黒夜行

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山椒魚戦争(カレル・チャペック)

内容に入ろうと思います。
物語は、赤道直下にあるタナ・マサ島に、ヴァン・トフ船長がたどり着いたところから始まる。新たなる真珠の採取地を探しているヴァン・トフ船長がたどり着いたその島は、白人が一人と現地人が住んでいる島だったが、その島の周辺には『悪魔』がいると住民たちが言っていた。ヴァン・トフ船長は、そのわけのわからない話を確かめるべく、「魔の入江」と呼ばれる海域に船を寄せ、真珠採りに潜らせてみると、果たして彼らは水中で何かを目撃し、気絶した。
結果的にそこにいたのは、二本足で立ち、子どものような手を持つ、真っ黒な山椒魚であった。
ヴァン・トフ船長は、彼らが効率良く真珠を見つけ出し人間に差し出す修正に着目し、とある実業家に話を持ちかけて真珠採取の事業に乗り出すことにした。それはある程度成功を治めるが、採取しすぎて真珠の価値が下落していくと共に、繁殖させかなりの勢いで増殖している山椒魚の新たなる使い道を考えなくてはいけない状況になった。
一方、彼ら山椒魚は、人間の言葉を話すことが出来た。見聞きした会話や文字に限られるものの、彼らは学習し、道具の使い方なども学ぶことが出来た。人間に代わる新たなる安価な労働力として爆発的な需要を生み出すことになる山椒魚は、その数をどんどんと増やしていった。
ポヴォンドラというある門番が収集し続けたという山椒魚に関する様々な記事をベースに、山椒魚の生態や彼らが引き起こした数々の騒動、彼らを取り巻くビジネスの様子などが詳細に描かれつつ、人類と山椒魚の困難な共生を描くことになる作品。
なかなか面白い作品でした。古典作品で、しかも外国人作家の作品という、僕の苦手とする要素満載の作品なのだけど、凄く読みやすい作品で、最後まで楽しく読めました。
本書は、文章というか訳というか、そういう点では凄く読みやすいんだけど、構成という観点から見るとなかなか複雑だったりします。
初めの内はいいんです。ヴァン・トフ船長を初め、色んな人間が山椒魚を関わっていく過程を描いているので、ストーリーとして読みやすい。
ただこれが、途中から、ポヴォンドラという門番が収集していた様々な記事を元に、その当時の山椒魚に関する様々な情報を描く箇所になると、複雑になっていく。
まず、山椒魚に関するある情報が語られる。そしてその文章中に注釈が存在し、その注釈の方に、ポヴォンドラが収集した記事と共に、著者(カレル・チャペック)による注釈がなされる。つまり、ここまでは小説の内部である。さて一方で、本文中には訳注も存在する。これは、翻訳者がつけている注釈であり、巻末に載っている。つまり、著者による注釈と訳者による注釈が入り混じるという、なんとも変な構成になっていくのである。
ちょっとページを行ったり来たりしないといけなくて、その辺の複雑さはあるんだけど、でも文章がスイスイ読めるんで、そこまで苦にはならない。著者による、架空の存在である特殊な山椒魚についての、でっちあげ以外の何者でもない注釈の細かさみたいなものは結構凄くて感心させられるけど、訳注も負けてはいない。ある一つの訳注だけで数ページ使うようなものもあり、普段外国人作家の小説を読んでいても注釈ってそこまで真剣に読まない僕も、本書ではかなり注釈を読みました。
本書では、特殊な山椒魚という存在を描き出すことで、実際の人間の社会を比喩的に皮肉っているのだろうなぁ、と思わせる描写が凄く多くて面白い。労働と資本主義であるとか、黒人への奴隷制度であるとか、あるいは戦争であるとか、そう言ったものについて批判や皮肉なんかを描いているように読める部分が結構あります。著者がどんあ意図で書いている部分なのかは分からないけど、まえがきで「ユートピアを書いた小説ではない」と書いているので(本書はユートピア小説だと評されることが多かったのだそうです)、なんか色んな意味が込められているような感じはします。
本当は、僕がもっと深く読むことが出来れば、著者がどんなものに対して皮肉めいた描写をしているのかなんてのを、著者が生きていた当時の状況やなんかを考慮して書けたりするのかもだけど、僕にはまあそういうのは無理だなぁ。
本書では、ポヴォンドラ氏が収集した記事などを元にした部分の、山椒魚に関する細か過ぎる設定や描写がなかなか面白い。山椒魚がどんな風に子供を作るのかという考察から始まる雄雌論みたいなのは、よく考えられてるなぁって思うし、山椒魚が労働の現場にどんどん入り込んでいくことでどんな軋轢が生じて行ったのかなんて話も面白いと思った。それらが、さも現実に起こった出来事であるかのように、架空の記事と共に描かれているんで、よくこんなこと考えたよなぁ、という気になります。
きっと色々と、教訓や皮肉に満ちている作品なんだろうと思うんだけど、僕にはそういう高尚な部分はよくわかりません。ただ、特殊な山椒魚という実在しない生物について、これほどまでに詳細な設定と共に、彼らが注目されてからどん詰まりにたどり着くまでを描き切った作品で、凄く面白いと思いました。是非読んでください。僕の方にあまりにも時間がなさすぎて、ちょっと適当過ぎる感想になってしまったのは残念至極。

カレル・チャペック「山椒魚戦争」



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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
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10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
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9位 「孤独と不安のレッスン
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)