黒夜行

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Bハナブサへようこそ(内山純)

内容に入ろうと思います。
本書は、ビリヤード屋を舞台にした、ミステリの連作集だ。
語り部は、「中央」という、ビリヤード屋のアルバイトの青年。「あたり・あきら」と読むが、一度も正確な名前で呼ばれたことがない。「ビリヤードハナブサ」の常連である「ご隠居」「小西さん」「木戸の姉さん」も彼のことを好き勝手適当な名前で呼ぶ。
中(あたり)は、格別ビリヤードが趣味というわけではないが、オーナーである英雄一郎(はやぶさ・ゆういちろう)氏(ビリヤードの世界チャンピオンに輝いたこともある)の腕前には惚れ惚れする程度には嗜みがあるし、うまいコーヒーを淹れることで重宝がられている。
そんなビリヤードハナブサに、なんだか「事件」の話が舞い込んでくる。ビリヤードハナブサに関係する人たちが、直接に関節に関わることになった「事件」を、ビリヤードハナブサの店内であーでもないこーでもないと語りつつ(ビリヤードはしない)、安楽椅子探偵的に事件を解決しちゃう、という物語である。

「バンキング」
もう一人のアルバイトであるカネちゃん(ハヤブサ氏の弟子)が、なんと殺人事件に巻き込まれた。とあるレストラン経営者が殺害され、なんと死体の発見者となってしまったのだ。経営者に恋をする店長、その店長に恋する従業員、店長になれなかった経営者の甥が疑われている状況なのだが、どうにも今一つ決め手に掛ける…

「スクラッチ」
常連客である里美さんは、前夜起きたという出来事を話して聞かせている。会社で人が死んだのだが、事故なのか自殺なのか殺人なのかイマイチハッキリしない、というのだ。クレーム処理をする部署で、あまり好かれていなかった要領の悪い社員が、屋上から落下して亡くなった。セキュリティが完璧な社内システムによって、もし殺人であるなら容疑者は3人しかいないのだが、そもそも殺人である決定的な決め手もなく…

「テケテケ」
最近、木戸の姉さん目当てで来店するようになった霞ヶ浦さん。姉さんが「何か事件の話はないの?」とけしかけたことで、霞ヶ浦さんは大昔オーストリアであった話を思い出しつつ話し始める。秋津という、天才的な研究者と共にオーストリアに派遣された霞ヶ浦さんは、現地で、成功すれば世界中をあっと言わせることは間違いない研究を続けていた。周囲の人間と一切交わろうとしない秋津と、どうにかうまくやっていくメンバー。しかしある日、その秋津が会議室で頭を打って死んでいたのだ。事故なのか、あるいは、完璧なセキュリティに閉ざされた残り4人の研究者の内の誰かが犯人だったのだろうか…

「マスワリ」
ある日、オーナーであるハヤブサ氏からとんでもない写メールが届く。なんと、ビリヤード台に載せられた死体の写真だ。第一発見者になってしまったハヤブサ氏。動物病院の経営で財を成した香川氏が殺害され、その当時豪邸に呼ばれていた恋人、秘書、ビリヤードのプロが疑われたのだが…。

というような話です。
各章の題はすべてビリヤード用語です。なかなか一般には知られていない用語ばかりではないかと思います(少なくとも僕は全部知りませんでした)。本書の特徴の一つはまさにこの点にあって、ただ舞台がビリヤードというだけではなく、物語の中になかなか巧くビリヤードを溶けこませています。
コナンや金田一が、最後謎を解く場面で、「キラリン!」みたいな感じでひらめく場面があるけど、本書の場合、そのひらめきのきっかけはビリヤードに絡んだことによって訪れます。そしてそれが、なかなか巧いこと処理されていると思う。全然聞き覚えのないようなビリヤード用語を作中であらかじめ説明しつつ、それを最後回収していくという流れは、よく出来ていると思います。
ビリヤード場の雰囲気も、とても楽しそうに描かれています。主人公の中(あたり)は、物凄く寡黙な雰囲気なんだけど、その周りにいる人間が実に騒がしいので、常にビリヤードハナブサは賑わっている。吉本新喜劇のような(と言っても、見たことはない)、お約束のやり取りというのが毎回必ず挟み込まれていて、それがある種の様式美みたいな雰囲気を出してもいます。物語の構成も、本作は大体どれも統一されていて、少なくとも本書に収録された4編を読むだけであれば、同じ様式美に則って整えられた構成はなかなか面白く感じました(ただ、これがシリーズ化されるとすれば、同じ形式のままではちょっと辛いかなと感じますが)。
物語そのものがビリヤードと関係する話は1編だけですが、本書の最後の作品である「マスワリ」は、本書の中の唯一の中編と言える作品で、それまでの安楽椅子探偵的な感じとはまたちょっと違う要素も入っていて(まあ、結構ムチャクチャですけどね 笑)、全体的に面白おかしく描かれているなと感じます。
とはいえ、個人的には、ちょっと評価に難しさを感じる作品でもありました。
それは、先ほど褒めた構成の面です。本書の構成は、良い面もあるのだけど、うーんどうかなという面もあります。
それが、「事件の概要がほぼ、ある一人の人物による独白で語られる」という点です。
安楽椅子探偵モノというのをそこまで読み慣れていないから、安楽椅子探偵モノは元々そうならざるを得ない宿命があるのかもしれないけど、正直、事件の概要を独り語りで一気にされると、途中でしんどくなります。本書の第一話では、登場人物の紹介もそこそこに、いきなり事件の話がぐわーってな感じで語られて(まあ短編だから仕方ないかもですが)、おーちょっと待って待って、まだそんなにガツガツ事件の情報入れたくないんだけど、的な感じになりました。
しかも、事件の概要がなかなか複雑だったりします。複雑っていうほどではないんだけど、ややこしいって感じか。特に二作目の「スクラッチ」なんかは、途中で人間の動きが箇条書きにされるところがあって、ちょっとこれを頭に入れる気にはなれないなぁ、と思ってしまいました。確かに事件自体は、短編の扱いで収まりがいいようなスケールではあるんですけど、もう少しシンプルなものにしてもいいかなぁ、と。これ、登場人物は耳で聞いてるだけで理解してるんだよな、と思うと、すげーな、って思います。
ミステリ的な部分は結構好きだったりするんです。謎がどうこうっていうことではなくて、著者のスタンスみたいなものが。本書は、「密室!」とか「アリバイ!」とか「凶器消失!」みたいな、分かりやすい名付けが出来るような事件じゃないんです。「なんかみんなアリバイもないし、動機はあるけど決め手に欠けるし、密室っていやぁ密室かもだけどでも条件次第ではそうではないし、なんだかうまく絞り込めないねぇ」みたいなものを扱ってるんですね。これって、なかなか難しいなって思うんです。本当は、「密室!」とかの方が、興味もそこに集中させやすいし、色々やりやすいと思うんだけど、本書の事件は、その辺の境界条件がとても曖昧なものが多い。割とこういうの、好きだったりします。有栖川有栖の「双頭の悪魔」とか「孤島パズル」みたいな感じで。でもやっぱり、前述したみたいな構成上の難しさとか、全体的におちゃらけた感じとか(これは、ユーモアミステリーが好きな人ならいいと思うんだけど、僕の好みではない)、そういう部分が気になって良い感じでは読み切れなかったなと思いました。
新人のデビュー作ですが、全体的にはとてもうまくまとまっていると思います。ビリヤードという(本作中でも書かれているように)そこまで競技人口が多くないだろうモチーフを巧みに作中に織り込んで物語を作っているところは好感が持てます。

内山純「Bハナブサへようこそ」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)