黒夜行

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卵をめぐる祖父の戦争(デイヴィッド・ベニオフ)

内容に入ろうと思います。
本書は、映画の脚本家である男(訳者はこの男が、著者本人のようだと書いている。著者もまた、映画の脚本家でもあるのだ)が、何故か自伝を依頼され、それに祖父の話を書くことに決め、祖父に戦争の話を語らせる、という冒頭から物語がスタートする。そして物語の本編は、その祖父がかつてレニングラードで経験した一週間の出来事である。
1942年1月、主人公(祖父)のレフはレニングラードに住んでいた。この当時レニングラードは、ドイツ軍による包囲に耐えていた。後に「レニングラード包囲戦」と呼ばれることになるこの攻防は、実に900日にも及んだらしく、その間外部との接触を絶たれたレニングラードは、飢餓を始め惨憺たる状況を呈すことになる。しかしそれでも、レニングラードは陥ちなかったという。
そんな壮絶な包囲網の中で、絶望的な空腹と闘いながら、消防団員として働いていた17歳のレフは、ある日ちょっとしたことから、仲間と引き離され、「十字」と呼ばれる監獄に連れて行かれてしまった。外出禁止令に違反したレフは、捕らえられた瞬間に銃殺されてもおかしくはなかったが、「十字」で同じ防になった脱走兵(本人は脱走兵ではないと否定するが)のコーリャとともに、何故か秘密警察の大佐の元に連れて行かれた。
そこで彼らは、奇妙な命令を受けることになる。
1ダース卵を探してこい、というのだ。
結婚式を控えた娘のために、妻がケーキを用意するという。あらゆる食材を集めたが、しかし卵だけがどうしても手に入らない。
配給カードを取り上げられた彼らは、1週間後に1ダースの卵を手にしてここに戻ってこれなければ死を迎えることになる。しかし、卵なんてどこにある?
楽観的で喋りまくる下ネタ好きのコーリャのハチャメチャに見える行動に翻弄されながらも、どうにか任務をやり遂げようと、二人は幾度も死を覚悟しながら卵を求めて極寒のソ連を歩きまわることになる…。
というような話です。
設定はかなり面白いと思いました。
ドイツ軍からの絶望的な包囲網にさらされている中で、娘の結婚式のために卵を入手せよという場違いな命令を下す大佐の馬鹿馬鹿しさ、そしてそんな馬鹿馬鹿しい命令を遂行しなければ命を落としてしまう二人の少年。物語は、戦争という悲惨で異常な舞台で展開され、その悲惨さがねっとりと描かれる場面も多々あるのに、この珍妙な依頼の性質が、物語全体を緩ませているような感じがある。絶望と弛緩が物語のテンポを生み出していると感じます。
それは、コーリャという人物の存在についても同じように言えるでしょうか。彼らの道中は、卵探しという命令の珍妙さに加えて、コーリャという人物の陽気さ・くだらなさ加減によっても彩られていきます。絶望的な状況にありながら、コーリャはまるでそれが戦時中ではないかのような振る舞いをみせる。それは幾度もレフをヒヤヒヤさせ、命の終わりを予感させるが、しかし最終的には幾多のピンチを乗り越えてしまう。卵探しという非常識で危険な任務への覚悟がずっと定まり切らないままに見えるレフとは違って、コーリャはその圧倒的な陽気さでもって、どこからか前進するための力を引き出してきてしまう。そんな対照的な二人の道中は、危険地帯に足を踏み入れているのだということを感じさせない二人のやりとり(大抵はコーリャがグイグイと引っ張っていく会話)によって、緊張感が緩まされていくような感じがある。
そういう、超非常時に置かれながらも、どこか牧歌的な雰囲気がにじみ出てくるような二人の道中の物語は、その奇妙な設定も含めて、なかなか面白いと思いました。
ただ、やっぱり僕がどうしても外国人作家の作品を読みつけないので、どうにもこうにも文章が頭に入ってこない。どうしてこういう風になっちゃうのかわからないんだけど、やっぱりどうしても、大抵の外国人作家の作品を読むと、こういう感じで文章が全然頭に入らない感じになってしまいます。やっぱりこれは相性の問題なんだろうなぁ、というしかありません。どうしても、外国人作家の作品は苦手です。
そんなわけで、たぶん僕が外国人作家の作品をどうしても読みつけない性質だからという理由で、どうしてもそこまで評価出来ませんでした。たぶん、作品は面白いんだと思います(何かのランキングで1位だった気がします)。設定に惹かれた方は、読んでみるといいかと思います。

追記)amazonのレビューでは、みんな大絶賛です。ここまで評価の高いレビューは、なかなか見れるもんじゃありません。

デイヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)