黒夜行

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もう卵は殺さない(香魚子)

内容に入ろうと思います。
時々コミックを読んでいたりします。
本書は、4編の短編が収録された少女漫画です。

「きょうはなんの日」
ある朝。クラスメートの遠藤につきまとう。何曜日なのか聞いてみたり、ジャージを借りてみたり。私が投げるボールを、遠藤は意識的なのか無意識的なのか、どうもうまく受け取ってくれないような気がする。モヤモヤ。
思い切って言ってみる。ねぇ、今日は何の日か知ってる?

「茉莉花にくちなし」
里見茉莉花は、超美人で、落とした男は数知れず。その上勉強も超出来る秀才。
でも、17歳で死んでしまった。
成仏するにも未練がなぁ…と思っていた茉莉花は、同じ学年の生徒を見かけて、ちょっと前に幽霊仲間から聞いた話を思い出す。
うまくすると、生きている人間の体を乗っ取れるらしい。
陰の薄い野上支子に接近し、死ぬ前まで付き合ってたヒロ君ともう一回デートしようと、支子をたぶらかそうとするけど…。

「亘理くんとふれたなら」
アメリカに行っている母が、高校を飛び級で卒業するも、今は身寄りがない男の子を口説き落として、日本の大学に入れることにしたらしい。
それが私にどう関係するかって?どうも、大学の寮に入るまでの三週間、亘理君と二人で生活することになったんだけど…。
超天才で美形なんだけど、なんか、コミュニケーションがまったく取れない感じ…。

「もう卵は殺さない」
私達は、物語の主人公。
世の中に存在する物語の一部は、この「主人公斡旋所」で紹介された主人公を元にして紡がれた物語なのだ。
笹木綾子は、もうずっとここにいる。何人もの主人公たちがここへやってきて、そして売られていった。きっと外の世界で、きちんと物語にしてもらっているのだろう。
それにひきかえ綾子は、ずっとここから出られないでいる。どうしても綾子の物語は、誰にも求められないらしいのだ。
どうして?どうして、男と女が好き合うだけの、何が面白いのかわからない物語の主人公がどうして外に出られて、高尚で深さを持った私の物語が誰からも選ばれないの?

というような話です。
なかなか好きな感じの作品でした。物語自体はそんなに大したことがなくて、それはつい今内容紹介を書いている時に感じました。文章にすると、こんなになんということもない、こう言っちゃなんだけど平凡な感じになっちゃうんだなぁ、という感じです。あんまり漫画を読むことがないんだけど、やっぱり漫画って、ストーリーそのものも大事だけど、それ以上にもっと大事な要素があって、そこがきちっとしていればストーリーはさほど平凡でも読ませちゃえるんだろうなぁ、という感じがしました。一応書いておきますけど、これ、褒めてるんですよ。
とりあえず、表紙の絵に惹かれて買ってみました。「香魚子」という著者名を「あゆこ」って読むことも、買った後でバイト先のスタッフに聞いて初めて知ったような感じです。何にしても、この表紙は凄くいいんだよなぁ。表紙の女の子も凄くいいけど、全体的に絵が僕好みの作家さんだな、という感じがします。絵のことはよくわからないんで、どういう部分がいいんだみたいなことは全然書けたりしないんだけど、どの話でも、出てくる女の子の感じが凄く好きだなぁ。
「きょうはなんの日」は、掌編と呼んでいいぐらいの短さなんだけど、なかなか素敵です。たぶん幼馴染か、幼馴染じゃなくても結構前から知ってるような二人だろうなって思うんだけど、女の子の方が男の子の方を好きでまとわりついちゃう。でも、なんとなくだけど、男の子の方がつれないような気がする。その、女の子のはしゃいでる感じとか、ちょっと落ち込んじゃう感じとかが、ちょっとした表情の変化で描かれていて、なんかすげぇキュンとする感じです。本書の中では一番リアルっぽい感じで、現実に普通にありそうな感じも素敵だなと思います。こんな女の子にまとわりつかれたいっての。
「茉莉花にくちなし」は、キャラクターは少女漫画では出来過ぎたテンプレート、っていう感じがした(少女漫画とかあんまり読まないくせにこういうことを言ってみる)。超美人で勉強も出来て秀才と付き合ってて向かうところ敵なしって女の子と、暗くて地味でいじめられてて友達がいなくてっていう女の子がひょんなことから…みたいな。でも、そのテンプレートなキャラクターを凄く巧く転がして、いい物語に仕上げているなぁという感じがしました。
途中まではドタバタコメディって感じなのに、中盤辺りから割と真面目になって、そしてラスト。うん、好きです、あぁいう感じ。なんか、どっちも切ない。この物語のような状況って明らかに起こり得ないけど、でも、そうなんだよなぁ、世の中って簡単に割り切れるような単純なもんじゃないよなぁ、なんてなんか思わせてくれたりします。
「亘理くんとふれたなら」は、もうちょい長くてもいいかなぁ、って個人的には思っちゃいました。亘理というキャラが結構特殊で、だけどその特殊さは、もうちょい時間を掛けて描き出してくれる方がよかったかもなぁって気がしました。うまく説明できないんだけど、ちょっと性急過ぎたかなぁっていう印象はありました。
でも、話としては面白いと思います。またしてもありえない設定だったけど、二人の噛みあわなさの描写はなかなか面白いし、ちょっとしたことで「通じ合えた!」と実感できた瞬間の麻衣の感じとか可愛らしい。そして特に、亘理と麻衣だけじゃない別の人間が加わった際のあの空気感とか、巧いなぁって思いました。枚数の縛り的に、亘理のキャラをもっと存分に描けていないのがちょっと残念だったかなぁ、と個人的には思います。
「もう卵は殺さない」は、想像していたのとは全然違う物語で驚きました。これは、なるほどなぁ、って思いました。著者自身が、部屋の掃除をしていた時に昔書いた原稿見つけたことがきっかけでこの話が生まれたらしんだけど、『売れること』についての議論は凄く面白いと思いました。
綾子は、自分が主人公として存在する物語は、凄く高尚で深くて、物凄くいい物語だという確信がある。でもそれを、新入りの主人公に笑われてしまう。その女の子は、オタク寄りな小中学生をターゲットにしたキャラクターで、とても人気がある。その女の子に「売れ残り」と言われてしまう綾子は、自分の存在について考えるわけです。
そして、綾子たちがいる世界の外に、一回り大きな世界があって、そこでも物語が展開されていく。なるほど、そういう設定なんですね、と理解できることだろう。短いストーリーの中で全体をうまくまとめているし、しかもタイトルが作品とピッタリ合っている。合っていながら、内容をまったく想像させない見事なタイトルで、この表題作は一番好きかもしれません。女の子の描かれ方とか、作品の空気感みたいなものだと他の作品も検討したいけど、ストーリーだけで見ればこの物語は本作中でダントツで面白いなという感じがします。
絵柄も全体の空気感も好きな作品だなという感じがします。何にしても、絵が好きなんだよなぁ。素晴らしい。気が向いたらまたこの作者の漫画を読んでみてもいいな、と思うほどには堪能しました。

香魚子「もう卵は殺さない」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)