黒夜行

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サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻(佐藤青南)

内容に入ろうと思います。
本書は、行動心理学を駆使して被疑者の嘘を見破る超美人捜査官・楯岡絵麻が活躍する、ちょっと変わった警察小説です。
一介も巡査部長にすぎない楯岡絵麻は、下の名前をもじって「エンマ様」とやっかみまじりに呼ばれる。警視総監にまでその評判は届いているようで、被疑者の自供率は100%。嘘をつく際の「なだめ行動」を見破り、感情を司りると呼ばれる脳の部位「大脳辺縁系」と直接会話を交わすことができるとのたまう。実際絵麻は、被疑者に様々な質問を浴びせ、被疑者の口から出る答えではなく、被疑者の全身のどこかに現れるなだめ行動をチェックして真相にたどり着く。
という設定の、5編の物語が収録された作品です。

「YESか脳か」
身代金目的の誘拐を企てたとして、公衆電話で捕らえられた男。絵麻は、まるでキャバ嬢であるかのように、親しげに被疑者と話をする。常に絵麻の取り調べに付き添ってきた西野も、今回ばかりはヒヤヒヤする。なにせ、まだ誘拐された女の子は犯人の手の内にあるのだ…。
絵麻は混乱する。男は何かを隠しているけど、それが何なのかわからない…

「近くて遠いディスタンス」
火災現場から他殺体が発見され、重要参考人として連行された歯科医。犯行を否認する歯科医になだめ行動は見られない。しかし歯科医は、凶器の在り処は知っていて、実際に絵麻の能力で凶器は発見されている。一体どういうことだ…。

「私はなんでも知っている」
夫が始めた喫茶店の片隅で占いを始めたところ人気が出たという占い師。とある殺人事件の重要参考人として連行される。その占い師が「三日後に死ぬ」と予言したまさにその通りに死亡したのだ。しかし、占い師になだめ行動は見られない。予言が当たったなどというアホみたいな話を受け入れないとすれば、犯人は占い師としか考えられないのだが…。

「名優は誰だ」
人気俳優が殺害され、その不倫相手だとされていた若い女優に容疑が掛かった。若い女優はテレビカメラの前で容疑を否認。そしてその直後、同じく女優で、殺された人気俳優の奥さんが、私が殺しましたと出頭してきた。自分が殺した、という証言になだめ行動は見られないのだが…。

「綺麗な薔薇は棘だらけ」
西野が最近付き合いだしたという女の話を聞くと、明らかに西野はその女に騙されている。しかし西野は耳を貸さない。
そんなやり取りをした直後、西野が無断欠勤をした。強引に捜査を開始した絵麻は、最終的に西野から話を聞いていたその女を連行してきた。
結婚詐欺の疑いがある。そして、引っ掛けた男たちを自殺に見せかけて殺しているという疑いが。
西野は、西野はまだ生きているのだろうか…。

というような話です。
本書を読んだ正直な感想は、「惜しいなぁ」というものです。
なんというか、設定や物語の展開はなかなか巧いと思うんです。心理学を応用したという地に足のついた嘘の見抜き方は、僕自身には知識はないけど恐らくまっとうなものでしょうし(本書を読んで、メンタリストのDaigoは、恐らくこういう手法を様々に組み合わせてマジック的なことをやってるんだろうなぁ、と思いました)、一編一編違った展開を見せる物語もなかなか上出来だと思うんです。
でもどうしてもなぁ。「面白かった!」というところまで行かないんですよね。あと一歩なんだけどなぁ、という惜しさがつきまとう感じがします。
その惜しさの正体がどの辺りにあるのか見定めようと思ったんですけど、なかなかズバッとこれだっていうのを見つけるのが難しかったです。
僕が思ったのは、舞台に動きがなさすぎるのが敗因かなぁ、ということです。
基本的にどの話も、取調室を全然出ません。取調室から始まり、取調室で終わります。物語の最後は、絵麻と西野が飲みに行くっていうところで終わるんですけど、まあそれはオマケのようなもので、メインのストーリーはすべて取調室で完結します。
もちろん、舞台設定がまったく変化しない小説で素晴らしいものもたくさんあるでしょう。東野圭吾の「むかし僕が死んだ家」なんかは、ある一軒の家が舞台で、しかも登場人物は最後までほぼ二人という設定で面白い物語に仕上げているし、円居挽の「丸太町ルヴォワール」の第一章も、ある部屋の中で登場人物が二人きりという設定で同じく物凄く面白い物語に仕上げています。
とはいえやはり、舞台設定に変化がない物語というのは、非常に難しいのかもしれないなぁ、と思いました。
本書も、話の展開は巧いです。ただ嘘を見抜くだけではなくて、相手の嘘は見抜けるんだけど、でも…というところから話を展開させているところは巧いんです。相手が嘘をついているということが分かっても、絵麻の側が適切な認識をして適切な言葉を叩きつけないと、どんな嘘をついているのかというのが分からない。そこにミステリの核があって、それはなかなかよくできています。
ただ、そこまで面白くないんだよなぁ。惜しい。どうしたらいいのか分からないけど、どうにかして取調室だけの話じゃなくするしかないような気がするんだよなぁ。
ネタ的に、もうちょっと長くてもいいのかな、という感じもしました。
例えば二話目なんかは、ミステリとしては若干フェアではないかな、という感じがします。最後の解決編の場面で初めて登場する人物が出てきたりする。まあ、別に本格ミステリってわけでもないし、そこまで厳密に考えなくてもいいのかもだけど。
でもこの話も、例えば絵麻は取調室で被疑者を追い詰め、同時に刑事が外で捜査もする、という展開を組み込めば、中・長編としても成立しそうだし、取調室だけの話でもなくなるから、物語全体に動きが出ていいかなぁ、なんて思ったりしました。
ちょっと惜しい作品です。でも、ハードルを上げないで読めばある程度面白く読める作品だとも思います。

佐藤青南「サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)