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エクソシストとの対話(島村菜津)

内容に入ろうと思います。
本書は、映画などで有名になった「エクソシスト」について、現地で精力的に取材をしたその成果をまとめたノンフィクションです。
「エクソシスト」というのは色んな人がいて、神父だったり普通の人がただ名乗っていたりと様々なんだけど、本書では、ヴァチカンから公認されている「公式エクソシスト」という人たちについてスポットを当てています。
本書でメインで描かれるのは、著者の取材当時既に死去していた、当時最高と言われていたエクソシストであるカンディド神父。このカンディド神父の話を主軸としつつ、現存するエクソシスト・精神科医・エクソシストを受けた人など様々な人に取材をし、実際にエクソシストの現場にも居合わせ、そうやって実際にその世界にかなり浸ることで、色々新しい視点が見えてきます。
エクソシストというのは、悪魔祓いをする人、というようなイメージです。聖書にもエクソシストの記述はあり、現在行われているエクソシストも、何百年も前から形式としては変化のない、かなり伝統的な儀式なのだそうです。
とはいえこのエクソシストの存在は、なかなか難しかったりする。
ヴァチカンにとってエクソシストというのは、なかなかに頭の痛い存在だ。その理由を簡潔に表現した箇所があるので抜き出してみます。

『ミリンゴ神父に限らず、増えるエクソシストたちは、教会にとってかなり煙たい存在だといえるわ。なぜなら彼らが、初期キリスト時代のように司祭が誰しも神の力を介在することによって癒しや悪魔祓いを行うことができることを強調し始めれば、ヴァチカンという権威機構は、自動的に揺らぐ。面倒くさい階級組織も、その意味を失ってしまうからよ』

とはいえヴァチカンとしても、聖書にも書かれ、相当に長い期間伝統として脈々と続いてきた儀式を否定するわけにもいかない。エクソシストの任命も、誰がどのようにときっちりと決められており、エクソシストの存在をなしにすることはやはり出来ない。ヴァチカンには、そういうジレンマがある(とはいえ、ヴァチカン側からの記述はあんまりないのだけど)。
そんな状況の中で、しかもこの現代のような科学が浸透している世の中において、なぜ「悪魔祓い」というような非科学的な事柄がある程度受け入られているのか。
それは現代では、エクソシストというのは、ある意味でセラピストとして機能しているからです。
そこに、先程名前を出したカンディド神父が大いに関わっている。
「ローマ典礼儀式書」という本には、悪魔祓いに関する作法も書かれている。1600年代に作られたその儀式書は、カンディド神父がエクソシストになったまさにその年、大幅な改訂が加えられている。
その最たるものが、何もかもを悪魔のせいにはしない、というスタンスである。
カンディド神父は、自身の元にやってくる人の9割以上は、何らかの精神的な病である、と指摘している。本当に悪魔に憑かれているのは1割もいない、と。だからこそカンディド神父は、精神医学の分野の専門家ともかなり交流を持ち、やがてそのあり方がエクソシストに広まっていったという。実際にイタリアでは、医者や精神科医が匙を投げた症例の最後の紹介先としてエクソシストが普通の選択肢として存在するのだそうです。
「悪魔」とはそもそも何なのか、「悪魔祓い」は本当に有効なのか、悪魔祓いの最中の奇跡的な出来事とはどんなものがあるのかなど、様々な方面から「エクソシスト」というものを切り取っていく作品です。
エクソシストという、まったく知らない世界の話を知ることが出来る、という点でなかなか興味深い本だったんだけど、個人的にはなかなか難しいなぁと思う部分も多い本だった。
なんというか、印象として本書は、ある程度聖書とかキリスト教について知っている、というのが多少前提になっているのかなぁ、という気がしてしまいました。
もちろん、聖書とかキリスト教のことはまあ有名なんだろうし、ある程度の知識はあるはず、という前提で本を書くのはまるで間違っていないのかもしれないけど、そういう知識がまるでない僕には、ちょっとついていくのにしんどい箇所もありました。
特に聖書の内容について詳細に書かれている部分は結構厳しかったかなぁ。聖書の中でエクソシストとか悪魔はこんな風に扱われたり描かれたりしている、というような話の時に聖書の話になるんだけど、なかなか辛かったです。他にも、トリノの街がサタニズムの儀式が頻繁に行われている、みたいな話も、歴史的な部分の話が結構出てきて、しんどいなぁ、と思ったりしました。
一方で、エクソシストが現代ではセラピストとして重宝されている、という、本書で割とメインになるだろう主張に関わる話はなかなか面白く読みました。この科学が広まった時代に、と思うけど、悪魔祓いをやっている側もされている側も、積極的に悪魔や悪魔祓いの存在を受け入れているわけではない。エクソシストたちは9割以上は精神的な病だと断じるし、最終的に悪魔祓いを受けることになった人の中には、あちこち病院に行ってどうにもならなくて医者に勧められたから仕方なく行くんですという、悪魔祓いなんかまるで信じていない人なんてのも結構いる。イタリアにしても当然、国民全員が悪魔祓いを信じているというわけもなく、迷信だと断じている人も多いわけです。
そういう、お互いに積極的に信じているわけではないのに、なかなか不可解な現象が起きたりする。それが、電灯がついたり消えたりする、なんてレベルならいいけど、末期的なガンが消滅したとか、思い肝臓病が治ったみたいな、そういう信じがたい話も多々あって、でもまあそれを実際証言している人もいるわけだから(一人など、難病の子を持つ医者の親の話が出てて、その医者さえ、子供の難病が治った、なんて主張してるんですね)、一概に否定も出来ないんだろうけど、理系の人間としては、どういう理屈でそんなことになるんか知りたいもんだなぁ、という感じがしてしまいました。とはいえ、エクソシストに見てもらうことで、確実に救われる人がいる、というのは間違いない事実であって、その辺りの話は興味深いなと思いました。日本の狐憑きや呪いなんかと比較したりする部分もあって、日本でも当然市民レベルでは祟りだとか呪いだとかそういうのを信じている人はいるだろうけど、でも精神科に行ってどうしても駄目だったら霊能師のところへ、なんてことはなかなかない。そういうことが普通に行われているのがイタリアという国で、なかなか興味深いと思いました。
あんまり僕の個人的興味と重ならなかったみたいで、読んでいてそこまで面白いと思えた作品ではありませんでした。悪い作品ではないと思うんで、聖書とかキリスト教とかにある程度興味があったりする人が読んだりすると、面白く読めるんじゃないかな、という感じがします。

島村菜津「エクソシストとの対話」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
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7位 「ぐろぐろ
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)