黒夜行

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2008年に書いたショートショート集 No.215~No.261

215.「往来剣道」
剣道の防具を来た男が、寂れた商店街の外れにぽつんと立っている。半年前に大学に入学し、この辺に住み始めたけど、初めてそんな変な男を見かけた。そもそも、この寂れた商店街にやってくるような機会がこれまでにはなかったというだけのことだが。恐らくいつもあそこに立っているのだろう。
というのも、首から「1回100円」と書かれた箱をぶら下げているからだ。何が1回100円なのか正確には分からないが、傍らに防具袋と竹刀が置かれているのを見ると、恐らく試合1回ということなのだろう。
やってみてもいいかもしれないな、と僕は思った。
大学で剣道部に入ったものの名ばかりで、飲み会ばっかりやっている適当な部だった。それでも3ヶ月は我慢したが、さすがに辞めてしまった。町内に剣道教室のようなものがあるわけでもなく、ここのところずっと遠ざかっていたのだ。
こんな往来に立っていて商売になるのか分からなかったが、少なくとも今の俺にはもってこいと言えそうだ。
100円玉を財布から取り出し、箱に入れる。
「できるか」
「ええ、もちろん」男は答える。
俺は防具を着る。こんなところで試合をして怒られないのかと思うが、人通りはまったくない。車さえこなければ、何とでもなるだろう。
審判がいないことが問題ではないか、と思ったが、まあいい、一般人相手にそこまできちんとやっていないのかもしれない。相手の技量にもよるが、勝敗は審判がいなくてもはっきりすることだろう。
蹲踞の構えから、男が低く「開始」と声を上げる。
男は強かった。隙のない構えから繰り出される剣筋は、なんとか防ぐのが精一杯という感じ。こちらの剣はどうにも相手を捕らえきれない。それでも、必至で食らい付いた。こんなにやりがいのある相手と試合が出来るのは本当に久しぶりで嬉しかった。昔の勘を必至で取り戻し、相手が見せた一瞬の隙を見逃さず、すかさず面を打ち込んだ。
その瞬間、相手の男が面の内側からくぐもった声で「やったー」と叫んだ。その瞬間、何かがぞろりと俺の内側に入り込んできたような不快感が襲った。なんだこれは?
ん?今のはどう考えても俺の勝ちだったと思うが。気づかない内に小手でも取られていた…、なんてことはありえない。今のは俺の勝ちだ。どうしてお前が喜ぶんだ。
男は面を取ると、歓喜の表情を浮かべたまままくしたてた。
「いや、あんたの勝ちだ。強いよ、君は。いや、ホントに助かった。君みたいな人が来てくれるのを待ちわびていたんだ。長かったなぁ。2年以上は経ってるかな、きっと。やっとこれで解放された!やった、どこでも行けるぞ!」
俺には、男の喜びようがさっぱり理解できない。こいつは一体何を言っているのだろうか。
「というわけでさ、ここは君に譲るよ。っていうか、分かってるだろ?僕に勝った瞬間、何かが身体の内側に入り込んだような感覚があったんじゃないか?」
何でそれが分かるんだ?それでも俺は、憮然とした表情を崩すことなく男を見据えた。
「それはさ、まあなんていうかな、剣道の神様とも言えるし、ただの地縛霊とも言えるけどね。今まではずっと僕の中にいたんだけどさ、そいつ剣道が強いやつが好きみたいなんだよね。だから君に移ったんだ。だから君は僕の代わりにここに立って誰かと試合を続けることになるってわけだ。いやはや、ホント助かった」
今こいつは何て言った?俺がここでお前の代わりをするだと?そんなことするわけないじゃないか。大学に行って、俺は医者にならなくちゃいけないんだ。こんあところで油を売っている暇なんてない。
バカバカしくなって帰ろうとしたが、ちょっと歩くと何かに後ろから引っ張られているような感覚があった。前に進もうとしても全然ダメ。いろんな方向で試してみたけどダメ。どうやらある点を中心に半径5メートル以上は進めないようだ。
「だから無駄だって。こっからは抜けられないんだって。ちなみに先輩として教えておいてあげるけど、真夜中から早朝に掛けてはそっから抜け出せるよ。たぶん地縛霊…じゃなくて神様が寝てるんだろうね。でも時間になるとどう頑張ってもここに連れ戻されちゃうけどね。
君がここから逃れる方法はただ一つ。君より強い相手と戦って君が負けるしかない」
男は解放される喜びに浸っているようで、何だかその上ずったような声を聞いていると余計にイライラしてくる。しかし、誰かに負ければいいっていうなら簡単だ。適当に試合をして打ち込まれてしまえばいい。
「今君は、わざと負ければいい、なんて思っただろうね。もちろん僕だってそう思ったさ。でもね、それは無理だよ。この神様はさ、全力を出さないやつは嫌いなんだろうね。君が全力でやっていないと判断すると、とてつもない頭痛を引き起こすんだ。とてもじゃないけど、それには耐えられないと思うよ。だから、試合の度に全力を尽くすしかないってわけ。
まあそんなわけだからさ、申し訳ないけど頑張ってよ、ホント」
あの男の言葉通りだとすれば、俺は最悪な状況を手に入れてしまったということなんだろう。嬉しそうにどこかへと去っていく男を見ながら、俺は盛大にため息をついた。



216.「公園」
総資産500兆円。
よくもまあここまで増やしたものだ。しかしようやくあの計画が実行できるというものだ。
これを成し遂げるためにのし上がってきたようなものだからな。自分が生きている内に実行できてよかったものだ。
彼は二件電話を掛けた。

「やって欲しいことがあるんじゃが。土地を買って欲しい。まあとにかくどこでもいいぞ。出来るだけ人が住んでいるところを買い取るように。金はいくら使ってもらってもかまわんが、可能な限り広い面積の土地を確保するように。ワシの希望としては、最低でも日本全土の10%は確保したい。頼んだぞ」

「やって欲しいことがあるんじゃが。公園を作って欲しい。土地はこれから手に入れるんだが、手に入れた端からそこに公園を作ってくれ。日本中に公園を作りたいんだよ。理由?理由なんか特にないがな。まあ老いらくの狂気の沙汰とでも思ってくれ」



217.「毒殺」
「…前園佐知子さんは、有機リン酸系の農薬の摂取により死亡しました。自宅の冷蔵庫にあったオレンジジュースに混入されたとみられています。」
そのニュースを聞いて私はすっかり怖くなってしまった。冷蔵庫の中のものに毒が入っているかもしれない。可能性はものすごく低いだろうが、でも決してありえないわけではない。そう考えると、冷蔵庫の中にあるものを食べることが出来なくなってしまった。そのせいで、一時拒食症のようになってしまい、ノイローゼ気味になった。
そんな風に考えるようになったのには、夫の浮気がある。夫はまだ隠し通せていると思っているようだが、私はもう確信していた。最近の夫の素振りから、その浮気はかなり本気であり、私の存在を疎ましく感じている様が感じられる。もちろん、気のせいかもしれない。しかしそんなこともあって、もしかしたら夫が毒を仕込むかもしれない、という妄想に発展してしまうのだった。
その広告を見つけたのはそんなタイミングであり、私にとってはすごくタイミングのいい話だった。
友人宅に遊びに行った時のことだ。その友人はケーキを焼くのが趣味で、時々人を集めてお茶会のようなことをする。その集まりに呼ばれたのだ。
友人の旦那は薬品などを開発している会社に勤めていて、その関係もあってか自宅には普通の人が購読しないような雑誌が置かれていた。何気なく開いたその雑誌の広告に、ある程度の毒薬であれば判別可能な試薬が載っていたのだった。その試薬を一滴垂らすだけで、ある程度の種類の毒薬であれば混入しているかどうかは判別可能だという。しかもその試薬自体は口に入れても問題のないもので、食品に入れても問題ないということだった。
そこで私はさっそくそれを取り寄せ、日々食品に垂らすようになった。もちろん、気にしすぎだろう。しばらくして気が済んだら止めればいい。試薬を入れて毒薬の有無を確認すれば食事も普通に摂れるようになってきた。ノイローゼからも回復しつつあるようだし、私はまた前のような穏やかな生活を取り戻すことが出来るようになった。

男は帰宅すると、床の上に倒れている妻の姿を見つけた。
(まああっさりとしたものだな)
男は計画通りにことが進んだことに満足し、警察と救急車を呼んだ。
(これでやっとアイツと一緒になれる。長かったな)
男はテーブルの上にあった小瓶を手に取ると、中身をトイレに捨てた。
(まさか試薬の方に毒が入ってるとはこいつも思わなかっただろうな)



218.「俺たちはまだか」
「田村遅いなぁ」
大塚が、何度目かの呟きを漏らす。
住宅街の中ほどに、ポツンと取り残されたようにしてあるバーでのこと。隠れ家、と言ってもいいくらい目立たないその外観とは裏腹に、内装はいかにもバーという感じで、そのカウンターに男女4人が腰掛けている。
「まあ昔から田村はそういう奴だったけどな」
吉本は中学時代、田村と同じサッカー部だった。朝連にはいつだって遅刻してきてたよ、と吉本はいう。
「懐かしいわね。佐藤君は結局来なくて残念」
美保はサッカー部のマネージャーで、サッカー部のキャプテンだった佐藤のことが好きだったのは有名な話だ。その佐藤は同窓会にはこれまで来たことはない。
「佐藤君ならこの前あったわよ。医薬品の営業とか言ってたかな?接待とかで結構忙しいみたい」
恵はまだ20代と言っても通りそうな若々しさでそう言った。何故か恵だけまったく年を取らないように見える。
「なんか酔ってきたかも。ほら、何だか揺れてる気がしない?」
そう言って美保は床を見る。
「うん、確かに。俺も揺れてるなぁ。もう年かな。酒はまだまだいけると思ってたんだけど」
吉本はおかしいなぁなんて言いながら目をこすっている。
「っていうかさぁ」と大塚が言う。
「田村の話だったはずなんだけどなぁ。まあ佐藤でもいいけどさ」
「そうだな。佐藤はまだか」と吉本。
「佐藤は来ないのよ。田村はまだか」
「そうだ、田村はまだか」
彼らは、田村の到着を待っていた。
そんな折、大塚の携帯電話に着信があった。表示されたのは『田村』。
「おっ、噂をすれば何とやらってか」
そう言いながら大塚は電話に出る。
「お前道に迷ったのか?」
「田村は昔からそうだったからな」と吉本がまた続ける。
「は?俺らはちゃんと『ロンダム』にいるって」
「かみ合ってないわね。まあ田村が場所を間違えたってだけなわけね」
恵は、だったらちょっと抑えようかなと言って、注文しようとしていたエビスを取りやめた。
「そんなわけないだろ。店がないだって?俺らはちゃんと『ロンダム』にいるっつーの」
それでも大塚は何か不安になったようで、田村との電話を続けながら入口まで歩いて言った。
入口のドアを開けた大塚は絶句したが、しかし残りの三人はその気配に気づくことはなかった。
「…おい、どこだよここ」
電話口に小さく呟いたその声も、田村にしか聞こえなかった。
「亀がいるんだけどね」
その時唐突に、バーのマスターが口を開いた。それまでカウンターの向こう側で完全に気配を消すようにして座っていた。男にしては珍しく年齢がさっぱり分からない出で立ちで、30代にも見えたし、60代にも見える、そんな変なマスターだった。
「亀?何の話だよ」
吉本が何だか不機嫌そうに返す。
「ほとんどいつもは眠ってるんですけどねぇ。今日は起きちゃったみたいで。珍しいですよ。5年ぶりぐらいかな」
「だから何の話なんですか、亀って?」
美保は大した興味はないようで、枝豆をひょういひょい食べている。
「田村がさ、『ロンダム』がないっていうんだよ」
大塚がそう言うと、恵がマスターに聞いた。
「それが亀と関係あるんですか?」
「だからね、この店、亀の上に建ってるんですよ。それだもんで、亀が勝手に歩いてどっかに行ってしまうんですよね。まあ必ず元の場所に戻りますからね、特に問題はないんですけどね」
「いやいや、問題大アリでしょ?」
「そうそう、亀って何だよ亀って」
「いや、そうじゃなくて」
「そうそう、田村はまだか」
ってそれももう違うかなぁ。そう美保は呟く。
じゃあ、と言って吉本が後を継ぐ。
「俺たちはまだか」



219.「3Dテレビ」
3Dテレビがついに発売になった。日本のトップメーカーが世界で初めて製品化に漕ぎ着けたそのテレビを、世界中の人が待ち望んでいたのだった。世界に先駆けて日本での発売が決まり、僕はその一週間前から電気店の前に並んで待っていた。
そうやってやっと手に入れた3Dテレビだった。
このテレビのすごいのは、もちろん画像が3D(立体)に見えるという点であるが、それが通常のテレビ放送すべてにおいて適応されるということだ。
どういうことかと言うと、通常テレビ番組というのはカメラが撮っている空間しか映らない。カメラの裏側は映らない。しかし3Dテレビの場合、360度全方向見える、すなわち自分がテレビの中に入っているような感覚になる。そのためには、通常のテレビ番組の映像では素材が足りないことになる。
しかしこの3Dテレビは、そのないはずの映像を勝手に補完し組み込んでしまうというすごい機能を備えていた。例えばドラマを見ているとする。普通のテレビで見ると部屋の一角しか映っていないのに、3Dテレビでみるとその部屋の全方位きちんと映像として映し出されるのだ。それこそ、本当にその部屋の中にいるかのような体験が出来る。
さっそく僕は配線を終え、スイッチを押した。初めに映ったのはニュース番組だった。

『今日3Dテレビを発売したパナソニー社屋で、社員が何者かによって銃で撃たれて殺されているのが発見されました。発見時、部屋のドアや窓はすべて施錠されていたとの情報もあります。殺された社員は3Dテレビの広報担当部長であり、恐らくその発売を報じるニュースを3Dテレビで見ていたのではないかと言われています。ただDVDレコーダー内に任侠物の映画のDVDがあった模様で、映画の鑑賞をしていた可能性もあります』

すごい。まるでスタジオにいるかのようだ。目の前で美人キャスターが喋ってる。一応お約束でスカートの中を覗こうとしたけど、やっぱり何も見えなかった。
ニュースはとりあえずもういい。次はドラマだ。今日で最終回を迎える、ある人気テレビドラマだ。連続殺人犯を追い詰める刑事の物語であり、どうやら今クライマックスを迎えているようだ。
雨が降っている。刑事と連続殺人犯が道路を挟んで向かい合っている。横断歩道の信号は赤。刑事は後一歩のところで連続殺人犯を追い詰めることが出来ない。
業を煮やした刑事は拳銃を取り出し、連続殺人犯に向ける。まさか撃つはずはないと高を括っている連続殺人犯が逃げる素振りを見せた瞬間、刑事は銃を撃った。
「うっ」
弾は連続殺人犯には当たらなかった。声を上げたのは僕だ。
刑事が撃った弾が、僕に当たった。
そんなバカな!そんなわけがないだろ!頭の中はそう思っているのだけど、胸を押さえた手は血で真っ赤になっている。
意識を失う瞬間頭に浮かんだのは、つい先ほど見たニュースのことだった。



220.「消しゴム」
その悪魔がやってきたのは、番組スタッフから理解できない話を聞かされた日の夜だった。
一ヶ月ほど前、ある番組の企画で初恋の人と対面するというのがあり、その聞き取り調査をスタッフに受けた。僕は、もちろん迷うことなく梓ちゃんを挙げた。
中学時代となりのクラスにいた女の子だった。僕は彼女のことがずっと大好きで、でも積極的な性格じゃなかったから何も言えないでいた。でもある日、クラスメイトの女子に呼び出され体育館の裏に行ってみると、そこにはなんと梓ちゃんがいたのだった。そうして僕らは、別々の高校に行くまでの間ずっと付き合っていた。
梓ちゃんとのことは今でも思い出す。忙しくてなかなか同窓会なんかに顔を出したり出来ないのが残念だが、仕事に疲れた時なんかにふと思い出すようなことがあって、恥ずかしくて一人で苦笑いするようなことだって結構あるのだ。
しかしその日番組スタッフから、中村梓という女性はいない、と告げられたのだった。そんなはずはない、と粘った僕だったけど、スタッフが連絡を取った当時のクラスメイトの一人と電話をして納得せざるおえなかった。
そんなバカな!僕は家に帰るまでに何度胸の内でそれを繰り返したことだろう。梓ちゃんがいなかっただって。じゃあ僕のこの記憶はただの妄想だとでも言うのか!
その夜、僕の住むマンションに、悪魔がやってきたのだった。
「ちょうど20年経ったしね。ほら、約束だったでしょ、20年だけって?オッケーしたよね?」
その悪魔は何だかもの凄くフレンドリーに意味の分からないことを捲し立ててきた。
「約束って何の話だ?俺は今イライラしてるんだよ!さっさといなくなれ!」
僕は叫んだが、悪魔は動じもしない。
「なるほど、分かるよ、梓ちゃんのことだろ。いやだからさ、そのイライラを解消するためにもさ、ほら消しゴムがここにあるからさ」
もう何を言ってるんだかさっぱり分からない。消しゴムって何のことだ?
「ちゃんと消してあげるからさ、梓ちゃんの記憶。この消しゴムを頭にちょちょいってやったら消えるからさ。もう充分でしょ?」
そういうと悪魔はずいっと近寄ってきて、僕の頭を消しゴムで一撫でした。

20年前のこと。
その悪魔がやってきたのは、僕が同じクラスの女の子に振られた日のことだった。
それまで周りの女子にはそこまで興味が持てなかった。何人かの男子は女子と付き合っていたようだったし、その内の何人かはもう最後まで行ったなんて噂もあったけど、僕にはどうしてそんなことをしたがるのか全然分からなかった。
けど、僕のクラスに来た転校生の佳子ちゃんを見た時、僕は電撃を受けたようになってしまった。佳子ちゃんと喋りたい。手を繋ぎたい。ずっと一緒にいたい。そんな思いは日に日に募っていった。
僕は意を決して佳子ちゃんに告白したのだけど、あっさりフラれてしまった。
僕はもうどん底だった。
その夜、その悪魔が一本の鉛筆を持ってやってきたのだった。
「失恋?大変だねぇ。ねぇねぇ、いいのがあるよ。ほらこの鉛筆なんだけどさ、君の頭の中にさ好きな記憶を書き込めるんだよねぇ。どうどう?」
悪魔は異常に馴れ馴れしい態度でやってきて僕を苛立たせたけど、佳子ちゃんの失恋に沈んでいた僕は、藁にもすがる思いでその鉛筆を手に持った。
名前が同じだと辛いかもしれないから、梓ちゃんって名前にしようか。隣のクラスの女の子ってことにして、向こうが僕に告白したってことにして…。
僕は失恋の痛手を消そうとして、ありえない話をどんどん脳に刻み込んでいった。
「そうそう、ちょうど20年後にこの記憶消しにくるからさ。よろしく~」
相変わらず軽いノリで悪魔は話し掛けてくる。
「でもサービスで、鉛筆で記憶を埋め込んだっていう記憶だけは先に消しゴムで消しといてあげるからね。心配しないでね」



221.「聞き込み」
殺人事件の帳場が立って二日目。警視庁捜査一課八係館山班所属の箕輪武史と遠藤七草は敷鑑、つまり死体発見現場周辺の聞き込みを続けていた。
「しかしこう寒いとやる気が出ねぇなぁ」
「何言ってんすか、ミノさん。ちょっと前まで、もうちょい寒かったら俺の実力はもっと発揮されんのに、とか言ってたじゃないですか」
「ん?そうだったっけ?覚えてないなぁ」
二人は、死体発見現場から離れた区域を割り当てられていた。重要な情報があまり上がって来ないところである。まあぼちぼちやろう、そんな風に話していた。
既に結構回っている。留守宅も多いが、話はそれなりに聞けている。と言っても、大した収穫などないのだけど。まあ捜査の大半はこうした無駄なことの積み重ねだ。文句を言っている場合ではない。
「よし、じゃあ次はあそこか」
「えっ、ミノさん、あそこは…」
「は?何か問題でもあったか?」
「いえ、特には…」
「何言ってんだ。行くぞ」
『葛城』と表札にある家のチャイムを鳴らす。
「すいません、警察の者ですけども」
返事があって、しばらくして玄関のドアが開いた。主婦と思しき女性が出てきた。
「あそこの殺人事件の件で聞き込みをやってます。ちょっとだけお話を聞かせてください」
「…ええ、でももうお話はしたはずですけど」
「まあそうなんですけど、警察って同じ話でも何度も確認しないといけないとこでして」
「…はぁ、そうですか」
そうして二人は、家族構成から死亡推定時刻付近で何か気づいたことはないかなど、形式的でありきたりな質問をした。主に喋っていたのは箕輪の方で、遠藤は始終黙ったままだった。これまでは遠藤が主に聞き取りをしていたので箕輪は不審に思ったが、ここは頼みます、と言われたら仕方ない。
聞き取り相手の主婦も、何だかおましいなぁという風に首を傾げながら話をしている。何だかおかしいけど、そのおかしさは事件に関わるようなものではないような気がする。だったら何の違和感なのかと聞かれるとさっぱり分からない。遠藤といいこの主婦といい、一体何だと言うのだろうか。
聞き取りを終え、辞去した後、遠藤がおもむろに口を開いた。
「ミノさん、あそこの家何か気になったんですか?」
「いや、何も。何だ、お前何か気に掛かったのか?」
「そうじゃなくてですね、じゃあ何であの家に二回も聞き取りに言ったんですか?」
「は?何言ってんだ。さっきが一度目だろうが」
「…ミノさん、それ本気で言ってるんですか」
そう言われて箕輪はちょっと焦った。確かに聞き取りの際、遠藤も主婦もおかしかった。違和感を感じた。なるほど、それが二度目の聞き取りだったからというのであれば分からないではない。しかし、どうしてもあの主婦に一度聞き取りをしたという記憶がまったくない。
「…いや、聞き取りは一度目だと思うが」
「ミノさん、悪いことは言いません。病院に行きましょう。認知症は30代からだって始まるって言いますし。ちょっとそれは心配です」
俺が認知症か、と箕輪は思った。まだ38だぜ、俺。



222.「きのこ食堂」
従業員が毎日入れ替わる食堂がある。
周りを山に囲まれたただ広いだけの土地にポツンと建っている食堂だ。その食堂には名前はないみたいだ。地元の人は、「山の食堂」とか「きのこ食堂」とか呼んでいる。店の前に大きなきのこが生えているのだ。
僕は自然環境に関わるNPO法人に所属していて、特にこの地域の山の手入れに力を入れている。きのこ食堂のある山では、林業が盛んであったり、あるいは地元の猟師が現役で活動していたりと、自然の恩恵を多分に受けているのである。しかしこのところごみの不法投棄やゴルフ場の開発問題などがあり、キレイで恵豊かな山を維持し続けよう、と僕らは活動しているのだ。地元のお年寄りなんかも積極的に活動に協力をしてくれ、NPOの活動としては充分な成果を挙げているのではないかと思う。
その過程で山を訪れることが結構あるので、ついでにきのこ食堂に寄ってみるということが多い。ウチのNPOの人間はかなりお世話になっているはずだ。
しかし不思議なのは、こんな山奥にある食堂なのに、従業員が日々代わっているということである。別に毎日行くわけではないけど、近くを通った時にたまたま中が見えるような時もある。そういうケースも含めて、これまで同じ従業員を見たことが一度もないのである。
料理は滅法うまい。山で獲れるタヌキやイノシシの肉を使っているのだろう。獲れたての新鮮な肉と、同じく山で獲れる山菜やきのこなどを組み合わせた料理は素晴らしいのひと言に尽きる。三日と空けず通いたくなる店なのである。
ちょっと不思議な店ではあるけれども、何故かころころと従業員を代えながら、そこそこ繁盛している。こういう食堂が山の中にあると思うと、さらにこの山を守っていかなくてはいけないな、と僕は今日もNPOの活動に力を入れるのだった。

「今日は前から話していた通り、どうしたら人間さんに恩返しが出来るかという話し合いだ」
獣長であるタヌキのポンさんが、各獣代表を集めて会議を開いている。
「人間さんはこれまでにこの山を守るために様々なことをしてきてくれた。恐らくそれについては皆言わずとも分かっていることと思う。我々としても、猟師に撃たれることで多少の恩返しは出来ているかもしれないが、充分ではないだろう。さてどうしたらいいだろうか」
おのおの知恵を絞ろうとしているようだが、そこは獣のこと、ない知恵を絞るとはこのこと。なかなか名案は浮かばない。子供と遊んであげるとか歌を歌ってあげるなんてのもあれば、夜のお供をしてあげるなんてとんでもない意見もあった。
「食堂を作る、というのはどうでしょうか?」
イノシシが言った。
「山の中に食堂を作るんでさぁ。でそこで、ワシらの肉を使った料理を作って出すってわけだ。どうだ、これなら充分じゃないか」
なるほど、という声があちこちから聞こえる。悪くないかもしれないな。
「店にはつねに、調理係と接客係が一人ずつ。調理係はキツネ、お前がいいだろうな。キツネはどうも料理がうまい。接客係は人間様を席に案内したりおしぼりを出したりした後、その日の料理に使う肉になる。そこまで繁盛されたら回らないかもしれないが、大体こんな感じにすればなんとかなるだろうよ」
「なるほど、それは悪くないかもしれないな。早速皆準備に取り掛かって欲しい」
そうタヌキのポンがまとめた。

こうしてきのこ食堂は生まれた。



223.「父からもらった」
「お前が、人生に疲れたとか、もう無理だと思った時には、このボタンを押してくれ」
4年前、そのさらに1年前に脳梗塞で倒れた父が、そういいながら私にリモコンのようなものを差し出した。私は今、そのボタンを押そうかどうしようか迷っている。
5年前に倒れた父は、右半身が動かなくなり、そのまま寝たきりとなっている。一人娘で結婚もしていなかった私は、それから父の看病に明け暮れるようになった。
正直言って、もう介護に疲れてしまったのだった。
まだ私も28歳。やりたいことはないけれど、出来ることはたくさんあると思う。それなのに、父の看病だけで日々が過ぎていってしまうのは、何だか恐ろしいような気がする。だからと言って、じゃあどうしたらいいのかも分からない。そんな時に、父からもらったリモコンのようなものを思い出したのだ。
(押してみようかな)
押したらどうなるのかというのは父には聞いていない。きっと聞いても教えてはくれないだろう。しかし、こんなリモコン一つで一体何になるのだろうか。介護ロボットでも飛んでくるのか?まさかねぇ、なんて思いながら私はリモコンが気になって仕方がなかった。
(まあいいわ。押してみよう)
私は、もしもの時には押すようにと父から言われていたボタンをグイと押し込んだ。

「お前が、人生に疲れたとか、もう無理だと思った時には、このボタンを押してくれ」
そう言って俺は紀子にその装置を渡した。
倒れてから1年。紀子は本当によくやってくれている。かつてはあれほど反抗的で苛立たしかった娘が、まさかここまで懸命に看病してくれるとは思わなかった。その装置を渡したのは、私からのささやかなお礼だと言ってもいいかもしれない。
あれは、私の自殺装置だ。
元々は紀子を殺すために作ったんだったな、と俺は回想する。紀子が大学時代、それは紀子が最も荒れていた時期だったが、本当に手をつけられなかった。様々に問題を起こしてくれて、これはもう親として殺してあげるしかないだろう、と思ったのだった。紀子の食事にカプセルを混ぜ、後はボタンを押すだけ、というところまで言ったが、結局殺すことは出来なかった。そういえば紀子の体内にはまだあのカプセルがあることになるな。
ボタンを押すと、カプセルの中の成分が溶け出して心臓発作を誘発する。そういう仕組みである。解剖さえされなければ医者は病死だと判断するだろう。解剖されてもほとんど見分けられないだろう、とも思っている。自信作だった。
そのカプセルを俺も飲んだ。リモコンでは、設定を俺の方のカプセルに変えてある。後は紀子がボタンを押すだけで俺は死ぬことが出来るだろう。父親の看病から、娘を解放してあげなくてはならない。我慢することはない。すぐ押してくれていいんだよ。

ある日のこと。紀子の高校時代の友人が我が家に遊びに来たことがある。
その日は滅法寒くて、紀子は寒いのは割となんとかなるのだけど、友人はダメだった。友人は手近にあったリモコンを操作してエアコンの設定温度を上げようと思ったのだけど、しかしどうも作動しない。あちこちボタンを押してはみるものの、エアコンの設定は変わらない。イライラしているとちょうど紀子がやってきて、ちゃんとしたエアコンのリモコンを持ってきてくれた。
この時、友人があちこちボタンをいじくったせいで、リモコンの設定が父から紀子へと変わってしまったことは誰も知ることはなかった。



224.「弟子入り」
「お願いします!弟子にしてください!」
僕は目の前にいる師匠に大きく頭を下げて声を上げて叫ぶ。師匠、とは言っても、僕が勝手にそう思っているだけで、まだ弟子入り出来ているわけではない。でも、絶対に師匠の弟子になると決めているのだから、僕にとってはもう師匠なのである。
師匠はものすごく困った顔をしている。師匠は弟子を取りたがらないことで有名だ。これまでも何人もの人間が断られているそうだ。しかしそんなことでめげてはいけない。僕は何も言ってくれない師匠に向かってまた声を張り上げる。
「お願いします!僕を弟子にしてください!」
「いや、ちょっと待てよ。弟子って何だよ」
師匠の困惑はどんどんと広がっていく。恐らくこれまでも多くの人間にこうして弟子入りを志願されているだろうけども、その度に違和感を感じるのだろう。
「弟子は弟子です。何でもします。掃除・洗濯・食事の用意。お荷物も持ちますし、歌を歌ったりマッサージをしたりもします。何でもします。お願いします」
師匠は、やれやれ、っていう顔をしている。まあそうかもしれない。師匠は弟子を取る気なんて元々ないのだ。それでもこうして押しかけてこられたら、それは迷惑だろう。それは僕だって分かるのだけど、それでも師匠に弟子入りしたいのだから仕方ない。
「ほら、師匠のご自宅もその…年季の入っていることですし、直したり掃除をしたりと、何なら今からやりますよ」
「いい、いい。ってかご自宅って何だよ。ただ汚いだけの棲みかだよ」
「食事も、残ったものをうまく使って料理出来たりしますよ。こういう生活をしていると栄養が偏るでしょうから」
「まあそうなんだろうけどよぉ。でもお前、俺に弟子入りしてどうしたいわけ?」
「それはもちろん、師匠みたいになりたいんです!」
師匠はもう理解できないって顔をしている。そうかもしれない。確かに僕がしていることは馬鹿げたことかもしれない。
「一つ聞きたいんだけどさ、俺みたいなホームレスに弟子入りするのって、最近流行ってるのか?」



225.「古きよき時代」
僕は、今から50年以上前の平成の時代について調べている。平成史とでも言うべき著作の構想を何年も練っており、その取材のためである。
しかしこの取材は困難を極めている。何しろ、平成時代に刊行された書物や映像などは、ほぼすべてが特別な許可がなければ閲覧不可なのである。どんなジャンルにも闇ルートがあるものだが、僕はそうしたルートを通じて様々なものを手に入れている。
しかし、そうした書物や映像を見ると、とにかく驚かされる。つい先日手に入れた、当時の情報番組はこんな風である。

番組が始まると、司会者二人の顔がアップになる。お決まりの挨拶とタイトルコールの後、男性司会者がおもむろに、昨日収録があった別の番組について話を始める。その番組には人気アイドルグループが出演しているらしく、その裏話を語っている。どうも女性司会者はそのアイドルグループのファンのようで、しきりに羨ましがっている。
司会者二人がネームプレートのある席に移ると、ほどなくして次の企画が始まる。どこかの町の商店街で行われている安売り市の映像が出てきて、この番組を見たと言えばさらなるサービスが受けられるという主旨であることが分かる。商店街の中をカメラが自由に動き、もちろんモザイクなど一切かかっていない。
お次の企画は、ブックランキングのようだ。その週の文芸書の販売ランキングと、とある書評家(もちろんネームプレートあり)のオススメの書籍を紹介するというものだ。すべての書籍には著者名が載っていて、番組では触れられることはないが著者略歴なんかも本には載っているのだ。

番組はまだまだ続くが、しかしここまでだけでも充分その驚きを理解してもらえることだろう。現在僕らが生きている世界ではまずありえない番組である。
僕ら乱戻の時代は、個人情報が厳しく管理されるようになった。これは、個人の意思とは無関係に、自分を含めたすべての人間の個人情報をみだりに明かしてはいけない、というものだ。
だからもし僕らが先ほど紹介したような番組を作るとしたら、こんな風になるだろう。

番組が始まると、司会者二人の首からしたが映り、タイトルコールと挨拶が始まる。あるいは司会者が覆面をしているというのでもよい。司会者にはもちろんネームプレートなどなく、お互いを呼び合う際にもAさんだのBくんだのという風にする。
人気アイドルグループの話をするなどもっての他だ。何せ、自分の私生活だって許可なしには表に出してはいけないのだ。司会者は、天気や株の動きなど、個人の情報に関わらない世間話をすることになる。
彼らが席につき、企画が始まる。とある町の商店街で行われている安売り市の映像は、ほとんどモザイクが掛けられることになるだろう。レポーターは元より、一般人の顔など決して映してはいけないからだ。
本などは、すべて著者名が伏せられることになる。もちろん著者略歴など書かれるはずもない。読者は、誰の作品なのかを知ることなく、本を選ぶしかないのである。

平成の時代を取り戻すためにも、僕は自分の本を匿名ではなく自身の名前を記載して出版したいと思っている。恐らくその話に乗ってくれる出版社はないだろうから自費出版になるだろう。それでも、出す価値は充分にある。出版したことで、僕が逮捕されることになっても。



226.「スパイ」
二十歳の誕生日を迎えたその日、僕は父親に呼び出された。今まで、決して入ることを許されなかった父親の部屋だ。やっと二十歳になれた、と僕は思った。12年前、父親に言われた言葉を思い出す。
『何もかも捨てて生きていくんだ』
8歳の僕には、父親の言っていることは難しすぎた。
『今は何も説明できない。ただ、父さんの言うことを信じてくれ。これは、将来お前のためになることなんだ』
父親の目は真剣そのものだった。
『友達も家族も、喜びも悲しみも、形あるものも形ないものも、すべて捨てて生きて欲しい。父さんも、父さんの父さんにそう言われて生きてきた。我が家の長男に課せられた生き方だ』
そうして最後に父は付け加えた。
『二十歳になったら、すべて教えてあげよう』
それから僕は、父親の言いつけ通りに生きた。仲のよう友人を作らず、自分の本心を表に出さず、何も求めず、何も追わず、何も喜ばず、何も悲しまずに生きてきた。それは、初めは辛い生き方だった。こんな生き方を自分に強いた父親を恨みもした。しかし屈しなかった。父親に認められたかったこともある。しかし何よりも、自分にはこれくらい出来るはずだ、という妙な自信があったことは否定できない。
そして今日、ようやくその日がやってきたのだ。
「お前にとっては、辛い生き方だったかもしれない。少なくとも俺は辛かった。何故こんなことをしなくてはいけないのかと、俺は親父を恨んだよ。しかし、どうしようもないんだ。これが、我が家系に与えられた使命なのだ」
使命、という言葉が耳に障った。ここまでして犠牲を強いなくてはいけない使命とは一体何だろうか。
「俺はもう引退だ。すべてをお前に引き継ぐことになる。お前の代でも、連絡はこないかもしれない。しかし、その来ないかもしれない連絡を待ち続けなくてはいけない。それが使命だ」
僕の理解を待つかのように、沈黙がその場を支配した。
「俺はスパイだった。それも、スリーパーという種類のスパイだ。普段は特別何をするということもない。諜報活動も尾行も何もだ。ただある特殊な状況になった時にだけスパイとしての役割を果たすことになる」
スパイ、と言われて僕は何も想像することが出来なかった。自分の父親がスパイだと聞かされても、そうだったのか、という程度のものだ。しかし、父親の告白を受けて思い出したことがある。昔家族でスパイ映画を見ていた時のことだ。脈絡もなく父親は、『スパイはこんなに目立っちゃいけない。スパイは見えない存在なんだ』と言っていた。そう考えると、父親がスパイであったということもそこまで不自然ではないのかもしれない。
「いつ連絡が来るか、それはまったくわからない。しかし、その日のために準備を怠ってはならない。もちろん、子供を産み、スパイの任務の後継者を育てるということも重要な任務の一つだ」
なるほど、僕が生まれたのは任務のお陰だったのか、と皮肉なことを考えた。
「最後に。我々は、織田信長の下で働いていたスパイだ。織田信長の直系の子孫から、任務の連絡が来ることだろう。もう数百年も連絡はない。しかし、いつ連絡が来るかは分からない。決して気を抜くんじゃない」
そう言った時父親の顔を見ると、心なしかスパイであることから解放された喜びが滲み出ていたように思う。きっと父親だって思っていたはずだ。
連絡なんか来るはずがない、と。



227.「<自分>探しの旅」
僕はずっと<自分>を探している。きっといつまで経っても見つかることはないだろう。しかしその痕跡の欠片だけでも知ることが出来れば、僕は満足できるかもしれない。
きっかけは、大学時代の友人に聞いた話だった。僕は文系で、彼は理系だったが、何故か話が合った。その彼がある日、「量子力学」についての話をしてくれたのだ。
量子力学とは微小の世界についての理論であって、その理論によってエレクトロニクスや製薬業界で様々なものが開発された。即ち、非常に実用的で有用な理論であるらしい。しかし一方で、常識的に考えると奇妙な現象が様々に起こるようで、その中の一つが「波動関数の収縮」なのだそうだ。
詳しいことはやっぱり分からなかったが、波動関数の収縮というのは、量子力学において実に厄介なものであり、これまでにも様々な仮説が出されたが、満足なものはないという。
その仮説の一つに、「多世界解釈」がある。波動関数の収縮とは、確率でしか現せない現象が、何故人間の観測によって一つに収縮するのか、という問題らしいのだけど、それをありとあらゆる可能性に世界が分岐するという方法で説明するのが多世界解釈だ。つまり、<僕が試験に落ちた>世界と<僕が試験に受かった>世界とが同時に存在していて、世界は常に分岐している、ということだった。
僕はそれを聞いたとき、分岐した世界の<自分>に是非会ってみたい、と思ってしまったのだ。
友人は、別の世界の<自分>に会える可能性はまずない、と明言した。そんな可能性は、この先宇宙が無限回生まれ変わってもゼロだろう、と。しかし、もし別の世界の<自分>が存在するならば、たとえばこの世界の僕が死んでも、<僕が死ななかった>世界がきちんと分岐し、そこで僕はまた生き長らえることが出来る。この世界での僕は死ぬけど、でもそうなった瞬間、僕は別の世界の<自分>に融合できるのではないだろうか?今この世界に生きる僕とはまるで違った人生の世界に行くことが出来るのではないだろうか。
僕はそれが気になって仕方なかった。無理かもしれない。それでもやってみる価値はある。
僕はトラックが近づいてくるのを横目で見ながら、道路に飛び出した。



228.「食べるということ」
久しぶりに古典作品でも読もうかと思って、ライブラリーに行ってみた。そこで見つけたのが、「食堂かたつむり」という本だ。2008年発行となっているから、もう100年も昔の本なのだ。「食堂」と「かたつむり」という言葉が何なのかよく分からなかったけど、なんとなく面白そうだなと思った。僕はこういう漠然とした感覚を大事にする人間なのだ。
早速読み始めたのだけど、でも読んでて理解できない部分が多かった。「食堂」というのが何かの場所だというのはわかったけど、でも「食べる」っていうのは一体どういうことだろう?登場人物は、毎日何かを「食べる」らしい。それは趣味なんだろうか?あるいは仕事?何なのだろう?
どうしても気になったので、母に聞いてみることにした。
「あたしもねぇ、ホントのところはよく知らないのよ」
「お母さんも分かんないの?」
「そうなのよ。食べる、なんて言葉聞いたことないわよね。調べたら分かるのかもしれないけど、既に私達には失われてしまった文化なんだろうから、何かの説明を読んだりしても理解できないかもしれないわ」
「そっかぁ。でもお母さんも知らないんならいいや」

既に歴史を語ることの出来る人間はいなくなってしまった。確かに彼らが言っていたように、調べれば分かることだ。彼らにとっての図書館に当たるライブラリーにアクセスすれば、恐らく分かるだろう。しかし76年前何があったのかということまで調べきれる人間はいないだろう。
要約すると、こういうことになる。
76年前の世界で、「サイバー保存」というのが流行ったことがある。これは、冷凍保存の進化版だ。冷凍保存は、難病に冒された人間などが、将来の世界で治療法が開発されていることを期待して冷凍されることであるが、サイバー保存は、主に死などによって肉体が失われる前に、自分の意識だけをコンピュータ上に保存しておくというものだった。これにより、死後でも家族と会話を楽しむことが出来たし、また将来的に人工人間みたいなものが開発され、そこに自らの意識を移せばまた肉体を手に入れることが出来る、というようなことを期待してもいたようである。意識の保存には、当時最大級だったワークステーションが必要であり、そのため料金は割高で、ある程度裕福な人間でなくては利用することは出来なかった。
ある日のこと。いくつかのことか同時に起こった。
まず、地球に隕石が落ちてきた。当初予測では地球をそれると考えられていた隕石が、ありえない確率で別の隕石と衝突し軌道が変化、そのまま地球に向かってきたのである。隕石はインドの市街地に落下、全世界的な大惨事となり、恐竜が絶滅したシナリオの通りに進み、結局それから9ヵ月後、人類は滅亡した。
同時に、サーバー保存で使っているワークステーションがクラッシュした。これは、隕石の墜落が原因なのか、あるいは他に原因があったのか、正確には分かっていない。隕石の落下直後で、そんなことを調べている余裕はなかったのだ。ハッカーの仕業かもしれないという憶測もあった。
その日、サーバー保存に使われていたワークステーションでは、人間の塩基配列を利用した人工知能の実験が行われていた。サーバー保存に使われるワークステーションは、日本にも数台しかない超高性能なものなので、よく別の研究用途に貸し出されるのだ。
どんな偶然がそこで起こったのか、それは誰も知らない。しかし、サーバー保存されていた個人の意識と、人間の延期配列データと人工生命のプログラムが融合した。それにより、サーバー保存されていたただの意識だけだった存在が、塩基配列データと人工生命プログラムを使って進化を遂げたのだ。年を取り、死の概念を持ち、さらに生殖機能まで手に入れた彼らは、地球上から旧人類がいなくなった今、彼らが新人類として台頭することになった。
彼らに、「食べる」ということの概念がないのは、そういうことである。



229.「車内授業」
もう学校には行きたくない。
毎朝電車に乗っていると、そう思う。もう嫌だ。今日こそは休んでしまおう。今日くらい行かなくたって困りはしないだろう。そうだそうだ、休んでしまえ。
それでも僕はなかなか学校を休めない。根が小心者なのだ。先生に怒られるかもしれない。お母さんに怒られるかもしれない。そう思うと、辛くて辛くて仕方ないのだけど、それでも身体だけは学校に向かっている。
しかし、ついに限界がやってきた。
いつもは山手線の品川駅から電車に乗って原宿駅で降りるのだけど、その日はそのまま電車に乗り続けた。山手線の車内にずっとい続けたのだ。一周約一時間。朝から夕方までずっといたから、10周くらいしたかもしれない。
それから毎日同じことをした。学校からお母さんには連絡が行っているはずだけど、お母さんは僕には何も言わなかった。心配そうな顔もしなかった。僕は逆にそれで助かった。心配なんかされたら、どうしていいかわからなくなってしまう。
毎日朝からずっと山手線に乗り続けていた。何をするというわけでもない。時々ゲームをしたりマンガを読んだりするけど、後はずっと立っているか座っているかだった。
吉田くんが話し掛けてきたのは、そんな生活を始めて二週間くらい経ってからだったと思う。
「君も学校に行けないの?」
吉田くんのそう話し掛けられて、それから僕らは電車の中でよく話すようになった。
吉田くんも僕と同じで学校に行けなくなっちゃったみたいで、僕と同じようにずっと電車に乗っている。吉田くんは家でパソコンを使うみたいで、インターネットを通じて自分と同じような子供が結構いることを知っていたみたいだ。だから電車の中でそれらしい子供を探していた。たぶん僕はその一人だろうと思って声を掛けたようだ。
それを聞いて僕は思った。そんなにたくさん仲間がいるなら、声を掛けて集まっていけばいいんじゃないかって。
それから二人で頑張って、同じような仲間をどんどん増やしていった。しばらくすると噂を聞きつけた子が仲間に入れて欲しいと言ってくることもあって、どんどん数は増えていった。
もうその頃にはいろんな学校の先生とか駅員さんとかも僕らのことを知っていたようだ。いろんな学校の先生がよく電車に乗ってきて説得をしに来たけど、僕らは知らん顔して無視していた。ずっと電車に乗っているのは本当はいけないことなんだろうけど、駅員さんはみんな結構優しかった。まあいいよ、いたかったらいつだっていなさい、みたいな。なるべく一番前か後ろの車両に乗ってくれって言われたけど。そこだと乗客も少ないし、駅員さんの目も届くから安心なんだとか。
僕らは電車の中でいろんなことをしていた。ただ喋っていたり本を読んだり勉強したりしていた。なるべく他の乗客の迷惑にならないようにということだけは気をつけていた。学校で勉強するのは嫌だったけど、電車の中でなら楽しかった。
状況が大きく変わったのは、僕が電車にい続けるようになって四ヶ月ほど経った頃だったと思う。
僕が通っていた中学校の先生が僕らのいる車両にやってきたのだ。僕らは、また来たのかと思ってうんざりしたのだけど、先生は乗り込んで来るなりいきなりこう言ったのだ。
「先生も仲間に入れてくれない?」
もちろん僕らは初めは信じなかった。大人が僕らの仲間に入りたがるわけがない。僕らの仲間になったフリをして、何かやろうとしてるんだ、って。でも先生の話を聞いている内に信じてもいいんじゃないかって思うようになってきた。
先生は学校の中で嫌がらせのようなものを受けていたようだ。しかも他の先生達からである。生徒からは人気のある先生だったけど、そのせいで嫉まれたりとかしていたのかもしれない。先生は何だかそんな生活に疲れてしまって、それで僕らのことを思い出したのだという。
「数学と英語ぐらいだったら教えてあげられるわよ」
それで決まった。先生は僕らの仲間になった。
あれから三年経った。今では「車内授業」というのは日本全国数多くの路線で行われるようになった。主に学校に行けなくなってしまった不登校の生徒が中心であるが、一方で塾のような機能も果たしている。乗客のあまり多くない路線では、鉄道会社から車両一つ丸々提供してもらえるケースもあるようだ。
あれは僕が始めたんだ。誰にも口に出して言うことはないけど、僕はそれを少しだけ誇りに思っている。



230.「一発勝負」
ついにこの日がやってきてしまった。センター試験、当日だ。
会場についた僕は、周囲を見渡し、そしてほくそえんだ。周りの連中は焦っていやがる。ギリギリまで問題集を片手に必至で暗記だ。ご苦労なことだ。僕は全然問題ない。余裕であることをアピールしようと、鼻歌でも歌ってやろうかと思ったくらいだ。
ここ二週間ほどまったく勉強はしていない。
それでも、まったく問題ないのだ。僕は、参考書など一冊も入っていないバッグをポンと叩いた。この中に、二週間一度も開けていない筆箱がある。その中には、一本鉛筆が入っているはずだ。
ちょうど二週間前のこと。センター試験の勉強の追い込みでイライラしていた僕は、ちょっと気晴らしにと思い、真っ暗な中散歩に出かけることにした。空気も星空も綺麗で、寒ささえも清々しいような夜だったのに、僕の心は試験への不安に駆られて一向に落ち着かなかった。
そんな時だった。彼女に出会ったのは。
都会にはよくいるという話を聞くが、彼女は初め占い師のように見えた。街頭で、しかもこんな寒い中占い師をしているような人間はこの辺にはいないので、すごく違和感があった。
ただ占ってもらうってのもアリかな、と思った。財布は持ってきてなかったけど、いざとなれば逃げればいいし。
そこでもらったのが、今バッグに入っている鉛筆なのだ。
センター試験が近くて不安だ、僕は試験に受かるだろうか、そんな話をしたところ、彼女はひと言も喋ることなく一本の鉛筆を取り出した。
「何か問題を出しなさい」
「は?」意味がわからなくて、僕は聞き返した。
「何でもいいから問題を出しなさい」
何でもいいからって言われても困るけど、その時ちょうど勉強していた英語の問題を出してみた。
「選択肢は?ないの?選択肢のある問題にして」
なんだか注文が多いなぁ、と思いながら、今度は社会の問題を出した。
「じゃあ、いい、見てて」
彼女はそういうと、鉛筆を手から離した。六角の鉛筆はコロコロと転がり、しばらくするとある面を上にして止まった。そこには「2」と書かれていて、それは先ほど出した問題の答えの選択肢の番号と同じだった。
もちろん僕だって、初めは信じなかった。しかし、それから何度やってもその鉛筆は正解を導き出すのだった。
「これをあげるわ」彼女はそう言った。その時には、僕はもうすっかりその鉛筆の虜になっていた。
「ホントですか?」
「ええ。ただし注意が一つ。今から試験当日まで、決してこの鉛筆に触ったり目にしたりしないこと」
「わかりました。大丈夫です」
そう言って僕は彼女から、小さな筆箱に入れられた鉛筆をもらったのだった。
この鉛筆があれば試験はばっちりだぜ。何せ正解の番号を教えてくれるんだからな。満点でも取っちゃおうかなぁ。僕はそんな余裕しゃくしゃくなことを考えていた。
試験がもう始まるというタイミングで、僕はようやくその鉛筆を筆箱から取り出した。
何だこりゃ?
鉛筆の六角の面はすべて「1」と書かれていた。これじゃあどうしようもないじゃないか。いくら鉛筆を転がしても「1」以外出ない。
嵌められた…。どんなトリックを使ったのか分からないけど、あれは嘘だったんだ。この鉛筆にはなんの力もないんだ…。
どうしよう…。全然勉強してない。センターで酷い点数取るわけにはいかないのに…。
僕は絶望的な状況で、試験を始めた。

センター試験がすべて終わってすぐ、新聞にこんな記事が載った。
「センター試験。全科目、正解の選択肢すべて「1」。受験生不安に駆られ満点逃す」



231.「ロボット社会」
いまや地球上に住んでいるのはロボットだけになってしまった。
もともと彼らは、人間の補助ロボットとして開発された。家事や介護全般、あるいは力仕事複雑で精密な仕事など、様々なことを代理で行うために存在していたのだ。
しかし、とあるきっかけで人間が地球上から絶滅した。強力なウイルスが世界に蔓延したのだ。ウイルスの影響を受けないロボットだけが生き残ったということだ。
彼らは、仕える相手である存在がいなくなったので、そのまま機能を停止してもよかった。しかしやはりというべきか、そうはならなかった。彼らはロボットだけで社会を作り上げるようになった。元々人間にとって必要な仕事のほとんどは彼らロボットが代わりにやっていたのだ。ほんの僅かなきっかけさえあれば、社会が生み出されるのは必然だった。
ロボットだけで社会を作り始めてから数百年という年月が経った。
今ではロボットは、死の概念さえも取り入れている。これはある時点で意識的に導入されることになった。死のない社会は、停滞を引き起こすということを彼らは知ったのだ。もちろん、本当に死ぬわけではない。部品を交換すれば、ボディ自体はいくらでも長持ちする。しかし、ある一定期間で意識を一旦止め、リセットし、まったく新しい人生を一からやり直す、そういう仕組みが出来上がったのだ。
その仕組みが出来上がってからしばらくして、ロボットたちはようやく死の概念というものを受け入れた。というかその解釈は、生まれ変わりと同じだった。自分の存在が一旦終わり、また新たな存在として生まれ変わる。彼らの間では、それが死という概念の理解であった。
一つ誰にも分からなかったのが、生まれ変わる際の意識は何によって決定しているのか、ということだ。新しい意識は、統合組織委員会という名前の組織が提供するということになっていたが、しかしこの組織に所属しているロボット一体もいなかった。この組織は完全に自律的に成り立っており、委員会という名前を持った、ただの無人の工場だった。
ロボット達は、恐らくランダムに決定されているのだろう、と考えていた。生まれ変わる際の意識を委員会がランダムに決定し、それを提供しているだけだ、と。
彼らは決して知ることはなかったが、統合組織委員会は決してランダムに決定をしているわけではなかった。彼らはある一定の規則に則って、生まれ変わった後の意識のデータを決定していたのだ。
それは、機能停止までにそのロボットがどんな『検索』をしていたか、に依存する。ロボット社会では、『検索』こそが最大の情報収集法であり、かつ最大のコミュニケーションツールであった。どんな言葉で『検索』を行ったのかがすべて統合組織委員会に収集され、その検索語に依存して意識が決定されるのである。
そうとは知らないロボット達は、『検索』によって卑猥な画像を見、『検索』によって殺人犯の情報を集め、『検索』によって社会の秘密を暴こうとする。
検索語という遺伝子が、ロボット社会を席捲しつつあった。



232.「誘拐犯の不運」
中里徹の自宅に誘拐の電話が掛かって来た時、彼はまだ研究室にいた。使用人から緊急の連絡が入り、一人娘である可南子が誘拐されたことを知ったのだ。
中里徹は、世界的に有名な毒物学者だった。毒物に関する世界的権威である。トリカブトから、人体を一時的に仮死状態に出来る成分を検出したことで、2年前ノーベル賞も受賞している。生化学的に非常に重要な発見で、仮死状態における人体の性質を研究するのに大いに役立った。また余談ではあるが、中里が検出した成分こそが、南米でよく出没したといわれるゾンビの正体だろうということだ。一時的に仮死状態に陥らせる成分を飲ませ、蘇ったように思わせていたということだ。
製薬会社と終身契約をしている中里は、莫大な金を持っていた。専門的な学術誌で特集が組まれたり、ビジネス誌の表紙を飾ったりすることもある。科学者としては珍しく露出の多い男だった。恐らくそのために狙われたのだろう。
中里は、研究とは別に趣味で毒物を作り出すことに喜々としていた。飲んで一週間後に効くとか、血液と反応して毒物に変化するものなど、いつどうやって使うのかも分からないようなものを作っている。彼を良く知る人間は、彼のことを変人と呼ぶが、本人はそれを気にしている風もない。
娘が誘拐されたと聞いた中里は、特に慌てることもなく自宅に戻った。まあ大丈夫だろう、可南子なら。そうは思ったが、一応準備しておかなくてはいけないことがある。
要求は、現金で1億円。まあそれぐらいならくれてやる。どうせ使えないだろうけど。使用人が既に警察に連絡をしてしまったようで、自宅では逆探知機の設置などが急ピッチで行われていた。
中里は、自宅にある研究室にこもり、誘拐犯に渡す紙幣にある細工をした。まあこれも保険だけど。準備は整った。後はまあ、警察がやってくれるだろう。
二日後。可南子は戻ってきた。まあ予想通りだ。可南子から知らせを受けた警察は、誘拐犯のアジトに乗り込んだようだ。恐らくそこで死体を見つけていることだろう。
「何故誘拐犯は死んだのかね」
同じ日、刑事の一人にそう聞かれた。
「簡単なことです。誘拐犯に渡す紙幣に、唾液に反応して毒物に変化する液体を塗布したんです。お金を数える時に、指をなめてしまったんでしょうね」
「でも、犯人がお金を数える時指を舐めなかったらどうしてたんだね」
「いや、まあだから賭けだったんですよ。絶対うまく行くなんて思ってたわけじゃありません」
(まあ、ホントのことが言えるわけがないけどな)
中里は心の中でそう呟く。
(まさか遺伝子操作によって、可南子の唾液が毒物そのものだなんてことは、言えないわなぁ)



233.「知らない内に」
ここ最近の医療技術の進歩は目覚しい。それ自体はいいことだ。ブラボー。
でも、それに反比例するようにして、僕の仕事はどんどん楽しくなくなっていく。
やりがいがないとか?実感に欠けるとか?いや、そういう話じゃないんだな。とにかく、つまらないんだよ。
だってさ、身体にほんのちょっと穴開けてさ、そこからワイヤーをちょちょいって伸ばしてさ、ささっと手術なんか終わっちまうんだぜ。どうしょもねぇよ。何が楽しくて、そんなつまらん手術をせにゃならんのだ、っつーの。
とはいえ、仕事だから仕方ない。契約だから仕方ない。僕はそんな退屈な手術だって、もちろん手を抜くことなくちゃんとこなしている。
だから、久々に自分の<獲物>を前にして、僕は今興奮してるんだ。
「手術を開始します」
周りもみんな分かってるだろうな。ほら、看護婦長だって麻酔医だって、どうせやるんでしょ、みたいな顔してるし。ええ、やりますとも。やりますともさ。これだけが楽しくって仕事をしてるもんでね。もちろん文句を言うやつはいない。そういう契約だからだ。
交通事故に遭ったらしい。とにかく外見いろんなところがぐちゃぐちゃだった。顔も腹も手も足も。とりあえず開腹して、臓器をあっちこっち処置してやらなきゃいけない。
この腹を開くってのがさ、いいよね。楽しいよね。
僕は誰にも真似できないほどのスピードで次々と処置を終わらせていく。これだけの精度とスピードを兼ね備えた外科医なんて、日本に数えるほどしかいないだろう。だから、僕のわがままだって少しは通る。特権ってやつさ。
緊急の処置があらかた終わり、とりあえず一息ついた頃。僕はポケットから、滅菌フィルムに包まれた<それ>を取り出した。
患者の肋骨を探り当て、そこに<それ>を貼り付ける。
シール式の刺青だ。貼って剥がすと、刺青に見える模様が皮膚に残るっていうあれ。それを僕は、患者の骨に貼る。これが僕の趣味。別に貼ったところでどうなるものでもない。二度と見ることは出来ないだろうし、そもそも骨だって日々作り変わっているんだから、しばらく経ったら痕跡すら消えてしまうだろう。
でも、誰にもつけることの出来ない場所に刺青を残すことが出来る。それが快感なんだ。止められないね、こりゃ。
僕はウキウキした気分を抱えながら、残りの処置を続ける。これで君も、僕の印を抱えながら生きていくことになるんだよね。そう心の中で語りかけながら。って、あは、僕って気持ち悪い?



234.「深海」
僕の身体は、大きな音を立てて海面にぶつかり、そのままゆっくりと沈んでいった。
海面にぶつかった時、もう僕は死んでいた。何故か?それは重要な問題ではない。僕は死体として、深い海の底を目指してたゆたっていた。
何だか心地よかった。僕には、自分が既に死んでいるという意識はない。何だか気持ちがいい。息が出来ていないはずなのに苦しくもない。身体が軽くなったようで、まるで羽でも生えているかのようだ。だが、やはり身体は動かない。それは、ちょっとどこかがおかしくなってしまっているからだろう、と僕は思っていた。死んでる、なんて思う暇はなかった。
僕は随分長く水の中にいるような気がする。もう周囲は真っ暗で、真っ暗な中にいるということしかわからない。時折発光生物が目に入る。あれはイカだろうか?僕の方に向かってくる。かなり大きい。深海に住むというダイオウイカだろうか?
その生き物は、僕の身体目掛けて泳いできた。僕はぶつかる、と思った。僕の喉を目掛けて泳いでいるみたいだった。
でも、何故かぶつかることはなかった。まるで僕の身体を通り抜けたかのように、あるいは僕の身体がなくなってしまったかのように。
しばらくして、明るい部分に辿り着いた。何によって光が与えられているのかはイマイチ分からない。が、そこにあるものは明白だった。
人間の目だ。
人間の目だけが集まってとてつもなく大きな集団を形成している。ざっと数えただけでも10万個は超えているだろう。目玉一つを米粒として、全体がおにぎりのように見えた。そう思うと、黒目がゴマに見えてくる。
<ようこそ>
突然声が降って来た。それは頭の中に直接響いてくるような奇妙な声だった。
そしてその声を聞いて僕は理解したのだ。僕も目だけの存在になっているのだ、と。
<きみも、僕たちと一緒になろう。ここでは、それが正しいことなんだ>
僕もそんな気がしてきた。僕は目だけになりながら、その集団にフラフラと近づいて行き、生まれた時からやり方を習得していたかのように、彼らと一体化した。



235.「カヌー」
カヌーだけが唯一の趣味だ、と言ったら、贅沢なんだかつまらない男なんだかよくわからないよね、と言われた。
妻と出会った頃の話だ。
結婚して10年経った今でも、それは変わっていない。僕の趣味はカヌーだけで、今も週末になればカヌーを漕いでいる。近くにカヌーにぴったりの川がある。というよりも、そういう川を見つけてその近くに住んだ、という方が正しい。今では妻もカヌーをやるようになって、一緒に過ごす時間が長くなっている。
言ってしまえば、ただ川を下るだけのことだ。しかし、ゆったりとした流れの中で、自分の力だけでカヌーを動かす。これはいつまで経っても止められるものではない。
いつものように妻と二人で準備をし、カヌーに乗り込んだ。よく晴れた日で、川もいつものように穏やかだ。周りの見慣れた景色を楽しみながら、妻と二人で静かに語らう。
突然、カヌーが沈み始めた。いや、実はそうではなかった。突然、川が真っ二つに分かれたのだ。川の真ん中に道が出来ていくかのようだ。僕らはその道に向かってどんどんと沈み込んで行った。
そうやって僕らは、竜宮城に辿り着いたのだった。



236.「日本の医療」
連日ニュースを賑わせている話題がある。
医療事故だ。
ここひと月ほど、全国の医療機関で多数の医療事故が報告され続けている。ここひと月で報告された医療事故数は、ここ5年間で報告された医療事故数に匹敵する。突然医療事故が増えた、というわけではない。これまで隠されてきたものが表舞台に出てくるようになった、というだけのことだ。
それと時を同じくするようにして、インターネット上で大きく話題になっているホームページがあった。それは、死体の解剖写真が載っているものだった。
それだけでも充分問題だった。何せ死体の写真が載っているんだから。しかし、特に一部の人を驚かせたのはその部分ではない。そのサイトには、死亡診断書に記載されている死因と、実際解剖によって判明した死因が併記されているのだ。
つまりこういうことだ。現在日本の解剖率は2%台。ほとんどの死体は解剖されることなく、死体表面の所見によって死因が確定される。しかもそのほとんどが「心不全」「呼吸不全」だ。これは、「死因不明」と同義である。
サイトの運営者は、どういうやり方をしているのかは知らないが、解剖されることなく死因が確定した死体を入手し、それを独自に解剖しているようだ。恐らく葬儀業者と結託しているのだろうが、定かではない。
このサイトの存在は、厚生労働省としては大きな問題を孕んでいた。頻発する医療事故のニュースと相まって、日本の医療が崩壊しているということを世間に強く印象付けることになるからだ。警察もサイトの運営者を摘発すべく捜査を続けているが、未だ成果は上がっていない。
それは当然だ。黒幕は、もう死んでいるのだから。
今から20年前、一人の医師は日本の医療に絶望し、日本の医療を改革しようと誓った。まずはデータを集めた。葬儀業者を巻き込んで、火葬される前の死体を解剖し続け、写真と死因のデータを蓄積した。また同時に、全国の病院を回り協力者を集めた。彼らは20年後、時を見計らって同時期に医療事故を告発するという使命を帯びた。
医師は、蓄積した解剖データを基に運営されるホームページを作成した。足が付かないようにドイツにアパートを借り、そこに設置したパソコンから世界中のプロバイダを複雑に経由させた。また一日毎に解剖データがアップされるようにプログラムを組み、人の手を介すことなくサイト維持が出来るようにしておいた。
Xデーを決め、もうすぐその日が近いという時、その医師は事故に遭い死んでしまった。しかしその遺志は受け継がれ、医療制度を改革しようという人々によって計画は進められた。
半年後、厚生労働省が解体し、新たな医療系省庁を立ち上げることが新聞の一面に踊った。



237.「鏡の向こうの世界」
「なぁ、『鏡の国のアリス』って知ってるか?」
「いや」
「知らねぇのかよ。有名だぞ」
「何それ。映画とか?」
「バカ。本だよ。イギリスの有名な作家の」
「イギリスの本なんか知るかよ」
「まあいいや。でな、そんなかで、鏡の向こうの世界ってのが出てくるわけなんだな」
「なるほど」
「鏡の向こうの世界ってのは、こっちの世界とは何もかもあべこべなんだよ。例えば、こっちで晴れてれば、鏡の世界では雨、こっちで車が左側通行なら、鏡の世界では右側通行ってわけだ」
「ふぅん」
「でだ、もしそんな世界があったら、お前どうする?」
「どうするって、何がよ」
「いやだってさ、面白そうじゃんか。何もかもあべこべなんだぜ。例えばテストで酷い点数取ったとするだろ。でもさ、そんな時に鏡の世界に行ってみ。たぶんすごいいい点数取ってるぜ、俺。なんか、そういうの、いいじゃんか」
「ただの現実逃避だろ、それ。何がいいんだよ」
「まったく夢がないやつだな」
「それにさ、鏡の世界って、一度行ったら二度と戻ってこれないような気がするんだけど」
「何でだよ。また鏡を通ってこっちに戻ってくればいいじゃないか」
「考えてもみろよ。こっちは『鏡の世界に行ける鏡のある世界』なわけだろ。じゃあ鏡の世界では『鏡の世界に行ける鏡のない世界』ってことにならないか?」
「…うーん、そう言われると困るなぁ。確かにそうかもしれないけど、でももしそうなったらおかしくならないか?例えばこっちでは『鉛筆がある世界』なんだから、鏡の世界では『鉛筆のない世界』になっちゃうだろ」
「知らねぇよ。鏡の世界の話はお前が始めたんだろ。俺に文句言うなよ」
「まあそうだけどさ」
「なるほど、そう考えると、やっぱ俺は鏡の世界には絶対に行きたくないな」
「何でだよ」
「だって考えてもみろよ。こっちでは『自分が生きている世界』だけど、鏡の向こうでは『自分が死んでいる世界』ってことになるよな」
「…なんだかうまくいかねぇもんだなぁ」



238.「殺すということ」
僕はね、人を殺したくないわけなんだよ。
あ、何その顔。ってか笑っちゃってるし。まあそういう反応は慣れてるから別にいいんだけどさ。やっぱおかしいかな、これって。
僕ね、意外と真剣なんだよ、これ。真剣に言ってるわけ。
ねぇ、ヨシコちゃんだって本読むわけでしょ?読むよね。前に、厚保山武史が好きだって言ってたもんね。どんな話だった?サムライが出てきて、姫様が出てきて、カレーを食べて、横浜で暮らすと。まあよくわかんないけど、そういう話があるわけだよね。
でもさ、じゃあヨシコちゃんだって殺しちゃってるじゃん。
その、はぁ、っていう顔止めてくれない?わかんないかなぁ?
つまりさ、ヨシコちゃんは、一冊本を読み終える度、その本に出てくる登場人物を殺しちゃってるわけ。だってそうでしょ?その登場人物たちはさ、僕らが本を読み終えた瞬間に人生が終わってしまうんだよ。確かにね、作家によってはさ、続編を書いたりすることもあるかもしれないよ。それでもさ、永遠に終わらないシリーズなんてさ、未完のまま作家が死なない限りありえないよね?ってことはさ、いつか物語は終わっちゃうわけ。物語の終わりはさ、登場人物の死でさ、それはさ、僕らが引き起こしてるってわけよ。ほらね、立派に殺してるでしょ?
僕?僕はね、このことに中学生の頃に気づいたんだよ。本を読み終えてしまったら、殺しちゃうんだって。本に限らないよ。マンガだって映画だって、物語のあるものなら何だって同じ。
だから僕はね、物語を最後まで読まないようにしてるんだ。小説だったら、最後の数ページ残して止める。中学生の頃このことに気づいて以来、僕は本を最後まで読みきってしまったことってないんだ。
僕はホントにこんな風に思うんだよ。世の中に物語が存在できるのは僕のお陰なんじゃないかって。僕が物語を最後まで読まないでいるからこそ、その物語は存在出来るんじゃないかってね?誇大妄想すぎ?どうかな。僕が死んだら、世の中から本がなくなるなんてことだってさ、もしかしたらありえるかもしれないじゃん。



239.「無限」
「明日からキツいぞ。マジでげんなりするわ」
「何でですか?」
「そうか。お前は知らなかったんだっけ、無限マンションのこと」
「無限マンション?」
「そうだ。うちの営業部は、無限年に一度、無限マンションに営業に行くことになってるんだ。それが明日から始まる無限年続くんだよ。キツイぞ、これは。何しろ無限年掛けて無限マンションを回るんだからな」
「無限マンションって何ですか?」
「要するにだな、部屋数が無限にあるんだ。無限だぞ、無限。いつ終わるんだよ。まったく社長もアホなことを始めてくれたもんだよ」
「田中さんはこれまで無限マンションで営業をしたことってあるんですか?」
「あるわけないだろ。無限マンションの営業を始めたら、無限年営業を続けなくちゃいけないんだ。お前、どうしてうちの会社に社長の姿がないか、考えたことあるか?」
「そうなんですよね。僕も入社以来一度も社長の姿を見かけてないんです」
「そうだろ?何せ無限マンションでの営業を初めてやったのは社長だからな。未だに社長は無限ホテルでの営業を続けてるはずさ」
「なるほど。でもだったら、僕らが営業する必要なんてないじゃないですか?だって、社長がすべての部屋を一つずつ順番に回っていけば、すべての部屋を営業できることになるんでしょ?どうせ無限年の時間が掛かるわけだし」
「それがそうでもないんだな。無限マンションにはさ、部屋番号が1号2号3号って全部通し番号になってるわけだ。社長も、とにかく無限の部屋を営業に回るっていうのに不安だったんだろうな。だから社長はルールを決めたんだ」
「ルール?」
「あぁ。社長は自分で、部屋番号が1と素数であるすべての部屋を営業することに決めたんだ。これだけでももちろん無限の部屋数があるわけだけど、でも全部の部屋を回るよりはましだろ?で社長は残りの部屋をどうやって回るか、指示を残したんだ。次に営業に回る者は、残った部屋の内、部屋番号から2を引いた数が素数になる部屋を回る。その次は部屋番号から3を引いた数が素数になる部屋…、と続いていくんだ。これから俺らが営業に行く部屋はさ、部屋番号から43を引いた数が素数になる部屋だよ」
「…カントールって知ってますか?」
「誰だそれ。歌手の名前か?」
「違います。昔の有名な数学者です。無限について先駆的な研究をした人なんですけど、そのカントールは、整数の集合と素数の集合は同じだと証明しました」
「は?どういうことだ?」
「つまりですね、整数の数と素数の数は同じだっていうことなんです」
「そんなわけないだろ!整数より素数の方が少ないに決まってるじゃないか」
「僕に言われても困りますけど、そういうもんなんです。だから初めっから社長が順番通りに一つずつ営業をしてくれれば、僕らが後からこうやって営業に行く必要なんてなかったはずなんだけどなぁ…」



240.「ホテル・ニューナカジマ」
僕は「ホテル・ニューナカジマ」に泊まることを決意した。不退転の決意だった。もはや後戻りは出来ない。それぐらいの覚悟がなければ、「ホテル・ニューナカジマ」には泊まることは出来ない。
何人もの友人に相談した。彼らは皆、「止めておけ」と言った。「ホテル・ニューナカジマ」に関する噂は、大げさにならない程度に噂になっていた。もし世間の注目を強く引き付けるようになっていたら、そしてその噂がもし真実であれば、「ホテル・ニューナカジマ」は普通に存在することが出来なくなるだろう。
「ホテル・ニューナカジマ」は、正確な場所が分からないことでも有名だった。「ホテル・ニューナカジマ」へ続くドアは、都内のいくつかの場所にひっそりと存在しているらしい。しかし、その場所を知っている者は多くはない。僕は、ありとあらゆる伝手を使って、そのドアの一つを探り当てた。ホテルの建物自体も、恐らく地下にあるのだろう。そのことだけでも、世間に流布している噂を補強するのに充分だった。
僕は作家を目指していた。子どもの頃から、どうしても作家になりたかった。大学を出て、一時は平凡な営業マンとして働き始めたものの、作家への思いを断ち切れず退職。3年ほど作品を書き続けたが引っかからず、そこで「ホテル・ニューナカジマ」に籠ることを決意したのだ。
「ホテル・ニューナカジマ」出身の有名人は多い。彼らの存在が、「ホテル・ニューナカジマ」というホテルの存在を世間に強くアピールすることになった。年間興行収入1位を獲得した映画監督、世界的に有名になった陶芸家、タイトル七連続防衛のボクサー、そしてブッカー賞の候補になったこともある作家もいた。
彼らの成功に憧れて、「ホテル・ニューナカジマ」を目指そうとする者は多い。「ホテル・ニューナカジマ」についての噂が出てくるまではそうだった。今では、その数は大分落ち着いていることだろう。作家になるために「ホテル・ニューナカジマ」にカンヅメになろうと思っている僕のような人間が狂人だと思われる程度に、その噂は大きな影響を与えていた。
「ホテル・ニューナカジマ」は、宿泊費はタダ、ありとあらゆるサービスもすべて無料、という夢のようなホテルである。部屋はどれもスイートであり、一流の料理と一流のもてなしをすべて無料で提供するホテルだった。
しかし、もちろんいいことばかりではない。あくまで噂であるが、宿泊者は自らの身体を担保にさせられるようだ。つまり、何らかの形で成功することを求められ、それができなければ殺される、というのである。
「ホテル・ニューナカジマ」には、人を成功に導く何かがある。「ホテル・ニューナカジマ」出身者はそれが何であるのか明言はしないが、その存在は確かなようだ。しかしそれは、成功を確実に約束するものではないらしい。あくまでも成功するかどうかは、宿泊者個人の努力と運に掛かっている。
僕は、その噂を知ってなお、「ホテル・ニューナカジマ」に向かうことに決めた。どうせ作家になれないなら死んでやるさ。僕は、「ホテル・ニューナカジマ」に続くと言われるドアを静かに開けた。



241.「独立」
地球温暖化が原因だ、と言われることもある。突発的な地殻変動だ、という説明にもなっていないような説明もあった。宇宙人の仕業だという人もいれば、実は元からそうだったんだ、という安っぽいミステリのような説明をつける人もいた。
しかしとにもかくにも、それは起こってしまったわけだ。
静岡県と愛知県の県境をほぼまっすぐ北西に伸ばしたラインで、日本が真っ二つに分断されてしまったのだ。
日本という国は、地震大国である。プレートがいくつも折り重なった上にあるためだが、恐らくそのそれぞれのプレートが別々の方向に引っ張られたのだろう、と言われている。衛星からの観測により、マントル対流が異常なスピードで循環を始めているということが分かっている。これまでマントル対流は、地殻を年数センチ移動させる程度であったが、今ではそのスピードは年数メートルというスピードに変わっている。そして何故かその影響を受けているのは、日本列島だけなのである。
日本列島が真っ二つに分断された当初は、まだ感覚は数十センチだった。人々は即席の橋を掛けるなどして対処できた。しかしその感覚はどんどんと広がってしまい、今では青森県が北海道と接触し山が形成されつつあり、山口県と福岡県も同様のことが起こっている。
その流れの中で、大阪府が下日本の首都を宣言した。日本が二つに分断されて以降ももちろん首都機能はすべて東京にあったが、上日本と下日本に分かれて以降、うまく機能しなくなっていた。大阪府が首都宣言したことにより、日本という国家が明確に二つの国として分裂することになってしまった。
それから数百年が経つ。今では上日本と下日本は別々の国家として存在している。使われている言葉もまったく違う、近くて遠い国である。



242.「ドライブ」
テレビに、自由の女神が映っていた。ちゃんと聞いてなかったから何のニュースなのかは分からなかったけど。自由の女神。いいなぁ。一回ぐらい、ちゃんと見てみたいよね。
「今日はどうする?」
カクの声だ。今日は土曜日。私達のデートは、大体いつもドライブだ。カクは車が好きだし、私はドライブが好きだからちょうどよかった。
私は昨日深夜過ぎまで残業していたために疲れていたし眠かった。きっと頭の回線がどこかおかしかったのかもしれない。気づくと、ふと言っていた。
「アメリカに行きたいな」
「アメリカ?」
「うん、自由の女神」
「女神ねぇ」
「ウソウソ。間を取ってアメ横とかにしよっか」
結局どこに行くか特に決めないままで車に乗り込んだ。
いつものように車でなんてことのない話をした。景色を見て写真を撮ったり、時々車を停めて散歩したり。でもやっぱり疲れていたんだろう。私はいつの間にか寝ちゃったみたいだ。
目が覚めると、目の前に空があった。辺りは夕陽に染まってオレンジ色だった。私は相変わらず車の助手席に座っていた。
空の下に海が見えた時、私は自分の見ているものが信じられなくてカクの方を見た。カクは真剣そうな顔で慎重にハンドルを握っていた。
海の上を走っているのだった。
「起きた?」
「…どうして?」
「アメリカに行きたいって言ったろ?」
「そうだけど。でも何で車が海の上を走ってるわけ?」
「あぁ、これね。ある一定の速度をほとんど誤差なく維持し続けると、車って海の上でも走れるんだよね。でもその誤差ってのがさ、プラスマイナス0.05キロとかでさ。ものすごいテクニックを必要とするんだよね。だからみんなそんなことしないんだけど」
私は後ろを振り返ってみた。既に陸地の姿はまったく見えない。360度すべて海に囲まれていた。
「今まで海の上を走ったことってあるの?」
「いや、ないんだけどさ、やってみたら案外出来るもんだなって」
「でも、アメリカまでガソリンってもつの?」
「それは大丈夫。ちゃんとたくさん買っておいたから」
そういえばさっき後部座席にポリタンクがたくさんあった。どこまでも用意周到なのだ。
私はちょっと怖くなった。いつ沈むかもしれない不安定な車に乗っていることもそうだけど、私の冗談を本気に受け取ってしまったらしいカクにも。



243.「脱出」
「諸君はこれから、『カミカゼ特空隊』として、人類の存続を掛けた任務をこなしてもらうことになる」
目の前に立つ軍服姿の男は、厳かな声でそう始めた。周囲には様々な人種の人間が、同じ制服を着て並んでいる。皆、『カミカゼ特空隊』に志願した人間だ。
「地球は既に滅亡の危機に瀕している。最新の予測では、あと5年以内に人類は地球上に住めなくなるだろう、と言われている。かつて火星コロニーの建造が急ピッチで進められたことがある。しかしそれも、最終的には実現にはいたらず、打ち捨てられてしまった」
男の言う通り、地球はもはや壊滅的な状況に陥っている。温暖化の影響で、赤道から上下200キロ圏内には人は住めなくなり、また気候の変動が激しすぎるため、東南アジアの一部と日本からは既にほとんどの人間が脱出している。現在では主に、北アメリカ大陸とヨーロッパ大陸に人口のほとんどが集中している。食料不足や水不足など、他にも様々な問題に見舞われているのだ。
そんな状況の中で、2年前から『カミカゼ特空隊』の応募が開始されるようになった。恒星間移動は実現していないものの、宇宙空間への飛行は比較的容易になり、低予算での実現が可能になった。自分に出来ることがあるなら、と志願したのだ。
「諸君等はこれから、『宇宙の種』を持って宇宙空間へと飛び出してもらう。恐らく『宇宙の種』については知っていることだろう。諸君等が新たな宇宙を生み出してくれることを、我々は大いに期待している」
『宇宙の種』とはその名の通り、新たな宇宙を生み出すためのものだ。その種を持ち、僕らは宇宙空間へと向かう。生命の続く限り出来るだけ地球から遠ざかり、そこでその種を爆発させる(地球の近くでは、その爆発に地球が巻き込まれてしまう可能性があるのだ)。新たな宇宙を生み出すことが出来れば、地球の人類をその宇宙へと移すことが出来るかもしれない、と期待されている。
その爆発によって、搭乗員は死ぬ。かつて日本で行われていた『カミカゼ特攻隊』になぞらえた名前なのも、そのせいだ。
僕らは黙々と宇宙船に乗りこみ、静かに出発する。自分の持っている『宇宙の種』が綺麗に咲いてくれることを願いながら。

「『宇宙の種』開くといいですね」
この出発式に出席していたイタリアの首相だ。私は彼の方を向き、普段なら決して言わない事実を口にしてしまった。
「まあ気休めですよ」
「気休めなんですか?人類を救う最後の手立てだと聞いていましたが」
「そんなことはありえんよ。不確定性原理により、ほんの僅かな可能性があるというくらいで、『宇宙の種』が開くことはあるまいよ」
「じゃあ何故『カミカゼ』を?」
「地球の人口を減らしたいということもあるし、万が一の可能性に賭けているということもある。でもまあ一番の理由は、人々に対して、何かやっているんだというポーズを見せないわけにはいかない、ということかな」



244.「実験」
学会の会場というのは、どこも似たような雰囲気だ。毎回同じメンバーで集う、ほとんど会議と言った方が正しいようなものでも、学会と名前をつければそう見えるものだからなかなかのものだ。
今日は15年来の研究の成果が発表される場だ。人間の脳や成長の仕組みに何か近づけるヒントが提示されるかもしれない。この15年というもの、まったく成果を発表しなかったロードンにはまったく飽きれるが、しかし奴の秘密主義は今に始まったことではない。
メンバーが着々と席につく。ロードンの姿はまだない。いつも余裕を持ってやってくるやつにしては珍しいと思った。
と思っていると、見慣れない女性が会場に入ってきた。20過ぎに見える、まだ女の子と言ってもいいような女性だ。これまで男ばかりだった学会では異質な存在。周りのメンバーも、これは誰だと目で言い合っている。しかし、結局誰もそれについて口を開くことなく、学会は始まった。
進行役であるトマソンは、諸事情によりロードンが来られなくなったこと、そして代わりに先ほどの女性が結果を報告することが告げられた。とすると彼女は、ロードンの研究を手伝ったりしていたのだろうか。
「初めまして、クラリド・ローレントンです」
彼女はそう名乗って、そして間髪入れずに本題に入った。
「私は今日、ロードンの代理として、『リンゴの樹』計画の結果を報告いたします」
15年前に始まった『リンゴの樹』計画。それはあまりに非人道的であり、倫理的に許されないものだった。
生まれたばかりの赤ん坊を、パソコンが一台あるきりの部屋に隔離する。
簡単に言ってしまえばそれだけの実験だ。人間の脳がいかにして成長するのか、パソコンだけで言語の習得は可能なのか、環境によってどのような変化がもたらされるのか。これまで謎だった多くの疑問に、その結果が答えを出してくれるに違いない、と期待されている。
彼女は実験の設定や境界条件、年月による環境劣化やその対処などについて述べてから、被験者の成長段階を四つに分け、流暢に説明を始めていた。
彼女の説明は驚くほど微に入り細に入りという感じで、まるで見てきたかのように語るのだった。もちろん、ロードンの助手のような立場であったなら、被験者の様子を見ることもあったろう。しかし、彼女の年齢が20代前半とすれば、実験開始の段階ではまだ10歳にも届かない。まさかそんな頃から手伝っていたわけもなく、その淀みのない説明にただただ舌を巻かれる思いだった。
そういえばロードンは、被験者をどうやって確保したのだったろうか。15年前の会議では、金で幼子を買う、ということになっていたと思ったが。
そんな回想をしている内にどんどん話は進んでいたようだ。まあ聞き逃した部分は、後でレポートでも読めばいい。話は、被験者が第四段階、年齢にして15歳、つまりつい最近の話に移っていた。
「…被験者は、非言語コミュニケーション、すなわち身振り手振りなども習得しました。これはほとんど、映画やアニメによる効果だろうと推察されます。
しばらくして被験者は、自分が閉じ込められている空間そのものに疑問を抱くようになったようです。自分のいる環境と、映画やアニメの登場人物がいる環境との差異に、ようやく目を向けるようになりました」
相変わらず、彼女の説明は淀みない。そういえばロードンの諸事情というのはなんだろう。どうも今日はあちこち思考が飛んでよくない。
「自分が理不尽な環境にいると確信を持った被験者は、徐々に計画を練り始めます」
計画?何の話だそれは。
「まずはここから脱出しなくてはいけない。そこで被験者は食事の際使っていたフォークでロードンとメラミを刺し殺しました」
メラミはロードンの妻だ。ロードンとメラミを刺し殺した?一体何を言っているのだ。理解が追いつかない。
「その後被験者は、自らが実験台であったことを知り、その研究成果を貪るようにして読みました。過去の彼らの会話から判断し、彼らはより大きな組織に属し、その指示でこの実験を行った、と判断しました」
その組織とは恐らくここにいるメンバーのことだろう。周囲がざわめく。もしや。
「そこで被験者は、自らを15年間を閉じ込めた組織に復讐をすべく、学会に乗り込んだのでした」
見ると彼女の手には、拳銃が握られていた。



245.「犯罪と数学」
「なぁ、ヨシキ。また手伝ってくれよ」
トミオは、机に向かってなにやら難しい問題を解いているらしい弟に向かって言う。確か今は、リーマン仮説に挑んでいるとか言ってたっけ。リーマン仮説が何なのか知らないけどさ。
トミオは警視庁捜査一課の刑事だ。犯罪捜査の過程で、よく弟のヨシキに助言を求める。ヨシキはアマチュアの数学者だ。彼は、自分はフェルマーの生まれ変わりだ、とよく言っていて、アマチュア数学家だったフェルマーに敬意を表し、大学や研究機関、あるいは数学を使う企業などに所属することなく、公認会計士として働きながら趣味で数学をやっているという変わり者だ。
3年前のある事件で、捜査に行き詰まっていたトミオに助言してくれたのがヨシキだった。ヨシキは会計と数学以外の知識に関してはからしきだが、しかし数学が犯罪捜査において強力なツールであることを証明してみせた。しかしまさかトミオも、数学的帰納法によって犯人を挙げることが出来るとは思っていなかった。数学的帰納法と言えば、高校の数学の授業で習うものだ。ヨシキはそれをある強盗事件に適応したのだ。
その後も、フーリエ変換や楕円関数などを巧みに使い、ヨシキは犯罪捜査に関わり続けた。今では、非公認ながら捜査一課内でもアドバイザーのような立場になっている。
しかしヨシキの数学の力も完全ではない。これまでにも、ヨシキが解決できなかった事件は数多くある。常に数学が有効だというわけでもないのだ。それでもトミオは、ヨシキに助言を仰がずにはいられないのだが。
トミオは今、ある誘拐事件に関わっている。ヨシキが何か使えそうな数学理論を思いついてくれればいいのだけど。

僕は、流体力学とベイズ推定を使って、警察の刑事捜査を分析している。警察という組織が、いかにして犯罪を捜査していくのかということを、数学的に解析しているのだ。これまでにも、充分成果は上がっている。警察が想定する仮説への信頼度の重み判定、証拠に対する重要度のランク付け、事件規模に応じた初動捜査人数の推定、状況に応じた警察官のミスの発生確率などなど。これらの数字を日々着実に積み上げている。
僕の目標は、数学を使って完全犯罪を行うことだ。例えば、殺人事件を犯して捕まらない確率を80%以上にするにはどうすればいいか、というようなことを日々考えている。
実際、これらの情報を元に、いくつか細かな事件を起こしている。通行人にナイフで切りつけたり、スーパーからちょっと金を盗むと言ったようなことだが、やはり数学の威力は素晴らしい。これまで起こしたどの事件でも、警察は犯人、つまり僕に行き着くことは出来なかった。兄のトミオはそうした事件について助言を求めてきたが、もちろん手助けすることはなかった。
数学で完全犯罪を目指す。これほどスリリングなことはないだろう。



246.「子産め女」
「主文、被告を子産め女の刑に処す」
裁判官の宣告が下った瞬間、被告席に座っていた女性はワッと声を上げ、泣きに泣いた。今の日本において、<子産め女の刑>は死刑をも凌ぐ最悪の刑だ。被告が男である場合、親族の誰かが子産め女にさせられることになる。いずれにせよ、恐ろしい刑であることに変わりはない。
ことの発端は30年前に起こったとある騒動だった。それは、日本という国、いや世界をも仰天させ、未だに驚嘆させ続けている、歴史上初めての出来事だったのである。
予兆はあった。しかし、それに気づけというのは酷だっただろう。全国の動物園や水族館で、少しずつ飼育員が不足し始めた。大学の研究室にいた数多くの実験動物が謎の自殺を遂げるようになった。全国の酪農家から家畜が逃げ出す事件が相次いだ。しかし、もちろん誰も、これらの出来事を繋ぎ合わせることは出来なかった。あの出来事が起こってから、後から考えてみると、なるほどこんな前兆があったのか、と分かったというようなものである。日本政府、あるいは他のどんな機関であっても、その出来事を予測することは出来なかっただろう。
その日、<独立国家生命の国初代大統領代理>という人物から、日本政府に当てて独立宣言が送られてきた。それによれば、日本に住むありとあらゆる動物、特にこれまで家畜とされていた種は、以後この生命の国で独立に暮らす、とあった。つまり、有史以来初めて、動物による国家独立が宣言されたのだった。
もちろんその陰には、元飼育員や動物の専門家らによるグループがいた。主に行動を起こしたのはこのグループである。未だに、彼らの目的が何であったのか議論されることがある。本当に動物の独立を心の底から目指したのか、あるいは自身の独立を望んだだけであったのか…。
しかしいずれにせよ、長いときを経て、その独立は成就した。いや、せざる終えなかったと言える。何せ、独立が保障されるまでの間、ありとあらゆる生き物により日本は様々な攻撃にさらされることになったからだ。イノシシが集団で突進してくる、サルがスーパーを荒らす、鳥が狙いすましたかのように人間の頭に糞をする…。さすがに耐え切れなくなり、日本は独立を認めることになった。
しかし困ったのは日本だ。様々に問題を抱えてはいたが、しかし最大の問題は食糧不足だった。何せ、一切の家畜が日本からいなくなってしまったのだから。
そこで苦肉の策として、日本国は生命の国と取引をした。曰く、餌として生きた人間をそっちに引き渡す。だから、そっちの動物もこちらに分けてはもらえないだろうか。
以後日本には、子産め女という身分が出来た。これはすなわち、生命の国に送る人間を生み育てる女性のことだ。政府は、様々な理由をつけてこの子産め女を増やしていった。赤紙のようなものを送りつけ徴兵まがいのこともした。孤児院はすべて子産め女の養成所となった。あるいは先ほどのように、刑罰として子産め女にさせられることもある。
今ではこの制度は充分に定着した。国際的な非難はもちろん様々に残っているが、しかし国内的な問題は既にほとんどないと言っていい。もちろん、戦時中の慰安婦問題のように、後々問題として取り上げられることはあろう。しかしいずれにせよ、今の日本国が生き残るには、これしか方法がないのだ。
問題はほとんどない。一つ懸念があるとすれば、子産め女が独立を画策しているということぐらいだろうか…。



246.「予防治療」
おかしな時代がやってきたものだ。
私は病院へ向かいながら、いつものように考え事に耽っていた。今の日本の現状の奇妙さに、どれだけの人が気がついているのだろう。少なくとも、30代ぐらいまでの人には理解できないに違いない。そうでなかった時代のことを、まったく知らないのだから。
しかしまったく、すこぶる健康な私が、こうして病院に通わなくてはいけなくなるとはなぁ。
きっかけは何だっただろう。確かどこかの医学部の教授が発表したある研究成果だったかもしれない。
思い出してきた。その教授は、ある画期的な病気の予防策を開発したのだった。それは、従来あったものにさらに改良を加えあらゆる方面へと応用出来るようにしたものだったのだけど、そのあまりの効果に世界中が注目したのだった。
それは、基本的には予防接種と同じ考え方だった。あらかじめ体内に免疫を作り出すために、病気の元になるものを身体に入れる。その教授は、それをありとあらゆる病気、すなわち風邪・癌・盲腸・心臓病・脳卒中など、ありとあらゆる病気に応用出来るようにしたのだ。これで、骨折や切り傷など外傷以外の病気はほぼすべて予防できるようになった。多くの人がこの予防接種を受けに病院に行ったものだった。
しかししばらくすると、その弊害みたいなものが現れ出してきた。予防治療をされた人間が増えるにつれ、予防治療をしていない人間が病気に掛かりやすくなったのだ。統計上、明らかに有意なデータが現れ出した。専門家はこう判断した。つまり、予防治療を受けた人間の体内から、何らかの形で病気の原因となるものが予防治療を受けていない免疫のない人間に移るために起こっているのだと。つまり、予防治療を受けた人間のせいで、予防治療を受けていない人間の病気になる確率が高まったのだ。
それにより、それまで予防治療をしていなかった人間も仕方なく予防治療を受けざるおえなくなった。私もその一人。まったく、何が哀しくて予防治療なんぞ受けなくてはいけないんだろうか。しかし周りには、予防治療を受けていなかったために風邪で死んでしまった奴もいる。もはや風邪でさえ脅威なのだ。背に腹は変えられない。
しかし、と私は何度目かの嘆息をつく。一体医療は、どこに向かおうとしているのだろうか。



247.「大人になりたくない」
大人になんかなりたくないやい。
僕はいつもそう思う。今日先生に怒られた時もそう思った。理由は、僕にはよくわからなかった。わかったのは、僕が何かを改めないと先生が困るのだということだった。大人は結局自分のことしか考えていない。親もそうだし、塾の先生だって変わらない。コンビニの店員みたいな風にもなりたくないし、お父さんみたいにサラリーマンにもなりたくない。かといってじゃあやりたいことがあるかというとそうでもなくて、だからとにかく僕は大人になりたくなくて仕方がなかった。
そんな風に嫌なことばっかりの人生にも、たまにはいいことがある。明日は遠足なのだ。遠足のどこが楽しいのか、小学生の僕にはきちんと言葉に出来ないんだけど、でも何だかウキウキしてくるし、そんな時ふと隣のクラスのみっちゃんの顔が浮かんできて困ったりもする。てるてる坊主をいくつか作って、寝坊しないように今日は早く寝よう。
そんな風に浮き足立っている時だった。どこからやってきたのか、異様な外見の男が窓際に立っていた。いや、男なのかどうか、よく分からない。何しろ、他に例えようもないくらい、奇妙な外見をしていたのだから。
「俺は悪魔だ。何か願い事はないか?」
悪魔?確かに見た目は悪魔っぽいと言えば悪魔っぽいかもしれない。ただ、何で悪魔が願い事を聞きにくるんだろう?
「あるよ。僕、大人になりたくないんだ」
それでも、願い事を叶えてくれるっていうなら誰でもいい。僕は、ずっと前から願っていたことを悪魔に言った。
「なるほど承知。叶えてやろう」
そう言うと悪魔はどこかへ去って行ってしまった。
今のは何だったのだろう。もしかしたら、誰かのイタズラだったのかもしれない。何か変だったし、そういえば悪魔は魂を売り渡すのと引き換えに願いを叶えるという話も聞いたことがある。魂を取られた気はしないから、やっぱりイタズラだったのかもしれない。
まあいいや。そんなに気にすることはないさ。明日は遠足だしね。寝よう寝よう。僕は途中だった支度を手早く終わらせて、さっさと眠りに就いた。
翌朝、いつもなら楽しいことがあるととんでもない早い時間に目が覚めてしまうのだけど、今日は普段と同じぐらいの時間に起きた。自分でも変だなって思ったけど、まあ大したことじゃない。顔を洗ってから、朝ごはんを食べる。
おかしなことに、テーブルの上にお弁当がなかった。今日は遠足だから、お弁当作ってくれるように言っておいたのに。お母さん、忘れてたのかな?
「お母さん、お弁当は?」
「何言ってるの?今日は給食があるのでしょ?」
「ちょっと忘れたの?今日は遠足だよ」
「寝ぼけてるの?遠足は明日でしょ?」
そんなはずがない。昨日あんなに楽しみにしていたのだ。でも、携帯で確認したら、なんと日付は昨日のままだった。確かにお母さんの言う通り、遠足は明日なのだ。
そんなバカな。勘違いしてたんだろうか。いやいや、そんなはずがない。昨日も今日も同じ日付なのだ。もしかしたら、と思ってニュースを見ると、昨日やってたのと同じニュースが流れていた。
まさか。僕はすごく嫌なことを思いついてしまった。あの悪魔か?僕の大人になりたくないっていう願い事を、こんな風に叶えたのか?永遠に同じ日を繰り返す日常の中に閉じ込めることによって。
そうじゃないと思いたい。でもたぶん、それで間違っていないのだろう。僕は、永遠に遠足の前の日という人生を生きなくてはならないのだ。



248.「移住計画」
火星で穴を掘る仕事がある、と言われたのは半年ほど前のこと。それから、あれよあれよという間に、僕は火星に辿り着いていた。
今人類は壮大な計画を実行に移そうとしている。そのために、火星の穴掘りが必要なのだ。
地球はもはや壊滅的な状態に陥っている。人の住める惑星ではなくなっているのだ。しかし、技術の進歩はSF小説のようにはいかなかった。火星への有人飛行は20年前に成功していたものの、火星への移住計画はまったく見通しが立っておらず、そもそも大人数を火星に運ぶだけの手段もなかった。
そこで考えられたのが、「ドッキング計画」である。これはつまり、火星を吹っ飛ばして軌道を変え、地球とドッキングさせよう、という計画だ。火星を地球に接触させれば、移動の手段は問題なくなるし、また地球と同じ軌道を回ることで、人が住める環境を作りやすくもなるだろうと考えられている。
今こうして穴を掘っているのは、ここに特大の発射台を建設するためだ。惑星の軌道を変えてしまうほどの推進力を生み出すために必要なのだ。しかし、こんな星に人が住めるよぅになるんだろうか。僕はいつもそれが不思議で仕方ない。



249.「前世」
「いらっしゃい、どうぞ」
(また来た。ほんと日本人ってのはこういうのが好きなんだなか)
「手相を見ましょうか、それとも前世を見ましょうか」
(まあほんとは前世専門だけどね。手相だってまあ、適当なこと言っきゃなんとかなるしね)
「前世ですか。じゃあちょっと、お借りしたいものがあるんですけど。普段付けている指輪とかネックレスとか、常に肌に触れているものを何かお借りしたいんですけど」
(まあ別にこんなんなくても前世なんか見れるんだけどね。でもどうも、こういう手続きが信憑性を高めるらしいんだよなぁ)
「しばらく待っててくださいね。今前世を見させてもらいますので」
(しっかし、いつまでこんな生活をしたらいいんだろうか。っていうか浮気したぐらいで死刑にするか、普通。職権乱用だろが)
「なるほど、見えてきました。どうやらあなたは江戸を拠点に活躍する飛脚だったようですね」
(自分が審議官だからって、夫を厳しく裁きすぎだっつーの。あのまま天空に留まってたら死刑だっただろうからなぁ。逃げ出して正解だっただろうけど、それにしても地上ってのは生きにくい)
「飛脚をご存知ないですか?あれですよ、昔は車とかなかったわけじゃないですか。それで、郵便とか荷物みたいなものを人が運んでたわけなんですよ。そういう人を、飛脚っていうんですね」
(そもそも再生館所長だった俺を死刑にしたら、業務が滞りまくりだっつーの。まああんな仕事、死んだ人間の前の人生がどんなだったか評価して、ただ次の人生に送り出すぐらいだから誰でも出来るっちゃー出来るけどな。まあ俺もそのお陰で、前世占いなんてのが出来るわけだし)
「マラソンやってるんですか。しかもホノルルで3時間を切ったと。それはすごいですねぇ。やっぱり飛脚時代の経験が残っているんだと思いますよ」
(はやく天空に帰りたいなぁ。どうしたもんだろうか。アイツがもう怒ってなければいいんだけど)

「怒ってるわよ」
突然目の前にいる女の口調が変わった。へ?何を怒ってるって?
「相変わらず、適当なことやってるのね」
いやいや、まさか。まさかそんなバカな。
「さぁ、天空に帰りましょう」
妻はニコリと微笑んだ。笑顔がこんなに怖いものだということを、初めて知った。



250.「2000年間で最大の発明」
僕は、「2000年間で最大の発明は何か」という問いを、自分のサイトで提示した。それに対して、実に多くの回答が寄せられたものだ。一流の科学者から芸術家まで、あるいは労働者から子供まで。いろんな人が様々な答えを出してくれた。
しかし、誰も気づくことはなかっただろう。僕が、まだ誰も知ることのない、過去2000年間で間違いなく最大の発明であるものを所有しているということを。そしてまた、僕が何故そんな問いを発したのかということを。
僕はついにタイムマシンを完成させた。これこそ、人類がこれまで作り上げたものの中で最大の発明だと言えるだろう。
そして僕は考えた。タイムマシンを使って、何をしたやろうか。僕は、世界の王になりたかった。どうすれば、自分が世界の王になれるのか考えた。そのプロセスとして、2000年間で最大の発明を問うということを思いついたのだ。
過去に行き、多くの人々が挙げた「最大の発明」を全部ぶっ壊していくというのはどうだろう。あるいは逆に、その「最大の発明」の発明者としての栄誉をすべて自分が奪ってしまうというのもいい。いずれにせよ、僕が世界の王になる日はそう遠くないだろう。



251.「素数虫」
素数虫というのをご存知だろうか。
いや、知らなくても非常識ということはない。恐らく、数学や生物、あるいは暗号なんかに携わっている人で、最新情報にも詳しい人でなければなかなか知らないだろう。
1年ほど前、とある生物学者が素数虫を発見したと発表した。その生物学者は、元数学者というなかなか変わった経歴であり、だからこそそんな奇妙な発見をしたのだろうと思われる。
彼の発見はしかし、科学界ではほぼ無視された。何故ならば、彼が素数虫だと主張する虫はすべてすでに発見されているものであり、きちんと分類もされている。つまり、未発見の生物ではなかったのだ。
素数虫というが昆虫ではなく、実際はゾウリムシのような単細胞生物に近い。その生物学者は、例えばある種は数字の2に、ある種は数字の3に、という具合に、それぞれの種に応じて対応する素数が異なっている、と主張した。しかし、いくらそんな説明をされても、誰にも理解できなかったのだ。その素数虫とやらの背中に番号が振ってあるわけでもないし、その虫が数字の形をしているわけでもないのである。
そうして彼の発見は長らく無視されることになったのだが、しかしつい最近彼は驚くべき成果を公表したのだ。
なんと、RSA暗号を素数虫によって解読した、というのだ。
RSA暗号は、素因数分解をベースにした暗号システムで、非常に安全性が高い。非常に桁数の多い数字を因数分解することは、スーパーコンピューターを使ってもとんでもない年数が必要で、そのためRSA暗号は安全性が保証されているのである。
しかし彼は、そのRSA暗号をたった1ヶ月で破るアルゴリズムを開発したのだった。原理的にはこうだ。素数虫にはある特徴があり、同じ数字同士の種が交配した場合、生まれてくるのもその数字を持つが、別々の種が交配した場合、生まれるのはその素数同士を掛け合わせた種なのである。通常自然界では、異種同士の交配はされないが、彼はそれを実験室内で実現させた。その異種同士の交配をベースにして、RSA暗号を解読したのだった。
この発表により、素数虫という存在にもにわかに注目が集まるようになった。普通にやっては、RSA暗号は解けるはずがないのだ。となれば、彼はまったく新しい素因数分解の方式を開発したか、あるいは実際に素数虫が存在するかということになる。突然、素数虫の研究が、生物学と数学界において脚光を浴びることになる。
しかし多くの研究者は、すぐに素数虫の研究を諦めざるおえなくなる。何故なら、どうしたところで素数虫はただの単細胞生物にしか見えなかったのである。



252.「完全犯罪」
私は、溶剤の入った容器を手に、最後の瞬間を迎えることをためらっている。これを流し込んでしまえば、あの人は恐らく死ぬだろう。自分がそれを心の底から望んでいるのか、まだ整理がついていないような気もする。
思えばこの日のために浄水場で働くことを決めたと言ってもいいかもしれない。かつては、大手食品メーカーに勤めていた。そこで、立ち直れないほどの屈辱を受けた。あれから3年。ここまで来るのに、本当に長かったと思う。
容器に入っている溶剤は、食品メーカー時代偶然に見つけたある化合物を元に作ったものだ。基本的に無味無臭で、毒性は一切ない。これ単独では基本的に特にこれと言った役には立たない代物だ。
しかし、ある種の化合物と反応させると、とんでもない毒性が発揮される。亜ヒ酸にも匹敵する毒性で、ほんの少し経口摂取するだけで死に至る。今のところ私しか知らない反応のはずだ。このやり方で人が死んでも、死因は明確には特定出来ないだろうし、二種類の化合物による反応の結果毒性が生みだされるなんてことがわかるわけもない。
彼には、この溶剤と反応する化合物を既に渡してある。最近メタボ気味だと嘆いていたから、糖質が従来の十分の一で同じだけの甘味がある砂糖のようなものだ、と言って渡してある。コーヒーを飲む時に入れれば、それでアウトだ。
これこそ完全犯罪だわ。私は覚悟を決め、浄化水槽に溶剤を流し入れた。



253.「ガリレオの苦悩」
「お邪魔するよ」
「またお前か。研究室には勝手に来るなっていつも言ってるだろ」
「悪い悪い。ちょっと今日は急ぎでね」
「またなんか事件か?」
「そうだ。お前の知恵を借りたいと思ってな」
「お前が来る時はそればっかりだ。まあいい、詳しい話を聞こう」
「亡くなったのは、松本佳子さん。当時付き合っていた男の家で見つかった。死体に特に不審な点はない」
「それなら何が問題なんだ?」
「男の供述だ。男は、突然死体が目の前に現れた、と主張している。さっきまでなかったのに、突然出てきたんだと」
「ほぉ、それで?」
「死体を突然出現させるようなトリックがあるのかどうか、お前に聞きたい」
「おかしいな。警察では、その男が最有力容疑者だと思っているんだろう?」
「今はそれは問題ではない。どうしたら死体を目の前に突然現出させることが出来るか、それを考えて欲しい」
「お前らしくない。いつもだったら、その男が嘘をついている、と判断して終わりだろう。普通はそう考えるはずだ。それに、もし死体が目の前に突然現れるようなトリックがもし仮にあったとしても、事件自体の様相が変わるかけでもないだろう」
「…まあそうだな。その通りだ」
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「今話した事件は、まだ警察は知らない?」
「警察は知らないって、お前は知ってるじゃないか」
「つまり、これは個人的な相談だ、ということだ」
「…お前が殺したのか?」
「…本当に、目の前に突然現れたんだ。死体になったあいつが。もしかしたら俺が殺したのかもしれない。ただ、俺にはその記憶はない。自分が殺したというのなら、もちろん潔く自首しよう。ただ、どうしても今の俺にはそう思えないんだ」
「分かった。確約は出来ないが、考えておこう。とりあえず、すぐに警察に連絡した方がいい」
「そうするよ」
帰っていく彼の背中を見て思った。十中八九、彼が殺したに違いない、と。



254.「新しいミステリ」
倒叙もののミステリが出てきた頃は、その発想の見事さに驚いたものだ。
倒叙ものというのは、犯人があらかじめ分かっていて、それを探偵がいかに追い詰めるかという形式のミステリ小説だ。どの作家が考え出したかは知らないが、倒叙ものというスタイルを世に広めた作品と言えば、「刑事コロンボ」だろう。日本でも絶大なファンが数多くいた。ミステリに、新しい形式が持ち込まれた瞬間だった。
しかし、倒叙ものももうありきたりになってしまった。それまで、犯人が誰なのかという興味で引っ張り続けてきたミステリ小説の、その犯人を先にばらしてしまうという革命的な方法も、既に新鮮味に欠ける。
ミステリ作家としてデビューしようと考えている僕は、どうしたら新たな革命的な形式をミステリ界に持ち込むことが出来るか、と日々考えているのだ。
そして、恐らくこれしかないだろう、という形式を考え出した。
探偵役が誰なのかを最後まで隠すのだ。
物語は、常に犯人視点で進む。犯行から、その後の警察とのやり取りなんかも含めて、すべて記述する。
しかし、読者には探偵役が誰なのか分からない。犯人は、様々な人間と話をし、様々な証言をする。その中の誰かが彼を追い詰めることになるのだけど、犯人はもちろん、読者もそれが誰なのか分からない。
よし、これはいいアイデアだ。すぐさまプロットを作り上げ、執筆に取り掛かった。
そうして原稿は完成した。
しかしこれは成功と言えるだろうか?この形式には、大きな問題があり、それを解消する術がわからない。
それは、とんでもなく長くなってしまうということだ。探偵役が誰か分からないようにするには、少なくとも5人以上の探偵役候補を書き分ける必要がある。しかもそれぞれの探偵役候補が犯人にいつも同じことを聞いてばかりいるので、話が冗長になってしまう。結局原稿用紙1500枚を越える作品になってしまった。これでは新人賞に応募できない。
名案だと思ったんだけどなぁ…。新しいものを生み出すというのは、やっぱり難しいや。



255.「呪われた絵」
その絵は呪われている、と長いこと噂されていた。
よくある話ではあるが、持ち主が次々に怪死していったのだ。ある者は、衆人環視の中で突然発火し焼け死んだ。ある者は、スカイダイビング中に身体がバラバラになった。ある者は、温水プールの中でまるで熱湯で茹でられたかのような状態で発見されたのだった。
まあ確かにその絵が呪われているように見える。実際のところは、まあ呪いと大差はないかもしれないが、しかし別の理由がある。
絵自体は普通の絵だ。しかしその絵にまつわる、とある出来事がこの怪死を生み出しているのだ。
元々その絵は、中世のある貴族が、お抱えの画家に描かせたものだった。しかしそれを飾っていた貴族は、どういう理由でか自殺を遂げることになる。その絵を見ていたら、自殺したくなってきたのだという。
その後その絵は人手に渡ることになるのだが、一緒に自殺をした貴族の幽霊まで連れて行くことになる。しかもその幽霊は、その絵の持ち主に憑くのだ。
するとその幽霊は、またしても自殺をしたくなる。初めの内こそよくある死に方をしていたのだが、何度死んでも成仏できないことを苦しんで、次第に過激な死に方を、それも普通では起こり得ない死に方を選ぶようになっていったのだった。
その貴族は、未だに成仏出来ていない。どうすれば成仏出来るのかも分かっていない。成仏出来ない貴族は考えている。もっと大勢の人間を巻き込むような死に方じゃないと、成仏できないのかもしれない、と。



256.「年賀状」
毎年楽しみに待っている年賀状がある。
トシオの年賀状だ。
トシオは東京大学数学科の院生であるのだが、数学者らしくやはり一風変わっている男である。中学生の頃、マジックペンを持ち歩いていて、何か思いつくと壁に数式を書き始める。さすがにマジックペンじゃまずいからと言って、鉛筆に代えさせたのを覚えている。
まあそんなトシオだが、年賀状も一風変わっている。いつも、暗号のようなものを送ってくるのだ。暗号のレベルは何だかマチマチで、見た瞬間に分かるものから、結局解けなかったものまである。何を考えているのかわからないけど、昔からずっとそうで、だから毎年、今年の年賀状はどうかなと期待しながら年始を迎えるのである。
しかし今年、トシオからの年賀状を見て驚いた。なんと白紙だったのだ。なんだこりゃ?しかしトシオのことだ、この白紙であるということが何か意味があるのかもしれない。あぶり出しではなさそうだけど、じゃあ他にどんな可能性があるかなぁ。
こうして僕はトシオの年賀状についてあーだこーだ考えることになる。結局その年の年賀状の意味は分からずじまいだったけど。

トシオは年賀状を書くのがめんどくさくなった。
「まあいいか。白紙で」



257.「コンビニ同時多発テロ」
とんでもない事件が起きた。コンビニ同時多発テロだ。
この名称は、いささか大げさにすぎる。マスコミが一斉にこの名称を使い始めたので定着しているが、被害はさほど大きくない。どの店舗も、おにぎりや弁当に爆竹が仕掛けられていたり、ゴミ箱から火が出たりと言った程度のものだ。
しかしこれがここまで大きなニュースになったのは、その範囲の広さにあった。
被害にあったコンビニは、日本最大のコンビニチェーン店に限られるのだが、しかしそのチェーン店のほぼすべての店舗、全国約1万2千店舗で同時刻に発生したのだ。被害の小ささの割に報道の扱いが大きかったのにも、そこに理由がある。
しかしこれは現実には考えられないことなのだ。仮に犯人が複数のグループであっても、爆竹などを仕掛けるのには一定の時間が掛かる。しかしコンビニでは、おにぎりや弁当は一定時間が来ると廃棄されてしまうのだ。調べたところ、全国すべてのチェーン店で同時に事を起こすには、犯行時刻の6時間以内にすべての設置を終わらせなくてはいけない、ということが分かった。しかしたった6時間で日本全国すべてのチェーン店に仕掛けるのに、一体何人必要なのだろうか。
警察としては、この事件をどう考えていいのか分からず捜査が難航していたが、報道が一段落した頃を見計らって、マスコミに犯人が名乗り出てきた。それを知り、警察としてもなるほどと思ったのである。

某大手コンビニチェーンのオーナーである吉本本吉さんは、日本全国すべての同チェーン店を回りながら、オーナーを口説いていた。自分達の訴えを人々に届かせるにはこれしかない、と。
吉本さんは、コンビニチェーンの本部に対して強い憤りを感じていた。ありとあらゆる仕組みが、店舗オーナーから搾り取れるだけ搾り取り、本部だけが丸々儲かるようになっているのだ。
しかも、このコンビニチェーンは、大手マスコミの主要広告主になっているために、悪事がマスコミで報道されることがない。自分達の窮状を訴えても、世論を動かすことが出来ないのだ。
そこで考えた。だったらマスコミが取り上げざるおえない事件を起こしてやろうじゃないか。
全国のチェーン店を回りながら、吉本さんは同志を増やしていった。同じ思いでいるオーナーは多く、最終的に2年の年月を費やして、すべてのオーナーの協力を取り付けることが出来た。
コンビニ同時多発テロと呼ばれるようになった事件を起こして正解だったと今でも思っている。あの事件から10年。結局そのコンビニチェーンは、世間の批判に耐え切れず、倒産した。



258.「幽霊のいる博物館」
幽霊が収められている博物館が開館した、という噂が僕の耳にも入ってきた。その博物館の開館は5日前。噂に疎い僕にしては早耳な方だ。
過去幽霊が展示された博物館はなかっただろう。そして恐らくこれからもないに違いない。その噂は、何かの間違いであることは明白だ。幽霊など、そもそも存在するはずがないし、存在しないものが展示されるはずがない。
もちろん僕は出かけていった。その博物館にだ。何でそんなでっちあげがまかり通るのか、確かめてやろうと思ったのだ。
幽霊がいるという一角は盛況だった。そしてそこから出てきたものは皆、まるで幽霊でも見てきたかのような顔をしていた。どうせお化け屋敷の類だろう。僕はそう高を括っていた。
長い順番待ちの後、ようやく中に入れた。その部屋は二重のドアによって隔てられているのだけど、その奥にあるのはただ真っ暗なだけの部屋だった。明かりはまったくない。広さもどれぐらいなのかさっぱり分からない。こんなに暗くては展示も何もないではないか。
しかしその部屋にしばらくいた後、不意に奇妙な感覚に囚われた。今のは何だ?うまく説明出来ない。映像が見えたわけでも、声が聞こえたわけでもないのだけど、3年前に死んだ母親のことが急に脳裏に浮かび上がったのだ。まるで、僕の身体の中を、死んだ母親の幽霊が通り抜けでもしたかのように…。
そんなバカな。しかし、説明のつかないことが起きたことは確かだ。インチキを暴いてやろうと思ったのに、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。
恐らく僕もその部屋から出る時は、まるで幽霊でも見たかのような顔をしていたことだろう。



259.「テキトーな時間論」
「時間っていうのはどこにあるんでしょうかね」
「時計を見れば分かるだろう。今は、21時ちょうどだ」
「時計ってのはなんか違うじゃないですか。時間そのものって感じがしません」
「感じがしないと言われても困るけど」
「四次元の軸が時間だっていうじゃないですか。でも四次元の軸って目に見えませんよね?」
「そんなこと言ったら、xyz軸だって別に目に見えないよ」
「でも座標として書けるじゃないですか。でもでも、時間の軸とかは書けないんですよ。どこにあるんですか?」
「まあそんなこと言われてもね」
「じゃあやっぱり時間って目には見えないんですか」
「目に見えて良い事があるのか、っていう点が重要だと思うけど」
「時間って真っ直ぐなんですかね?」
「真っ直ぐ?」
「つまり、アメリカのハイウェイみたいにずっと直線っていうか」
「アメリカのハイウェイも曲がってると思うけど」
「もう、例えですよぉ」
「時間が真っ直ぐでなければいけない理由はないだろうね」
「じゃあループしてたり?」
「可能性は否定できないだろうね」
「じゃあこのまま時間を進んでたら、いずれ過去に繋がってたりみたいな?」
「もしそうだとしても、過去に来たということに気づくことはないかもしれないけどね」
「そうなると、もしかしたら今も過去だったりするかもしれないかもかも?」
「かもかも?」
「そこは別にいいんです」
「将来見えるようになったらいいね」



260.「夜書いた手紙は朝読み返せ」
ラブレターなんていうのはもう古いのかもしれないけど、彼女に想いを伝えるにはラブレターしかない、と思った。
一目見た時から惚れ込んでしまった。彼女に対する溢れんばかりの言葉が、僕の内側で行き場を求めている。
そうとなればすぐさま行動しないではいられない。僕はさっそく文房具店に行き、便箋を買って来て書き始めた。
しかし、便箋に何枚書き続けても、溢れる言葉は一向に尽きる気配がない。もう8枚目に突入しているが、まだまだ書けそうな気がする。
そこで僕はまた文房具店に行き、大学ノートを買ってきた。とりあえず溢れ出る言葉をここに書き綴ろうと思ったのだ。もちろん書いた文章をすべて送っては迷惑だろうけど、自分の中にある言葉を全部とりあえず出し切ってしまわないと気持ちが悪いのだ。
とりあえず風呂に入り、夕食を食べた後でまた書き始めた。
ものすごいスピードで文章を書いているのだけど、手が止まることはまったくない。次から次へと言葉が溢れてくる。彼女のことを想うだけで何百何千という言葉が奔流となって飛び出してくるのだ。
僕は時間の感覚も忘れて書き続けた。空腹も覚えず、眠気も感じなかった。夢の中の世界にいるようにフワフワした感覚の中で、僕はとにかくひたすらに手を動かし続けていた。
ようやく書き終わった時には、もう朝になっていた。大学ノート二冊分がびっしりと埋まっていた。さすがに疲れを感じて伸びをし、新聞を取りに郵便受けを覗くことにした。
郵便受けを見て僕は驚いた。新聞がこれでもかというくらい溜まっていたのだ。初めは何かの悪戯ではないかと思った。一晩でこんなに新聞が溜まるはずがない。
しかし嫌な予感がして、部屋に戻って携帯を確認してみた。
時刻を確認しようとしたのだが、その前に山ほどのメールと着信があった。とりあえずそれは後で見ることにして、日付を確認してみた。
ラブレターを書き始めてから三ヶ月が経過していた。
僕は力なく笑った。自分が書いたラブレターを見返そうと、大学ノートを開いた。しかし、大学ノートは、真っ黒だった。僕が文章を何度も上から重ねて書いていたらしい。もはや何て書いてあるのか判読は不可能だった。
何をどう考えたらいいかも分からず、僕はただ茫然としていた。



261.「皆さんよいお年を」
「いつの間にか大晦日ですね」
「いや、ホント早いもんで」
「今年はこれが最後の感想になるよ」
「だからこんな、ショートショートなのか何なのか分からないような文章を書いてるんですね」
「まあそうだな。っていうかまあ、ショートショートを書くのがもうめんどくさいからなんだけどな」
「まあ何でもいいですよ。今年一年はどうでしたか?」
「今年は、どうもこれっていう本が少なかった気がするなぁ。もちろん面白い作品はたくさんあった。けど、ずば抜けているようなのはなかった印象だなぁ」
「そうなんですか」
「それと後は、小説以外の作品をかなり読んだ気がするかな。数学・物理系の本で非常に面白いものが多かった」
「なるほど。読む趣味も結構変わってきているみたいですしね」
「それは確かにあるな。外国人作家の作品も割と読むようになったし」
「時代小説はまだまだですけどね」
「あと落語ってのは今年の収穫かな。そんなに数としては読んでないけど、落語を扱った本が結構面白かった」
「昔はミステリばっかりだったのに、大分変わりましたね」
「まあそうだ。しかしいつも思うけど、このブログを読んでくれる人には感謝だね」
「ホントそうですね。今年は突然ショートショートなんてのを始めてね。つまんない作品ばっかり山ほど載せてね」
「それでも初めの方は結構頑張ってたんだぞ。三ヶ月もすると息切れしてきて、半年もすると適当になってきたけどな」
「ダメじゃないですか。でも何とか無理矢理ながら一年続いたんだから大したもんだと思いますけどね。来年はどうするんですか?」
「来年はもうショートショートはやりたくないからなぁ。今考えてるのは、本屋の仕事の話をいろいろ書こうかなとは思っているけどね。何が売れてるとか、こんなチャレンジをしてみたとか、後は本屋はよく使うけど本屋についてはよく知らないみたいな人に初級本屋講座みたいなのを適当に書いてみたりね」
「なるほど。まあそれはいいかもしれないですね」
「本屋の仕事だったらまあいろいろ書けるだろうから、何とか一年ぐらい持つんじゃないかな」
「まあ来年って言っても明日からですからね。まあ頑張ってくださいよ」
「言われなくても頑張るよ」
「ではではこの辺で終わりにしましょうかね」
「そうしようか。今年も一年、こんなつまらないブログを読んでくれてありがとうございました。来年もまた一つ、よろしくお願いいたします」
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
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17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
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小説以外
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