ことづて屋(濱野京子)
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内容に入ろうと思います。
山門津多恵はある時から、死者から「ことづて」を頼まれるようになった。死者が見えるわけでも、望んで会話が出来るわけでもなく、ただことづてを特定の人に伝えて欲しいと頼まれるのだ。
津多恵はこれまで、地味な人生を歩んできた。顔も地味なら、性格も地味。特に波瀾万丈らしいこともなかった。そんな津多恵であるので当然、ことづてを伝えるなどという役割を積極的にしたいと思っているわけではない。しかし、どういうわけか、ことづてを伝え切らないと頭からそれが消えず、不快感にさいなまれるのだ。そういうわけで津多恵は、毎度毎度いやいやながら、死者から頼まれたことづてを伝えに行く。
津多恵にはある時から相棒が出来た。美形だが口は悪い美容師である恵介だ。恵介もまた、津多恵からことづてを伝えられた者の一人だ。津多恵のあまりの方向音痴ぶりを知り、またあまりにも外見を繕わない有り様を見かねて、津多恵がことづてを伝えに行く際に津多恵を変貌させるメイクを施し、さらに同行してくれるようになったのだ。
死者は、様々なメッセージを生者に残す。突然の死であれば尚更現世に思い残すこともあるだろう。何故それが、津多恵のところに届くのか、それはわからない。他にも津多恵のような役割を担うものがいるのかもしれない。死者の思いは、津多恵が語る生の言葉によって、生者に伝えられる。
しかし、当然、信じない者もいる。津多恵の父親がそうだった。最終的には信じてくれるにせよ、そこにたどり着くまでの過程は容易ではないことも多い。恵介が同行してくれるようになって、少しはましにはなったものの、津多恵の消耗は小さくはない。
しかしそれでも二人は、伝えるべきことづてがある限り、それを伝えに行く。
というような話です。
深みに欠ける感じはするのだけど、全体的には読ませる作品だったと思います。
6編の短編が収録されていて、それぞれに違った形で、津多恵はことづてを伝えに行く。一遍一遍、同じパターンにならないようにする工夫は感じられるので、ことづてを伝えに行く二人の道中、という同じ鋳型の中で生まれる物語だけれど、それぞれの話に特徴があったように思います。
ただ、やっぱりそこにはちょっと限界もあって、各話ごとの差別化に完全に成功していると言えるほどではないと感じました。僕が感じるその最大の理由は、物語の構造上、ラストのまとめ方を明確に出来ないからではないかと考えています。
この物語は、「死者から津多恵がメッセージを預かる」が、「津多恵側から死者にメッセージは届けられない」という条件で組み立てられています。また、あまり詳しい描写はなかったけど、「津多恵自身も、死者とちゃんとコミュニケーションすることはできない」のだろうと思います。だからこそ、結論が憶測や曖昧な推測で終わらざるを得ないことがある。
津多恵自身はあくまでメッセンジャーなわけで、死者と生者の間の事情に詳しく首を突っ込むわけにいかないし(津多恵はそういう性格である)、恵介はあくまでも付き添いなわけだから、「生者と死者の間にこんなことがあったのだろう」という推測で物語が閉じることが多かったように思います。それが悪いわけではないけど、本書の設定にしてしまうと、そういう風に物語を閉じざるを得なくて、そこにバリエーションを付加するのを阻む要因があるのかな、と感じたりもしました。
もちろん、人間同士のことなので、曖昧な部分が残るのは当然なのだけど、物語なのだからそこははっきりしてくれる方が受け取りやすいし、曖昧なまま終わらせるならもう少し各話の分量が必要な気もしました。
あと、これは個人的な好みなのだけど、「死者のことづてが届く」という部分に、もう少し全体に絡む理由付けみたいなのは欲しかった気がします。本書の中では、津多恵にこの能力が備わったのは「ただの偶然」であり「理解不能な現象だ」ということになっています。それも決して悪くはないと思うんだけど、僕個人の好みとしては、この部分にもう少し物語上の何かがあっても良かったのかなと思ったりもしました。能力自体はまあ超能力なので説明のしようはないにしても、「何故津多恵だったのか?」みたいな部分を掘り起こす話があってもいいような気はしました。それがないと、本当に、物語だからって何でもアリってことになっちゃう気がしたので。
津多恵と恵介のコンビは、なかなか良い。主人公がここまで地味な女性という物語は、なかなか少ないような気がする。そして、それが物語の中にうまくフィットしているのが良い。恵介も、なんだかんだと言いながら津多恵のために行動していて、なかなか好感が持てる。随所で恵介が繰り出す「熱い言葉」に、グッと来ることもある。個人的には、津多恵と恵介が共にお世話になっている怜が気になる。あまり登場しないのに、なかなかの存在感である。
軽くいタッチで読み進めていくにはオススメ出来る物語です。
濱野京子「ことづて屋」
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