黒夜行

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映画「ラブ&ピース」(園子温)を観てきました

鈴木良一は、平凡以下の男である。
会社では、他の社員たちからロクでもない扱いを受け、好意を寄せている同僚の寺島裕子ともまともに話せないでいる。自動ドアが開かなかったり、エレベーターの重量ブザーが鳴ったりと、常に不運に見舞われる男でもある。良一自身も、常に周囲の人間からあざ笑われているのではないかという妄想を抱き続けている。
しかしその一方で、良一はビッグな野望を抱いている男でもある。家ではギターを弾き、2020年の東京オリンピックに向けて建設が進んでいる日本スタジアムでコンサートを開くまでの道程を妄想していたりもする。自分は氷山であり、見えているのはほんの一部、自分の大部分は海の下に隠れているだけなのだ!という思いを抱いている。
ある日良一は、デパートの屋上で売られていた小さな亀を買う。良一はその亀に「ピカドン」という名前をつけ、唯一の友達として可愛がった。自分の夢や日常の出来事を語り続け、そうやって良一は現実の辛さから逃避し続けていた。
しかしある日良一は、とあるきっかけからその亀を手放してしまい…。
というような物語です。

ぶっ飛んだ映画だったなぁ。「園子温の映画を観ているんだ」という前提がなければ、ついていけなかったかもしれません(笑) 園子温の映画、そこまでたくさん観たわけじゃないけど、何をしてもおかしくない監督だと思うんで、そういう意味では許容範囲内ということは出来ます。
僕が先に書いた内容紹介、正直映画全体の内容の1%も書いていません。亀を手放してからの展開は、なんというか、論理的な物語の流れを完全に無視してる感じがします。風が吹けば桶屋が儲かるレベルで、物語がどんどんわけわからん方向に進んでいくんで、「そういう映画なんだなー」と思えれば楽しく観れると思います。
さて、この映画は、大雑把に言って二つのパートに分かれていて、一つが鈴木良一のパート、そしてもう一つまったく別の世界の話が展開されます。このもう一つのパートの方は、詳しく書きません。映画を観ながら展開のぶっ飛び度を感じて欲しいので。設定はとにかくメチャクチャなんだけど、その設定さえ受け入れれば、そのもう一つのパートは、なかなか示唆に富んだセリフや物語に溢れているように思います。そのもう一つのパートは、最後ある人物の変身みたいな感じでひと通りの物語が閉じるんだけど、その閉じ方も僕は結構好きでした。設定はこっちのパートの方がメチャクチャなんだけど、物語の展開だけみればこちらの方がまっとうで、ハートウォーミングでもあります。

『どうせ来年も、あんたが配った夢がここに戻ってくるんだ』

さて、そんなもう一つのパートと関係性を保ちながら、鈴木良一のパートが進んでいくわけなんだけど、こちらのパートは、設定はともかく展開はハチャメチャです。僕が書いた内容紹介からなんとなく想像はつくと思うんで書いちゃいますけど、鈴木良一はなんと、日本スタジアムでライブを開きます。そこまでのスターダムに至る展開を物語にしてるわけなんですけど、もうハチャメチャで、なんだそりゃっていう展開が目白押しです。もう一つのパートがハートウォーミングであるのに対して、鈴木良一のパートは完全にコメディと言っていいでしょう。小さな会社の使えない社員から、数年で日本スタジアムでのライブまで辿り着くわけだから、その展開はメチャクチャ早くてあっという間に物語が進みます。会社の同僚だった寺島も最後まで物語に関わり続けるんだけど、二人の間の距離が物凄い勢いで離れていきます。鈴木良一を取り巻く環境があっという間に変化するなか、寺島裕子の存在だけがほぼ変化せずに描かれることが、物語全体をただのコメディにしていない要素なのかな、という感じがしました。

あーだこーだ考えなくても楽しく観れる映画だと思うんだけど、この映画から何か教訓的なものを勝手に引き出すとすれば、「結局、夢を叶えるのは自分自身だ」ってことになるかもしれません。鈴木良一が夢を叶えていくのには理由があり、そこだけを取り出せば「他人の力によって夢を叶える物語」に見えるんだけど、でも結局のところ、「鈴木良一が夢を持たなければその夢が叶うことはなかった」と言うことも出来ます。当たり前の話なんだけど、でも結局、自分の未来を、どこまでバカみたいに信じるか、みたいな思いの強さが運命を切り開くのかもしれない、ということかもしれません。
それは、もう一つのパートからも感じます。もう一つのパートに出てくるみんなは、共通した夢を持っている。そしてその夢は、結局、その夢を持っているという理由、その夢を強く願っているという理由で叶うことになる。
そして同時にこの物語は、「夢は、一人の力では叶うことはない」というメッセージもあるのかなぁ、と思いました。
こう、僕が勝手に感じたメッセージだけ書くと、「愛!勇気!友情!」みたいな物語に思えるかもしれないけど、まあそんなことは全然ありません。愛も勇気も友情も、ほとんどないかもしれません(見方によると思いますけど)。そういう、愛も勇気も友情も使わないで「夢を叶えること」を描く、という部分がなかなか面白いのかな、と感じたりしました。

さて、この映画の中で鈴木良一は、”反核ソングを歌った”ということになります(意味がわからないかもしれませんが、それは映画を見て下さい)。そして、たぶんそれを意識してでしょう、エンディングの曲が忌野清志郎だったのが興味深かったです(あんまり詳しくしりませんけど、忌野清志郎は反核とは反戦の歌を歌っていたというイメージがあります)。僕は気づかなかったけど、他にも何か読み取れるような小道具とか要素があったりするかもしれません。あと、作中で鈴木良一が歌ってる歌が3曲あるんだけど、それは園子温の作詞作曲のようです。

正直、「面白いから観て!」と人に薦められる映画かと言うとちょっと難しい部分がありますが(基本的には、設定も展開もムチャクチャな映画なので、それを面白いと思えないと辛いと思います)、園子温らしくない穏やかな映画だし(僕のイメージでは、園子温は結構血みどろで残虐な映画を撮る人です)、設定や展開を受け入れてしまえばコメディタッチかつハートフルに進んでいく映画なので、気になる人は観てみて下さい。


映画「ラブ&ピース」(園子温)を観てきました
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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)