黒夜行

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さいとう市立さいとう高校野球部(あさのあつこ)

内容に入ろうと思います。
ロシア人の血を引くイケメン高校生の山田勇作。中学時代からピッチャーとして活躍していたのだが、諸事情あって今は帰宅部。中学時代バッテリーを組んでいた幼なじみの山本一良との関係も、若干ギクシャクしている気がする。
そんなある日、一人の優男が勇作の元へやってくる。優男と思ったのは、美術の教師だった。とても教師とは思えないふんわりした雰囲気を持つ鈴木先生は、どうやら勇作を野球部に誘っているようだ。何故美術教師が野球部に勧誘するのだ…。とここで勇作は気づく。鈴木先生は、野球部の監督だったのだ!確かに野球部のユニフォームを着ているのだが、これほどユニフォームが似合わない人も珍しい。
ともかくも、仮入部という形で野球部に入部した勇作。しかし、鈴木監督が用意する「練習メニュー」は、どれもへんてこなものばかりで…。
というような話です。
さて、この小説を、どう評価すべきか。難しいなぁ。
個人的には、ちょっとどうなの…と思います。あさのあつこの作品は、「バッテリー」しか読んだことがないんで、そのイメージで本書を捉えると、ちょっと「ムムム…」って感じがします。ただ「THE MANZAI」みたいな作品も書いてるから、そのイメージがある人が読めばまた違うのかもしれないなぁとは思う。
正直、本書は、野球はほぼ関係ないと言っていいだろう。いや、確かに野球部の話ではあるんだけど、本書を「野球小説」だと思って手に取ると、落胆するのではないかと思う。試合の場面も練習の場面も、まあ確かに描かれるわけなんだけど、「野球小説」と読んでいいかというとそういう感じじゃない。試合はほとんどダイジェストみたいな感じだし、練習も、確かに変わった感じで面白いんだけど、でもそれが「強さ」にどう結びつくのかは、正直、本書を読むだけではイマイチよくわからないと思う。まあ、まったく説明がないわけではないけどさ。
じゃあ、本書では一体何が描かれているのかというと、「温泉」の話です。
はい、「温泉」です。
主人公の山田勇作も含め、山田家は皆「温泉狂」です。とにかく、日本中の様々な温泉に浸かることを家族の至上命題としているし、温泉に関する知識は半端ない。だから本書でも、とにかく温泉の話がバンバン出てくる。っていうか、野球の話より温泉の話の方が多いんじゃないか?っていうぐらい温泉の話が出てくる。だから、温泉に興味がある人なら、なかなか面白いかもしれない。
本書は、山田勇作の独り語りみたいな感じで物語が進んでいくんだけど、その独り語りが脱線に次ぐ脱線という感じ。ちょっと意味は違うけど、脱線に次ぐ脱線と言えば、歌野晶午の「世界の終わり、あるいは始まり」を連想させるけど、「世界の終わり、あるいは始まり」の場合は、「脱線すること」に物語上の必然性があったのに対して、本書の場合「脱線すること」にはほとんど意味がない。ただの「脱線」である。その脱線の描写は、まあ確かにそこそこ面白い。こういう部分を「面白い!」と感じる人はいることでしょう。別にそれを否定するつもりはないんだけど、そういう脱線が本書を。より「野球小説」から遠ざけているなぁ、という気がする。
たぶん、なんとなくこの作品に嫌悪感を抱くのは、「野球」というスポーツの真面目さから来てるんだろうなという気がする。本書で扱われているのがサッカーだったら、またちょっと違う感じ方をしたかもしれないなぁ。
僕は別段野球には興味はないし、甲子園とかどうでもいいんだけど、ただやはり世間のイメージに影響されている部分はあって、「高校野球は正々堂々とした超真面目なスポーツ」みたいな刷り込みがきっとあるんだろう。甲子園とかどうでもいいとか思ってる僕でさえそんな風に感じているんだから、世間の人はもっとそういう目で見ていることだろう。
そういう人からすると、なんとなくこの小説は、「野球」を馬鹿にしているように見えるかもしれないなぁ、と思うわけです。
とはいえ、そう感じさせることこそが、著者の目的なのかもしれない、と思いもする。
夏の甲子園なんかには時々、「なんで炎天下の中あんな過酷なスポーツをやらせにゃならんのだ」というような意見が出てきたりもする。ただ、大半の人は、そういう疑問を抱かない。それは、「野球というのは『そういうものだ』という刷り込み」が多くの国民の頭の中にあるからだろうと思う。
著者は、それを崩したいのかもしれない。本書の主人公は、「甲子園に行くことが、野球をする目的になるのは嫌だ」と繰り返し語る。その気持ちは分かる。だけど現実的に、日本の高校で野球をするとなれば、必然的に皆「甲子園を目指すもの」ということになる。これは、なかなか凄いですよね。僕はスポーツ全般には詳しくないから適当に言うんだけど、こういうスポーツってなかなか珍しいような気がします。もちろんどんなスポーツでも、「どんな選手でも憧れる場」みたいなのはあると思うし、そこに向けて練習を重ねていくんだろうけど、でも高校野球の特殊さは、「甲子園」という存在が外圧になっている、ということだ。他のスポーツでは、「私は◯◯(そのみんなが憧れる場)を目指しません」と言っても、たぶん世間が疑問をつきつけてくることはないでしょう(指導者とかはわからないけど)。ただ、高校野球の場合、「俺は甲子園を目指しません」と言えば、なんというか、「世間」から反発を喰らうような気がします。
そういう状況は僕もおかしいな、と思います。で、著者もそういう問題意識を持っていてこの小説を書いているんだとすれば、まあ気持ちは分かる、という感じ。とはいえ、小説としてはどうなんだろうなぁ、という感覚は拭えませんけどね。
まあ、なかなか評価の難しい作品ではあります。まあ読んでみたら、サクサク読めるし、脱線に次ぐ脱線は面白いと言えば面白いので、まあ読めると言えば読めるんですけど、うーん、どうかなぁ。

あさのあつこ「さいとう市立さいとう高校野球部」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)