黒夜行

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「心の時代」にモノを売る方法 変わりゆく消費者の欲求とビジネスの未来(小阪裕司)

内容に入ろうと思います。
本書は、人の「感性」と「行動」を軸としたビジネスにあり方を20年前から思考・実践し、現在に至るまで大きな成果を上げている著者による最新作です。以前同著者の「「買いたい!」のスイッチを押す方法」という新書を読んでかなり感銘を受けたので、また読んでみました。
ざっくり言うと、本書は『全体的な枠組みを言葉に変換する』というタイプの記述が多かった印象があります。
さて、ざっくりと内容に触れて行きましょう。
本書で、とにかく著者が一番主張したいことは、「消費のあり方が、これまでとはまったく変わっている」ということです。この現状を様々な言葉で語り、さらにそれに対処するためにどうあるべきか、という姿勢を説く内容になっています。
さて、大前提として著者は、本書を読むに当たって、この点に着目して読んでほしい、ということを冒頭で書いています。それは、

『これらは「起こった出来事を解説した」のではなく、われわれ自身が「計画して起こしてきた・起こしている出来事」だ。』

ということです。
ビジネスの世界を描写するやり方として、「これこれこんなことが起こった。きっとそれはこういう背景があって、こういう事情でこうなっているんだろう」というやり方がある。きっと、多くの本や分析がそんな風になっているのではないかと思います。でも本書の場合、「こういう結果を引き起こすことになるだろうという計画に基いて実行している」という点が重要です。それを実現するためには、「起こった出来事を解説する」より遥かに高い精度で現状を分析していかなくてはいけないからです。
本書で重要ばキーワードとなってくるのが、

『「心の豊かさ」と「毎日の精神的充足感」』

である。つまり人々は、この二つに対して「お金を払う」という動機を持っているのであり、それ以外の消費に価値を見出すことが出来ない人が多い、ということだ。
これは、内閣府が行なっている日本国民の意識調査「国民生活に関する世論調査」からも読み取れるという。
この調査では、「物質的にある程度豊かになった今、これからは心の豊かさやゆとりある生活をすることに重きを置きたいか、それともまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きを置きたいか」について尋ねているという(たぶんこれは実際の調査における質問文とは違うと思うけど)。
その調査によると、1980年頃を境にして、「心の豊かさ」と「物の豊かさ」が逆転し、最新データでは、「心の豊かさ」に重きを置きたいと考える人が過去最高の64%に達したという。
そんな時代における消費行動を、著者は「Beingの消費」と名付けた。これは、「「買いたい!」~」でも出てきた話だ。
「Beingの消費」というのは、「いかに生きるか」というような欲求を満たしてくれるものにお金を払うというような消費行動であり、近年この動きがかなり顕著に見られるのだという。そして売り手側としては、この現状を理解し、そして対処することが出来ていますか?と問われ続けているのである。
このBeingの消費には、一つ面白い特徴がある。それは、「分かっている!」という感覚である。
主婦向け雑誌として一人勝ちという状況だという「Mart」の編集長との話で出てきたのが、この「分かっている!」という感覚だ。

『今の消費者は、自分たちの気分をわかってくれていると感じた店やブランドに全力で寄り添っていく』

『今、彼女たちの評価は、「安い」とか「高級」とかではなく、「わかってる」という基準でくだされているのだ』

さて、この特徴は、一つ大きな問題を引き起こす。それは、「需要をあらかじめ予測することが出来ない」ということだ。
これまでは、アンケートなどから、消費者の需要を掘り起こすことが出来ていた。消費者は、製品やサービスとして反映しやすい分かりやすい不満を持っていて(それは、時代や技術によって、製品やサービスがまだまだ未熟だったせいだろう)、それを聞くことで需要を把握することが出来た。

『わかりやすく言えば、買いに来た人が誰であれ、その人の求めるものを売ることが命題だった。誰が来ようと、買いに来たものがそこにないことは、ここではいけないことだった。
このような社会では、品揃えを幅広くすることがお客さんにとっての善となる』

しかし、それを見た瞬間に「わかっている」という評価が下される時代においては、それを見る以前に、消費者自身にさえ、何が欲しいと思っているのかわからない。

『だから、何をもって心が豊かになるのかはっきりとはわからない。心の豊かさを求める消費者自身、自分が何を買いたいのか具体的にはわかっていない』

需要のないところに需要を作る。「心の豊かさ」を求める消費者に対して、売り手側が出来ることは、まさにそれなのである。だからこそ売り手側は、

『何がお客さんの心を豊かにできるのか、やってみなければわからない。また、それが今日豊かさをお届けできたとしても、では明日も同じものが通用するかというとその確実性はなく、常に動いている状態なので、これで決定とはならず、決定打は毎回変わる』

ということを意識して置かなくてはならないのだ。
もちろん、「心の豊かさ」だけを提供すればいいわけではない。

『もちろん、「便利さ」が必要なくなり、すべて「嬉しい」になったわけではない。それらは同時に存在しているし、これからもそうだろう。』

しかし、著者はこう続ける。

『ただ、「心の豊かさ」への希求が主流になり、それが新しい消費社会をけん引している今日、その期待に応えるビジネスは、それ以前のものとは存在する目的みお異なるし、原理が異なるという点には着目しなければならない。「便利さ」をもたらすビジネスと、「嬉しい」を生み出すビジネスは、根本的に異なるのである』

僕たちは恐らく、消費者として新しい時代に生きていることを、なんとなく漠然と感じていると思う。僕も、本書で書かれているようなことは、自分の内側でハッキリとは言語化したことはなかったにせよ、なんとなく、そうだろうなーという漠然とした方向性だけはあった。でも、売り手側としてそれを「売り方」に反映させることが出来ているかというと、それは非常に難しいだろう。僕も、消費者として感じる変化を、売り手として売り場に落とし込もうと色々日々奮闘しているのだけど、なかなか難しい。
そうだ、付け加えておかなければいけないけど、本書は、決して「最終的な提供者(小売店など)」だけに関わる話ではない。物を作る人にも大きく関わってくることだろう。つまり、どう売るか・どう売れるかを意識してものを作らないと、これからはもっと売れなくなっていくということなのだ。
本書は、消費者として漠然とその変化を感じつつも、本当にそうなんだろうかと不安に思っている人の背中を押す作品でもあるだろう。
本書のスタンスについても触れておこう。
僕の勝手な印象では、こういうビジネスに関係する本は、「(具体的に)こうしたらいい!」という話が数多く載っているという印象がある。
でも本書は、そういうタイプの本ではない。
確かに、具体的な話は載っている。しかしそれは、本当に「具体例」だ。実際に、こういうことをやっている店がありますよ、という紹介は結構掲載されている。
しかし、そこから著者が敷衍して、「だから(具体的に)こんな風にした方がいい」というアイデアはほとんど載っていない。
それは、「具体的なことは自分で考えなくては意味がない」という著者のスタンスを明確に表しているだろう。
小手先だけ真似をしても、ニセモノであることがすぐに分かってしまう。表面的な部分だけを見て、なるほどそうすれば売れるのか、という思考では意味がない。そうではなくて、それぞれの事例から、あるいは著者が語るもっと大きな話から、自分の店ではどうするべきだろうかという部分を、自分自身で発想していかなくてはうまくいかないのだということが伝わってきます。
僕も、長いことずっと書店で働いていて、自分の裁量で売り場をあれこれ出来る立ち位置にいたりするのだけど、同じ業界の同業者が言う言葉に結果的に背を向けつつ、自分が正しいはずと思う方向に進んできているつもりだ。
それがうまくいっているのかどうかは、未だによくわからないのだけど。
ただ、「消費者にも、欲しいものがなんなのかわかっていない」という部分に関しては、ずっと昔からそういう意識でずっとやってきたつもりだ。つまり、「欲しいものを探せる売り場」ではなく、「売り場を歩いていたら欲しいものが見つかるような売り場」を目指してやってきたつもりだ。
本書を読んで、いくつか思い浮かぶものがあった。
例えば、先日の選挙の際に、池上彰がテレ東で大暴れしたというのが話題になっていた。

切れ味が抜群すぎた『テレビ東京 池上彰の総選挙TV』

あるいはテレ東は、他の局が一斉に同じニュースを流している時にアニメをやっている、なんていうことでも話題になることがある。
また、ここ最近ラーメン屋が色々特集されたりするが、ラーメン屋の壁にポエムみたいなものが書いてあったり、店主のキャラクターや店の来歴なんかがアピールされているような店もあるだろう。
あるいは、昔読んだ、「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」を書いた伊藤信吾氏が代表を務める「男前豆腐店」も、豆腐を売るという部分から異様に逸脱したスタイルで、豆腐業界に衝撃を与えたりしている。
たぶん、僕らが既にどっぷり浸かっているはずの消費社会というのは、こういうスタイルがもてはやされるのだろうと僕は思う。
それを、僕なりのキーワードで語るとすれば、

『誰かに話したくなる体験』

ということだ。
本書に、こんな例が載っている。
とある子供服&雑貨屋では、布団も売っているのだけど(それだけで十分おかしいけど)、さらにその店舗には布団の在庫はない(これもとてもおかしい)。さて、ある女性のお客さんが、その店で売っている布団のパンフレットを欲しいと言ってくる。母に薦めたいのだそうだ。その女性がハサミを貸してくれというので貸すと、パンフレットからメーカー名やメーカーの連絡先を切り取っているという。
「母がこのメーカーに連絡して、この店で買わなくなったら意味がないですから」と。
店主が、布団は重いから、メーカーから直接ご自宅にお送りすることもできますよというと、
「それじゃダメなんです!ここで買わないと!」という反応が返ってくるのだという。
この店は、お客さんにそう思わせるだけの体験を与えることが出来ているということだ。
また本書には、ル・クルーゼという鍋の例も出てくる。
この鍋は、確かに実用品としても重宝するのだろうけど、購入者の主な目的は、「キッチンに飾ること」だそうだ。

『だって、リビングに座ったときキッチンを見て、これがずらりと並んでいたら、幸せっていう感じがするじゃない』

そして、その陳列の様子をネットにアップして、誰かとその体験を共有しもするのである。
これが、僕らがずっぽりと浸かっているはずの、今の消費社会である。
この中にあって、売り手側として一体何が出来るのか。それは、各々が様々な要因を考慮しつつ模索し続けていかなくてはいけない。本書はそのきっかけとなるだろう。個人的には、(あまり内容は覚えていないんだけど)「「買いたい!」のスイッチを押す方法」の方が面白かった印象があるけど、まあともかく、この著者の作品をとりあえず何か一つでも読んでみるというのは非常に参考になるだろうと思います。是非読んでみてください。

小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法 変わりゆく消費者の欲求とビジネスの未来」


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コミック

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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

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2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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