黒夜行

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百年法(山田宗樹)

内容に入ろうと思います。
物語は、2048年の『日本共和国』で始まる。
日本は、6発の原子爆弾を受け焦土と化し、しかしそこから奇跡の復活を遂げた。共和制を取り、共和国憲法と共にゼロからやり直した日本は、しかし敗戦から100年余が経った今、大いなる問題を抱えている。
それが、百年法だ。
正式には、生存制限法と呼ばれている。

『不老化処置を受けた国民は、処置後百年を以て、生存権をはじめとする基本的人権は、これをすべて放棄しなければならない』

世界中でHAVIと呼ばれる技術によって、多くの人が老化とは縁を切ることが出来るようになった。アメリカの研究者によって『ヒト不老化ウイルス(HAV)』が発見され、その処置を施された人間は永遠に老化しない。そんな技術が戦前に確立され、現在では既に世界中に広まっているのだった。
しかし、人類の不老化は、新たなる問題を引き起こす。人口の増加や食料問題など、人が死んで行かないがために社会に多大なる影響を及ぼすことになるのだ。
それを予見したアメリカ議会は、HAVIの開始と同時に生存制限法を成立させた。HAVIから100年経過したら、専用の施設で死ななければならない、と定めた法律だ。
HAVIは世界中で行われているが、各国で使われ方が異なる。中国では、HAVIを受けられるのは一部の特権階級のみ。韓国では生存可能期間を40年と定めている。それぞれ何を目的にするかによってHAVIの運用法を変え、それによって各国とも一定以上の成果を出している。
しかし日本は、間違った道を進み続けてしまった。
日本はアメリカと同じモデルを採用している。つまり、生存可能期間を100年としたのだ。生存制限法も成立させ、もちろん、HAVIを受ける際にもそのことは伝えられる。
しかし2048年現在。政治は揺れている。もうすぐHAVI導入から100年が経つというこの年、『百年法凍結』がまことしやかにささやかれているのだ。
内務省生存制限法特別準備室で室長として百年法の準備に追われる遊佐は、政治家たちが百年法を政治の道具にしていることに憤りを隠せないでいる。百年法を凍結すればどんな事態になるのか、それは光谷レポートを読めばはっきり分かるはずだ。しかし彼らは、自分の命惜しさになのだろう、百年法凍結を現実のものにしようとしている。
もし百年法が凍結されれば、この国は瓦解する。
そう確信する者たちによって百年法の準備が万端に進められるのだが…。
ユニオンという、HAVIを受けた者向けの労働機関が存在する。単純労働により、最低限の賃金を保障するという仕組みだ。そのユニオンの一員である蘭子は、ユニオン内の空気の変化に敏感になっている。
誰もが、百年法の施行を恐れているようだ。
蘭子は、街で偶然、幼い頃の友人を見かける。しかしそれは友人ではなく、友人の娘だという。HAVIを受けた娘は、友人にそっくりだった。その娘が蘭子に驚くべきことを伝える。母はHAVIを受けず、老衰で亡くなったという。
HAVIを受けないという選択肢など考えたこともなかった蘭子は、その友人の選択について考える…。
刑事である戸毛は、60年近く前に起こったとある爆弾テロにより終身刑を受け、50年の牢獄ぐらしの後仮釈放された木場という男に付きまとっている。
戸毛は、阿那谷童仁の行方を追っている。
阿那谷童仁は、60年前の爆弾テロの首謀者だったと言われた男だ。実際逮捕され、処刑されたとされているが、処刑された男は影武者だったという噂がまことしやかに囁かれ続けている。
そんな阿那谷童仁を必死で追いかける戸毛だったが、木場はどれだけ付きまとわれても口を割らない…。
というような話です。
とてもとても評価の難しい作品だなと思いました。
設定は、マジで最高に面白いです。不老不死が実現したけど、100年経ったら死ななければならない、というこの枠組みだけを捉えれば、100点満点中200点つけてもいいぐらい素晴らしいです。これまでも、不老不死をテーマにしたSFなんかはあったでしょう。そういう作品を読んでいないので比較は出来なんですけど、でも百年法のようなものを提示して、不老不死そのものよりも百年法の存在により重心が置かれる作品というのはなかなかないのではないかなというように思います。
実際、この百年法を巡る展開は、非常にスリリングで面白いと思います。
前述した内容紹介は、本書の内容のほんの一部でしかありません。上巻の半分ぐらいまでこの話が続き、その最後で日本の行く末を大きく左右する決断が提示され、それから日本が泥沼化していく様子が描かれていきます。それは、物語の導入からはなかなか想像もつかないような展開ばかりで、興味深く読めるのではないかなという感じがします。『HAVI』と『百年法』という2つの要素が存在した場合どんなことが起こりうるのか。それを想像力豊かに展開し、恐るべき未来を提示してみせる手腕はなかなかのものだなと思いました。
でも僕はどうしても、本書を手放しで絶賛することが出来ません。
それは、著者の力量不足が目についてしまうからです。
僕が力量不足だと感じるのは、二種類あります。一つは、『HAVI』と『百年法』という2つの要素の調理の仕方。そしてもう一つは、人物描写です。
前者については、たぶんもっと違う作家が書けばもっともっと深いところまで掘り下げられただろうな、という感触が僕の中に強くあります。例えば、貴志祐介がまったく同じ設定で物語を書いたら、もっと深い物語になったのではないかな、と思えてなりません。確かに、『HAVI』と『百年法』の2つの要素を想像力を駆使して練り上げたのだろうなと思うのですけど、でもまだもっと深いところを目指せるはずではないかな、という感じがしてしまいました。
さらに、リアリティのあるシミュレーションだという風にも感じにくかったのですよね。上巻の前半までは良かったと思うのだけど、それ以降の物語が、『百年法』を巡ってというよりは、『独裁政治』におけるゴタゴタが描かれているような感じがしてしまいました。もっと、『百年法』そのものを突き詰めていけばリアルなシミュレーションになっただろうし、そうではなくて物語的にもっと面白くいきたければ、もう少し別の道があったのではないかと思えてなりません。僕の個人的な感覚では、どうしてもちょっと、中途半端な感が否めないなぁ、と思えてしまいました。
そういう意味では、帯にある佐藤優氏のコメントが一番正鵠を射ているという感じがしました。佐藤優氏は、『近未来に仮託して、日本の政治・官僚機構の欠陥を見事に描いた。感動した』と書いていて、確かにそれはそうなんです。この物語は、『百年法』が主役というよりも、『日本の政治・官僚機構』が主役という感じなんですね。それを描き出すための一要素として『百年法』というものがある、という印象でした。だから僕としてはもっと、『百年法』が主軸であって欲しかったなぁ、という感じがしてしまったのでした。
さて後者の人間の描き方についてですけど、こっちはちょっと辛いなぁ、と思いました。正直に言って、人間の描き方は稚拙に過ぎると感じました。本書を作品として成立させるためには、『HAVIや百年法によって、人々がどう感じているのか』という部分をとことん突き詰めて描き出さなければならないはずなのだけど、そこが弱すぎる。出てくる登場人物がみんな紙切れみたいな感じで、会話もペラッペラという感じがしてしまう。前者の、物語の展開についてはまだ許容出来るとしても、後者の人間の描き方に関しては、ちょっと許容し難いなという感じです。
あまり切実さが感じられなかったり、感情の振れ幅が大きすぎたり、感情が突発的過ぎたり、なんというか、その場その場で登場人物にこういう反応をしてもらわないと困るから、という作者の意図通りに動かされているような印象があって、僕にはどうしても評価が出来ませんでした。そういう意味でも、もっと違う作家が書いてくれたら、と思えてなりません。
普段の僕のブログであれば、こういうテーマの時は、『自分だったら不老不死になりたいか?HAVIを受けるか?百年法についてどう思うか?』みたいなことをグダグダ書き続ける感想になるはずなんですけど、特にそういうことを書きたいと思えるような雰囲気の作品でもありませんでした。なんか、ちょっと、残念なんだよなぁ。
設定は最高です。設定だけ取り出すのであれば、これほど見事な小説はなかなかないかもしれません。でも、物語の展開や人物描写にかなり難あり、という印象を受けました。

山田宗樹「百年法」




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10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)