黒夜行

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僕たちのゲーム史(さやわか)

内容に入ろうと思います。
本書は、30年ほどの歴史を持つ「ゲーム」をいうものを、ある観点に沿って流れを追いかける作品になっています。
その観点というのが、以下の二つです。

ゲームにとって変わらない部分→ボタンを押すと反応すること
ゲームにとって変わる部分→物語をどのように扱うか

本書ではゲームを、『ボタンを押すと反応するもの』と定義しています。ゲームというものの多様さの前に、あらゆるゲームを包括的に組み込むと(つまり、ありとあらゆるゲームの本質だけを抽出すると)、どうしてもそういう定義になってしまうのだそうです。
しかし、『ボタンを押すと反応するもの』という定義だけでは、これだけ多様なゲームが存在することの説明をすることは不可能です。そこで著者は、時代や作り手のスタンスによって自在に変化する部分として、「物語」というものを取り上げています。
本書の全体的な流れを示してみましょう。
本書で描かれるゲームの歴史は、『スーパーマリオ』から描かれます。それ以前にも様々なゲームがあったでしょうが、著者はここをスタート地点と定めます。
そして初めの内は、『ボタンを押すと反応する』という部分をどのように突き詰めていくか、という歴史になります。ただ、この部分の記述はあまり多くはありません。やはり、ゲームにとって『変化しないもの』とされている『ボタンを押す』という行為では、バリエーションを生み出すことはなかなか難しいのです。
そして再度『スーパーマリオ』に戻り、このゲームが、当時としては画期的な『物語性』を秘めていたと指摘します。今のゲームのような『物語性』ではなく、大量の『隠し要素』を配することで、ゲーム内の世界の奥深さに気づかせたというわけです。
そしてそこから、ゲームにとって変化する部分、『物語』についての話になっていきます。これが本書のメインと言えるでしょう。
後々語られるのですが、『物語性』を重視したゲーム作りは、日本に特異な状況のようです。海外のゲームにももちろん、『物語性』を意識したゲームは様々あるのですが、著者は様々な具体的なゲームの例を挙げながら、何故日本のゲームが『物語性』を重視するようになっていったのか、そして日本内部でも『物語性』というものの捉えられ方がどのように変化していったのか、という話になります。
そして終盤。日本のゲーム業界は、『物語性』を重視しすぎたことも要因の一つになって、衰退していきます。
何故なら、『物語性』が重視された物語は、そもそも海外の主流ではなかったというのもありますが、翻訳の問題もあったからです。
国内での販売数が落ちても、海外で売れるのであればそこまで衰退することはなかったでしょう。しかし、海外ではなかなかウケにくい『物語性』重視のゲームを作り続けてきた日本のゲームメーカーは、国内での販売数減に打撃を受けます。
そういう状況の中で、ここ最近のゲームには新たな展開が見られます。それは、変化しないと定義した『ボタンを押すと反応する』という部分まで変化していくことになります。そういう話の代表としては、『ひぐらしのなく頃に』という、ストーリー展開が一つしかなく、ボタンを押して画面を進める以外にすることがないゲームや、『ニンテンドーDS』のような、タッチペンという新しい入力方法の登場などがあります。
また『物語性』との絡みで言えば、一時期衰退した任天堂が、ニンテンドーDSやWiiなどで、短時間で手軽に楽しめる『カジュアルゲーム』を打ち出したことで新たなゲーム人口を獲得出来たけど、でもそれはスマホやフェイスブックなどでのゲームと競合しているという話が出ます。
またゲームは新たに、『コミュニティ』というキーワードを獲得します。『モンハン』や『ラブプラス』、あるいはオンラインゲームなど、コミュニケーションを主体に据えたゲームの台頭が近年の特徴という感じです。
これが大体本書の流れです。
さてここで、僕自身の話を書くと、僕は本当にゲームをまったくしない人間です。子どもの頃、家にファミコンとゲームボーイはありましたけど、スーパーファミコンがあったかどうかは覚えていません。僕がやったことのあるゲームは、『パワプロ』『マリオカート』『スーパーマリオ』とかそんなもんで、本書で取り上げられているような『物語性』が重視されているようなゲームはまったくやったことがありません。
今でも、自分がプレイするという意味でのゲームにはさほど興味が持てないんですけど(一人でゲームをするなら本を読む方がいいなと思うし、誰かと一緒にゲームをするのは面倒だなと思うので)、ただどんなものであっても、『まだ検証可能な歴史』というのは僕は好きで(学校で習うような歴史は、既に検証不可能な世界なのであまり興味が持てませんが、企業の歴史など、まだ関係者が存命であったり、当時の資料的なものがどこかにきっちり残っているような歴史に対しては結構興味があります)、たかだか30年という歴史しか持たない割に、僕たちの世界で圧倒的な存在感を持つようになったゲームというものについても、どんな歩みを見せて、またどんな出来事が後世にどんな影響を与えることになったのか、みたいな話は面白いですよね。
以前、「教養としてのゲーム史」という新書を読んだことがある。こちらも、ゲームの歴史を追っていく作品だけど、観点が少し違う。本書では『物語性』に着目しているのに対して、「教養としてのゲーム史」では、ゲームが空間的広がり・時間的広がりをどのように獲得して行ったのか、という歴史の記述になっているな、と感じました。
個人的な印象ですが、本書よりも「教養としてのゲーム史」の方が面白かったような気がします(「教養としてのゲーム史」の内容はあまり覚えていないので、あくまでも印象でしかありませんが)。
本書は、決して面白くないわけではないのですけど、個人的に感じるのは、『物語性』という言葉がちょっと広すぎたのかな、という気がしています。
確かに作中で、『物語性』について様々なタイプのゲームや、これまで起こったいくつもの変化を取り上げていますが、それを全部『物語性』という単語で括ってしまっているところが、ちょっと違うのかな、という感じがしてしまいました。個々の意見には賛同できる部分が多いんですけど(ゲームやったことがない人間の賛同なんて、信頼感ゼロでしょうけどね)、『物語性』という一つの大きな括りの中で、もう少し明確な細分化があってもよかったのかな、という感じがします。ちょっとこの、『物語性』について書かれている部分(割と本書のメインに当たるんですけど)の全体の流れみたいなものがはっきり見えてこなかったかなぁ、という感じがしました。
ただ著者があとがきで書いているように、『そのゲームを、当時の人の視点で評価する』というやり方は非常に良いと思いました。
冒頭で『スーパーマリオ』の話が出てきます。これは現在ではジャンプアクションゲームとして捉えられていますが、『スーパーマリオ』を任天堂は『アドベンチャーゲーム』として売りだしたし、プレイヤーは単なるジャンプアクションゲームに対してではありえないほどの奥深さを『スーパーマリオ』に対して感じていたのでした。
これを著者は、『スーパーマリオ』が登場するほんの少し前のゲーム業界の状況や様々なゲーム雑誌からの引用などを通じて示そうとします。
この試みは、非常に良いなと感じました。今の視点から当時のゲームを捉えるのと、当時の人たちの視点で捉えるのとでは、まるで変わったものになるでしょう。本書は、ゲーム雑誌の中の記述を様々に引用して、その当時sのゲームがどう捉えられていたのか、という部分について誠実であろうとします。そのスタンスには、非常に好感が持てます。
個人的に面白い話だなと思ったのは、『ポケモン』についての話でした。『ポケモン』が発売される遥か以前、CD-ROMとカセットという、次世代機戦争が勃発します。ソニーのプレイステーションに代表される高機能なゲーム機では、大容量で安価なCD-ROMが使われ始めたけど、任天堂はそれを冷ややかに見ます。また、『ポケモン』の開発者であり、ゲームライターとして頭角を現し、後に任天堂で販売するゲームを作る会社を立ち上げた田尻智は、CD-ROMの大容量に惹かれないと言っている。
結局CD-ROMが主流になっていく中で、田尻さんはゲームボーイという古いゲーム機で、『ポケモン』という大ヒット作を生み出すことになる。本書では、ゲーム作家の色んな思想が、ゲーム雑誌等の記述から推察される形で描かれますが、そういう様々な思想を持つゲーム作家がいたからこそ、ゲームというのはこれほどまでに広がったのだろうなと思いました。
また、『ひぐらしのなく頃に』っていうゲームの話もビックリしました。タイトルはもちろん知ってましたけど、これは選択肢や分岐が一切ない、ただボタンを押して物語を進ませるだけの、いわば『小説』のようなものなんですね。これがなぜ大ヒットすることになったのか、という話が、『ゲームより面白いもう一つのゲーム』というものを軸にして描かれているのはなるほどなぁ、という感じがしました。
個人的には、『物語性』という軸をもう少しはっきり細分化して欲しかったなという感じはしますが、僕のようにゲームを知らない人間でもなかなか面白く読める作品ではあります。個人的にはやっぱり、ゲームボーイで『ポケモン』を作った田尻智みたいに、ローテクを組み合わせることで驚きを生み出すような、そんな仕事が好きだなと思います。

さやわか「僕たちのゲーム史」


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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)