黒夜行

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幕が上がる(平田オリザ)

内容に入ろうと思います。
高校の演劇部に所属する高橋さおりは、なんとなく、つまらない。部活が。うーん、つまらないというのでもないのか。なんか、物足りない。でも、こんなもんなのか、って感じもする。3年生の最後の大会が終わって、もちろん地区大会もいつものように突破できなくて、毎年の伝統で、大会で使った大道具なんかを2年生だけで燃やしている。
ユッコ(橋爪裕子)とガルル(西条美紀)とさおりの三人が、来年部を引っ張っていくことになる。
とりあえず、地区大会突破を目標にして、三人で色々考えて進めていく。新入生勧誘のための公演がかなりうまくいって、一年生も結構入ってきてくれた。2年になったわび助は、相変わらず演技がとてもうまい。さおりが一年生だった頃の、あのギスギスした感じも全然なくって、部も凄くいい雰囲気になってきた。
でも、やっぱり顧問の先生は演劇に詳しいわけじゃないし、これという手応えがあるわけでもない。
そんな演劇部に、立て続けに色んなことがあった。
まず、新しく赴任した美術の先生が、なんと東京で『伝説』と言われたこともある元「学生演劇の女王」だというのだ。彼女たちは、副顧問をお願いに行き、研修などで忙しい合間を縫って稽古を見てくれることになった。
そしてもうひとつ。去年の地区大会で優勝したS高で、主役以上に演技がうまかった女の子。中西さんっていうその女の子が、なんとウチの高校に転校してきた!早速演劇部に誘うのだけど、なんだかちょっと難しい女の子なのかもしれない。
とはいえ、なんというか、凄い布陣が敷かれている感じ。これなら、地区大会の突破も、夢じゃないのかも。
「小っちゃいな、目標。行こうよ、全国!」
というような話です。
思ってたよりは良い作品でした。劇作家である著者の初めての小説らしいですけど、なかなか良かったなと思います。
本書にちょっとだけ載っている著者の略歴と、作中でちょろっとだけ触れられている話からなんとなく想像するだけなんだけど、平田オリザっていう人はたぶん、「普通の口語で演劇をやる」みたいなのを再評価した、みたいな感じみたいです(よくわからないけど)。なんかこの小説も、小説なんだけど地の文も口語っぽい感じで進んでいく感じがあって、なんとなくなるほどなーって思ったりしました。
さすが劇作家だけなことはあって、演劇に関する部分は凄く鋭いなという印象がありました。どんなワークショップをするのか、どんな視点から演劇を見るのか、演出家としてどんな風に役者を動かして行くのか。そういう、演劇そのものに深く関わっていく部分については、やはり本業の強みということでしょう、凄く強い印象がありました。
高校演劇って、そういう風にやっていくんだなぁ、って思う部分もありました。
高校演劇の場合、ってまあ高校演劇に限らないだろうけど、どんな台本でやるのかっていうのが問題になってくる。なかなか高校生で、台本を書けるっていう人は多くないだろうからね。
色んなパターンがあるみたいです。既存の台本を使う(ただ、大会は規定の時間があるから、色々削って短くしないといけない)。顧問の先生が書く(役者のキャラクターを想定して当て書きしていくので、役者がその役に無理やり合わせる必要がなくてうまくいく事が多い)。大枠だけ誰かが決めて、後はエチュードをしながら稽古の場で創っていく(本書でさおりは、このやり方を採用します。なるほど、そんなやり方もあるんだな、と思いました)。
顧問の先生が生徒のキャラを考えながら当て書きするとか、大枠だけ決めてエチュードの中で完成させるとか、なるほどなぁ、という感じがしました。普段ドラマとか映画とかで、いわゆる『本職の役者さん』のことを見ている僕らからすると、話がまずあって、役者がその役に合わせていく、っていうのが当然だと思っちゃうような気がするんですね。でも、確かに、みんな演技が巧いわけじゃないし、無理させればボロが出る。でも、当て書きにせよエチュードにせよ、生徒個人のそのもののキャラを活かせるのであれば、確かにその方がいいよなぁと、高校演劇について全然知らない僕は感心しました。
物語はさおりの一人称でずっと展開されていくんだけど、口語みたいな地の文で、さおりの内面がスルッと表現されていくんで、なかなか面白い。
さおりは、分からないものは分からないまま受け取り、分かったフリをしない、という印象がある。僕からすると、とても好印象な女の子だ。自分の中の、何か『モヤモヤ』したものを、簡単にどこかに着地させたり、あまり考えずに名前をつけたりしない。違和感を違和感のまま持ち続ける、っていうか高校生だし、ずっと持ち続けてるわけでもなくて忘れたりすることもあるんだけど、でもそういうのが個人的にはなんか好きです。「これでいいの?」っていう問いを常に自分に向け続ける感じは、大変だろうけど、素敵だと思いますよ。
演劇部の面々のキャラクターもなかなか面白い。たぶんこれも、著者のスタンスなんだろうと思うんだけど、どの人も、分かりやすい個性みたいなものはあんまりない。もちろん、ガルルはダンスをするとか、中西さんはちょっととっつきにくいとかあるけど、でもみんな状況によってキャラは変わるし、一本調子なわかりやすさで括ろうとしていない。できるだけ忠実に『ありのまま』を描こうとするとそうなんるんだろうなぁ、という感じがしています。その辺りの著者のスタンスは、結構好きかも、って思います。
高校演劇の話だと、ちょっと前に「濡れた太陽」っていう小説を読みました。こちらも、同じく劇作家として活躍する前田司郎の著作です。確か「濡れた太陽」は、著者の高校時代の話をモチーフにしている、とかだったような気がします。
本書はどうなんだろうなぁ。なんとなく個人的には、かなり著者の実体験が元になっているんじゃないかな、という感じがします。
どうしてそう思うのかというと、作品全体から、説明のつけにくい脈絡のなさを感じるからです。
うまく説明できないんだけど、なんでこの話が出てきたんだ?っていうような、ストーリー全体からしたらちょっとはみ出ているような、そういう場面がところどころであるような気がします。気にしすぎかもしれないし、あるいは、そういう脈絡のなさこそがリアリティなのだという著者のスタンスなのかもしれないけど、個人的にはなんとなくその脈絡のなさが、自分の経験から引き出しているもののような感じがしたのでした。
そういうようなことを明確に考えながら読んでいたわけではないんですけど、でも途中から、さおり=平田オリザっていう頭でなんとなく読んでいたような気がします。
あと、演劇と合唱という違いはあるんだけど、中田永一の「くちびるに歌を」っていう小説も連想しました。なんとなく、雰囲気は近いような気がします。
なかなか面白く読める青春小説ではないかなと思います。青春小説が好きという方は読んでみてください。

平田オリザ「幕が上がる」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)