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反逆する風景(辺見庸)

新聞・雑誌など、様々な媒体で発表した文章をまとめた作品だ。
表題作である「反逆する風景」は、非常に面白い文章だった。この文章のテーマを、著者はこう書く。

『ものを書くうえで、フィクション、ノンフィクションを問わずだが、それら不整合を取り込むべきか否か』

「それら」とは、「文章の中にうまく収まらない事柄」である。文章を書く時には、その中心となる核が存在する。そこから様々なものを派生させて文章を構築していくのだろうが、しかし現実には、その核にはまり込まないものも見聞きし、経験する。それらを、「収まりが悪いから」と言って切り捨てるか否か、という話である。
そうやって著者は、自身が見てきた「反逆する風景」を描いて見せる。それらはどれも、大した出来事ではない。別に、忘れてしまえばそれだけの、忘れてしまったところで何かが失われるわけでもない類の、残っても残らなくてもどちらでも良いような事柄である。しかも、それらは、「本来の話の文脈から外れた出来事」なのである。なおさらどうでもいいと言えばどうでもいい。
しかし、著者はそれらの「意味のない風景」に意味を見出そうとする。そして著者は、風景が意味のなさを醸し出すことを、「反逆」と呼ぶ。何に「反逆」しているのか。それは、「意味化されること」に対してである。
フィクション、ノンフィクション問わず、書かれる文章には、当然、意味が与えられる。それは、現実的だろうが心象的だろうが、ともかくなんらかの風景を描き出す。文章を書くというのは、風景に意味を与えることでもある。そして、風景はそれに「反逆」しているのではないか、と著者は書くのだ。
これは、証明も反証も出来ないような、そう思うならそうなんじゃないですか、としか言いようのない類の話なのだけど、強く感心した。「神は細部に宿る」というが、そういう、全体に影響を与えない、本筋とは無関係な事柄も「細部」であるだろうし、実のところ、そういう類の「細部」にこそ本質が宿ってしまうのではないか、と思わされた。意味化に対して「反逆」する風景が、逆に強い意味を持ってしまうこと。そういう不思議な感覚を、読んでて思わされた。

『それは、どう謙虚を装っても権威の臭いの嫌う帰省の意味世界に、私自身囚われているからだ。それがどんなにささいな規模であれ、風景の反逆を描かず、気づかないふりをするのは、つまるところ、書き手が世界に反逆したくないからなのだ。意味を壊すのが怖いからだ。古くさいい意味世界を守りたいのである。新聞とはそういうものだ。しかし、不整合のない風景は、字を費やせば費やすほど、そして整合して見えれば見えるほど、嘘である。ひどい嘘である』

著者は、「もの食う人びと」という、新聞連載をベースにした作品で消化しきれなかった感覚を、この「反逆する風景」という文章に込めたという。新聞という、どうしようもなく制約のある環境の中で出しきれなかったもの。出すべきだったこと。それが、著者にとっての「反逆する風景」なのだ。僕自身は、「もの食う人びと」を読んでいないが、そちらも気にさせる一冊だった。
さて、本書は、先ほども書いたように、様々な媒体に発表された文章をまとめた作品である。だからこそ、全体を統一するようなテーマはない。個人的には、それが、作品としての弱さを感じさせる部分だと思う。
もちろん、個別には面白い話はたくさんある。食べたものではなく、結局食べなかったものの「記憶」こそが最上の美味であるという経験を描く「他人の記憶を食う」、場面場面に効果的な音楽を差し込むことで見ているものの感情を揺さぶろうとする情報番組の是非を論じる「カエサルの死の現場にBGMは流れたか」、宇宙飛行士が詩的になるという話から独自の視点から物事を見ようとする「地上ゼロメートルの発見」など、なるほど面白いと思わせる文章はたくさんある。しかし、どうしても全体にまとまりがない。書籍化することを念頭におかずに書かれた文章であるのだろうから、殊更その点を責め立てるつもりはないのだけど、不満は残る。
とはいえ、全体を貫く、著者自身の「物事を見る視点」は、とても興味深いと思う。共同通信社の記者として世界中あちこちを周り歩いた経験を持ち、そこで様々な経験をしてきただろう著者。畢竟、そんな視点で見る現代の日本は軽薄に映るだろうし、また著者の、異質な物に惹かれる感性もとても興味深い。会って話をしてみたい気分になった。本書は、短い断片を繋ぎあわせた、著者のつぎはぎのような存在に思えるが、そこから、著者自身の全体がなんとなく垣間見え、そうやって見える存在感に惹かれる部分はある。
また、本書は、「もの食う人びと」と対をなす作品と言われているようで、あるいは両方読むことでまた評価が変わるのかもしれないとも思う。また、僕自身が、世界情勢や政治に疎いということも、本書をすっと受け入れにくい理由だろう。新聞を日常的に読んでいる人、日本や世界の動向に注意を払っているような人には、現在でも通じる面白さを提供してくれるのではないかと思う。




辺見庸「反逆する風景」
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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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1位 「死のテレビ実験
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3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
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8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)