黒夜行

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戦友の恋(大島真寿美)

内容に入ろうと思います。
主人公は、漫画原作者の山本佐紀。佐紀は、「山本佐紀」の生みの親であり育ての親でもある編集者・石堂玖美子とこれまで突っ走ってここまでやってきたのだけど、その玖美子が突然死んだのだ。
玖美子が死に続けている世界を、今日も私は生き続ける。
佐紀の中には、常にその感覚がある。
漫画家を目指していた山本あかねは、まだ新人編集者だった玖美子に、「絵は巧くないけど話はいいから、漫画の原作者にならないか?」と声を掛けられる。漫画家になりたかったあかねはしばし抵抗したものの、自分に絵の才能がないことはちゃんと分かっていた。「山本あかね」という本名は、いつか漫画家としてデビューする時までとっておきたいから、という理由をつけて、漫画家志望の山本あかねは「山本佐紀」という漫画原作者になった。
二人は、共に新人だった。編集者も漫画家原作者も、がむしゃらに頑張った。玖美子ががむしゃらに企画を作り、佐紀ががむしゃらに話を紡ぎ、そうやって二人は「戦友」として戦ってきた。
玖美子は生前、「佐紀は友達じゃないから」と言っては場を白けさせていた。けど、確かにそうなのだ。玖美子と佐紀は、友達というのとは違う。「戦友」という響きの方がぴったりくる。
玖美子も佐紀も、その実力や実績を買われて、共に順調にメジャーになっていった。玖美子は社内でも敏腕編集者となっていたし、佐紀も、どうにか食べていけるという状態はとっくに脱し、余裕のある生活を送れるようになっていった。
玖美子が突然死んだのは、そんな折だった。
佐紀は、生前玖美子が付き合っていた男とその息子に会い、変わった担当編集者と噛み合わないやり取りをし、どこにも行き着かなかった恋愛の果てに深夜焼肉を食べ、風呂屋の娘とライブに行き、幼稚園から同じだった旧友と再会し、そうやって終わりなき日常を生きる。
玖美子のいない日常を。
というような話です。
本書は、実際は6篇の短編が収録された連作短編集なんですけど、個々の短編を紹介しないで全体を長編のように扱った方が良さそうだなと判断しました。
これはなかなか面白い作品でした。でも、この良さを伝えるのはなかなか難しいんだよなぁ。
僕が凄くいいなと思ったのは、本書の「ダラダラしている感じ」です。全然褒めてる感じしませんね。でも、こんな風に書くしかないんです。
そうだよなぁ、俺らの日常とか会話って、これぐらい「ダラダラ」してるよなぁ、って思うんですん。
特にドラマを見てると思うんだけど(最近あんまりドラマとか見ないからわかんないけど)、「日常の中にそんなこと起こらないでしょ」とか、「そういう関係性の人間がそんな会話するか?」みたいなシーンって結構出てくる気がするんですね。小説なんかでも、そんな風に思うことってあります。
まあそれは、ある程度「お約束」として受け流すことになっています。ドラマにしても小説にしても、やっぱり『ストーリー』的な部分がメインになってくるし、そうするとどうしても不自然な部分というのは出てきてしまうだろうなと思うんです。
本書は、『ストーリー』的な部分に力点を置いていないと思うんですね。
正直、本書で描かれる話って、「そうでなければならない」みたいな感じって、どの場面でもあんまりないんです。展開とか状況設定に、特段の必然性がない。なんとなく、普通の小説を読み慣れてると、こういう作品って「あれ?」って思われちゃう感じがあるように思います。
でも、僕らの日常って、基本的にそうですよね。
ドラマとか小説に何を求めるのかという、受け取る側のスタンスによってもかなり変わるんで難しいところではあります。ドラマや小説に「非日常」を求めるのも正しいし、そうであれば、それを「僕らの日常」と比較することにさほど意味はないでしょう。つまり、僕らの日常とどれだけかけ離れているかで、非日常感が変わってくるわけだから。
けどその一方で、ドラマや小説に「日常」を求めるのもまだ正しいでしょう。そして本書は、「限りなく日常に近い日常」を描き出している作品だと思うんです。
日常には、特別なことは起こらないし、必然性のある展開というのもあまりない。大体、何故か分からないけど突然何かが起こって、それまでの脈絡を無視して物事が展開していく。もちろん人間は、自分が受け取った様々な情報に後付けで意味を見出してしまう生き物だから、そういう日常であっても必然性を感じられることもよくあるんだけど、でも冷静に客観的に見てみたら、日常なんてハチャメチャだと思います。
それは会話も同じで、僕らが普段している会話を録音して後で聞いてみたら、きっと愕然とするでしょう。第三者が聞いて理解できるような会話って、ほとんどありえないと思います。もちろん、それじゃあ物語が成り立たないから、ドラマや小説の中ではリアリティをある程度犠牲にしつつ会話が組み立てられる。それはお約束として成り立っているんだけど、でもそれに従わないといけないわけでもない。
本書で描かれる会話は、本当に「ダラダラ」している。一文が長いし、話の途中で別の話題に飛ぶし、要領を得ない話し方をしている。もちろんこれでも、小説用に分かりやすくデフォルメされている方だと思うけど、それでも、普通の小説にはない「ダラダラ感」が満載だなと思います。
本書の一番の魅力は、この「ダラダラ感」なんだろうなぁ、と僕は感じました。
おかしなことだけど、著者が本書に対してとっているスタンスは、「邪魔しないこと」なんじゃないかな、とさえ思った。
石堂玖美子だって山本佐紀だって、もちろん著者が作り出したキャラクターなわけで、行動も会話も全部著者が書いてるのはわかってるんだけど、でもなんとなく、「石堂玖美子」と「山本佐紀」という二人が実際にいて、とりあえず即興で会話をさせてみて、著者がそれを巧いこと切り取って編集している、みたいな感じがしちゃうんですね。著者がやっているのは、会話の雰囲気をなるべく壊さないように編集することだけで、どこかで即興の会話をテープに録っているんじゃないかなぁ、なんて思わせてくれます。
展開に必然性のない日常を書くのって難しそうだなぁって思いました。どんなことでも脈絡なく起こりうる日常を、日常の雰囲気そのものを壊さずに一部だけ取り出してみるっていうのは、やっぱり凄いんじゃないかな、と思います。本当に、特に何が起こるわけでもなく、登場人物たちがダラダラと喋っているだけの小説なんだけど、そのダラダラしい日常のズルズル引きずられていってしまう感じがします。この、巧く説明できない感じがなかなかもどかしいんだけど、結構面白いんじゃないかなぁ、と思いました。
登場人物についてもあーだこーだ書いてみたい気もするんだけど、捉えどころがなさすぎてなかなか難しい。人間って、やっぱりわかりやすい生き物じゃないから、そんなに簡単に切り取れるものじゃない。でも普通は、人間を「キャラクター」という、性質のわかりやすい何かに置き換えて物語を進めていくんだけど、でも本書の場合、人間のわからなさみたいなものをそのままポーンと投げ出しているような感じがある。言語化されていないものを受け取った時、人間はそれを「わからないものとして拒む」か、「自分の中で無理やり言語化して取り込む」かになりそうだけど、でも本書の場合、わからないもののまんま自分の内側にスーッと入ってくるような感じもする。言語化しないまま取り込んでいるから、それをどう表現していいのかも分からなかったりして、なかなか人に伝えるのが難しい小説っだなぁ、という感じがしています。
たぶん僕の感想を読んでも、どんな小説なのかさっぱり分からないでしょう。でも、まあそれは仕方ありません。あなたにとって、特にどうということもなかった一日を、誰かに説明してみるとしましょう。あまりの伝わらなさに愕然とするのではないかと思います。本書は、なんかそんな感じの小説です。僕は本書の「ダラダラしさ」みたいなものが凄く面白いんじゃないかな、と思いました。是非読んでみてください。

大島真寿美「戦友の恋」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)