黒夜行

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はじまりの空(楡井亜木子)



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内容に入ろうと思います。
21歳の姉が、かなり年上の人と結婚するらしい。かなり唐突だと高校生の真菜には感じられた。私と一緒にパリに行く約束も、これまでの家族との時間も全部捨てちゃって、そんなにまで一緒にいたい人がいるなんて、真菜にはよく理解出来ない。
真菜は、高校で恐らく一番人気だろう男の子と付き合っている。真治が自分のどこを気に入ってくれたのか、それはよくわからないのだけど、バレンタインデーにいくつもチョコをもらうような男の子が、自分のことを好きだと言ってくれた。自分が、真治のことが好きなのかは、よく分からない。少なくとも、姉のように全部投げ捨てられるほど好きかと言われたら、たぶん違う。
姉の未来の旦那さん家族と食事をすることになった。歳の差のあるカップルなので、相手家族はやっぱりみんな年上なのだ。高校生の真菜は、それだけで居場所がないような気がしてしまう。口数の多い相手家族の話についていけなかった真菜は、たまたま隣に座った、姉の婚約者の兄・小林蓮と少し会話を交わした。どうみても大学生ぐらいにしか見えないのだけど、34歳なのだ。画廊で働いているという彼から、展覧会のチケットをもらう。
どの瞬間からだろうか。真菜は蓮に惚れ込んでしまう。でもそれは、願ってはいけない恋だ。だって真菜は、蓮からすれば義理の妹だし、それに、画廊のオーナーである物凄い美人の女性と、どうやら複雑な関係のようなのだ。
ただの17歳の小娘に、付け入る隙なんて、ない。
負け戦になるだろうと、そんなことは分かっている。けど、真菜は、真治のことも放って、蓮のことばかり考える日々を過ごすことになる…。
というような話です。
あまりピンと来ない作品だったりします。
僕は女性向けの作品も結構読める男なんだけど、この作品はどうもスッとは入ってきません。恋なんてそういうものだと言われればそれまでだけど、真菜が蓮に恋する過程がちょっとあっさり過ぎる気がします。瞬間的に恋しちゃう人もいるだろうけど、描かれ方的に真菜はそういう感じじゃない。そういう感じじゃない真菜が瞬間的に恋に落ちたから凄いんだ、的なことを打ち出したいのかもしれないけど、もう少し真菜が蓮に気持ちが向く過程が丁寧な方がいい気がしました。その後の行動を考えると、真菜の蓮に対する感情は相当強いものなので(真治に向けるものとは比べ物にならないくらい)、それに対する納得感みたいなものがもう少し欲しい感じはしました。
あと、これは僕が男だから仕方ないのかもだけど、蓮の一挙手一投足に対して真菜が感じる様々な感情が、ちょっと分かりにくいです。蓮のある行動に対して、「自分は義理の妹程度にしか見られていない」とか「負けた」とか、そういう判断を次々に繰り出していくんですけど、正直どうしてそういう判断になるんだか、よく分からない部分もあるんですね。恐らくこれは、女性には伝わるんだと思います(本書は、いいですよという女性からのススメで読んだので)。
例えば、有川浩の恋愛の描写だと、男も結構理解できるんだと思うんです(たぶん意識して著者がそう書いてるんだと思います)。それは著者の意思だろうし、恐らく本書の著者は、「女性にはきっちり伝わるように」ということを意識しているんだろうと思うので、まあ僕が理解できなくても想定の範囲内かもしれません。確かに、「蓮の優しさが残酷である」という描写のいくつかは、僕も理解できます。でも、全部は分からなかったなぁ。どうして今の挙動が、女性に(少なくとも真菜に)残酷に響くのか、よく分からないものもありました。この辺りの感覚の問題は、まあ仕方ないかなと思います。
あと思ったのは、比喩表現がちょっとしっくりこないものが多かったような感じがします。真菜が、周囲の色んなもの(主に蓮)を評する時に、「◯◯のような」という感じの比喩で表現するんだけど、これがちょっとしっくり来ないものが目立った気がします。
「しっくり来ない」には、僕の感触では二種類あって、一つは「その比喩が何を言いたいのかよく分からない場合」です。相手の何かを表現しようとしているんだろうけど、その比喩では、みんなが共通のイメージを浮かべるのはちょっと難しくないか?と感じるものがいくつかありました。そしてもう一つは、「その比喩を真菜が使うことが不自然ではないかと感じられる場合」です。キャラクターの性格と比喩表現の使い方がべらぼうにうまいのは荻原浩ですが、そこまで行かなくても、「◯◯のような」と何かを表現する時に、その表現する人の個性に沿った表現である方がいいと僕は思っています。でも、なんというか、あんまりそう感じられるものがなくて、残念だなと思いました。
物語そのものにあまり起伏がなくて、起伏がないこと自体は決して悪いことではないのだけど、でもだとすれば他の何かが欲しいと思ってしまうのだけど、それもあまり感じられない作品でした。蓮は、その「残酷な優しさ」をもっと鋭敏に描ければもっと魅力的なキャラクターになりそうな気がしますし、女のバトルももっとある方が面白いのかなって気もしました。全体の雰囲気は悪くないと思うんですけど、あまりグッと来る感じではありませんでした。
ちなみにこの作品、読むの二度目だったりします(一回目の感想→http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-1880.html)。読んだことを忘れてたとかではないのだけど、時が経てば違った受け取り方をすることもあるし、また読んでみました。

楡井亜木子「はじまりの空」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)