黒夜行

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はれのち、ブーケ(瀧羽麻子)

内容に入ろうと思います。
本書は、理香子と裕人の二人の結婚式を舞台に、大学時代同じゼミで仲の良かった6人の、結婚観や人生なんかを描いた作品です。
理香子と裕人は、大学入学直後から知り合い、お互い好意を抱いていたのだけど、なかなかタイミングが合わず、偶然を装って裕人と同じゼミを選んだ理香子から告白したのだった。
卒業後も、理香子と裕人の付き合いは続いた。理香子はずっと裕人と結婚したいと思っていたし、裕人にもちゃんと伝えていたのだけど、優柔不断な裕人は結論を先送りするばかりで、モヤモヤした気分を抱えることになった。フードコーディネーターとして独り立ちしていた理香子は、花嫁ばかりを集めた料理教室を担当していた時に、自分の苛立ちを強く実感させられることになった。実家が老舗旅館である裕人身の振り方を巡って、人生最大の大げんかをしたこともある。
そんな理香子も、出会ってから10年以上、ようやく裕人と結婚式を挙げられることになった。もちろん式には、ゼミ時代の友人を呼んでいる。周りの結婚ラッシュにも特に動じることなく、特に結婚願望が強いわけでもないのに、何故か理香子の結婚に動揺する鈴子。映画監督になる夢を追い東京に出てきて、結婚なんてまったく考えられない亮。自己主張が弱く、かなり年上の彼に結婚を申し込まれているのだけど、どうしたらいいのかわからないでいる奈緒、大学教授になることを目指していたのに、恋人の妊娠をきっかけにそれを諦め結婚した章太郎…。
30歳になり、大学時代には想像しなかったかもしれない自分の人生に戸惑を感じたり、自分の歩んできた道に不安を感じる彼らの揺れ動く感情を丁寧に切り取った作品です。
これはなかなか良い作品でした。まだそこまで名前の知られていない新人の作品ですけど、なかなか期待できる作家ではないかなと思います。
まずいいなと思ったのが文章。綺麗な石を丁寧に並べていったような文章は、素直にすっと入ってくる。特徴があるわけではないけど、この作家の書く気負っていない文章は、まっすぐで瑞々しいなと思いました。大学時代からの仲良し6人組の関係だけど、でも何もないわけじゃない。感情の行き違いとか、考え方の違いとか、そういうものはもちろんある。そういう、仲がいいんだけど決してそれだけじゃない、という部分を、文章できっちりと切り取れていると思う。僕も、大学時代から仲の良いメンバーというのがいたりして、そこの中での関係性とダブらせて読んだ。そうたぶん、仲がよくて楽しく喋ってても、それなりに色々あったりするんだろうなぁ、と思ったりして面白かった。
作品の構成としては、6人ぞれぞれが視点人物となって、理香子と裕人の結婚式でのやり取りをベースとして、自身の人生や結婚観などについて考えてしまう、という形になっている。6人の個性が結構きっちりと描かれていて、読めばきっと、6人の内の誰かに近いなぁ、なんて感じるんじゃないかと思った。
僕は、鈴子と裕人に凄く近いんですね。鈴子と裕人から、いくつか要素を抜き出して再構成したら僕になるんじゃないかっていう気がしました。
鈴子は、独身貴族というわけでもないんだけど、結婚したいというような強い願望はない。僕もまったく結婚願望がない人間なんだけど、でもこの点は男と女では同列で語れないだろうからあまり取り上げないことにします。
鈴子は仲間から、「わかりにくい人見知り」と呼ばれるんだけど、僕もまさにそうだよなぁ、と思うんですね。知らない人がいる状況ではむしろそつなく如才なく愛想よく振舞えてしまうのだけど、でも実はたくさんの人といるより一人の方がいい、と考えてしまう。凄くわかるなぁ、という感じがします。僕も、うまくいかない時もあるけど、でもどちらかというと初対面の人とはそれなりにうまくやれると思う。でも実際は、この状況はなれないよなぁやっぱり、と思っているのだ。僕も周りの人に、自分は人見知りだというとえーっという反応をされることがあるんだけど、僕もそういう「わかりにくい人見知り」なんだろうなと思います。
あと、鈴子は披露宴の受付をやるんだけど、そこで困ったのが、「久しぶり」と声を掛けられても相手の顔と名前が一致しない、ということ。これも凄く分かる。作中では詳しく触れてないけど、鈴子もきっと、あんまり他人に興味がないんだろうと思う。だから、よく会う人でも無い限り、すぐ忘れてしまうのだろうなと。これも、あーまったく同じですよ、とか思いました。
あと鈴子が、自分ひとりの生活を「楽しんでる」と答える場面も、そうだよなぁ、と思ったりします。これも、男と女では同列ではなかなか扱えないだろうけど、でも僕も、誰かと一緒に生活するより、ひとりの生活の方が気楽でいい、と思ってしまうんですね。鈴子は、結婚したいと思ってるんだけど出来ない、と悩むのではなく、この年になっても結婚したいと思えないなんて私変かな?という風に悩むわけだけど、そういう発想も何だか近いものを感じました(別に僕は悩んでないけど)。
裕人の方にもかなり親近感を覚えました。例えば外食した時のメニュー選び。裕人は優柔不断で決めるのが遅いんだけど、裕人としては相手に気を遣ってるわけじゃないんだけど、相手がそれじゃ許してくれない。だから考えるんだけど、でも決まらない、という状況なのだ。これも僕は本当によく理解できる。だから誰かとご飯を食べに行った時、僕が「何でもいいよ」と言ったら適当に注文してくれる人というのは本当にありがたい。
また、裕人がある重要な決断を迫られている時、友人に、「いっそ誰かが決めてくれたらって思うよ」と呟くシーンがあるのだけど、これも本当によくわかる。僕も、選択肢がないのは嫌だけど、選択肢があるのも困るよなぁ、と感じてしまう人間で、裕人が陥っているような重要な決断の場合、なかなか自分で決められないだろうなと思う。何らかの事情があって強制的にどっちかに決めないといけないとか、誰かに無理矢理決めさせられたみたいな方がいいんじゃないかと思ってしまうのだ。それは結局、『自分で決めたんじゃないんだ、こうするしかなかったんだ』という言い訳をしたいだけなんだと思うんだけど、わかるなぁ、という感じがしました。
あと、裕人が風邪でダウンした時、見舞いにきてくれた理香子に、『しんどいしんどいって理香子に言ったところでどうしようもないだろ』という場面があるんだけど、それも凄くよく分かる。裕人はそんなキャラじゃないから、風邪でダウンしていたからの失言ということなんだと思うんだけど、そうだよなぁ、と。僕も、口に出しては絶対に言わないだろうけど、しんどいしんどいって言えば風邪が治るっていうならともかく、そうじゃないなら言っても仕方ないよなぁ、と思ってしまうだろうと思います。もちろん、それを女性が哀しむというのも理解できなくもないんだけど、でもそれは頭の中だけの理解で、納得出来るかというとまた違うよなぁ、という感じがします。
そんなわけで、鈴子と裕人には凄く親近感を覚えたんだけど、逆に章太郎のパートは分からなかったなぁ。章太郎は既に結婚していて一児の父で、色々あったけど自分の選びとったこういう人生に愛着を感じている、というような内容なんだけど、結婚や子供にまるで興味のない僕には、章太郎の実感はあまり深いところまで届かないんですね。
奈緒についてもそういう部分があります。奈緒は年上の彼との結婚をためらっているのだけど、そのためらっている理由がイマイチよくわからない。これは女性ならではの感覚なのかもしれないし、男にはあんまり理解出来ないのかもだけど、奈緒の実感も僕にはちょっと遠かったなぁ、という感じがしました。
そんなわけで、6人それぞれがかなり違った性格なわけなんだけど、読めば自分に近いなぁ、という登場人物が結構見つけられるんじゃないかな、と思います。割とどの登場人物も、輪郭がきっちりと描かれているので、性格や考え方なんかが合えば共感しやすいんじゃないかなと思います。
あと、これは僕が勝手に期待して外れてしまった、というだけの話なんだけど、ラストは絶対朝6時の観覧車のシーンで終わると思ってたんだよなぁ。その描写が出てきた時、ラストは絶対これだろうな、と勝手に思ったのだけど、読み進めていくウチに、もうすぐ終わりだけどどうやら最後は章太郎の話で終わりそうだな、と思って確かめたらやっぱりそうで、ちょっと残念でした。まあ、6人それぞれが視点人物になって計6章という構成はピッタリはまってると思うのでいいんだけど、やっぱりエピローグみたいな感じでもいいから、最後は観覧車のシーンだったらよかったなぁ、とちょっとだけ思ってしまいました。
まあそんなわけで、なかなか面白い作品だったなと思います。若い作家にしては文章がかなり巧いと思うし、丁寧なキャラクター描写に好感が持てます。物語自体は地味ですけど、文章や描写の仕方なんかが、その地味さをかなり補っているなという感じがします。本作ももちろん良いんですけど、これからどうなっていくのか期待したい作家だなと思います。是非読んでみてください。

瀧羽麻子「はれのち、ブーケ」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
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12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
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10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)