黒夜行

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グーグル秘録(ケン・オーレッタ)

グーグルは、創業からたった15年で、世界を変えてしまった。

『伝統メディアでは、コンテンツのある場所に視聴者を連れていくことが大切だった。だが新たなメディアでは、コンテンツがある場所に視聴者を連れて行くのではなく、視聴者のいつところにコンテンツを届けることが重要だ。そして視聴者は、ウェブのありとあらゆる場所に存在するんだ』

グーグルは、地上波テレビ・広告・映画・出版・電話・新聞といった伝統メディアのあり方を一変させてしまった。それは、電話が発明されたことで電報が廃れたのと同じような必然的な結果なのだろうか?それともグーグルは、「邪悪になってはいけない」という自らの心情を打ち破る存在になってしまっているのだろうか?

『グーグルは無料サービスを通じて、「ネット上の情報やコンテンツは無料であるべきだ」という意識を広めた。それこそ伝統メディアが目下、必死で抵抗しているものだ。「”グーグル世代”とも言うべき企業は、デジタルなものはすべて無料にすべき、というシンプルな前提にもとづいて成長してきた」とアンダーソンは書いている』

グーグルは、無料のサービスを入り口として、広告収入によって莫大な利益を上げる会社に成長した。2008年の広告収入は、五大テレビ・ネットワーク(CBS・NBC・ABC・FOX・CW)の合計に拮抗するという。
しかしグーグルは創業当初、まったく収益を上げることが出来ていなかった。グーグルが、CPCという画期的な広告手法を発明し、「アドワーズ」を稼働させたのが2002年、創業から4年が経った頃だ。そのアドワーズにしても当初は、収入の柱になるとは考えていなかったという。
創業者の二人、ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンは、「収益化」にはほとんど関心がなかった。いや、そうではない。検索の質を高めさえすれば、自ずと収益化の方法が見つかるはずだ、という信念を崩さなかったのだ。

『二人ともグーグルの宣伝のためには1セントたりとも使う気はなかった』

『会社には収入はほとんどなかったが、ペイジもブリンも、グーグルが完成さえすればユーザーは集まってくると信じて疑わなかった』

『ついにひとりの記者がまっとうな質問を投げかけた。「グーグルはどうやって利益を上げるのか?」
「我々の目標は、検索という行為をできるかぎり快適にすることだ。収益の最大化ではない」とブリンは言い切った。』

『あるクレジットカード会社(実際にはビザ)が、グーグルのホームページに自社のロゴマークを載せ、リンクを張ってくれれば五百万ドル支払うと申し出たことがあるが、ペイジとブリンはまったく相手にしなかった』

創業当初の創業者二人のこのブレなさは凄い。結果的にグーグルは収益化の方法を見つけることになるが、しかしれは偶然だったと語っている。CPCという広告手法を開発出来なければ、今日のようなグーグルの姿はありえなかっただろう。

本書の著者は、本書の執筆のために同社に協力を求めたが、受け入れられるまで非常に苦労したらしい。

『同社は協力を渋った。共同創業者をはじめ、同社幹部は本の電子化には熱心だが、本を読むことには大して興味がないのだ。執筆に協力するのは”時間の無駄”ではないかと懸念していた。そこで私は、本書の氏名はグーグルのしていることや、メディア業界をどのように変えようとしているかを理解し、説明することであり、グーグルは私のプロジェクトを検索と同じ発想で考えるべきだと訴えた。優れた本が完成すれば、検索結果の上位に表示され、多くの人の目に触れるようになる―。何ヶ月もドアを蹴飛ばしつづけた結果、彼らはようやく私を受け入れてくれた』

そして、グーグル社員からは頻繁に、同じようなこんな質問を受けることになったという。

『グーグルの社員からは、自分たちにとって好ましい本になるのか、とよく聞かれた。それに対する私の答えはいつも同じで、私がきちんとした仕事をすれば、彼らにとって好ましくない事柄も含まれるだろうというものだった』

その言葉通り、本書は、グーグルを様々な視点から描いている。良い点も悪い点も、グーグルにおもねることなくあけすけに書いている印象がある。
それは、、共同創業者二人に対しても同じだ。

『創業者二人に共通するのは「常識を覆すような発想をうながす能力」だ。彼らには、”並外れた洞察力”に加えて、周囲の人々の発想を刺激する才能があることに気付いたという』

『ペイジとブリンは、どこでこうしたブレのない姿勢を身につけたのだろう?
「経験がないのには、プラスとマイナスがある。僕らは予備知識がなかったから、これまでとは違うやり方を試すことに抵抗がなかったんだ。それが明確な目的意識のおかげかはわからないな。後から考えてそうだと思うのは、単にうまく言っているだけかもしれないしね」とペイジは言う』

こんな風に非常に高い評価を与えている描写もある。しかし一方で、これは本書で繰り返し描かれることになるのだけど、共同創業者二人が「人の気持ちを理解する能力に欠ける」という点もさらしていく。そしてその共同創業者二人の特性が、グーグルという企業の特殊さにも直結しているのだと。

『一人の人間の勝ちを、客観的な指標のみで測れるなどという考えはばかげている。これは若い起業家の例にもれず、社会人としてペイジとブリンの視野がいかに狭いかを物語る事例といえるだろう。彼らの成功の一員は、目標から頑なに目をそらさなかったことだ。だが創業前にペイジが経営の本を何冊か読んでいたとはいえ、二人の知識やモノの味方はきわめて偏っていた』

『またしてもブリンとペイジは、自分たちの意図を疑われる可能性を想定したり、数字では説明できない消費者の不安に耳を傾けたりする能力のなさを見事に露呈したのである』

『三人の優秀さや成功ぶりは人々に感動を与えるが、彼らの言葉やイメージはこころを揺さぶるものではない。彼らはスティーブ・ジョブズではないのだ。才能あるセールスマンでも、啓蒙的なリーダーでもない。』

本書を読んでいて僕が感じるのは、共同創業者二人の理想主義的な発想と無邪気さだ。それは、彼らが語る様々な言葉の端々から伺う事ができる。

『ペイジとブリンには、別の共通点もあった。二人は友に、やや救世主めいた理想主義に燃えていた。グーグルを創業した背景には、広告は人々をだまして無駄金を使わせているという憤りや、インターネットこそ人々を開放する、民主的な精神を育むはずだという強い思いがあった』

『ペイジとブリンを「ユートピアン(理想主義者)」と評する。「彼らは質の高い情報さえ手に入れば、誰もがより良い生活を送れると信じている。『技術さえできれば、おのずとうまくいく』と考える二人は、”技術的楽観主義”と言えるだろう」』

『グーグルのスローガンは、「邪悪になってはいけない」』

『グーグルは社是として「世界中の情報を整理し、あらゆる人が入手・利用できるようにする」という目標を掲げる。サーゲイ・ブリンとラリー・ペイジがみずからその目標を率先して布教するのを使命と考えていることは明らかだった』

『どうすれば邪悪なことをせずに成長できるか』

『シュミットと創業者たちの理想とは何か?それは検索をするユーザーの真意をたちどころに理解できるほどの情報を手に入れ、問いに大して唯一最高の答えのみを提示できるようになり、ユーザーにこれ以上ないというほどの満足感を与えることだ』

本書は「グーグル」という会社やその会社を取り巻く状況をつぶさに追い、「グーグル」という特異な会社がいかにして世界を激変させてしまったのかが描かれる作品だが、やはり僕の最大の関心は、創業者二人にある。グーグルがどんなことを成し得たのか、どんな経緯から生まれた会社なのかという点も面白いのだけど、僕はやはりサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジの二人に強く惹かれる。それは、僕がアップル製品をまったく使っていないのに、スティーブ・ジョブズには惹かれるようなものだ。アップルやグーグルに関する本は、これまでにもいくつか読んできたのだけど、やはり創業者の破天荒な生き方や性格が非常に興味深い。グーグルにしても、ペイジとブリンの二人がトップにいるからこそ、ここまでの存在感を持ち得た。それは本書を読めば非常によく理解できる。スティーブ・ジョブズもそうだったが、ペイジとブリンも、人間としては非常に多くの欠陥を持つだろう。また、ジョブズは経営の才能もあったのだろうけど、ペイジとブリンには経営の才能があったわけではない。ペイジとブリンだけでは、グーグルという会社は存続し得なかっただろう。
グーグルという会社が軌道に乗るには、エリック・シュミットとビル・キャンベルという二人の存在が非常に大きかったという。この二人の存在がなければ、今日のグーグルはありえない。ペイジとブリンは基本的に、エンジニアだ。「エンジニアがキングだ」という社風の会社の中で、エンジニアにどうやって力を発揮してもらうかという方面では抜群の能力を発揮するが、会社全体の経営という観点ではおぼつかない。創業当初、事業計画書を作ってくれと言われた創業者は「何それ?」と返したという話もある。本書を読むと、グーグルがいかに「偶然」ここまで乗り切ってきたのかが分かる。ペイジとブリンは確かに凄いが、二人だけの天才だけではグーグルは存在し得なかった。
本書は、グーグルの創業から、アメリカで単行本が発売された年(本書の中に書かれていないけど、恐らく2009年頃なのではないかと思う。日本での単行本の発売は2010年)までの状況を、グーグル社員への150回以上のインタビューを通じて、またグーグルを取り巻く様々な状況への取材を積み重ねて生み出された作品だ。著者は、「ケン・オーレッタほど、今起こりつつあるメディア革命を完全にカバーしている記者はいない」と言われるほどのベテラン・ジャーナリストだという。本書では、グーグルの話だけではなく、グーグルの登場によってそのビジネスモデルがズタズタにされてしまっている伝統メディアへの取材もかなり厚く行われており、グーグルという一企業の物語というのではなく、グーグルという企業を中心軸に据えた、世界のメディア産業の激変を描いた作品と捉えるのが正しいだろう。本書を読むと、グーグルがどんな理想を持って創業され、グーグルが世の中や伝統メディアにどんな風に受け入れられ、またグーグルが何を目指しているのかが非常によくわかるのではないかと思う。巻末の注釈も含めて650ページというなかなかの分量の作品だけど、グーグルという、既にこの企業との関わりを持たない人の方が少ないのではないかと思えるほど僕らの生活に浸透している巨大な存在が、どんな理念を持ち、どんな行動をし、また僕らは何故無料でサービスを利用出来るのかなどを知っておくことは、非常に大事なことなのではないかと思う。「邪悪になってはいけない」というスローガンが遵守されている内は、グーグルは僕らにとって素晴らしい恩恵をもたらしてくれる企業だ。しかし、もし万が一彼らが「邪悪になってはいけない」というスローガンを忘れてしまえば、これほど危険な企業も他にない。もはやグーグルが存在しない世界は想像出来ないほど日常に密着してしまった今、改めて僕らは、グーグルという企業について知っておくべきなのかもしれない。そのためには、本書は非常にうってつけの作品ではないかと思います。是非読んでみて下さい。

ケン・オーレッタ「グーグル秘録」


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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
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5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
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17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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