黒夜行

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督促OL修行日記(榎本まみ)

内容に入ろうと思います。
本書は、新卒で信販会社に入社し、支払延滞顧客への督促を行うコールセンターに配属され、それはもう戦場のような日々を過ごし心をメッタ刺しにされ続けた著者による、自身がこれまで経験してきたことを綴ったエッセイと、督促によって鍛えられた対クレーマー対策について書かれている作品です。
著者は、内定がなかなか取れない時代に就職活動をし、ようやく内定をもらえたのが今も勤める信販会社だった。「お客様に感謝される仕事をしたい!」と思っていたにも関わらず、配属されたのは「倉庫」「男子校」と呼ばれ、社内でも最高の不人気度を誇っていたコールセンターだった。
著者が配属されたのは、出来たばかりのコールセンターで、そこにはズラリと並べられた机の上に電話がポンと置かれているだけの、パソコンも何もない、本当に最低限のものしかない足跡のコールセンターだったのだ。
3班に分けられたそのコールセンターに配属された女子社員は3名。結果、1班に女子社員一人という、まさしく「男子校」と呼ぶに相応しい環境だったのだ。
しかも窓が一つしかなく、高温多湿で人が多い、しかも一日中電話をしているという環境なので、インフルエンザを始めとした感染症の温床というオマケつき。朝7時から終電までという超激務の中、女性というハンディもありつつ、成績(回収率)をまったく上げることができないでいた著者。しかし、元々離職率の高い職場だとは言え、心を病んだり難聴になったりして辞めていく同期や先輩の姿を見るにつけ、「どうにかしなくちゃ!」という思いをどんどん募らせていくことになる。
そうやって彼女は、ヘタレなりに交渉術やテクニックを学び、と同時に、どうやったら人が辞めない環境を作れるかということも考え、今ではクレジットカードの回収部門で300人のオペレーターを指示し、年間2000億円の回収を担当するまでになっている。
そんな著者のドタバタ奮闘記です。
サラッと読める一冊ですけど、なかなか面白かったです。まったく知らない世界だということもあって、へぇーそうなんだ~、というような描写がたくさんありました。
例えば、電話をしても本人以外には会社名を名乗れないとか、確かにちょっと考えればそうせざるを得ないのは分かるんだけど、それメッチャ大変だなぁ、とか思いました。
つまり、キャッシングをしていることを家族に知られたくない場合、契約の段階で「家族には知らせない」という項目にチェックが出来る。そうなると、いくら督促といえども、電話に本人以外が出た場合、社名を名乗れないのだ。そのせいで、何度も電話を掛けてくるストーカーと間違えられたり、同棲していた女性に逃げられたりしてしまう(!)なんていうこともあるわけだ。
しかし、著者も書いているように、『会社名を名乗れないジレンマに加え、ご家族が契約者様を守ろうと取った行動が、結果としてご本人の信用を損ねてしまうことになるのは、なんだかやり切れない』というのは凄く分かる。なんというか、仕組みとしてもっと洗練されたものには出来ないものなんかなあ、とか。
著者本人の話だけじゃなくて、先輩たちの話も面白い。特に、貸金業法改正以前からバリバリ督促をやっている海千山千の猛者どもの話は凄すぎる。家に回収に行ったら包丁を持った男に閉じ込められたとか(えっ?)、「電話禁止」と書かれたファイルに手をつけたら街宣車がきたとか(えっ?)みたいな、ぶっ飛んだ話がところどころ出てくる。
とにかく、督促という仕事にまつわる珍エピソード(なんていうと、頑張って督促をやっている方に失礼かもだけど)はなかなか斬新だ。払ってくれない人に「払ってください」と言う仕事はあるだろうな、ぐらいの認識でしかなかったけど、本当にそれを日々やっている人が体験するエピソードは凄いし、とんでもない世界だなと思う。
入社当初はヘタレだった著者は、色んな人からテクニックを盗んだり聞いたりして成長していくわけなんだけど、その『交渉のプロたち』のテクニックも素晴らしい。本書の中では、『督促OLのコミュ・テク!』というコラムっぽい感じで別でまとめられているんだけど、これは督促という場じゃなくても役に立つなぁ、という感じがしました。特に、「申し訳ありません」の繰り返しは逆に耳障りだから、「具体例」+「謝罪」という形にするといい、という話は、なるほどなぁ、と思いました。このクレーマー対策のテクニックは、少しずつ僕も身に着けていきたいなぁ、という感じがします。
しかし、僕が本書を読んで強く感じたことは、『クレーマーの理不尽さ』と『クレジットカードの敷居の低さ』です。
本書に出てくるクレーマーたちには、ホントに腹が立つ。
様々な価値観が世の中にあるだろうし、状況も様々に違うだろう。でも、『借りたものを返していない』人間に、とやかく言える筋合いはなかろう、と思うのだ。もちろん、懇願したり泣き落としをしたりと、色々するのは分かる。使っちゃった方だって、止む無くということだってあるだろうし、申し訳ないと思っているならそれはそれで仕方ないと思う。
けど、『俺の支払う日に支払うんだから黙って待ってりゃいいんだよ!』『借りたお金を返せって気持ちがある人にはお金払いたくないんですよね』(どっちも本書で出てきたセリフです)みたいなことを言う奴は、あーーー!!ムカつくーーー!!!ってなもんである。いやいやいやいや、百万歩譲っても、あんたの方が悪いですから!って思っちゃいますね。ちょっと唖然とした、こんなセリフもありました。50代の女性に督促した時に言われたセリフ、と本書では書かれています。

『こんな人を不愉快にするような仕事、しない方がいいと思いますよ!まじめに働きなさい、まじめに働くことだけを考えなさい!』

はぁぁぁぁぁーーーー???って感じですよね。おめぇが払わないからこんな『不愉快な仕事』をしなくちゃいけないんだろうが!って言いたくなります。
まあ、そういう人は一部の人なんだろうけど、でもある一つの信販会社の、しかもクレジットカードの回収部門で、年間2000億円回収してるってことは、うっかり忘れててみたいなのが相当含まれているとはいえ、支払われていない金額が年間3500億円近く(本書の中で、回収率は約6~7割みたいなことが書かれていたので)あるってことですよね。それはちょっと酷すぎるな、と思いました。
それと関係するけど、『クレジットカードの敷居の低さ』にも問題があるだろう、と思いました。
僕はクレジットカードを持たないようにしているけど、たぶんフリーターの僕だって、作ろうと思えば何らかのクレジットカードをどこかで作れてしまうことでしょう。たぶん、クレジットカードの契約を担当する営業の方は、とりあえずどんな人でも成績になるからと言って、どんどんクレジットカードの敷居を下げてきたんじゃないかな、という気がします。
でも、そうやってクレジットカードの敷居が下がれば下がるほど、モラルのない人もたくさん含まれてきますよね。
貸金業法が改正された今、状況がどんな風に変わったのか僕はちゃんとは知らないけど、少なくとも前よりは敷居が上がったことでしょう。僕は、それでいいんだと思うんです。誰もかれもがクレジットカードを持っている世の中なんて、おかしいよなぁ、って思います。入り口がそうやって低くなればなるほど、本書で描かれているような督促の人たちが苦労するわけです。契約を取った人間が回収まで担当すればこんなことにはなってないんでしょうけど(自分が回収しなければならないとしたら、契約するかどうか吟味するでしょう)、自分以外の誰かが回収をしてくれるなら敷居だってどんどん下がることでしょう。なんか、それは違くないか?って凄く思いました。
本書の中で、もの凄く素敵な言葉があったんで引用してみます。著者が、海千山千の猛者の一人に、「そんなに人に嫌われる仕事なのに、なんのために、誰のためにやるんですか?」と聞いた時の答えだ。

『私たちが相手に嫌われても、怒鳴られても、包丁を突きつけられても、督促しなければならないのは、お客様の信用を守ることができるから。お客様の信用を守るのはもしかしたら命を守ることになるかもしれないしね』

本書では、信用を無くした人が救急車に拒絶された例を出して、社会の中での信用を失わないために自分たちの仕事があるんだ、というような話が出てきます。いやはや、素晴らしいなと思いました。相手は怒りに任せて怒鳴りつけてくる人たちなのに、そんな人たちの信用を守るために自分がいるんだ、なんて思えるなんて、まるで仏様みたいなものだなと思います。
あまり具体例を書きすぎて本書を読む興を削いではいけないと思って極力具体的な話は書かなかったけど、とにかく色んな話が盛りだくさんで面白いです。ハードな話なのに、全然深刻な感じで描かれないから、気楽な感じで読めます。本当に、クレジットカードの支払を延滞しちゃってる人とか、お金関係じゃなくても企業とか店舗に厳しいクレームを言っちゃうような人に、是非読んでほしいなぁ、と思いました。あなたのその行動のせいで、これだけ苦労している人がいるんですよ、と。

榎本まみ「督促OL修行日記」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)