黒夜行

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新宿スペースインベーダー 昭和少年凸凹伝(玉袋筋太郎)

内容に入ろうと思います。
本書は、新宿生まれ新宿育ちである浅草キッドの玉袋筋太郎が、昭和50年代の西新宿を舞台に、小学5年生の「赤江祐一」を主人公にした自伝的小説。既に高層ビルが建ち始め、新宿という街が様変わりしつつあったその時代、街の変化をものともせずに全力で暴力的に遊びまくる少年たちの姿を描き出す。
赤江とカッちゃんをリーダー格に、ヤス、マルチン、タカシらと、毎日毎日よくもまあこれだけ騒げるなというぐらい新しい遊びを思いついては全力で遊び続ける彼ら。犬のウンコを爆竹で吹っ飛ばす遊びでホームレスの村田さんを怒らせたことがきっかけで仲良くなったり、小学生のボクシング大会を企画して大金を得たり、その得た大金でとんでもない悪巧みを思いついたり、野球をしたりインベーダーゲームをやったり、ビルや新宿御苑で騒ぎまくったりと、彼らの遊び場は無限だ。そんな破天荒な遊びをし続ける怒涛の日々の中にも、しんみりとした瞬間もあり、ボロ泣きする瞬間もある。
単純で馬鹿で悪知恵ばっかり働く、まあまさに「ザ・小学生男子」っていう感じの日常が、「新宿」という、「小学生の遊び場」というイメージがまったくない世界で展開されていく違和感も非常に新鮮で、時代が変わったとはいえ、「新宿」でさえも遊び場に変えてしまう子供たちの発想力と熱量が凄まじい作品だなと感じました。
僕は本書を読んで、羨ましいなぁ、と思うんですね。こういうのって、羨ましいな、と。
僕は、今でもそうなんだけど、「男のノリ」みたいなものに、正直全然ついていけないんですね。あんまり、楽しいとは思えなかったりする。男同士で集まると、なんだかみんな騒いだり暴れたり意味のない競争とかしちゃったりするんだけど、どうもそういう気持ちが自分の内側にはないみたいなんですね。
だからこそ、本書で描かれる小学生たちが羨ましいなと思う。「こんな子供時代を過ごせたらよかった」という後悔では決してない。僕が、同じ時代同じ場所に生まれていたって、絶対に彼らのようには遊べなかったと思う。だから、場所とか時代の問題じゃないし、周りにいた友達の差でもない。僕自身の問題だ。だから、僕もこういう遊びが面白いと思えるような人間だったら良かったのになぁ、と思う。羨ましい。別に、自分で面白い遊びを思いつけなくてもいい。みんなでやってる遊びをうまくやらなくってもいい。ただ、みんなで集まって、超絶的に馬鹿馬鹿しいけど何故かワクワクしちゃう遊びに、親とか学校のこととかを気にせずに全力を尽くすっていうことを「楽しい」と思える人間に、なりたかったなぁ。
それに僕は、男の子が普通興味を持つようなことにも、全然関心がなかった。ゲームにも漫画にもスポーツにも。本書の小学生たちの日常は、「野球」や「ゲーム」が大半を占めるだろう。ボクシングやプロレスにもかなりハマってたようだ。でも僕は、今でもそうなんだけど、全然そういうものに関心がない。そういうものに関心があって、知識をガンガン吸収して、時には「誰が強いか」や「どっちがカッコイイか」でバトルをするようなのにもちょっと憧れたりはするんだけど、いやまあ俺には無理だな。
「新宿」は、今とどのぐらい違ったのだろう?
正直僕は、今の「新宿」さえよく知らないのだから、比較も何もないのだけど、本書を読んでいると、彼らが暴れまわっている「新宿」は、今とは似ても似つかないものなんじゃないかと思えてくる。
実際本書を読む限り、高層ビルはそれなりにもうあったようだ。でも、彼らがボクシング大会をやった、水道局の空き地なんてのも残っていたようだ。他にも彼らは、都会の隙間隙間に、遊び場を見つけてしまう。さすがに、高層ビルのエレベーターを無理矢理緊急停止させる遊びは、危険過ぎると思うけど。
僕は当然、当時の「新宿」のことは知らないのだけど、当時の「新宿」を知っている人ならかなり懐かしくなるのではないだろうか。大人の視点から見た場合の「新宿」という街の変化は、たぶん色んな本で様々に言及されているような気がする。でも、子供の目に「新宿」がどう映ったのか、という視点は、そう多くはないのではないかと思う。そういう点でも面白い作品ではないだろうか。
しかし、僕が驚愕させられるのは、この驚異的な記憶力だ。もちろん、本書は小説なわけで、当時のことを丸々書いているわけでもないでしょう。でも、基本的には自身の体験がベースになっているだろうと思う。そういう視点で本書を読むと、よくもまあこんな細かいこと覚えてるよなぁ、というような描写がとても多い。これこれにはこういう設定があったとか、これにはこんなウラ技があったとか、凄く細かな話が描写される。
子供時代のことを、みんなどの程度覚えてるもんなんだろう?僕は正直、異常なぐらい覚えていない。まーったくと言っていいほど、子供の頃のことなんか覚えていないのだ。同級生の名前も、担任の先生の名前も、もし同窓会に出れば必ず話に出るだろう印象的なエピソードも、まったく覚えていない。時々、誰かと会話をしている時に、唐突にふと思い浮かぶことはあるけど、自分で当時のことを思い返そうとしても、もうなーんにも覚えていない。僕はたぶん昔から、周りのあらゆることに関心がなかったんだろうと思う。今でも、ほとんどのことに関心がない。子供の頃は勉強ばっかりしていたけど、それにも理由があったし、ある意味で色んなことから逃げるために勉強をしていたようなものだ。子供の頃は正直、今より全然辛かったと思う。よくもまあどうにか乗りきれたものだと、そういう感覚だけは残っている。具体的なことは何ひとつ覚えてないくせにね。
だから、友達と話してても、昔の話を鮮明に話す人間には驚愕する。それが5年前であっても、もう僕の記憶には残っていない。あらゆることをスルスルと忘れていく。そうやって僕は色んなことをやり過ごしてきたのだろう。昔のことを覚えていたかったか、と聞かれると、うーんと唸ってしまうけど、でもこんな楽しい思い出が山ほどあるなら、昔のことを覚えていられた方がいいよなぁ、と羨ましくなる。
本書は普通、「郷愁」と共に読むのだろうと思う。俺にもこんな時代あったよなぁ、懐かしいよなぁと、自分の子供時代のことを思い出すような読み方になるだろうと思う。でも、僕の場合はそんなことにはならない。自分が経験しなかった子供時代だからこそ、羨ましくなる。「郷愁」ではなく「羨望」が表に出る。そんな、ちょっと変わった読み方をしたと思うんだけど、小説としてはなかなか面白かったと思います。全力でくだらないことに突っ走っている日常の中に、ただアホばっかりやってるわけではない話も挿入され、なかなかバランスの良い作品なんではないかと思います。読んでみてください。

玉袋筋太郎「新宿スペースインベーダー 昭和少年凸凹伝」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)