黒夜行

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震災とフィクションの”距離”(早稲田文学 記録増刊)

本書は、2011年3月から9月の期間に15人の小説家が執筆し、期間限定で著作権を解除、転送自由のチャリティ作品として「早稲田文学」サイトで発表された16作品と、執筆者たちによる対談が収録された、英中韓三ヶ国語バージョンも収録された、限定1000部刊行の、早稲田文学記録増刊。名古屋のちくさ正文館で見つけ、そのラインナップのあまりの豪華さに買ってしまった一冊。
一作一作は非常に短い物語で、内容紹介をするとほとんど作品の内容を書き写すような感じになっちゃいそうだから、著者名とタイトルだけにします。

古川日出男「ブーラが戻る」

阿部和重「RIDE ON TIME」

円城塔「Silverpoint」

福永信「この世の、ほとんどすべてのことを」

芳川泰久「逝き暮れ」

青木淳悟「西池袋特集~亀が袋を背負って~」

松田青子「マーガレットは植える」

村田早耶香「かぜのこいびと」

中村文則「震災の時」

木下古栗「カンブリア宮殿爆破計画」

中森明夫「東京トンガリキッズ2011」

牧田真有子「合図」

川上未映子「三月の毛糸」

鹿島田真希「インタビュー」

重松清「また次の春へー盂蘭盆会」

古川日出男「家系図その他の会話」

あとは、篠山紀信の写真があったり、重松清と古川日出男の対談があったり、阿部和重や川上未映子らの対談があったり、という感じになります。
あの震災は、様々な人たちの人生を大なり小なり変えたことでしょうけど、作家にとっても、「あの震災以後、お前は何を書くのか」と突きつけられたのだな、と本書を読んで感じました。これまでも、現実における超越的な出来事が、小説家や文学というのを変化させてきたのだろうけど、この震災も、「ことば」によって何かを届けようとする人たち(それは必ずしも小説家だけではないけど)を揺さぶり、悩ませ、震わせながらことばや物語と向きあったのだろうな、ということが伝わって来ました。
それが一番伝わってきたのが、重松清と古川日出男の対談でした。この対談は基本的に、震災直後に被災地入りした福島出身の古川日出男が、恐るべきスピードで発表した「馬たちよ、それでも光は無垢で」という小説作品をベースに進む対談で、それを読んでいない僕には分からない部分もあったのだけど、古川日出男の「現実」と「物語」との対峙の仕方がもの凄く真剣で、この人はちょっと凄いなと思いました。震災直後から様々なルポタージュが発表されていったけど、古川日出男は、自分の役割はルポを書くことではなくやはり小説だと捉え、小説を発表するのは遅くても構わない、と思っていながらもどんな作家よりも早く小説としてあの震災を昇華する作品を生み出した。そのことについて、何故被災地入りしようと思ったか、二人称であるのは何故か、どうしてあのラストになったのかなどについて、重松清が的確な質問をすることで進んでいく。重松清自身も、ルポタージュのために被災地入りしたりチェルノブイリまで行ったりしていて、共に小説家でありながら、一方はルポタージュとしての視点で、そしてもう一方は物語としての視点で、ことばや想像力を駆使して震災を捉えることについて真剣に語り合う。本作中、一番好きなのがこの対談かもしれない。
古川日出男の言葉が凄くいい。昔から、よくわからないなと思いつつも古川日出男の作品は好きだったんだけど、この対談を読んで、その真摯な姿勢により好感を持った。

『では何をしたら、ナルシズムやヒロイズムから離れてものを見て、言葉を届けて作品にまでできるのか…どうしたら「小説を書いていい」と自分に対して認められるのかが難しかった。』

『周囲では、だんだん震災や被災の空気がなくなって、復旧に向かっていると思うんです。でも、自分のなかでは進行形のまま、小説家として小説に対して内部被曝している。これを認めていくしかないと思っています。』

それぞれの小説は、ストレートに震災を描いたものは実に少ない。重松清が実に重松清らしい感じで、盆に村祭りをやるために帰省した人たちを描く作品を書き、中村文則が震災が起こった当時に自分の雑感をそのまま書いたような作品を載せている。後は、なるほど深読みすればこういう部分が震災と絡んでくるのだろうか、とささやかに想像できるけど、震災を背景にと言われなければまったくそうとは分からないような作品が多かった。
その中で僕が結構好きだったのは、阿部和重の「RIDE ON TIME」と村田早耶香の「かぜのこいびと」だ。
「RIDE ON TIME」は、ある対談の中でも絶賛されるのだけど、10年前にやっていたきり一度もきていない伝説の波を待ち続けるサーファーの話で、もちろん津波を想起させるその内容は、凄い話を書くなと思った。津波というモチーフを、あらゆるライダーが挑みたいと欲している伝説の波というポジティブなものに変換するって発想が面白いと思った。
「かぜのこいびと」は、正直なところ、どの辺りが震災をベースにしているのか、特に分からない作品だった。でも、話としては好き。カーテンの一人称の話で、なんというか変な話なんだけど、なんとなく残る作品という感じ。
あと、円城塔の「Silverpoint」は、やっぱり意味が分からなかった(笑)。やっぱり好きだなぁ、円城塔。
本書を読んであらためて、作家というのは、「ことば」という武器を持って現実の「何か」と格闘する人たちなんだな、という感じがしました。もちろん、そういう土俵とは違うところに活躍の場がある作家というのも多くいるでしょう。それはそれでもちろんいい。けどやっぱり、とんでもない現実を経験した後、「この現実に「ことば」で対抗するにはどうするか」という問いを自らにつきつけることが出来る人、というのは、やはり凄いなと思いました。陳腐な感想で申し訳ないですけど。やっぱり、こんな風に括っちゃっていいのかわかんないけど、「文学」って僕には難しいんです。決して嫌いじゃないし、理解できたらいいなぁ、って思うんだけど。「ことば」とそこまで真剣に対峙出来るっていうのは、辛いし大変だろうけど、羨ましくもあります。

早稲田文学 記録増刊「震災とフィクションの”距離”」



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Comment

[4386] 毒々しいのもやりすぎちゃうとダメ~

『スタッキング可能』、読みましたが、言葉遊びではなく小説でした。
何度読み返しても面白かったです。
ただ、毒を受け止めて面白いと思える心の余裕がある方がイイでしょうが・・・。
ネットで松田さんの解説をしているサイトを見つけたので
貼っておきます。
http://www.birthday-energy.co.jp
どうやら参謀タイプ、客観的視点の持ち主とか。

毒つくのは・・・らしいけど、それもふんだんに
含めつつ今後もがんばってほしいかも。
次の作品も楽しみにしてようかな。

[4391]

『スタッキング可能』は、僕も読みたいと思っていながらまだ読めてないのですよね。
やっぱ面白いですか!
毒を受け止めるのは余裕綽々なんで、近いうちに読めたらいいなぁ(読んでない本が多すぎるのです)

確か正業は翻訳者だった気がしますが、
それだけ面白い作品を書けるのなら、小説もどんどん書いていって欲しいですよね。
僕も期待することにします~

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4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
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10位 「量子力学の哲学

小説以外
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7位 「ぐろぐろ
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9位 「孤独と不安のレッスン
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)