黒夜行

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磯崎新の「都庁」 戦後日本最大のコンペ(平松剛)

旅行に行ってたりパソコンがぶっ壊れたりと、しばらくブログの更新が途絶えました。
お久しぶりでございます。
内容に入ろうと思います。
本書は、新宿副都心にある都庁のコンペと、日本の建築界の歴史を描いたノンフィクションです。
1985年11月。一本の電話からそれは始まる。
社員20名ほどの小規模な設計事務所である「磯崎アトリエ」に、都庁のコンペへのお誘いがやってきたのだ。
都庁の設計のコンペである。
社員20名ほどの設計事務所に舞い込んでくる話では、普通はない。
都庁の設計コンペは、指名コンペと呼ばれる方法で行われた。当時の東京都知事・鈴木俊一の諮問機関である東京都庁舎設計協議審査会は、主に「国内で高層ビルの設計を請け負ったことがあるか」という基準に沿って、国内の設計事務所から9社を選び、コンペへの参加報酬2000万円、合計1億8000万円をかけた設計コンペを発表したのだ。
磯崎アトリエは、国内で高層ビルの設計を請け負ったことはない。9社の中で、磯崎アトリエだけが浮いているのだ。他はみな、社員を大勢抱える大組織設計事務所ばかりだ。何故かそこに磯崎アトリエは組み込まれた。
磯崎アトリエは、磯崎新を「親分」とする設計事務所だ。そして、その磯崎新の師匠に当たるのが、建築界の天皇と呼ばれた丹下健三である。当然、丹下健三の設計事務所も、都庁の指名コンペに選ばれた。というか、その裏にはもっと深い繋がりがあるのだけど、まあとりあえずそれは置いておいて。
東京都から提示されたコンペ要項を読むと、都庁の基本的な設計方針は一つしかないことがわかる。
それは、本庁舎をビル二棟のツインタワーに分ける、というものだ。広大な敷地面積と、法律で定められた容積率などを考慮し、また要項によって求められている条件を満たす答えは、それしかありえない。
しかし磯崎新は、3つの案を同時に検討するようスタッフに指示を出した。①一棟の超高層ビル案 ②二棟の超高層ビル案 ③低層案 の3つである。
そして、これは帯に書いてあるから書いちゃうけど、磯崎新は最終的に、9社の中で唯一低層案を提示するのである。
一方、戦前から日本の建築界を牽引し、代表作とも言える建築をいくつも残している天皇・丹下健三は、「ぶっちぎりで勝とう!」とスタッフに檄を飛ばしていた。
丹下健三には、ぶっちぎりで勝たなければならない理由があったのだ。
本書は、基本的には磯崎アトリエの動きを追いながら、同時に時系列を様々に行き来し、主に磯崎新と丹下健三の生涯を追いながら、日本の建築界の歴史を追う、というような内容になっています。
正直あまり期待しないで読んだんですけど、これはかなり面白い作品でした。
まず本書は、タイトルと構成が素晴らしいと思いました。
本書のタイトルは、「磯崎新の「都庁」」なんですけど、これ、内容の半分ぐらいしか表現してません。確かに都庁のコンペの話なんですけど、でも決してそれだけじゃない。むしろメインは、都庁のコンペの方ではなくて、丹下健三と磯崎新の生涯を追いつつ日本の建築界の歴史を眺める、という方なのではないかな、という感じがしました。
でも、例えば本書のタイトルを、「丹下健三と磯崎新」とか、「日本の建築の歴史」みたいな感じのタイトルにしちゃったら、手を取る人がかなり限られちゃうだろうな、と思うんです。本書はあくまでも、『都庁の話である』という部分が引きなんだと思うんですね。もちろん、建築そのものに関心を持っている人もいるでしょうけど、あんまり多くはないと思います。それでも本書のようなタイトルなら、「なるほど、あの都庁の設計コンペの話なのかぁ」という形で、ちょっとは関心を持ってくれる人が出てくれるかもしれません。
構成も素晴らしいです。とにかく本書は、時系列がかなりあっちこっちに行きます。主軸は確かに都庁コンペで忙殺される磯崎アトリエの時間軸で、その展開の時系列は変わらないんですけど、合間合間にいろんな話が挿入されるんです。
そしてこれが、全体の流れを切らないんですね。
都庁コンペの流れの中で、当時携わったスタッフの視点であるとか、コンペ中外せない用事で海外を飛び回っている磯崎新の視点などから様々な話になるんだけど、そこからスルッと過去の話につなげて行く。過去の、磯崎新や丹下健三の話(丹下健三がなぜ建築界で力を持つようになったのかとか、磯崎新の学生時代の話、磯崎新が設計してきた様々な建物の設計について、などなど)を通して、日本の建築界の歴史を概観し、そうしてひとしきり語った後でまた都庁コンペの時間軸に戻ってくる、という構成になっています。
この構成の巧さは、なかなかうまく表現できないんだけど、すごく巧いと思いました。僕は、まあこんな本を買ってる時点で、まったく建築に関心がないわけではないんだと思うんだけど、でもあんまり関心はありません。建築家の名前も、磯崎新も丹下健三も知らなくて、隅研吾ぐらいしか知りません。美しい設計の建物に関心があるわけでもないんですね。僕は本書を、まあ都庁の話なんだろうというぐらいの感じで買って読み始めたわけです。
それなのに、都庁のコンペの話ももちろん面白いんだけど、丹下健三とか磯崎新の来歴だとか、設計の関する思想だとか、そういう話がすごく面白かったです。
本書において「磯崎新」というのは、一つの終点だったりするわけです。じゃあ本書における始点はどこかというと、それは「岸田日出刀」ということになるでしょうか。
当時は、帝国大学教授という権力がものすごく強大で、帝国大学教授だった岸田日出刀は日本建築界のトップだったと言っていいです。
そしてそんな彼が見出したのが、丹下健三というわけです。
丹下健三は老獪な人物であり、どうすれば勝てるかということを戦略的に、言い方を変えれば「嫌らしく」考えてあらゆる手を打ってくる建築家です。戦後の日本における、国家を体現する建築を様々に手掛け、勅撰建築家のような感じになっていくのだけど、それは、丹下健三自身の才能や努力の他にも、岸田日出刀という影のフィクサーの存在があったわけです。
そして丹下健三の不肖の弟子として、まったく丹下健三とは違ったタイプに育った建築家が、磯崎新なわけです。
例えば磯崎新は、大分県医師会館の設計の際に、師匠である丹下健三とはまったく違った境地に達する。
「不恰好でもいいではないか、美は語るまい」
丹下健三は、「美しきもののみ機能的である」という有名なキャッチフレーズを持っている。そんな丹下健三の考え方に真っ向から歯向かうような言葉だ。

『しかし、丹下や岸田の美学は日本の伝統的古建築から引き出したものであり、それはすでに出来上がった美学の枠組みの範囲内に収まってしまっている、とも言い換えられるのではないか。それに同調していたのでは、結局は師のイメージに引き摺られることになってしまう』

また、こんな言葉もある。建築の『根拠』についてだ。

『だからもう、消えちまったルーツ”起源”なんて問うな、と思う。いろんな人がルーツ探しをやるでしょう。つまり、”起源”を探って、それを”根拠”に据えようとするわけですが。ものごとは全てが起源から連続的に順を追って生成するわけじゃなくて、不連続。要するに、ある時期に、誰か、あるいは社会が、必要に応じて、でっち上げるわけですよね(笑)。だからその始まり”始原”を問題にすればいい。英語的には”オリジン”じゃなくて”ビギニング”ですね』

なかなか面白いことを考えているなぁ、と思います。
そもそも磯崎新は、『「言葉」にこだわる建築家』と本書では言われている。著作は、対談集などを含めると30冊は超え、雑誌の特集などを含めると膨大な数になる。

『これは誰でもそうだと思うんだけど、自分が感じたもの、知覚したものを、たとえたどたどしくても、自分で<言葉>にできた時に、本当にわかるんだと思うのよ。例えば、『闇の空間』、あるいは『見えない都市』というふうな、そういう言葉でもいいんです。それまでは、消えていくような、あいまいな霧の中のような感覚を、みんなそれぞれの形で反芻してるんじゃないですか。そして、それが<言葉>になった時に、やっとそのもやもやした感覚が自分の中で定着する。そうすると、きちんと記憶にも乗せられる。<言葉>にできなかったものは、もうみんな消えてしまうと思いますね』

そんなことをいう一方で、デザインや設計の現場ではこんなこともいう。

『もし<言葉>の方が最初にあったら…あまり面白いものにはならないような気がする。むしろ<カタチ>ができあがったあとに、『どうしてこんな<カタチ>が生まれたんだろうか?』と自分に問い直すことで、段々<言葉>が見えてくる。だから、先に<カタチ>があって、それが後に<言葉>になる、そういう感じですね』

いずれにしても、言葉にせずにはいられないようである。
都庁コンペの際にも、磯崎新は様々な言葉を出してくる。スタッフは、「親分」のそんな言葉を受け取って、あれこれ議論をすることになるのだ。だって、「親分」は何も教えてくれないから。「錯綜体」=「リゾーム」なんて言葉が唐突に出てきたりするんですよ。これ、ドゥルーズとガタリっていう有名な哲学者の言葉らしいですよ。磯崎アトリエのスタッフ、大変ですなぁ。
単純な構成の作品じゃないからなかなか内容を伝えるのが難しい作品なんだけど、他にも、磯崎新が深く関わることになった大阪万国の話とか、広島の慰霊碑とイサム・ノグチの話とか、外国の建築の流れであったり、都庁コンペの裏側の話であったりと、とにかくいろんな話題が縦横無尽に登場し、都庁の設計のアイデアが練り上げられるのと同時並行で、日本の建築界の歴史が綴られていくことになる。本当に、時間軸の主軸を都庁コンペに据えつつ、縦横無尽に時系列が錯綜していく構成は見事だなと思うし、師匠と弟子という関係である丹下健三と磯崎新二人の相反する個性の持ち主である建築家の、様々に違う設計思想であったり、コンペへの戦略なんかがすごく面白い作品でした。建築物に興味がある人はそれなりにいるかもだけど、建築家や建築思想なんかに興味を持っている人はそこまで多くはないかもしれません。でも、そんな人でも存分に楽しめる作品だと思います。いろいろあって、読んですぐ感想が書けたわけじゃなくて、ちょっと今回の感想には不満が残りますけど、魅力がうまく伝わらなかったとしたら僕の文章がイケてないせいだとおもいます。ぜひ読んでみてください。

平松剛「磯崎新の「都庁」 戦後日本最大のコンペ」


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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

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5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
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16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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1位 千早茜「からまる
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