黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

プロメテウスの罠5 福島原発事故、渾身の調査報道(朝日新聞特別報道部)

巻末の「終わりに」で記者の一人は、「取材中、お礼を言われるようになった」と書く。

『ふくしまで取材をしていると、たびたび「読んでいますよ」と声をかけられるようになった。「書いてくれてありがとう」といわれることもあった。正直、驚いた。「プロメテウスの罠」はできるだけ淡々と事実を連ねようと心がけている。考えてみると新聞が事実を書くのは当たり前であって、お礼をいわれる道理はない。しかし実際は、お礼を言ってくれる人がいる。
ひょっとすると被災者たちが報じてほしい事実が報じられていない、だからこそ「プロメテウスの罠」に期待しているのかも、そんなことを思い始めたころ、避難を続けている何人かの被災者からこう頼まれた。「やめちゃだめですよ」「ずっと続けてください」
また驚いた。もう連載を閉じようと考えていたときだっただけに、胸の撃ちを知られたような思いもあった。しかしそれ以上に、被災者から直接頼まれたという意味を考えさせられた。
「やめないでほしい」の前に、避難者たちは決まってこんな言葉を口にしていた。
「新聞やテレビから福島の話がどんどんなくなっていく」「忘れられるのが一番怖い」
(中略)
なにも進まないなかで、忘れ去られてしまったら。いや、すでに西日本では福島は過去の話になりつつある。東京も同じかもしれない。福島が過去形になったからこそ、原発の輸出や再稼働がマスコミを賑わせている。ある避難者は「賠償もなにも進んでいないのに、壊れた原発はまだ放射能を出し続けているのに、なにが原発輸出だ」と憤っていた』

僕も、もう日常の中で「福島」についてかんがえる機会は、あまりなくなってしまった。「平和」で「安全」に見える日常生活を送れてしまっている僕たちにとって、未だなお続く避難者たちの様々な苦しみや、原発による汚染の実態の真実などは、なかなか遠い話題になってしまいがちである。
だから僕は、せめて読む本ぐらいは、意識的に福島に関わるものを読もうと思っている。何もかも読めるわけではないけれど、読む本を選ぶ視点の一つに常に「原発」や「福島」というものを入れておいて、せめて文字からだけでも何かを取り入れておこうと思っている。この「プロメテウスの罠」シリーズも、新刊が出る度に買うことに決めている。朝日新聞本誌で読んでいるという人もたくさんいるのだろうけど、そうではない人ももちろんたくさんいるはずだ。書籍版も、もっともっと売れて欲しいものだと思う。
今回は、2013年2月13日~2013年6月13日までに掲載された、第25~30シリーズを加筆修正の上で書籍化した作品です。扱われている内容は、

「海鷹丸が来た」 調査船も流されてしまい、福島県沖の放射能汚染の実態をまったく調べることが出来なかった時、東京海洋大学が支援の手を差し伸べてくれ、漁師と協力しながら魚介類を調査し、世界で初めてと言っていい海洋汚染の実態を記録し続けた者の話。

「生徒はどこだ」 安否確認サイトを作った生徒の話や、自身も避難者でありながら生徒の行方を心配していた教師の話、そしていざ学校教育を再開させるとなった時の混乱まで、学校をベースに、教育が再稼働するまでの実態を追う。

「いのちの記録」 震災時、ペットはどのように扱われたのか。ペット不可のため避難所の外で生活を続けた者。ペットを引き取りに戻りたいけど許可をもらえない者。避難区域内に残ったペットを「捕獲」する者。人命よりも後回しにされてしまうペットの現実を追う。

「原発維持せよ」 事故直後から、「日本は原発維持を貫く」という方針を固めた男へのインタビュー。現在に至るエネルギー政策の裏側でどのようなやり取りがあったのか。現在進められている「原発輸出」の実態などに切り込んでいく。

「家が買えない」 東電による補償の酷さを暴く。そもそも様々な基準が乱立し、しかもそれらに法的拘束力がないために、東電は一方的にそれらを拒絶出来る。交渉がまったく進まず、すぐにでもお金がもらえないと日常が立ち行かない者を苦しめていく。補償の実態を追う。

「テロ大丈夫か」 事故より遥か以前、アメリカから原発のテロ対策への示唆があった。しかし日本側は、それを十分に活用出来ない。その時の知見がきちんと活かされていれば、原発事故時の対応も、もっと違ったのではないかという議論もある。日本の「原発の安全管理」の実態を追う。

今回の話でやはり一番深刻なのは、補償問題だろう。

『家を買ったということは、浪江に戻る意思がないということなので慰謝料は打ち切ります。それが会社の方針です』

『東電が、避難中に結婚した女性に、「結婚で生活基盤が整った」として慰謝料を打ち切ったのだという』

メチャクチャだと思う。状況がどう変化しようと、すべての根底にあるのは「東電が引き起こした事故」にある。そこを無視して、状況が変わったなら大丈夫ですよね、補償はストップしますよ、というのはハチャメチャな論理にしか思えない。

『住民の間では、家を買ったら慰謝料が打ち切られるという話が広まっていた。そのため住民は、家を買っても東電に賠償を求めないようになった。泣き寝入りだった』

この章を読んでいると、東電側の対応の酷さに呆れることが多い。もちろん、東電の中にもちゃんとしている人はいるのかもしれない。とはいえ、本書に書かれていることだけ読むと、とても真っ当とは思えない。自分たちが「加害者」であるという意識が、全くないのではないかと思えてしまう。
補償問題の一番の困難は、「戻る」というtねんだ。

『ポイントは「戻る」だ
東電はもとより国も県も市町村も「戻る」と言い続けている。戻れるめどが見えなくても、家が荒れ果てても、「戻る」が前提である限り、低い補償しか出ない。必然的に新しい居宅での生活に踏み込むことはできず、避難者は「戻る」ときを待つしかない。
「もう戻れないといってくれ」。最近、避難者からはそんな悲鳴も出始めている』

ペットの話も、とても難しい。僕自身はペットは飼っていないけど、ペットを飼っている人には相当に深刻な問題だろう。ペットを連れて逃げても避難所には入れない。ペットを置いていった人の心苦しさを解消してあげられない。国は表立って動かず、しかし一方でボランティアの介入も制限する。足並みがまったく揃わない中で、双方ともに禍根を残すような事態が展開されていく。

『無邪気な愛犬が生きる希望となった。連れ出せなかったら家族の心はバラバラになっていたはずだ。飼い主に伝えたい。ワクチン接種や不妊去勢手術が災害時の備えとなること。そして何より「連れて非難して」。人なしでは生きていけない存在なのだから。
福島第一原発20キロ県内にはもともと2万匹超の犬猫がいたとされるが、助からなかった命の方がずっと多いとみられる。シェルターで200匹の犬猫と向き合いながら、渡辺は救えなかった命を心に刻み続けている』

僕らの日常が「平和」に続いていくのと同じように、福島での生活は「労苦」と共に続いていく。僕たちは、その一端を垣間見ることが出来るぐらいだ。何もかも分かるわけではない。避難者同士であっても、状況は千差万別だろう。分かろうとして、分かるものではない。僕は、震災や原発関連の本の感想では大抵いつも書いていると思うけど、とにかく、自分自身に何が出来なくても、とりあえず「知る」ことだけでも何か意味があるのではないかと思っている。現状を変えるための行動が取れなくても、「知る」ことだけでも何か意味があるのではないかと。そう思って僕は、きっとこれからも、震災や原発の本を読んでいくことでしょう。

朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 福島原発事故、渾身の調査報道」


関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/2558-7f094c27

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
17位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
11位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)