黒夜行

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世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」 勝ち続ける意志力(梅原大吾)

内容に入ろうと思います。
本書は、17歳にして世界一の称号を手に入れ、現在アメリカの企業と提携して日本人初のプロ・ゲーマーとなり、ギネスブックに「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロ・ゲーマー」として認定された、現在もトッププロを維持し続けている著者による、「努力の仕方」の本です。
第一章で、著者のこれまでの経歴がざっと語られる。
運動も出来たしクラスの人気者だった著者だけど、ある時ゲームに出会い、ゲームにのめり込むことで孤立していく。ゲームばっかりやっている自分への強烈な劣等感と、それでも止めることが出来ないゲームへの愛。両親の教育方針。世界一になった後、一時ゲームの世界から離れ、今度は麻雀に手を出し、約3年でトップレベルの実力を身につけるが、麻雀の世界からも去る。その後一時介護の仕事をし、なんとなく参加してみた大会で復帰が注目され、それからスポンサードがついてプロに至る、というような人生がおおまかに語られていきます。
そして第二章以降は、自らの様々な経験を元に、どのように努力して行くのがいいのかが語られていく。
冒頭で著者は、こんな風に書いている。

『とりわけ重要なのは、本書に書かれていることは、ただ勝つのではなく、「勝ち続ける」ことに主眼を置いているという点である。なぜ、「勝つ方法」ではなく「勝ち続ける方法」なのか?両者は似て非なるもので、時としては相反するほどに大きな隔たりを見せる』

『それでも、僕は「勝ち続けられるのか?」という先の問いに、迷うことなく「YES」と答えることができる。勝ち続けるために必要なことがなんなのか、そのためにしなければならない努力や姿勢はいかなるものなのか。強い意志を持ってそれを突き詰め、実践してきたことで築き上げてきた僕の地震は、それこそ100や200の敗北で揺らぐことは決してない』

冒頭を読んだ時には、なかなか大げさだなぁ、なんて思ってたこの文章も、読み終えてみると、なるほど確かにこう言い切る気持ちは分かるな、という感じはする。
本書でとにかく語られていることは、

「めちゃくちゃ頑張れ」

っていうことだ。
もちろん、その「めちゃくちゃ頑張る」やり方にも色々あって、本書ではこういうのはあんまり正しい努力ではないというようなことが書かれているんだけど、でもまあとにかく、死ぬ気で頑張ればどうにかなる可能性は高まるよ、というようなことを言いたいわけだ。
著者の努力は、ちょっと凄い。たとえ好きなものであっても、これほどまでに情熱を注ぎ込めるものなのか、というほどの努力をしている。
そして、本書ではこんなことも書かれている。

「努力そのものを樂しめるようになれ」

結果を追い求めるために努力をするのは、いつか自分を苦しめることになる。そうじゃなくて、努力をしている時間そのものを楽しめるような努力、それこそが正しい努力なのではないかということだ。
著者は、こういった膨大な努力と、結果に囚われないメンタルを試行錯誤で手にしてきたからこそ、世界一になることが出来たのだ。
作中からいくつか抜き出してみよう。

『その点、僕の勝ち方にはスタイルがない。スタイルに陥らないようにしていると言ってもいい。
他人から「ウメハラの良さはここ」と言われると、それをことごとく否定し、指摘されたプレイは極力捨てるようにしてきた』

『普通、人はこっちの方向に何かあるはずだと当たりをつけて進むものだと思う。しかし、僕の場合は自分の足で全方向に歩くようにしている。
正解がどちらの方向にあるのか、迷う必要すらない。すべての方向を探り尽くすから、どこかで必ず正解が見つかるのだ。』

『僕にとっての正しい努力。それはズバリ、変化することだ』

『失敗した後もムクッと起き上がり、すたこら行動できるくらいのものでないと、いい努力とは言えないだろう』

『これまでの経験から、諦めなければ結果が出るとは言い切れない。だが、諦めずに続けていれば人の目が気にならなくなる日が来るのは確かだ。そして、人の目が気にならない世界で生きることは本当に楽しい、と確信を持って断言できる。』

『大会に勝って大喜びしたり、負けて落ち込んだりするのは右肩上がりの成長の邪魔だと考えている。もちろん、負けるより勝つ方がいい。ただし、個々の試合の勝ちには大きな喜びを見出さない。喜びは日々の練習にこそ感じたい。』

『何かを目標に、ある一定の時期だけ頑張っていると、目標がすべてになってしまう。そして、目標を達成できなかったときに立ち直れなくなってしまう。
日々努力を重ねて、日々成長を感じる。そうすれば毎日が楽しい。いつか来る大きな幸せよりも、毎日が楽しい方が僕には遥かに幸せなことだ。』

『「その努力は10年続けられるものなのか?」
自問自答してみるのがいい』

書いてあることは非常にまっとうで、僕も似たようなことを感じていることもあった(まあ僕の場合、頭で考えているだけで、行動が伴っていないわけなんだけど)。著者と同じくらい努力出来る人はそう多くはないだろうし、そう考えると「これだけ努力し続けることができる」ということも一つの大きな才能だと思うのだけど(著者は、自分には才能はない、というようなことを書いている)、とはいえ、こういう考え方は、闇雲に努力して時間を無駄にしているかもしれないと不安な人には役立つのではないかなと思いました。
個人的には、著者の子どもの頃の話が結構面白いと思いました。周囲の大人や子どもに対して抱いてきた違和感についての話なんだけど、僕も似たようなことを考えたりしてモヤモヤしていた時期がありました。

『しかし、心のどこかには不思議な気持ちもあった。
「みんな、よく自分の進路を決められるな」
限られた時間のなかで、自分の進む道を決めていく同級生が不思議で仕方なかった。
僕からすると、そこに本当に自分の意志があるのかどうか疑わしかったのだ』

『いまだに「このなかから将来の仕事を決めなさい」と言われたときの絶望感は忘れられない。世の中というものは、そんなにつまらないものなのかとがっかりした。。日本という国は、大人から示された道しか選べないのかと思ってむしゃくしゃした』

この進路に関する話だけではなくて、著者は子どもの頃、納得出来なかったり理不尽だと感じたりすることを結構抱えていた。その感覚は、なんか凄くわかる。僕も子どもの頃は、周りの大人の言っていることにおかしいと感じることが多かったし、同年代の子どもたちへの違和感(どんな種類のものだったのかちゃんとは覚えていないけど)もあったと思う。どこかに、流されたくない、という感覚があったのだろうなと思う。なんとなくそういう部分に共感した。
さて、そういうわけで、書かれていることはなかなか面白いと思ったのだけど、今ひとつだなとも感じた。で、自分なりにその理由を考えてみたんだけど、もしかしたらこの著者の場合、自分で文章を書くんじゃなくて、インタビューや取材という形で、誰かに言葉を引き出してもらった方がいいんじゃないかと思った。
恐らくこの本は、著者が書いてるんだろうけど(ゴーストライターとかではないだろう、という意味)、なんとなく「文章という表現」に窮屈さを感じているような印象がある。本当はもっと表現したいことがあるし、脳みそをパカっと開けて中を覗いてもらえたらそれはもっとはっきり見てもらえるんだけど、でも文章だとこれが限界、みたいな感じがする。
あくまでも僕はそう感じたというだけだから実際どうなるかわからないけど、誰か巧い人にインタビューをしてもらって、それに答えるような形で内側から言葉を出してきた方が、もっと深いものになるんじゃないかなぁ、というイメージが湧きました。
あともう一つ。これはたぶん編集者に言われてそういう描写を後から組み込んだんだろうけど、著者がしてきた努力を、会社やビジネスの現場に置き換えるときっとこうなんだろう、というような文章がところどころにある。これは、絶対に要らなかったと思う。著者はゲームをひたすらに努力してきた人なわけで、だからその自分のフィールドでの話だけを全力で書けばいい。恐らく編集者が、「新書で出すからビジネスマン向けになるように」とか何とか言ってそういう描写を入れさせたんだろうけど、そういう文章を読まされるとどうにもげんなりしてしまう。そういう文章はそう多くはなかったからまだいいけど、全体的にそういう方向で編集されていたらちょっと評価出来なかったなと思いました。
とはいえ、本書は全体的に示唆に富む内容だと思うし、「才能はない」と言っている著者が世界一になるまでにやってきた努力の話は、ゲームの世界だけではなく、あらゆる分野で参考になるだろうと思います。圧倒的な努力が生み出す自信や境地は、やはりそれを経験した人でなければ語り得ないなと感じました。読んでみてください。

梅原大吾「世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」 勝ち続ける意志力」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)