出来た物語だと思う。

本書がいい話だなと思うのは、「馬場一家」というヤクザたちが非常に良い感じで描かれているからだろう。一人、ちょっととんでもないのがいるのだけど(その人物にしても、まあ芯から悪人なわけではない)、大抵「馬場一家」の面々は良い人たちである。”ヤクザ”という稼業についている以上、それを理由に避けられる存在であることは仕方がないと思うのだけど、”ヤクザ”という見方を外して付き合えれば、気持ちの良い人たちだ。

しかし、当然ではあるけれども、やはり一般人の側はそうはいかない。”ヤクザ”というだけで緊張感を抱かざるをえない。何をされるのだろう、どうなってしまうのだろう。理屈ではない部分で動いているだろうから、「何がどうなってもおかしくない」という恐怖がこびりつくことだろう。なかなかそれを払拭することは出来ない。実際に、危険な目に遭うこともあるのだ。全体的に人間的には良い人たちなのだけど、”ヤクザ”であるということの緊張感は捨てきれない。そんな緊張感が、作品をだらけさせない。

しかしそれにしても、「馬場一家」の面々は素敵だ。彼らが普段なんのシノギで生きているのかよく分からないけど、あんな感じでちゃんとヤクザをやれているのか心配になるほどだ。しかし、あくまでもこの物語は、一般人視点で見たヤクザの話だ。「馬場一家」にしても、一般人から見えないところでは、それなりにヤクザとしてちゃんとやっているのだろう。本書は、そういう「一般人から見えない部分」についてはほとんど描かれないので、人によっては物足りなく感じるかもしれない。

いずれにしても、エンタメとして非常によく出来ていると思いました。とにかく読みやすいし、面白い。ヤクザの世界をほとんど知らなくても(もっと言えば、ヤクザの世界に興味がなくても)、全然楽しめます。博多弁の会話も、シリアスな会話をしているのになんでかユーモアな感じになってしまうようなところがあって、楽しく読めます。気楽に読める作品です。是非読んでみてください。

西村健「任侠スタッフサービス」


関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/2921-27f674ef

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
22位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
14位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)