黒夜行

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コロンブスそっくりそのまま航海記(ロバート・F・マークス)

内容に入ろうと思います。
本書は、『世紀のアホども』による、超絶的な爆笑冒険記です。
この冒険の要約は、まさに本書のタイトルがその役割を担っています。
ロバート・F・マークスは現在、アメリカでのスキューバダイビングの先駆者として、また水没船などの引き揚げの実績などで知られるアメリカ人である。彼は若い頃から数々の冒険に繰り出し、著作は60冊を超えるという。
本書は、そんな彼が航海士として参加した、破天荒・はちゃめちゃな冒険記です。
元々彼は若い頃から、沈没船に多大なる興味を抱いており、そのためにとんでもない量の資料と格闘することも厭わなかった。彼は、スペインのガレオン船について、信頼出来る調査が行われていないことを知り、じゃあ自分でやるかってなもんで、索引も整理されていない魔窟のようなスペインの図書館に通いつめては、当時の資料を漁りまくっていた。
そんなある日彼は、ふとこんなことを思ったのだった。

『新大陸貿易を統率する官僚向けに記された公的な記録文書の多くには欠けているものがひとつあった。人間的要素だ。つまり、当時そうした貿易船に乗って航海するのはいったいどんな感じだったのだろう?どんな恐怖やストレスにさいなまれたのだろう?dのようにして食料を維持したのだろう?ワインは?いかにして暴風雨を乗り切ったのだろう?モーターもなしで凪ぎのときは?わたしにはわかる。毎回どの後悔も冒険だったのだ。人が死に、たえず祈りを捧げていたのだ。<新世界>に魅了されながらも、多くの果敢な男たちが当時のそうした船で航海することを拒んだ。』

さて、ここからさらに、彼の思考はこんな風に飛躍する。

『これらの問い―心理学者なら人間的要素と称するだろう―に対する答えの探求が、ある考えを導いた。いっそのことスペイン式ガレオン船の正確な複製を作って、それで大西洋を横断してみたら?』

アホである。この時点でこの著者は頭がおかしいとしていいようがない。
しかし、頭がおかしい人間は、やはり世界中にはいるものである。
著者がそのプロジェクトに邁進し始めた頃、一人の見知らぬ男から彼の元に電話が来た。
「(コロンブスが乗った)ニーニャ号の完璧な復元船を作っている最中で、その船でアメリカへ航海したいと思っている」
その男の名は、カルロス・エターヨ。最終的に、ニーニャⅡ世号の船長になるスペイン人である。
カルロスの親友の一人に、コロンブスの直系の子孫がいた。ある時、その子孫を直系の子孫とし、コロンブスの乗った船を復元した船で西インド連邦へ航海する計画が立ち上がり、カルロスに船作りが任されることになった。しかし、送られてくるはずの資金が送られてこず、結局プロジェクトは頓挫した。
しかし、既にカルロスはそのプロジェクトに取り憑かれており、自力でそのプロジェクトを継続する決意を固めた。
カルロスが著者の動向を知ったのは、そんな状況の中でのことだったのだ。
二人は、「コロンブスがアメリカへたどり着いたのとまったく同じ状況を再現し、航海をしよう」という認識を一致させ、膨大な準備に取り掛かった。「まったく同じ状況」というのは、船や航路や日数だけを指すのではない。食料や服装や装備など、ありとあらゆるものに及ぶのだ。つまり、正確な海図も、救命胴衣も、通信設備さえ持たないまま、ということだ。
アホである。
しかし、そんなアホみたいな計画に、著者とカルロスを含め、最終的に9名の命知らずの乗り手が集まった。
ほとんどが、船上で役に立つ知識・経験を持たない、ずぶの素人ばかりである。
素人といえば、カルロスにしたところで、船作りのプロというわけではない。あらゆる資料を当たり、当時のデータを出来るだけ収集したが、しかし船大工が造るわけではないのだ。
実際、試運転で、ニーニャⅡ世号は無様な醜態をさらすことになる。その頃には既に彼らの計画は、各地で大いに話題になっていたのだ。そもそも、帆を操って船を操縦する航行術を、誰一人知らないままだったのだ!
そんな頭のおかしな9名が、「コロンブスと同じ航海をする」という目標だけを胸に、「コロンブスが決してしなかっただろう様々な後悔に見舞われることになる」恐ろしい冒険に乗り出すことになり…。
というような話です。
いやはや!これはメチャクチャ面白い作品でした。高野秀行の冒険&作品に非常に近いものを感じます。無鉄砲で頭がおかしくて、しかも状況さえも彼らのアホさを煽る味方をするという、まさに奇跡のような冒険だ。
とにかく凄いのは、これほどまでい無茶苦茶な冒険であるにも関わらず、死者が一人も出なかったということだ。これははっきり言って、信じられない偉業である。彼らは、何度も、もう何度も何度も死にそうな目に遭う。そのどの状況であっても、死人が出てもおかしくないような、そういう修羅場を彼らは何度もくぐり抜けてきた。しかし、どんな奇跡が起きたのか、結局彼らは命を落とすことはなかった。それは、まず何よりも凄いことだなと思います。いや、ホントに。
しかし、表紙の感じなんかからすると、真っ当な冒険記に見えます。勇ましく海を割り、勇気と共に困難を乗り越えた屈強な男たちの不屈の物語であるような感じがします。
しかし、実際は全然そんなことはありません。彼らは、ほとんど操縦する術を持たないまま、全行程のおよそ70%ぐらいは『漂流していた』と表現していいでしょう。なんせ、彼らが乗った船の恐ろしさと言ったら、とんでもないのだ。作中で、ニーニャⅡ世号を、こんな風に表現する場面がある。

『あれは…あれは…筏だ!』

この一言で、どんな船なのか、なんとなくイメージしていたものが打ち壊されたことでしょう。そう、彼らが乗っていたのは、とてもまともな『船』と呼べるものではありませんでした。ニーニャⅡ世の唯一素晴らしい点は、どんな嵐にあっても沈没しない、というその一点なのだけど、それ以外のありとあらゆる点については、『船』と呼ぶのがおこがましいほどのレベルでしかありませんでした。日本人であれば、試運転をした時点で、これは止めよう、と判断するでしょう。そもそも、風が吹いても真っ直ぐ走らせることが困難な船でどうしろというのでしょう。
こんな記述もあります。

『確実なことがひとつある。大西洋で強風に遭遇すると、温かい食事をとてるのはまれになるということだ。凪ぎ状態なら、満足のいく食事にありつけるが、どこにも進めない。そして風に吹かれれば、食事は酷いものになるが、速く前進できる。いずれかひとつだ。それが小型帆船での暮らしである』

これはどういうことかというと、ニーニャⅡ世号はあまりにも揺れるので、風が強くなって勢い良く前進すると、船上で火を使うことができなくなるのだ。船は15世紀当時の材料だけで使われている(つまりほぼ木材)なので、火がつけば終わりである。
また彼らは、海図や当時の最新の航行機器などを搭載しなかったので、常に自分たちがどこにいるのか把握出来ていなかった。把握できていると思っていても、そのほとんどが間違っていた。つまり、彼らの旅のほとんどは『漂流』だったということである。
もっとアホらしいことがある。水である。
船旅に水は欠かせないだろう。しかも、何十日も航海することがあらかじめ想定されているのだ。
しかし彼らは、ほとんど真っ当な真水を搭載しないまま、何度も(彼らは、コロンブスが辿った経路をそのまま真似ているので、コロンブスが立ち寄った港で水や食料などをその度に補給している)出港する羽目になる。
最初の出港の際、彼らは学んだのだ。ワイン樽として使われていた樽に真水を入れると、すぐに腐る、と。
それなのに彼らは結局、出港の度に、同じようにして水を調達してしまうのだ。アホとしかいいようがない。
著者も、航海日記の中で、ちゃんとこんな風に書いている。

『自分はどうしてこんな狂ったことに首をつっこんでいるんだろう?思うに、アホだからだ。コロンブスの航海をまねるのはいい。だが、少なくとも、水と食料の量もそっくりそのまま模倣すべきだったのだ』

当たり前の話である。それを、船上で思いついたところで、後の祭りである。
船員たちも、なんというか凄まじい。船乗りだった人間はほとんどいないし、船乗りだと主張していた人間も実際はほとんど陸にいた。怠け者ばかりで、しかも諍いが耐えない。水や食料がなくなり続けて、緊急的に配給制が施行されても、誰も一向に従おうとしない。釣った貴重な獲物を、アホみたいな判断により海中に没してしまうことも何度もあった。
しかし、一番厄介なのは、スペイン人のプライドだろう。よくわからないが、とにかくスペイン人というのはプライドの高い人種であるようで、「どう考えても成功の見込みのない旅路」であることがわかっていても、「引き返す」という選択は彼らのプライドが許さないようなのである。
9人には、チームワークもなければ、命令系統もなし、的確な判断力のある人間も、生存のための特殊な能力を持つ人間も、とにかく何かの役に立つ人間はほとんどいなかったといっていいだろう。勤勉さだけが取り柄です、という乗組員が数名いたお陰で、最終的にどうにかなったようなものである。本当に、彼らの旅路は奇跡的だと思う。
彼らがどんな奇妙な冒険をしたのか、それは是非読んで爆笑して欲しいと思います。本当に、あらゆる点でアホすぎるし、彼らが死者を一人も出さなかったのは単なる奇跡でしかありません。ありとあらゆる修羅場が彼らを襲います。そしてその度に、彼らは奇跡的にそれを乗り越えることになります。神様がほんのちょっと気まぐれを起こしていたら、彼らは生きて航海を終えることが出来なかったでしょう。それほどの冒険譚であるのに、本書は爆笑の連続です。それは、彼らが陥る修羅場のほとんどが、結局彼らのアホさ加減が原因だからです。高野秀行の著作を読んでいるような脱力感や爆笑を得られるのではないかと思います。大きな違いは、スペイン人の陽気さでしょうか。なんというか、彼らの底なしの楽天っぷりが、本書の面白さに拍車を掛けているのは間違いないでしょう。本当に面白いノンフィクションを読みました。是非読んでみてください。

ロバート・F・マークス「コロンブスそっくりそのまま航海記」


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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
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5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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9位 山本弘「詩羽のいる街
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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