黒夜行

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歌舞伎町のこころちゃん(権徹)

「それっぽいこと」を言うのは、あんまり好きじゃない。
なんというか、「言葉だけで伝わること」なんて、まあほとんどないだろう。「悲しい」とか「可哀そう」とか「嬉しい」とか「楽しい」とかは、なんというか、言葉だけでは伝わらないと思う。
この本を読んで、「可哀そう」とか「酷い」とか「おかしい」と言うのは、とても簡単だ。そして、そう言えば、誰も反論出来ない。確かに、「この本の中に映しだされている現実」は、「可哀そう」だし「酷い」し「おかしい」と僕も思う。
ただ、なんというか、本書で切り取られてる「こころちゃんの笑顔」が、どうしても「可哀そう」とか「酷い」とか「おかしい」という言葉とそぐわない。そんな風に思う。
「あとがき」で撮影者は、こんな風に書いている。

『プロであるはずの私は、この少女が、より可哀想な境遇にあることを伝える写真を何枚も撮り逃している。それも、意識的に。』

当然、この写真集に写されていない場面も存在する。当たり前だ。そしてそれはつまり、これも当然だけど、この写真集は「撮影者が切り取った現実」なのだ。そしてそこには、「こころちゃんの笑顔」がふんだんに収められている。
なんか、その事実を、もう少しきちんと受け止めたい気がする。「現実に存在するこころちゃん」についての議論を、僕たち読者が出来るとは、あまり僕には思えない。それは「歌舞伎町」という現場に足を運び、こころちゃんの生活全体を目にした人にこそ資格があるのではないかと僕は思う。だから、この写真集だけを見て、「可哀そう」とか「酷い」とか「おかしい」とかいうことに、若干の違和感があるのかもしれない。
僕たちが見ることが出来るのは、「撮影者が切り取ったこころちゃん」だけだ。そしてそれは、テレビ画面の向こうのアイドルのように、ファンタジーに近いものがある。撮影者自身が、「意識的に可哀想な場面を撮り逃した」と言っているのだから、なおさらだ。

いい笑顔だなぁ。

僕は、単純にそう思った。もちろんそれは、こころちゃんの背景ありきの感想だ。「こんなに大変な境遇にいるのに、こんな眩しい笑顔を作れるなんて」という感想だ。それは、哀れみを含んだ感想だ。こころちゃんがこういう背景を持っていると知らなければ、「いい笑顔だなぁ」なんて思わないかもしれない。なんかそういう感想を抱く自分を、嫌だなぁと思うけど、「可哀そう」とか「酷い」とか「おかしい」とか思うよりは、まだマシかなと思ってはいる。

本書は、歌舞伎町の路上で暮らす「こころちゃん」という4歳の女の子を撮影した写真集だ。撮影者は、歌舞伎町のストリートスナップ撮影をライフワークとしているようで、その撮影中、この親子に出会ったという。
こころちゃんは、父親と二人で生活をしている。母親は、いなくなってしまったみたいだ。
ボロボロの服。垢だらけの身体、虫歯だらけの口。

『お父さんに向かって言ったわたしの声は少し大きく、口調もきついものだったと思う。
「あなた、父親なら、なんであの子にちゃんとものを食べさせてあげないんです?お風呂に入れてきれいにしてあげようと思わないんですか?」』

著者は、撮影者としての一線を踏み越えて、この親子と関わることになる。

『「ごはんは食べたの?」
「ううん。食べてない」
「いつから?」
「うーん、わかんない」

こころちゃんがひとりのとき、そんな話をしたのは一度や二度ではない。わたしはそのたびに、こころちゃんとハンバーガーや牛丼を食べに行った』

この親子に、何かを言うことは簡単だ。なにせ、言う側は、「何も間違っていない」からだ。「絶対的な正しさ」を振りかざすことが出来る。「あなたたちの生き方はおかしいですよ」と、親切めいて言うことが出来る。出来る権利があると思っている。
でも僕にはどうしても、「こころちゃんの笑顔」が引っかかる。たとえそれが、「撮影者が意識的に選別した光景」であるのだとしても、笑顔を浮かべているこころちゃんの内心は結局誰にも分からないのだとしても、なんというかそこに、「希望」のようなものを見出したい気もする。
正直、凄いと思った。日常、辛いこともたくさんあるだろう。そんなホームレス生活でも、あれだけの笑顔を浮かべることが出来るのだ、と。アフリカやバングラディシュではない。日本だ。アフリカやバングラディシュでは、周囲も同じ環境の子供たちばかりだから、笑顔を浮かべることが出来るとしても、そこまで不思議ではない。でも、4歳ではそこまで理解できないかもしれないけど、自分の境遇が明らかに周りと違うと気づく瞬間も、あるのではないか。
そういう中で浮かべることが出来る笑顔。なんというか、それは、いいなぁ、と思う。もちろん、もっと恵まれた環境の中にいれば、もっともっと良い笑顔を浮かべることが出来るのかもしれない。それはわからない。でも、「今」「ここ」で浮かべることが出来る笑顔の素敵さを、僕は評価したい気がする。
撮影者が撮影に関わっている間に、こころちゃんは児童養護施設に引き取られたようだ。僕は思う。こころちゃんは、大好きだった父親のいない児童養護施設で、歌舞伎町で暮らしていた時以上の笑顔を浮かべることが出来ているだろうか?と。まあ、余計なお世話だ。
まあ、見る人によって様々な価値観を引き出す作品だろう。どれも正解だろうし、どれも正解ではないのだろう。結局のところ、他人から見た真実は山ほど成立するし、実際はこころちゃんの中にしか正解は存在し得ない。そろそろ外野は黙るとします。

権徹「歌舞伎町のこころちゃん」


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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
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14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
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18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)