黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

聖域捜査(安東能明)

内容に入ろうと思います。本書は、一風変わった設定の警察小説です。
結城公一は、交番勤務だった頃のある経歴が原因でずっと刑事として配属されず、交通課と地域課を行ったり来たりする警察人生だった。それぞれの場所で真剣に仕事に取り組んだが、やはり捜査に関わることを夢見ていた。
そんなある日結城は、生活安全特捜隊、通称「生特隊」の主任となる。捜査一課などではなく落胆した。生特隊は、風俗や悪質な少年犯罪、商標権の侵害や密輸など、捜査一課で捜査する対象よりも見劣りする事件を担当する部署だった。いずれにせよ、念願だった捜査畑に配属された結城は、捜査未経験で主任という重圧を感じつつ、十五歳年上の部下である石井に捜査のイロハを教えてもらいながら、事件解決に邁進する。

「3年8組女子」
「3年8組女子」という名が、ネット上で知られるようになる。あちこちの出合い系サイトに出没しているという。売春は、生特隊の受け持ちだ。部内で「マユミ」という通称をつけて追っていたが、とある殺人事件の被害者が「3年8組女子」からメールを受け取っていたことを知る。生特隊の結城は、現場で彼らを邪険に扱った捜査一課を見返すために奮闘する。

「芥の家」
ゴミ屋敷への苦情が高まっている。市役所や保健所が、住人である母親の安否を気遣い何度も訪問するが、息子が応対し話が進まない。生特隊が、市役所や保健所の盾になって、強制的に中に入る、という話が進んでいる。結城には考えがあり、自分の部でそのゴミ屋敷を張り込ませていると、なんと息子が夜中に下着泥棒をしていることが分かるが…

「散骨」
とある住民の敷地に散骨が頻繁にされて困る、という苦情が生特隊に持ち込まれる。住人が許可を出しているので警察としては手出しが出来ないが、住人に、なるべく許可を出さないように頼んだ。その散骨場所で結城は、何故か年賀状の束を見つける。どうも、配送されないまま捨てられたもののように見えるが…。

「晩夏の果実」
休日、家族とショッピングセンターに買い物に着て、結城一人書店を見まわっていると、警察OBの警備員に話しかけられた。なんでも、万引き犯がごねているから警察手帳をちらっと見せてくれたらいい、というのだ。事務所まで行くと、万引き犯の女性は、車に母親が残っているから早く行かないと熱中症で死んでしまう、と嘘をついてこの場を去ろうとしているらしい。特に何をするでもなく立ち去った結城だったが…。

「贋幣」
結城の部下の一人である小西が、フェスでの見張り中、自分の財布から出した万札を眺めている。なんとその万札には、透かしがなかった。ハプニングバーで受け取ったものだ、と小西は白状し、偽札事件として捜査が始まった。偽札の捜査は捜査二課の領域で、生特隊は戦力と言えないような仕事をあてがわれているが、万札を手に入れてしまった小西は、自身の失態を取り戻すべく昼夜問わずひたすら捜査を続けている。
設定はなかなか面白いのだけど、物語の閉じ方があまり好きになれない作品でした。
すべての短編がそういう終わり方をするわけじゃないんだけど、どうも僕には、中途半端なところで物語が終わってしまう印象を受けました。特に、一番最初の「3年8組女子」は、「え?そんなところで終わるの?」と思うような話でした。連作短編集だということを知らないで読んでたので、この話はまだ続くもんだと思っていたら、次の話は全然違う状況なので驚きました。「3年8組女子」は、さすがにもう少し物語を続けた方が良かったような気がします。「芥の家」に対しても似たようなことを感じました。
逆に良かったのは「散骨」です。これは、本書のユニークな点を非常にうまく使いながら物語を展開させていると感じました。
本書では、捜査を担当するのが「捜査一課」などではなく、「生活安全特捜隊」という部署です。ここは、捜査一課などの花形部署から軽んじられていて、捜査の主導権も握られることが多い。副隊長が日和見の男で、生特隊の価値を下げてまで花形部署に頭を下げるのでなおさらである。
さらにユニークな点は、生特隊で一斑を預かる結城が、捜査の素人だということです。交番勤務の際、かたっぱしから様々な人間をしょっぴいた情熱こそあるものの、基本的に交通課と地域課を回って40歳になってしまったので、捜査のイロハが分からない。そこは、15歳年上の部下にそれとなく伝授してもらう、という形を取っているのです。

『問題はこれからだ。どう捜査を展開していけばよいのか。』
『困った。よりによって贋幣捜査。どこから手をつけてよいのか、さっぱりわからないではないか』

主人公がこんなことを言う警察小説は、そうそうはないでしょう。なかなか斬新だなと思います。
本書に収録されている五編はどれも、ちゃちぃ事件を発端にして、その背後にある大きな真相を暴き出す、という構造になっているのだけど、それが最も魅力的に発揮されている物語が「散骨」です。「散骨」では、冒頭で結城が、捨てられた年賀状を見つける。すべての発端はここからだった。そこから、いくつもの細い糸を辿りながら、結城は、誰も想像もしていなかったような事件に行き着き、それを解決する。さらにそれが、「散骨」ともうまく関わってくるわけだから、なかなか巧い。本書の中で、ダントツに巧い作品だなぁ、と感じました。
「晩夏の果実」も、発端と設定と着地点の妙が絶妙に絡み合って、良いと思いました。休日に見かけた万引き犯の話から、なかなか予想外の方向に話が進みます。ただこの「晩夏の果実」には、どう考えてもほったらかしのまま終わってる別の話があって、あれは一体なんだったんだろうなぁ、と思いもします。こっちの話もほどよく道筋をつけて終わりにしてくれないと、どうもしっくり来ないんだけどな、という感じがあって、モヤモヤする。
「贋幣」は、ちゃちぃ事件から驚くような真相を、というような形式とはまたちょっと違っていて、生特隊のメンツに掛けて、みたいな話でした。悪くはないけど、どうせならこれも、もう少し捻りを効かせて、物語全体の統一感みたいなものが出ると良かったかな、という感じがしました。
ある一定の枠組みが決まってしまっているような部分がある警察小説というジャンルに対して、独特の面白さを新たに持ち込んだ作品だという感じがします。派手な事件じゃなくても物語になるし、派手な事件ではないからこその展開もありうるのだ、ということを示したような格好です。ありきたりの警察小説とは違ったタイプの作品を読みたい方にオススメです。

安東能明「聖域捜査」


関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/2916-f3f42c3a

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
10位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
8位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)