黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

探検隊の栄光(荒木源)

内容に入ろうと思います。
舞台は1980年代。まだまだテレビの勢いがガンガンあって、テレビ屋も自由にバリバリ仕事が出来た時代。
「杉崎探検隊」は、不定期のスペシャル番組として既に6年続き、本数にして40本に迫ろうという局の看板番組だった。
元プロ野球選手だった杉崎正雄を隊長として、プロデューサーの井坂善三、構成作家の水島啓介、ディレクターの瀬川学、ADの赤田康弘、音声の小宮山秀一、カメラマンの橋下政明、照明の渡部繁というメンバーでロケにやってきている。
今回の設定は、ジャングルの奥深くに潜む伝説の大蛇「ヤーガ」を追うというものだった。金色に輝く「ヤーガ」は、無数の蛇たちに守られて洞窟に暮らしている、という設定で、長い行程の間にいくつもの撮影を挟みながら、ようやくロケハンの時に使えそうだと判断した洞窟までやってきた。
彼らにとっては、とにかく「本物らしく」見えればなんでもよかった。ヤラセ、どころではない。『探検』という形で撮影されるほぼすべての行程が捏造だ。しかし、それでいいと思っている。視聴者だって、そういうもんだと思って見ているはずだ。とにかく、楽しければいい、くだらなければいい。彼らは、設定には出来るだけ忠実に、それでいていかにインパクトがあり、かつ馬鹿馬鹿しい映像を撮れるか。それを真剣にやっている。
その洞窟には、異物があった。
薬莢だ。
そしてその洞窟には、人型の的もあり、それを見た現地ガイドらは、報酬も受け取らずに逃げた。
しかし彼らには、その重要性は理解できず、そのまま撮影を続けたのだった。
その洞窟で寝袋を敷き眠っている一行の元にやってきたのは、迷彩服を着た三人の男たちだった。
彼らは、反政府組織に所属するゲリラなのだった。
確かに彼らがロケにやってきた国は独裁的な政権が続いており、反政府組織との武力紛争も時折日本のニュースで伝えられていたが、反政府組織は南部を中心に活動しており、彼らがロケをしている北部周辺にはいないはずだった。外務省が指定する渡航危険地域というわけでももちろんない。どうしてこんなところにゲリラがいるのか?
ゲリラたちは隊員たちに危害を加えるつもりはなさそうだったが、目的があるらしく、そのために隊員たちは拘束されることになった。意志の疎通は可能だが、完全に安全が保証されたわけではない。
そんな状況で彼らは、ゲリラたちを仰天させるとある提案をすることになる。
「撮影の続きをさせてくれないか?」
というような話です。
これはなかなか面白かったです。サクサク読める軽いタッチの作品としては、かなり優秀だなぁ、と思いました。
本書は、まず何よりも設定がスーパーに素晴らしい。言ってしまえば本書は、その絶妙すぎる状況設定こそが肝であって、これだけ設定が秀逸だと、よほどのヘマをしない限り、作品がつまらなくなることはないだろうな、という感じがしました。そしてやはり本書には、そんな「よほどのヘマ」はないわけで、それだけでもうある一定以上の面白さは間違いないと思います。
何せ、反政府組織のゲリラに捕まってるのに、ゲリラたちに「日本人ってのはアホなのか?」と言われるような映像を撮らせて欲しい、と申し出るっていうんだから、アホとしか言いようがない。でもこれ、日本人だと、なんかありえるなぁ、って感じがしちゃいますよね。うわー、日本人ならやりそう…、みたいな(笑)。もちろん彼らにしたって、始めっから全員一枚岩で撮影の続行を望んでいたわけではないのですよ。成り行きでそうなって、少しずつ状況が変化していって、その中で隊員たちの気持ちもどんどんと変化していく。その変化の過程が、『リアル』という表現は適切ではないと思うけど(同じ状況にいて、自分だったらどうするのか、非常に想像しにくい設定だろうから、『リアル』かどうかなんて判断しようがないですよね)、なんとなく「わかるわぁ」っていう説得力はあるなという感じがしました。
一人ひとりの個性も実にうまく描かれていて面白い。本書は、先ほど挙げた「杉崎探検隊」のメンバーに加え、ミゲル・カルロス・レイという三人のゲリラが出てきて、彼らの視点が入り乱れながら進んでいく三人称の小説なのだけど、「テレビ局員」という、なんとなくステレオタイプ化しやすい職業であることも相まって、彼らのキャラクターを結構すんなり受け入れやすいな、という感じがしました。もちろん、著者の描き分けも巧いのだろうと思います。読み始めこそ、登場人物が一気にたくさん出てきてちょっと大変だったけど、次第にキャラクターが安定してくるにつれて、誰が誰なのかすぐ理解できるようになっていきます。この著者の作品を読んだのは初めてだけど、これまでの著作の外側からの雰囲気なんかも合わせると、きっとキャラクターを描くのが凄く巧い作家なんだろうなぁ。
「撮影の続きをさせてくれないか?」と頼んだ彼ら。そこからの展開もハチャメチャでいい。人質になってまでも仕事を続けようとする日本人と、彼らなりの論理で正しさを追求しそのための行動を取ろうとするゲリラたち。彼らの価値観は、まるで違うと言っていいだろう。生まれや育ちの環境が、まるで違いすぎる。ゲリラたちの話を聞いて、日本人として幸せな国に生まれ、特別不自由することもなく生きてきた自分を恥じる隊員も出てくる。彼らは、ストックホルム症候群(誘拐犯と人質が次第に仲間意識を持ってしまう状況のこと)とはまた違うのだろうけど、お互いに歩み寄り、お互いの立場を理解しようと直接には伝わらない言葉をどうにか重ね、当初の立ち位置からは想像もつかないような関係性に発展していく。
さらにそこからの展開もまた怒涛なのだけど、それはまた読んでみて下さい。この辺まで来ると、元々無視されていたリアリティが(笑 ゲリラに捕まって、撮影を続けさせてくれって言ったり、それを言った後のその後の展開とかのことを指してます)さらに薄くなっていくような感じがあるけども(さすがにあれは無理でしょ 笑)、でもそれは、本書が「川口探検隊」をモデルにしているだろう「杉崎探検隊」というフェイクを撮っている、という設定が実にうまく効いているな、と感じました。これが、真面目なドキュメンタリーの撮影でゲリラに捕まる、とかだったら恐らく物語として成功していないでしょう。「杉崎探検隊」という虚構を撮影している一行が、現実の世界でさらに一回り大きな虚構に取り囲まれる、という構成になっているからこそ、どれだけ荒唐無稽な設定や展開でも許容出来るのだろうな、という感じがします。そういう構成になっているからこそ、冒頭で、「杉崎探検隊」という虚構がどのように作られているのか、という背景が結構ちゃんと描かれる。非常に巧いなと思いました。
まあそんな物語だからこそ、虚構を離れて現実に戻ってしまえば、魔法が解けたようになってしまうのはある程度しかたないだろう。正直そういう意味で、最後の最後はもう少しどうにかならないかなぁ、とか思ってしまった。確かに、あれを描くためには最後の最後がなければどうにもならないのだけど、でもそれなしで、どうにか虚構の世界に留まったままで物語の幕をうまく閉じる方法はなかったものかなぁ、という気はしてしまいました。まあ、僕には思いつかないですけどね。
おちゃらけた雰囲気全開で突き進みながら、なかなかグイグイ読ませる作品だなと思いました。エンタメとして上出来じゃないかなぁ、と思います。何よりもやはり、設定が素晴らしい。この設定を思いついた時点で8割ぐらい勝ってるよなぁ、という感じがしました。是非読んでみて下さい。

荒木源「探検隊の栄光」



関連記事

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/2323-b22829dc

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
14位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
11位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

最新記事

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)