黒夜行

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パンドラの匣(太宰治)

内容に入ろうと思います。
本書は、2編の中編が収録された作品です。

「正義と微笑」
芹川進という少年が、ある日突然始めた日記だけで構成されている作品。「わが混沌の思想統一の手助けになるように」、そして「わが日常生活の反省の資料にもなるように」、そして「わが青春のなつかしい記録として」日記を書くことにした進少年の悩める日々が描かれていく。
父を亡くし、病床につく母とその母を介護し続けて婚期を遅らせてしまった姉。小説を書いている聡明な兄と、書生やお手伝いさん。中学生である進少年の学校への幻滅や、大学への入学、そしてついに自らの道を進み始めるまでの内心の葛藤が描かれていく。

「パンドラの匣」
健康道場という、結核患者のための医療施設に長期入院することになった少年が、友人に宛てた手紙だけで構成されている作品。そこは、死と隣合わせの世界である、決して楽しい環境ではないのだけど、しかし少年はそういう暗い雰囲気を手紙に反映させまいとする。いかに、この「健康道場」で面白おかしい日常が繰り広げられているのか。死を待つ少年が見据える、患者と看護婦たちのささやかで暖かな交流の物語。

というような話です。
僕は、何度も何度も書いていることだけど、本当に古典作品が読めない人間です。文章が全然頭に入ってこない。いわゆる「文豪」と呼ばれている作家の作品は、基本的に難しくって全然ダメなんです。時々チャレンジしてみるんですけど、なかなか僕がまともに読めそうな作品ってなかったんですね。
でも、本書は凄く面白かったです。っていうか、とにかく読みやすくてびっくりしました。
太宰治を真っ当に読んだのは初めてかもしれません。過去、森見登美彦が太宰治の短編を集めて一冊の文庫にした作品は読んだことがあるんですけど、それぐらいです。
本書は、どちらも少年が描いている日記/手紙という形式です。少年らしい言葉で、少年らしい感情のほとぼりが描かれていく感じで、凄く読みやすい。なんとなく太宰治って暗い作品が多いっていう印象だったんだけど、この作品はどちらも凄く明るくて、なんかウキウキしたような気分で読み進めることが出来ました。文豪の作品を読んで、こんなに面白かったのは初めてだなぁ。なんとなく今年は、「太宰治」と「ウィトゲンシュタイン」の作品を読む、っていうのが漠然とした目標としてあったんだけど、太宰治はどうにかタイミングを見つけてあと何作か読んでみたいなと思わされます。
本書が凄くいいのは、「本当の日記/手紙」だと思わせられる点です。
これまでも僕は、もちろん主に現代作家の作品ですけど、日記や手紙だけで構成された小説というのを読んだことがあります。でも、そういう作品は、やっぱりどうしても「なんらかのストーリー」を伝える物語であって、どうしても「日記」や「手紙」としてのリアリティには欠けてしまう印象があるんですね。
本書ではどちらも、特別なストーリーはなくて、本当に少年たちが自分たちの日常を書き綴っているのだな、と思わされるような記述になっていて、とにかく僕はそこが素晴らしいなと思いました。
実際本書はどちらの話も、元になる日記/手紙が存在するんだそうです。
解説によると、「正義と微笑」は、

「太宰治の許に出入りし、小説の指導を受けていた文学仲間であり弟子であった堤重久氏の弟の、堤康久氏の昭和十年前後の16歳から17際にかけての日記」

を元にしているようだ。そして「パンドラの匣」の方は、

「昭和十八年に肺結核で死去した木村庄助氏の闘病日記」

を元に描かれているようだ。木村庄助氏についてはほとんど何も知られていない無名の人物だが、太宰治の小説のファンであり、また自身で書いた作品をいくつか太宰治に送り、太宰治はその文才を素直に褒めていたそうだ。
実在の日記を元にしているという点が、本書のリアリティ形成に大きく関わっているのは間違いないだろう。本当に、小説として読んだというよりは、他人の日記/手紙を盗み読みしているような感覚のまま読み進める感じで、その点が面白かったというわけでは決してないのだけど、やはりリアリティの表出のさせ方は見事だなぁという風に感じました。
内容についてはどんな風に触れたらいいのかちょっと分からないので諦めるんだけど、文豪の作品でこれだけ読みやすい作品に初めて出会ったし、そしてとても面白かった。日記文学という観点から見ても、そのリアルさは見事なもので、小説である、ということを忘れさせるほどの力はさすがだなという感じがしました。文豪の作品は、読んでみてはやっぱりダメだった…ということをこれまで繰り返してきましたけど、太宰治はもう何作か読んでみたいと思わされました。是非読んでみてください。

太宰治「パンドラの匣」


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6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
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10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
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14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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コミック

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)