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無理難題「プロデュース」します 小谷正一伝説(早瀬圭一)

内容に入ろうと思います。
本書は、戦後様々なメディアで奇抜な功績を残し、プロデューサーとして数々の伝説を持つ「小谷正一」を追ったノンフィクションです。
小谷正一は、縁故採用で毎日新聞に入社する。入社当初は、雑用のような仕事ばかりで大した仕事はしていなかったが、毎日新聞社主催のとあるピアノコンクールで辻親子と出会うことで運命が変わる。彼は、大阪が生んだ天才ピアニスト・辻久子のリサイタルを企画し、大成功を収める。
その後小谷は、大阪で新しく創刊される毎日新聞系の夕刊紙「新大阪」の立ち上げのため、出向という形で新大阪へ異動となる。そこで彼は、戦争から引き揚げてきた升田幸三と、当時無敗の名人だった木村義雄との対戦を組んだり、闘牛を企画し大失敗したり(毎日新聞社の記者だった井上靖が、小谷をモデルにして「闘牛」という小説を書き、その作品で直木賞を受賞している)と様々に奇抜なことをやり、創刊間もない新大阪を盛り立てた。
そこに、「天皇」と呼ばれた毎日新聞社の社長から社命が届く。野球の球団を設立することにしたから、最前線で動いてくれというのだ。
野球のことなんか知らないし固辞した小谷だったが、本田の命令で仕方なく球団設立のために奔走する。読売新聞社の前社長で公職追放中だった正力松太郎に誘われてのことだったが、球団設立を希望する声が多く、議論は紛糾。結局2リーグ制に分裂することに決まる。小谷はあれこれ動き、世間をアッと言わせるような移籍を実現し、球団設立初年度に優勝する。
さて、そんな小谷に、次なる社命が下る。毎日新聞社が新日本放送というラジオ局を開設することになったから、前線でよろしく、という。これも小谷は固辞するも、社命ということで押し切られる。それでは、1年で新大阪に戻るという約束を取り付けて、渋々新日本放送へ出向する。
ここでも小谷は、様々な人間を引っ張り、斬新な企画を立て、放送に関しては素人ばかりの集団を率いてどうにか解説までこぎつけ、上々の評判を得るようになる。
しかし一年後、小谷は「1年の約束だった」と言ってあっさり新日本放送を辞めてしまう。これには周囲も驚愕した。どう考えても小谷はまだ必要だったし、辞めて斜陽になった新大阪に戻る必要もなかった。しかし小谷は、誰の慰留も受けず、新大阪に戻る。「同じ事はしない」がモットーだった小谷が、人生で唯一二度同じことをした出来事である。
しかし、やはり新大阪を立て直すことは出来ず、退社。その後、吉田秀雄に誘われて電通に入社したり、独立して「チームK」を率いたりと様々に活躍し、その生涯を終えた。
そんな小谷の生涯を追った作品である。
本書は、なかなか評価が難しいなぁ。本書を読むと、小谷正一という人物に物凄く興味が湧く。湧くのだけど、残念ながら本書を読んだだけでは、その興味は満たされないのである。
どうしてか。それは、本書ではあまり小谷正一のことが描かれないからだ。
確かに本書では、小谷正一が歩いた軌跡沿いのことが描かれる。しかしそれは、あくまでも「小谷正一が歩いた軌跡沿い」であって、「小谷正一が歩いた軌跡」ではないからだ。
例えば、「毎日オリオンズ」設立の話を取り上げよう。
この件に関して、小谷が行ったことは、とある移籍をセッティングしたことぐらいしか描かれない。それ以外は、当時の野球連盟のゴタゴタや、毎日新聞社の「天皇」である本田がいかに社長になったかというような話がほとんどを占める。
その話自体も、面白くないわけではない。でも、小谷の話が少なすぎるのだ。実際に球団設立に際して、小谷がどんな働きをしたのかがよくわからない。
それは、新日本放送設立に関しても同じだ。確かに色んな企画を考えてはいるのだけど、話のメインは、毎日新聞社がいかにして新日本放送設立に至ったのかの背景にある。関西財界の大物を中心に話が進んでいた計画に毎日新聞社が乗る予定だったけど、その大物が公職追放で表に出れなくなり、計画そのものを毎日新聞社が譲り受けることになる。しかし一社ではどうにもならず、別の財界の大物を担ぎだした、という話や、免許事業であるラジオ放送の免許を獲得するために色々大変だった、みたいな話が多くて、小谷が何をしたのかはよくわからない。
二度目の「新大阪」退社後はもっとよくわからなくて、電通で何をしていたのか、「チームK」で何をしていたのかさっぱりだ(でも本書は、著者が思う小谷正一の黄金期に焦点を当てている、とのことだったので、その辺は省略したんだろうけど)。
というわけで、小谷正一という人物はとても面白いと思うし、もっと知りたくなったのだけど、本書を読んでもその欲求はあまり満たされないという点で、本書はちょっと残念だなという感じがしました。
しかし、小谷正一という人物はなかなか面白い。色んな斬新なことを手がけているのに、基本的に打診があった時は「いやです」みたいな感じで断っている。しかも、「天皇」と呼ばれた社長からの直々の命令なのに断るのだ。すげぇ。それでいて、やると決めたら猛進して、小谷にしか出来ないような成果を残す。かっこいいですなぁ。
本書を読むと、小谷が一番やりがいを感じていて好きだったのが、「新大阪」の仕事だったのかな、という感じがします。というか、「新大阪」時代に一緒に組んで暴れまくった編集局長の黒崎との相性がよかった、ということなのかもしれないけど。同じ事はしないというポリシーを破って「新大阪」は二度経験しているし、そこで立ち上げた企画も相当に面白いものだったと思う。
僕が小谷正一のエピソードで一番好きなのは、開局したばかりの新日本放送を、「1年という約束だったから」という理由で退社した話だ。これは凄く好きだ。なかなか出来ることじゃないし、周りが呆然とするぐらいの潔い決断は爽快だ。捉えどころがない辺りも好きだなと思う。ホント、面白い人がいたものだなぁ。
もうちょっと、小谷正一という人物そのものが理解できる作品を読んでみたいなという感じがします。本書はちょっと、小谷正一自身が描かれていない感じがあって、残念だなという感じがしました。人間的魅力はちょっと半端ないと思います。こういう破天荒な人っていいよなぁ。なかなか今の時代にはいない感じですよね。素敵だなと思います。

早瀬圭一「無理難題「プロデュース」します 小谷正一伝説」



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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)