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ハーバード白熱日本史教室(北川智子)





内容に入ろうと思います。
本書は、九州の高校を卒業後、カナダの大学で数学と生命科学を専攻するが、日本語が読めるというだけの理由で手伝っていた日本史の教授から、大学院で日本史を勉強しないかと勧められ、それをきっかけにして現在ハーバード大学で日本史を教える人気教師になった著者のこれまでの来歴を綴った作品です。
この著者、これと3歳しか違わないんだよなぁ。それで、ハーバード大学の教授だもんなぁ。すげぇもんです、ホント。
先に書いておくと、本書は『どんな観点から本書を捉えるか』によって大分評価が変わるだろうと思います。その辺りについても、後で詳しく書くつもりです。
著者は大学院へ進むことが決まった際に、ハーバード大学の夏期留学を思い立ち実行する。お金がなかった著者は、ハーバード大学で日本史の授業だけに絞って聴講するのだけど、著者はそこに強い違和感を覚えた。
それは、ハーバード大学で教えられる日本史が、ほぼすべて「サムライ」を軸にしたものだった、ということだ。これはハーバード大学に限らず、アメリカの大学では標準的なもののようだ。
そんなあり方を疑問に感じつつ、卒論も通常よりも大分ハイスピードで駆け抜けた著者は、様々な経緯を経てハーバード大学の教授に就任する。本書執筆時点で就任三年目、元々若い上に見た目も年齢以上に若く見られるために、就任一年目は大学内にいても教授だと思われないどころか、学部生と間違われてもおかしくないような感じだったという。
そんな中で始まった一年目から、徐々に受講生が増え、三年目では251人というとんでもない数の受講生がやってくる超人気講座になるまでの著者の歩みを描くのが大体第一章。
第二章は、著者が「Lady Samurai」と名付けている講義の紙上出張版。男中心の「サムライ」視点でしか語られなかった日本史を、女性視点も織り交ぜることで新しい史実を浮かび上がらせるやり方が解説されます。
第三章は、ハーバード大学の評価システムについて。教授が生徒をどう評価するか、だけではなく、生徒が教授をどう評価するか、という部分もあり、著者は自身の講座で、普通は得られないような高評価を得、「思い出に残る教授」賞なんかを受賞したりもしているという。ここでは、著者がどんな発想で講義を組み立てているのか(どうやってそんなに高い評価を得ているのか)という自己分析が描かれます。
そして最終章では、著者が「Kyoto」という名でやっている講座の紙上出張版。これは、1542年から1642年の100年間について、京都を中心に日本史を考える授業で、ラジオや映画を製作させるという斬新極まりない授業スタイルが語られます。
というような内容です。
さて、冒頭で僕は、本書はどういう視点から見るかによって評価が変わる作品だ、と書きました。まずその話をしましょう。
本書は、『日本史を教えている日本人教授』という視点から見ると恐らくあまりいい評価にはならないでしょう。一方で、『生徒をいかにやる気にさせて講義そのものやその内容に関心を持たせるか考え続けている教授』という視点から見ると、物凄く面白いしためになると思います。
先に、僕なりの批判から書きましょう。
本書では、「Lade Samurai」と「Kyoto」という二つの紙上出張版講義が描かれます。この内、「Kyoto」の方はそこまで批判されることはないだろうと思うので置いておきます。問題は、「Lady Samurai」の方。
僕は基本的に理系で、歴史的なことはまるで知らない人間なんでちゃんとは判断できないですけど、でも、恐らくこの「Lady Samurai」の講義に違和感を覚える方は多いだろうと思います。
この「Lady Samurai」という講義は、アメリカで広く蔓延している日本史に対するイメージへのカウンターパンチとして生み出されたものです。つまり旧来の、「サムライ(男たち)」の戦闘などから日本史を語る、というスタイルが未だに定着していて、そこに納得できないものを感じたからこそ、著者は理系だったのに日本史の勉強にのめり込み、ついにはハーバード大学の教授になります。そしてその授業は、広く学生に受け入れられています。
しかし、これは、日本人にはなかなか受け入れがたいでしょう。何故なら、日本人には、日本史を「サムライ」の歴史、という形で捉える発想がないからです。だからこそ、そのカウンターパンチとして作られた「Lady Samurai」の内容についても、なんともいえないものを感じてしまうのではないかと思います。
また、個人的にちょっと致命的かなと思っているのは、著者が本書の中で「Lady Samurai」という言葉を明確に定義していない、という点です。
この「Lady Samurai」というのは、単に「女性のサムライ」というだけの意味ではない。英語では、役職名で呼ばれた人(例えば紫式部など)の前に「Lady」とつけるようで(紫式部は「Lady Murasaki」と訳される)、だから英語圏の人たちにとって、「Samurai」という単語に「Lady」をつけることで、ただ「女性」というだけではない強い意味を持つようになる(はずだと思う)。
でも著者はそれを定義しないし、説明もしない。本書では、ひたすら「Lady Samurai」というローマ字表記のままで、これがアメリカ人にどんな捉えられ方をしているのか、という部分をほとんど描かない。「Lady Samurai」という単語に英語兼の人たちがどんな印象を受けるのかというのは、「サムライ」によって日本史を捉えていない日本人にとってはとても重要だと思うのだけど、そこを明確に定義したり説明しなかったがために、もしかしたら内容的にはいいことを言っているのかもしれないけど、どうにも胡散臭い感じになってしまっているのだろうな、という感じがしました。
というのが、僕の個人的な見解。まあ理由はともかく、この「Lady Samurai」の講義にどうもモヤモヤするものを感じる人は結構いるのではないかな、という感じがします。
まあとはいえ、僕はその部分は本書の重要な部分ではない、と判断しました。僕は本書を、「何かを教える際の創意工夫」という視点から、つまりさっきの話で言えば後者の視点で読みました。その視点からだと、僕は灘校の「奇跡の国語教室」のようなイメージを抱きました。一方的に教科書を読むだけではない、全身をフル活用して課題と向き合い、その過程で自然に講義の内容に深入りしていってしまうような、そういう力を持った講義を演出してる著者の凄さを感じます。
授業中に内容と関係のある音楽を流すとか、プレゼン内容をラップにして歌ってもらうとか、ラップトップのパソコンに文字を書かせるのではなく、白い紙に絵を書かせると言ったような、椅子に座ってただ教授の言っていることを聞いているだけというような従来のやり方を完全に脱しています。ハーバード大学は、その旧弊な仕組みをやめ、アクティブ・ラーニング(まさに著者がやっているようない、講義を聞くだけではないスタイル)に移行しつつあるんだそうです。そういう大学側の流れともうまく合致していたということなのでしょう。
しかし、著者の講義に対する創意工夫は素晴らしい。どんな内容を教えているのか、という部分にはとりあえず目をつぶってもらって、どんな工夫と共に講義を運営しているのかという話は、物凄く刺激的です。どうやって学生に関心を持ってもらうか、その関心を持続してもらうか、そして日本史を学ぶことが社会に出てから実際的に役立つように。そういう視点から日本史を教えることを考えていて、そのための努力を惜しまない。学生にラジオ番組を作らせるとか映画を作らせるなんてのは、その意図がどこにあるのかを自分の中できちんと明確にするというのは大事だけど、そこさえきちんとしていれば物凄く有用な手法だろうなという感じがしました。日本史という、アメリカ人にとっては国史ではなく、知識として持っていても持っていなくてもどちらでもいい、という分野であるからこういうことが出来るんだ、という側面も間違いなくあるでしょう。とはいえ、ここまで工夫を凝らした講義を設計できる人も、そうはいないでしょう。だからこそ、著者の講義への評価が高いのでしょうし。
かつて歴史の授業が大嫌いだった僕には、この文章は凄くいいなと思いました。

『このように「Kyoto」のクラスでは、習った出来事の歴史的意味を自分で掘り出しておきます。私は出来事を説明する役割に過ぎず、私の解釈は踏み台にすぎません。アメリカの学生にとっての日本史はそれでいい、むしろそれがいいと思っています。国史ではない歴史ですし、学生たちが自分の言葉でその歴史を語ってくれることができれば最高ではないでしょうか』

僕は、歴史というものが、「絶対にこうだった」と他の解釈の余地なく教えられることが、子供の頃から凄く嫌いでした。ホントにそれ以外の解釈は出来ないわけ?ってかホントにそんなことあったの?出来事としてそれはあったにしても、その場の人間の気持ちははっきり分からないんじゃ…。何百年も昔の話について、「絶対にこうだった」「こういうことが間違いなく起こりました」という風に教わることが、僕には何か間違っているという風にしか思えなくて、だから著者の、「私の解釈は踏み台でいい」という考え方が凄く好きだなと思います。
「奇跡の国語教室」を読んだ時も思ったけど、こんな風に歴史を教えてもらえたら、歴史が好きになってたかもなぁ、と思います。まあ、ラジオ番組や映画作りの課題にはたぶん、泣きそうになると思いますけど(笑)僕と3歳しか違わないハーバード大学教授の、ぶっ飛んだ人生と飽くなき創意工夫を続ける意志みたいなものが描かれます。本書で描かれる日本史の中身については賛否両論あるだろうけど、何かを教えるということについての可能性を広げてくれる一冊だと思います。是非読んでみてください。

北川智子「ハーバード白熱日本史教室」



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[4251] はじめまして

僕も決め付け授業が大嫌いでした。
そういう意味で、定義を曖昧にしたままのLady Samuraiという決め付け表現は、外国の日本に対するSamuraiという決め付けに対する痛烈な皮肉のようにも感じます。

[4252] 初めましてです

なかなか難しいことを言いますなぁ(笑)
なんとなく言いたいことはわかりますけどね。
歴史とか国語って、『一つの解釈を伝える学問』であるべきだって今は思うんだけど(学生当時は、そんな風なまとまった思考は出来なかったけど)、『絶対の解釈を伝える(ということになっている)』という部分が、僕が国語とか歴史を好きになれない部分だろうなぁ、と思っています。
そういう意味で、解釈を考えさせるような授業の組み立て方をする著者のやり方は、すごく好きです。

[4253] どこにいても、

学問がどうこうなんかより、現実に自分らしい生き方を実践する以外に日々を平安に充実して過ごす方法はないのかもしれませんね…

[4254]

「自分らしい生き方」って、案外難しいですけど、
でもなんとなくわかるような気もします。
なんか、「自分で選びとるんだ」みたいな感覚が大事だったりしますよね。

[4255] そうですね!

インスピレーションに従って自由闊達に活動し、その上で失敗しても悩まない、成功しても傲らない、というのが精神の平安と肉体の寛ぎをもたらしてくれるような気がします。

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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

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2012年の個人的ベストです
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
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7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
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9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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