学生時代にやらなくてもいい20のこと(朝井リョウ)
内容に入ろうと思います。
本書は、早稲田大学在学中に「桐島、部活やめるってよ」で作家デビューし、「もういちど生まれる」で直木賞候補にもなった、今をトキメク新人作家の、主に学生時代のエピソードをあれこれ書いたエッセイになります。タイトルだけみると、なんとなくビジネス書っぽい感じに見えるかもですけど、れっきとしたエッセイ集です。
しかしまあ色んなことをしている。
自転車で500キロ先の京都まで行ってみたり、100キロを超える大学の徒歩イベントに参加したり、学祭のために謎のダイエットドキュメンタリーを撮影したり、眼科医と謎の攻防をしたり、マックで出会った謎のおじさんと緊迫感のあるやり取りをしたり、友達とピンク映画を見に行ったらとんでもないことが起こったり、就活というワンダーランドで奮闘したりと、とにかくアホなこと満載の学生生活を送っていたようである。
朝井リョウ自身は、自らのスペックをなかなか低めに見積もっていて、馬面で田舎者、機械オンチで心配性などなど、自己評価がなかなか低めな感じである。早稲田大学在学で、在学中に作家になり、ダンス部に所属してるなんて、リア充の塊!みたいな印象もあるんだけど、本書を読むとどうもそういうわけでもないようだなぁ、という感じがしてくる。デビュー作の「桐島~」の著者近影と著者略歴を見た僕は、なんたるリア充!と思っていたのだけど、本書を読む限りそういう感じでもないようなので、過去に遡ってお詫びしたい気持ちでいっぱいである。
そんな、現在は社会人一年目としてバリバリ働くサラリーマン作家になった著者による、爆笑エッセイ集です。
これは面白かったなぁ!エッセイが面白い作家っていうのは本当に稀だと僕は思っていて、三浦しをんがずば抜けてダントツだとして、乙一や森見登美彦なんかの名前が思い浮かぶけど、他になかなかいない。小説が抜群に面白くてもエッセイはさほど…、というような作家が結構多い印象であるのだけど、朝井リョウは小説もエッセイもまあべらぼうに面白い、なんとも才能に満ち溢れた男であることよのぉ、このリア充!という感じである。
しかし、面白いエッセイというのは、なかなか内容紹介をしにくいものである。ネタバレするわけにもいかないし、僕がざっくりエピソードを要約したところで、別に面白いわけじゃない。だからさっきみたいに、ざっくりとしたポイントだけを箇条書きにする、みたいな感じでざっと内容を書いてみたんだけど、具体的な内容に踏み込もうとするとそれぐらいが限界かなぁと思ってしまうなぁ。
とはいえ、ちったぁなんか書いてみよう。
結構僕は、朝井リョウの感覚が随所で理解できてしまう男である。いくつか挙げてみよう。
まず、朝井リョウはなかなかの心配性である。旅行先に、絶対に旅行先では使わないだろうというものを、もしかしたら使うかもしれない、と言ってバッグに忍ばせてしまうような、そんな人間だ。僕もそうで、『もしかしたら』という想定を色々と思いついてしまうので、それに対処しておかなくては不安だ、という感じになってしまうのだよなぁ。どう考えても起こる確率が低そうなことについても何らかの対処を施してしまいたくなるような、とても効率の悪い人間で、まあこの心配性の部分は直らんだろうなぁと思いつつ、変わったらいいなぁ、と思ったりもしている。
また朝井リョウは、恐るべき機械オンチである。現在ではどうか知らないけど、少なくとも本書で描かれているとある瞬間までは、恐ろしいほどの機械オンチであった。スマホに替える話は、なかなか斬新すぎて爆笑である。ンなことありえるんだなぁ。同じく機械オンチである僕としては、機械を扱えないと生きていけない現代社会にあって、同士みたいな感覚である。僕がどれだけ機械オンチかと言うと、最近僕が発した迷言をいくつか挙げれば事足りるだろう。『スキャナ付きのプリンターってコピーもできるんですね』 『(アドレス交換の際の)赤外線通信って、圏外でもできるの?』 もちろん、共に失笑を食らったのは当然のことである。
あるいは、就職のひと月前に、「いやだいやだいやだ」と言って社会人になることから逃避したがる、なんてのもすごく共感できてしまう。僕の場合、就活をする前からその状態に陥り、結局就活というものをしないまま、社会人からドロップアウトしていたりするんで、同列に扱うんじゃねぇ!と怒鳴られそうだが、なんというかとても気持ちがわかってしまうなぁ、という感じがする。僕も、今自分が、まあアルバイトだけど、ちゃんと働いているという事実が凄いなと思うことはあったりする。
とりあえずここからは、あまり内容に踏み込みすぎないようにして、印象的だった話をぼんやりと書いてみようと思います。
カラーモデルの話は、斬新すぎて笑ったなぁ。街を歩いている時にカラーモデルに誘われてやってみたっていう話なんだけど、担当してくれた美容師さんのキャラがマジハンパねぇ。
島への旅の話もすごくよかった。壮大な無駄の末にたどり着いたある島で、彼らはその土地の祭りに参加する。そこで朝井リョウが感じる郷愁というか喪失感みたいな描写がなんかすごく好きだ。その祭りに参加することで、自分が失ってきたものがちょっと輪郭を持った、というような経験を、実に瑞々しく描き出しているように思う。
北海道への旅も、学生っぽいっていうか、アホだなぁっていうか、勢いだけで生きている時代ってのは凄まじいものがあるな、という感じがしました。こういうバカバカしさは、すげぇ好きです。
ピンク映画の話も、おいおい、という感じで面白かった。なんていうか、世の中にはホント、恐ろしい世界があるんだなぁ。
就活を間近に控えた大学二年生の時に書いた就活エッセイを自ら添削する、というのもすごく面白かった。恐らく編集者は、その文章を作中のごく普通の一編として入れようとしたのではないか。でも、著者的には、その文章はなかなか耐え難かった。だから、添削という形で載せることにしたのかなぁ、なんて邪推をしてみました。文章とツッコミのバランスが素敵です。
既に僕は、小中高大学という学生時代の記憶をズルズルと失い続けている最中であって(元々記憶力が悪すぎて、大学二年の頃には、もう既に高校時代の半分ぐらいのことは忘却の彼方という感じ)、なんというか自分がどんな風に過ごしてきたのか、まるで思い出せなかったりする。でも、断片的に思い出せる部分を拾い集めてみても、やっぱり学生時代はアホだったな、と思う。今アホじゃないのかというと、またそんなこともないのだけど、学生時代というのは、いくらでもアホになれるほどの莫大な時間と、いくらでもアホが許容される『学生』という名の鎧があったために、いくらでもアホでいられたのだ。大学時代に戻りたいかと聞かれたら、全力で『戻りたくない!』と即答する僕だけど、でもあれだけアホなことをやれていた時代って、やっぱり貴重だったよなぁと、本書を読んで感じたりしました。やっぱ、羨ましい部分もたくさんありますよね。リア充!って叫びたくなるような人生にはそこまで興味を惹かれないけど、朝井リョウみたいな、後々話をして爆笑を取れそうなエピソードって、ちょっと羨ましいなぁ、なんて感じがしてしまいました。
とにかくアホアホで、小説を読んでの著者のイメージとのギャップも甚だしいわけですけど、とにかく笑えるエッセイです。小説も面白くてエッセイも面白いという作家がそこまで多くないこの時代にあって、また一人僕の中で、エッセイが面白いと思える作家に出会えたな、という感じがしました。是非読んでみてください。
そういえば、僕の地元がボロクソに書かれてたのも面白かったです(笑)。
朝井リョウ「学生時代にやらなくてもいい20のこと」
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