黒夜行

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なぜ人はショッピングモールが大好きなのか ショッピングの科学ふたたび(パコ・アンダーヒル)

内容に入ろうと思います。
本書は、「小売の人類学者」と称され、ショッピングを科学するための会社「エンバイロセル社」の創業者であり、1年の内130日間は家を離れ世界中の店舗を訪れ、あらゆる時間をショッピング環境の中で過ごす著者が、ショッピングモールを分析した作品。世界的ベストセラーになったデビュー著書「なぜこの店で買ってしまうのか」に続く第二弾です。
本書の内容を大雑把に紹介すると、こんな風になる。

①アメリカのショッピングモールは、いかにして誕生したのか
②ショッピングモール自体はどうあるべきか(駐車場やエントランスなど)
③ショッピングモール内の店舗はどうあるべきか(ウィンドウや陳列方法など)

前作の「なぜこの店で買ってしまうのか」は、一般的な小売店全般に当てはまるようなショッピングの科学が様々に描かれていた。2006年に読んだのでもう内容はすっかり忘れてしまっているのだけど、物凄く感心させられた記憶がある。近いうちに読みなおそうと思っている。最近、売るために何が出来るだろうかと、それまで以上に色々と考えているのである。
前著と比べると、本書は、読者の対象はある程度狭まるだろう。「アメリカのショッピングモールの歴史に関心がある人」「ショッピングモールを建設しようとしている人」「ショッピングモールに出店しようとしている人」と言った人が読むと非常にためになるだろうと思う。でも、そうではない人には、あまり響かないかもしれない。もちろん、③の「ショッピングモール内の店舗はどうあるべきか」については、ショッピングモール内の店舗に限らない様々な知見が描かれる。が、もしそういう話を読みたいということであれば、「なぜこの店で買ってしまうのか」をオススメする。主にアメリカの事例ばかりだけど、小売店にとって非常に役立つ知見が盛りだくさんだ。
さて、①②③それぞれについて、ざっくりと色々書いてみます。
まず①の「アメリカのショッピングモールは、いかにして誕生したのか」について。
アメリカは歴史的に、何世紀にも渡って「都市」を発達させてきたけど、しかし都市は犯罪が横行したり何をするにも高かったりと、住みやすいとは言えない土地でもあった。そういう人たちが、車の発明によって郊外に移り住むようになる。その流れは無視できないものになっていき、やがて、郊外に住む人達の日々の生活のために、ショッピングモールが生み出されていくのだ。
アメリカのショッピングモールには、そういう歴史的な背景から、いくつか特徴がある。
まず、そこにモールがあるということが、近づいてもわからない。これは、近場に住む人間ばかりをターゲットにしているため、外にアピールする必要がないと考えられているからだ。また、車でしか行けない場所にあることが多い。アメリカ人は、自転車で行ける距離であっても車で移動するような民族だけど、一方で、駐車場などにたむろしたり、万引きをしたりするようなティーンエージャーを遠ざけるという目的もある。そのために、ショッピングモールは、都市とは違って、安全に買い物が出来る場所、という認識を獲得することが出来ている。もちろん、様々に問題はあるのだけど。
アメリカ人にとってショッピングモールというのは、「ただ買い物するための場所」ではないようだ。実際アメリカでは、「ショッピングモールの敷地内は公共空間か否か」という裁判が行われたことがあるそうだ。駐車場内でウォーキングをする人、プラカードを持って演説する人。そういう人たちの存在をどう扱うか、そういう部分にも歴史的な背景がある。
現在アメリカには1175ものショッピングモールがあるという。それだけ数多く建設されていれば、少しずつ洗練されていくはずだろう。実際、洗練はされているのだろうが、しかし著者はこう言う。

『ショッピングモールも同じだ。いまよりもずっとよくできるはずなのに―もっと活気に満ち、知的で、冒険心にあふれ、楽しく、創意に富み、芸術と美と真理を求める人びとで活況を呈する場所にできるはずなのに―そうなってはいない』

さて②の「ショッピングモール自体はどうあるべきか(駐車場やエントランスなど)」である。著者は、ショッピングモールそのものにいくつもの問題点を発見するが、そのほとんどの原因が、ショッピングモールを建設するのは小売業ではなく不動産会社だという事実にある、と指摘する。ショッピングモールの外枠を決めるのが、実際にお客さん相手に商売をし続けてきた人間ではなく、不動産会社の人間であるために、お客さんの視点で細部まで行き届かないのだ、と。
駐車場やエントランスや案内板やトイレをどう活用するべきかという話は、なるほどと思わせるものばかりだ。中でも、トイレの話は素晴らしい。本書では、ショッピングモールのトイレの管理を、モール内に店舗を構える石鹸やフレグランスを扱う店舗に一任したらどうか、と主張している。一任されれば、店舗側は、トイレという空間を宣伝の場にすべくあれこれ工夫することだろう。しかし今は、一切なんの工夫もない。なるほど確かに、トイレの管理を店舗に任せてしまうという発想はメチャクチャ面白いな、と思いました。
また、ショッピングモール内の店舗の配置や、照明の在り方、通路の設計など、ショッピングモールを建設しようと考えている人にはとても参考になるだろう話が様々に出てくる。「なぜこの店で買ってしまうのか」の中でも、「移行ゾーン」という考え方は出てきていて、それは著者曰く、自分たちがショッピングを科学し始めて以来最も重要な発見だったと言っているのだけど、この移行ゾーンという発想からショッピングモール内の店舗の位置が決められているというのは面白いと思いました。
そして③の「ショッピングモール内の店舗はどうあるべきか(ウィンドウや陳列方法など)」。ここではやはり主に、ショッピングモールに出店した店舗はどうあるべきか、という話がメインとなる。人の流れがこうだからこうあるべき、ショッピングモールに来るお客さんにどんなメッセージを伝えたいかで店舗のエントランスの有り様が変わる、そのそもショッピングモール内では人びとは歩き方さえ変わるのだから云々…。と言った感じである。なので全体的には、インショップなんかのお店の人にはためになる話が多いのではないかと思う。
けど、一般的な小売店でも注目すべき知見は出てくる。
例えば、化粧品と靴は向かい合わせで売るべきだ、という主張には、なるほどと思わされた。その二つに、特に関連があるわけではない。しかし、お客さんの購買行動を考えた時に、化粧品と靴を向かい合わせで並べることは、非常に合理的だ。他にも、陳列やウィンドウの見せ方など、面白い話はたくさん出てくる
また本書では繰り返し、男と女のショッピングへの姿勢の違いが描かれる。そもそも男と女では、買い物の仕方が異なるのだ。男はさっと見てさっと買うが、女は吟味する。
さらに加えて、ショッピングモールには女性向けの店が多い。するとどうしても、カップルや夫婦でやってきた客は、男の方が退屈することになる。この退屈している男にどうアプローチをするべきか、という話も色んなところで出てきて、確かにそうだよなぁ、と思いました。僕なんかは、女性の買い物に付き合うことがあっても、特に退屈することないんだけど、一般的に男はそうだよなぁ、と。
あと本書には、日本についての記述もあって面白い。

『日本の消費者は二つの相反する衝動のあいだで揺れ動いている。彼らは一面では非常に倹約家で、実際的である。だが一方、高級品やブランドに異常なほど熱を上げる面もある。日本人はつねにバーゲン品を探している。アメリカに比べると、住宅や乗り物からビールから野菜にいたるまで、日本の物価はことごとく高い。日本人の倹約家気質と贅沢品好きの二面性は、異様な小売店や商売を生んでいる』

『(日本の)店の表示や図のデザインは私からするとまぎれもないカオスだ。私たち西洋人がつねに称賛していた静穏な日本の美学とまったく一致していない。しかし絵のような文字体系のおかげで、日本人は図式的な情報を西洋人とは違うように見て理解する』

『外国に行った日本人観光客が買い物に夢中になるのは不思議なことではない。日本の小売店が直面している問題のほとんどは、彼らが自分にふさわしいものを提供していないと一般市民に感じさせていることにある。日本は消費者製品や電子機器の開発において現在でも革新をつづけている。しかし、日本産の小売のアイデアが外国に伝えられた例はほとんど見ない』

『日本のモールは自らを改革し、もっと二十一世紀にふさわしい存在になる必要がある。先進国のなかで日本がもっとも早く高齢化社会になることを考えれば、ぜひともシニアサービスの面でリーダーシップをとってもらいたい。』

本書もなかなか面白い作品ではありますが、やはりショッピングモール、しかもちょっと特殊なアメリカのショッピングモールを舞台にした作品なので、個人的には「なぜこの店で買ってしまうのか」をオススメします。

パコ・アンダーヒル「なぜ人はショッピングモールが大好きなのか ショッピングの科学ふたたび」


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