黒夜行

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実践!田舎力 小さくても経済が回る5つの方法(金丸弘美)

内容に入ろうと思います。
本書は、日本中の農漁村を周り、アドバイザーとして様々な地域活性化に取り組んできた先駆者である著者が、行政も含めて地域が一体となり、中央の経済力に頼らずとも小さな範囲内で経済を回していったり、あるいは、地域の良さを外に発信して「外貨」を稼いだりする事例をいくつも紹介した作品です。
本書には、タイトルに「田舎力」という言葉が入っていますが、本書の中で「田舎力」は、こんな風に説明されています。

『地域を引っ張る「田舎力のある人」の共通点。それは知恵と工夫でものづくりを実践している人。地域にあるもののよさを、食べものから建築、景観、自然まで、うまく引き出した人。自らの思いを語れる人。愛情を持って取り組んでいる人。全体の調和とデザインを考え、地域にある人や智恵に誇りを持っている人。人材教育と人材発掘に力を入れた人たちだ』

『地域の資源とは、自然、食、景観、人、職人技、チームワーク、町会活動などなど、もともとそこにあったものだ。それを旧来の形にとらわれず、いまの時代に合うようにうまくアレンジしている。みなそれぞれの形で、地に足をつけ、先駆的なリーダーたちが発揮した「田舎力」を、自分たちの地域に取り入れて実践している。』

『元気なところは、地域にある資源を見出す「発見力」、「ものづくり力」、全体にトータルなものの考え方ができる「デザイン力」、食の背景を学んで発信する「食文化力」、持続可能性に配慮する「環境力」があることを解説。この5つの力は、筆者が「田舎力」と呼んでいるものだ』

色んな本を読んでいて思うことは、今はまさに、「地域」にとっては過渡期であるということだ。全国には、様々な面白い試みをしている地域や自治体が様々に存在する。本書で取り上げられていない地域でも、他の本を読んだりして僕は、もっと多くの地域でそういう取り組みがなされていることを知っている。それまでは、「モノを作って都市部にそのまま流通させる」とか、あるいは「大手企業なんかを誘致する」というようなやり方でどうにかなってきたのかもしれない。しかしもう、どの地域も、そのやり方ではやっていけないということに気づきつつある。しかし、それまで長きに渡って続けてきたやり方を手放し、新たな方策を模索するだけのリーダーシップやアイデア力を持っている人はそうはいない。
その中で、「田舎力」を持つ人たちがちらほらと地域に現れ始め、先駆的な取り組みを進めている。まだそれらは、「凄い人がやっていること」というものに留まっている。どの地域でも、自分のところでもそういうことが出来るならやりたいと思っているだろう。でも、「ああいう凄い人は、ウチにはいないからなぁ…」と怖気づいてしまうことも多いようだ。
本書は、その辺りのことも汲んで、取り上げる事例を選定している。

『北海道から沖縄まですべての都道府県、あらたに数百の地方自治体を訪れるなかで気付いたことがある。「田舎力」という言葉が独り歩きを始める一方で。「田舎力のある人」は特別な人だから自分には無理、と諦めてしまう人がいるということだ。しかし、それは違う。
(中略)
だから「田舎力」の続編である本書を書くにあたっては、突出した地域リーダーの奮闘ぶりに焦点を当てるよりは、状況の変化を理解したうえで連携して成果を上げている人たち、役場からまちに出て動いている人たち、田舎力を身につけようとして学び始めた人たち、そういう人を育てようと頑張っている人たちの取り組み、その実践のありかたを紹介したほうがいいと思った』

僕は前作を読んでいるわけではないので、前作との比較は出来ないのだけど、本書はタイトルにある通り「実践」という面が強く押し出されている印象で、そういう意味で身近なテキストとして利用できるだろうという印象が強い。本書は本当に、各地域の地方自治体やそこで何か取り組みを始めようとしている人が読むと、非常に参考になるだろう。様々な事例の紹介に刺激される、という側面もあるが、本書では第三章で、著者が実際に行っているワークショップの具体的な説明がなされる。「地域の特産物を使って新しいメニューを開発する」というケースに対して、相当に詳細なステップを説明してくれる。地域の食材をうまく使って発信したいと考えている地方自治体やグループなどは、本書を参考にしてそのままワークショップを開くことが出来るだろう。
また、後でも書くと思うけど、本書では県や市の人間が具体的にどう動いているのか、という話も書かれている。特に印象的だったのは、高知県と、長野県飯田市の取り組みである。この二つは、「官」が様々な形で積極的にアプローチをすることで、やる気のある人間をサポートしたり、独自の取り組みを加速させたりしている。これもまた、役所や町場の人が読めば大いに刺激され、また具体的にどんなことが出来るのかというイメージも持つことが出来るだろう。そういう意味で本書は、「実践書」として、地域の人達が読むべき一冊だと思う。
本書を読んで、僕が実感したキーワードは、「コンパクト」と「コンセプト」と「コントロール」である。なんとなく「コン」で統一してみたけど、そこまで無理矢理というほどではない。
「コンパクト」というのは、規模の話である。「出来るだけ大きな規模にしないと経済は回って行かないのではないか」という考えは、本書を読んで薄れるだろう。本書では、様々な地方自治体が「コンパクトな街づくり」を目指していることが紹介される。工夫を凝らせば、コンパクトな規模であっても、経済を回すことは出来るのだ。
その取り組みとして、本書で紹介されている最も衝撃的な事例は、香川県の丸亀町商店街だろう。ここは凄い。なにせ、民間主導でまちづくりが進められている、全国でも画期的な地域なのだ。『そもそも、うちのテナントミックスの選定基準は、商業者の目線ではなく、居住者の目線に置いています。「住んでみたい」といわれるまちを目指しています』と語るように、数十年単位の壮大なプロジェクトを進め、商店街を中心としたコンパクトな地域に、病院から学校まであらゆるものを配置。車がなくても日常生活が送れるようにまちづくりを推し進めているのだ。これを民間主導でやっているというのだから凄いとしかいいようがない。
この丸亀町の話では、商店街の前理事長が凄かった。

『実は、このプロジェクトが本格的に始まる前に、前の理事長の鹿庭幸男さんが、あちこち視察に行って来いといわれた。まだ1980年代の終わりごとで、バブルで景気がよかった。鹿庭さんがいうには「今のうちに手を打たないと、百年後どうなるかわからんぞ」と。当時は、なんで?と思いましたよ。長く繁栄してきた商店街が衰退するなんて、だれもが思っていなかった。
それで、成功していてどちらかというと楽しいところに行こうと視察先を選定したら、怒鳴られた。「違う。失敗して寂れた商店街をみてこい」というんです。当時はなんのことかわかりませんでしたね』

こういう凄い人がいたからこそ、数十年単位という壮大なプロジェクトも実現に移せたのだろう。この丸亀町の事例は、本書の中では特別で、「凄い人がいたからこそ出来た事例」と言えるだろう。そういう意味では参考にはならないのだけど、読むと、なるほどこんなことも出来るのかと思わされる。
「コンセプト」の大事さも、本書ではくり返し描かれている。それが食であれ景観であれなんであれ、地域から発信するのであれば、「他の地域にはないその地域独自のもの」でなくてはならない。しかし、そういうプロジェクトに携わったことなどない人達には、まずそういうところを理解してもらうところで苦労するという。
本書では、六次産業(一次+二次+三次産業=六次産業)のポイントがいくつか箇条書きで書かれているが、その中から「コンセプト」に関わりそうなものを抜き出してみよう。

◯ 地域のオリジナル賞品に主眼を起き、すぐれた品質のものを厳選して、集約すること。地域と関係ない仕入品は置かないこと
◯ 料理や暮らしのことがよくわかっている店長を置くこと
◯ スタッフや生産者の教育に力を入れていること
◯ 自分たちのものをつくって売るという姿勢が明確であること
◯ しっかりリサーチして、どこのだれに何を売るのかをイメージしてつくること

これらがきちんと背景になければ、いくら「モノ」を作っても売れない。「ちょっと余ってるからジャムでも作るか」みたいなノリで事業化をし、失敗してきた地域を著者はたくさん見てきたという。
「コンセプト」を全面に押し出して成功しているのは、兵庫県の出石町と城崎町だ。ここは、古くからの建物や景観を保持し、また浴衣で街歩きが出来る雰囲気やシステム作りなどを推し進め、城下町の雰囲気が堪能できると、外国からも多くの観光客が集まる地域だ。お金を持たずに浴衣で街歩きが出来るように、決済のシステムを新たに開発するなど、技術的な側面からもバックアップがなされ、町全体として主体的に取り組んでいるのが良い。
「コントロール」は、「官」がどう関わるかという話。これは特に、高知県の事例が凄まじい。
本書では、第二章が丸々高知県の事例なのだけど、著者いわく、高知県は、全国のどこよりも、人材育成に力を入れているという。これは、ゆずで村おこしをした馬路村の成功例が波及したからなのか、あるいは元々そういう土地柄なのか、著者も分からないとしているが、ハードではなくソフトにより力を入れている点を著者は高く評価している。

『これからのまちづくりに最も必要なことはソフト開発に予算と人材を投入することだ。人口減、高齢化、生産人口減、経済の低迷は、もうはっきりしている。農業・漁業の活性化を期すなら、生産部門だけへの補助金拡大は意味がない』

高知県では「官」が主体的に学び、場を生み出し、教育の機会を設け、そうすることで農家や主婦を後押ししている。それでいて、「官主導」というような形にするのではなく、あくまでも個々人のやる気や能力を引き出すような形で「官」が関わっていくことになる。この「官」による絶妙なコントロールは凄いなと思いました。高知県、やるな。
また「官」の取り組みという点では、長野県の飯田市も素晴らしい。ここは、『地域ならではの人づくり、新たなコトづくりからの経済創出で傑出している』と著者も絶賛するように、全国に先駆けて先駆的な取り組みを様々に生み出し、地域の活性化に先鞭をつけている。
飯田市では、市民運動を「官」が引っ張りあげ、より大きな規模にしていく、という取り組みをずっと続けているのだそうだ。アイデアそのものを「官」が出しているわけではない(そういうこともあるだろうけど)。先駆的な取り組みをしている市民の活動を、「官」が全力で後押しし、広げるサポートをしている。その連携が非常に上手く行っている事例だと言えるだろう。
様々な事例を知るという点でも、あるいは実際に実践するための手引書としても、本書は非常に役立つ一冊となるだろう。地域のあり方は、これからさらに変化し、取り組みが出来ているところと出来ていないところの格差はますます広がっていくことだろう。「田舎力」のある人になることは難しいかもしれない。ただ、本書を読むことで、「みんな」でその一歩を踏み出すことは出来るようになるかもしれない。著者は、初めは小さな一歩でいい、という。そうやって試行錯誤を繰り返して、その地域に合った形にしていけばいい、と。自分には出来ないと思っている人は、きっとたくさんいることだろう。本書を読んで、その「小さな一歩」を踏み出してみてはどうだろうか?是非読んでみて下さい。

金丸弘美「実践!田舎力 小さくても経済が回る5つの方法」 


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2013年の個人的ベストです。

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4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
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7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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