黒夜行

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旅猫リポート(有川浩)

内容に入ろうと思います。
本書は、一匹の猫とその飼い主が、『結果的に旅をすることになる』物語です。

野良猫として生きていきた、ある車のボンネットが気に入っていた。その車の上に乗っていてもとやかく言われないからだ。持ち主は猫好きのようで、時々関わってくる。
ある日僕は車に轢かれて重症を負ってしまう。どうにか力を振り絞っていつもの車のところまで這って行った。
そうやって僕たちは一緒に暮らすことになったんだ。

宮脇悟は、飼うことになった猫に「ナナ」と名付けた。小学生の頃に飼っていた猫が「ハチ」だったのと、尻尾の形が「7」の形に似てたからだ。悟は、最後まで飼うことが出来なかったハチの分まで、ナナを可愛がった。

凄く素敵な5年間だったけど、でも、色々あってサトルは僕のことを手放さなくちゃいけなくなった。それでサトルは、僕を連れて車であちこち行くことになったんだ。

「Report-01 コースケ」
澤田幸介は小学生の頃、悟と一緒にスイミングスクールに通っていた。
ある日。スイミングスクールに向かう途中の道で幸介は捨て猫を見つけたのだった。
幸介はその猫を飼いたかった。でもウチは…。
父親の猛反対に遭い、幸介はその猫を飼わせてもらえなかった。それを悟に告げると、「じゃあ今から家出しよう!」と持ちかけてきた。
僕らは、そんな風にして仲良くなったんだ。
その時の猫がハチだ。結局あんなことがあって、悟とハチは一緒に住むことができなくなっちゃったけど…。

「Report-02 ヨシミネ」
吉峯大吾は、家庭のとある事情により、中学二年の時に転校してきた。そこで、悟と仲良くなった。
理想の教師像とやらを持っているらしい美人教師の同情が物凄く鬱陶しかったんだけど、それを悟がとりなしてくれたのだ。吉峯は、担任教師からの同情が過剰なだけで大したことはないのだけど、悟は大したことないなんて言えない環境だった。それでも、そんな風に見せない悟の姿に惹かれた。
農作業をしたことがないという悟を、吉峯は自分が祖母宅へと頻繁に誘った。こんな祖母を持てただけでも、両親に感謝したくなるほどだった。

「Report-03 スギとチカコ」
杉修介と悟は、高校時代に一匹の犬を助けたことで仲良くなった。
杉には幼馴染の千佳子がいて、その千佳子が大の動物好きだったのだ。定期考査の朝、まだ仲良くなかった悟が困っている犬を見つけたというだけでは動かない杉だが、このことが後で千佳子の耳に入って、「修ちゃんは犬を見捨てた!」なんて言われると面倒だからなぁ、なんて思いで手伝ったのだ。
最初から、悟には叶わなかった。千佳子も悟も猫好きだし、二人とも底から「良い奴」なのだ。自分の人間の浅さが嫌になる。
不安な気持ちが、最悪な行動を取らせる。杉は未だに、悟への負い目を消せないでいる。

以降の内容紹介は省略。

というような話です。
さすが有川浩!やっぱり素敵な話を書くものですなぁ。
今回は内容紹介がなかなか難しくて、とりあえずこんな感じになりました。猫の話がほとんど出てこないけど、その辺りのことはこれから書きます。
有川浩の作品は、冒頭の設定の段階で読者の心をギュッと掴みとるものが多いと思う。その設定だけで満点ですよ!と言ってしまいたくなるような作品だ。
本書もそう。本書は、しばらく読まないと全体を構成する流れが見えてこないのだけど、でもその設定は「ズルいぐらいいいなぁ」と思わせる。
表向きは、「諸事情あって猫の引き取り手を探している悟が、お見合いのためにあちこち渡り歩いている」という作品だ。いや、別に「表向き」なんて断らなくてもそういう作品なんだけど、でもそれだけじゃない。そして、それだけじゃない部分に、猫の「ナナ」が関わってくるんだよなぁ。
この辺りの設定が本当に絶妙だなと思います。本書は、悟の行動が物語全体を引っ張っているように見せかけて、実はすべてはナナが引っ張っている、という物語なのだ。なるほどなぁ。
当然、ナナ視点の描写も挿入される。このナナ視点の描写が凄くいい。僕は猫に詳しいなんてことはなくて、ってか全然知らないけど、でも猫の生態なんかをうまく踏まえつつ、『猫の思考』なんてものがあるとして、それを取り出すことができたらこんな感じなのかもしれないなぁ、と思わせる描写になっている。人間との感覚の違いを描写してクスっと笑わせたり、猫らしい(?)素直さを発露して感動させたりと、このナナ視点の描写が本当に作中でうまく活きるんですね。上手いです。設定としては、人間は猫の言葉は分からないけど、猫は人間の言葉は理解できる(しかも、外国語もOK!)らしく、「猫が人間の言葉を理解できないと思ってるなんてまだまだだね」みたいな感じの呟きさえ出てくる。人間の言葉を理解して行動してるのかもしれない、と思わせる動物の行動は、本当に人間の言葉を理解しているからかもしれませんよ(笑)
しかし、こうやっていつものように思いついた端から色んなことをブログの文章として書いてるんだけど、本書の場合、「これは書かない方がいいよなぁ」というものが多くて困る。ブログを書く時はいつもその辺りのことは結構きっちり考えてるんだけど、今回はなかなか苦労させられるなぁ。
内容紹介をした三つの話は、いずれも子ども時代の話がメインになってきます。彼らがどんな風に出会い、どんな時間の中で育ってきたのか。その中で、宮脇悟がどんな人間だったのか、という描写が結構メインになります。
有川浩作品は、こういう描写が本当に上手いと思う。出会いから関係性の深化まで、そこまでトリッキーなわけではない、どこにでもありそうなエピソードを積み重ねることで描き出していく。「コースケ」で描かれるハチとの出会いは、悟のキャラクターを描写するのにぴったりだし、「ヨシミネ」で「理想の教師像を持つ美人教師」を登場させるのは絶妙だ。そして何よりも、「スギとチカコ」で描かれるスギの葛藤は、ホント絶妙なバランスで成り立っているよなぁ、という感じがします。有川浩は、些細な出来事の積み重ねで、人間関係のちょっとした機微を本当に巧く描き出すのだけど、その手腕は本書でも遺憾なく発揮されているなという感じがしました。
僕は、ペットとかほとんど飼ったことがないし、これから飼うつもりもないし、動物を可愛いともあんまり思わないのだけど、飼っている動物がいたり、飼ってはいないけど動物が大好きなんていうような人には、もうたまらんのだろうな、という気がします。僕は、ペット飼いたくなったりしないんですか?と以前聞かれた時に、「気まぐれに撫でたりする時だけ現れて、そうじゃない時は空間から消えさってくれるならいいよ」と言い放ったことがあるどうしようもない人間なので、動物を飼うという感覚とか、その可愛がる感じなんかはイマイチよく分からなかったりするのだけど、ナナみたいな思考を持ってて、さらに出来ればそれを喋ってくれたりするなら、ちょっと考えてもいいなぁ、なんて思ったりしました。
というわけで素敵な作品なんだけど、でもこの作品を人に勧めるにはちょっと抵抗があるなぁ、という感じもあるのでした。
それは、若干の『気恥ずかしさ』です。
本書は、ちょっとあまりにも真っ直ぐ過ぎるな、という感じがしてしまいました。確かに有川浩の作品は、恋愛でも任務でも仕事でも、とにかく真っ直ぐ突き進んでいく人間が描かれることが多いけど、本書の『真っ直ぐさ』はまたちょっと別ではないかな、という感じがしました。
それは、片割れが猫だから、なんだろうなと思います。
サトルとナナのペアが、もし人間同士だったら、どんな人だってそこに気恥ずかしさを感じ取ると思います。でも、片割れが猫だからこそ、そういうことを気にせず作品に浸れるようになっているんだろうな、という気はします。猫なんだから、真っ直ぐすぎても大丈夫だよね、なんていう意図が著者にあったかどうかは分かりませんけど、なんとなくそういう雰囲気を感じてしまうんですね。
だからこれまでの有川浩作品よりも、より『真っ直ぐさ』が濃いような気がするんですね。そして僕は、それがなんだかちょっと恥ずかしかったりするんです。
この感覚、分かってもらえたりするかなぁ。
僕はこの作品を「良いよ!素敵だよ!」って言いたいんだけど、なんだか胸の内に残るこの気恥ずかしさがそれを邪魔するんですね。なんとなく、べた褒めするのが恥ずかしいし、「これ良いよ」って言って人に勧めたりするのが恥ずかしいような気がしちゃうんだよなぁ。まあ、僕だけかもしれませんけど。
まあとはいえ、さすがは有川浩だなという感じの作品でした。内容紹介を敢えて書かなかった部分の展開も素敵です。やっぱりちょっと泣かされてしまいましたしね。ペットを飼ってたり動物好きだったりするとより良いんだろうけど、そうじゃなくてもきっと楽しめます。是非読んでみてください。

有川浩「旅猫リポート」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)