黒夜行

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Aではない君と(薬丸岳)

ワイドショーを見ていての責任」というものについて考えることがある。
何か事件を起こした人間がいる時、「親も悪い」という方向に世の中の気持ちが傾くのは何故だろう、といつも思う。
正直僕は、99.99%以上本人の問題だと思う。
もちろん、直接的に親が悪い、というケースもあるだろう。親が子供を虐待したり育児放棄をしたりしていて、そのために子供が親を殺すとか、親が何らかの理由で子供に指図して悪事をやらせたり、あるいは積極的に「悪い情報」を教育し続けるような場合だ。しかし、そういう明らかなケースではない限り、親に責任なんてないんじゃないかと思ってしまう。
もちろん、親が離婚していたり、家が貧乏だったり、そういう家の事情というのは様々にあるだろう。しかし、例えば親が離婚しているすべての子供が犯罪を犯すわけではない。家が貧乏なすべての子供が人を殺すわけではない。それらの環境の要因は大きいだろうが、しかしそんなことを言えば、生まれた地域・学校の環境・近所の人との関わり方など、親以外の様々な環境が要因として絡んでくるはずだ。しかし、どうも世論は、何かあった時、親が悪いということにもしたがる。
まあ、確かにその方が分かりやすい。怒りの矛先が一つに絞られる方が、叩きやすいし、スッキリする。あるいは、「ダメな親だったのだ」と思うことで、「ダメではない自分の子供は大丈夫だ」と安心したい、という気持ちもあるのかもしれない。そういう理由で「親も悪い」ということにされているのだとすれば、親もたまったものではないだろう、と思う。
法律上、親は子供に対しての責任を負うだろう。それは制度で決まっているから仕方ない。さらに、犯罪を犯してしまった子供を「更生させる受け皿としての親」という意味では、親は子供に対して大きな責任を持つだろう。しかし、過去に子供がしでかしてしまった行いに対して、親が異様なまでに責められる状況が、僕にはイマイチ理解できない。
僕が、血縁、というものを、基本的に重視してしないからかもしれない。血の繋がり、というものに対して、深い意味を感じられないからかもしれない。僕にとって「家族」というのは、「ただ血が繋がっているというだけで一緒にいる、年齢も趣味も価値観も生き方もまったく違う人々の集団」でしかない。、生まれた時からしばらく一緒にいるわけで、そういう意味での親近感や愛着は生まれるだろうけど、でもだからと言って、血が繋がっていなきゃいけないのか、というと僕にはイマイチその辺りのことは理解できない。
血が繋がっているというのは、それほど大きな意味を持つことなのだろうか。僕はいつも、そんな風に考えてしまう。

内容に入ろうと思います。
建設会社で大きなプロジェクトを手掛ける吉永は、数年前に妻の純子と離婚している。一人息子である翼は純子が引き取り、今では吉永は、三ヶ月に一度程度翼に会うぐらいだ。新しい恋人も既におり、出世の道も開けている。離婚したという過去はありながらも、吉永の人生はもう一度これから順調に進んでいく。そんな予感を漂わせる最中のことだった。
大きなプロジェクトのプレゼンの成功を祝している最中、吉永の携帯に翼から電話があっった。すぐには気づけず、しばらくして折り返したが、翼は電話に出なかった。
この電話が、吉永の生活を地盤からひっくり返していく。
しばらくして刑事が吉永を訪ねてやってきた。刑事は、理解不能なことを吉永に告げる。
「本日、午前七時二十七分、藤井優斗くんの遺体を遺棄した容疑で青葉翼くんを逮捕しました」
翼は、14歳の中学生だ。吉永は、事件について詳しく教えてくれるよう刑事に聞くも、叶わなかった。息子が逮捕されたというのに、息子の様子を知ることさえ出来ない。
吉永は、純子と翼が引っ越ししていたことさえ知らなかった。当然、翼の交友関係や現状などほとんど知りもしない。しかし、様々な記憶を思い返して、どうしても、息子が殺人を犯したとは思えなかった。
何が起こってるんだ…。吉永は突然、それまで経験したこともない荒波に飲み込まれ、溺れそうになりながらも、翼を守るために必死で出来ることを探そうとする。
しかし、翼は、誰に対しても事件のことを話さないばかりか、そもそも、吉永や純子、担当弁護士に会おうともしない。何故なんだ…。
というような話です。

本書を読んで僕が一番強く感じたことは、「物語の軸がもう一つ欲しかった」ということです。
本書では、冒頭で「14歳の少年が死体遺棄の容疑で逮捕される」という衝撃的な幕開けをするのだけど、正直そこからしばらくの間、物語はほとんど進展しない。
何故なら、翼が一切供述しないからだ。
翼は、ほとんど誰に対しても言葉をつぐむ。捜査官に対してはもちろん、弁護士や吉永に対しても何も喋らない。
『どうしてお父さんとはふたりであえないの』
翼は、吉永にそんな反応を返すことはあった。しかし、それだけだ。顔を見る機会があっても、雑談には応じても事件のことは一切話さない。
だから物語的には、周りの人間がほとんど手がかりのない状態のまま、ぽつりぽつりと事件についての情報を集めていくことになる。しかしそれは当然、ゆったりとしたものになる。
もちろん本書は、サスペンス的な部分をメインに押し出した作品ではない。犯罪加害者とその家族のあり方を丁寧に描きだすことで、人間を緻密に描いていく作品だ。それは分かっていてもやはり、物語にもう一つ軸が欲しかったように思えてしまう。本筋である翼の事件は進展しないままであるのは良いとして、それとは別にもう一つ筋を用意して、そちらで何か進展がある、という構成に出来れば、読者をより引きこませることが出来るのかな、という印象を受けました。

物語の中盤の展開はゆったりしたものではありますが、色んなことを深く考えさせられる物語でもあります。加害者、そして加害者家族はどうあるべきなのかという、誰も正解を持つことが出来ない問いを突きつけられ、子供を持つ親であれば、自分だったらどうするだろうかという視点を様々な場面で感じることでしょう。僕は結婚もしていないし子供もいないので、正直「自分だったらどうだろう?」という感覚にはまったくならないけれども、やっぱり、罪を犯した人間はどうあるべきなのか、ということは考えさせられました。
僕は、自分が加害者だったら、という想像を、犯罪を犯す前にしてしまう人間です。で、どう考えてもめんどくさい。加害者としてこうあらねばならないだろう、という想像があまりにもめんどくさすぎて、それが僕の犯罪の抑止力になっています。もちろん、「将来のめんどくささ」よりも、「現実の辛さ・めんどくささ」が上回れば、犯罪を犯すこともあるかもしれません。でも、「犯罪を犯した場合のめんどくささ(想像)」は、相当にめんどくさいので、たぶん僕は酷い犯罪を犯すことはないでしょう。
しかし、翼の立場に立たされたら?
今の僕が、翼と同じ状況に立たされても、恐らく大丈夫でしょう。うまく逃げたり、適当にやり過ごしたり出来るでしょう。しかし、翼と同じ年齢の頃だったら?ちょっと自信はありません。僕はこういう時、自分が運が良かったのだな、と感じます。僕は、誰もが加害者にも被害者にもなりうる可能性がある、と思っています。僕は、運良くそういう落とし穴にはまらずに済んだのだな、と。
「反省」というものについても考えさせられます。吉永は終盤で翼に、「今ならはっきり言えるが、お前の方が悪い」と言います。確かに、吉永が言っていることも理解できるし、理屈ではその通りだと思います。
でも、本当にそうなのかな、と考えてしまいます。翼の処遇を決定する家庭裁判所での審判の前に、翼が吉永に語ったこと。僕はその叫びが、何だか凄く分かるような気がするのです。翼のことが絶対的に正しいとは思わないけれども、吉永の意見より絶対に正しいとも言えないよな、と。翼のその身体感覚は、もう少し理解されてもいいのではないか、大人がそれを受け入れる余地を持ってもいいのではないか。そんな風に感じてしまいました。
本書で描かれるのは、たくさんの「正解のない問い」だ。その状況に陥った人間の数だけ正解があり、不正解がある。ごく普通に生きている人には、一生突きつけられることのない問い。しかし僕らは、その「普通」がいつ裂けてしまってもおかしくない世の中に生きている。それに、擬似的にでもこの「正解のない問い」について考えることが、世の中をより成熟させることになるかもしれない。そんなことを思わされる作品だった。

薬丸岳「Aではない君と」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
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12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)