黒夜行

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ラーメンと愛国(速水健朗)

内容に入ろうと思います。
本書は、内容的にかなり多岐にわたっているので、ひと言でまとめようとするとどうしても大雑把になってしまうけど、「ラーメンとは日本人にとってなんなのか?」という問いを軸として、戦前から現在に至るまでのラーメンの存在の変遷や、ラーメンという存在が国民性に与えた影響などについて深く探っていく作品です。
内容紹介が難しいなぁ。
各章の章題と、ざっとした内容を書くことで内容紹介に代えたいと思います。

第一章「ラーメンとアメリカの小麦戦略」
この章では主に、「ラーメンが日本に根づいた背景には、戦後の闇市でのラーメンの屋台と、アメリカによる小麦戦略があった」という内容になります。戦前は「都市下層民」の夜食でしかなかったラーメンは、戦後、栄養=カロリーであった時代に、栄養食としてもてはやされた。一方でアメリカは、諸事情により国内で余り過ぎた小麦をどうにか処理すべく、日本をその標的とする。給食がパン食からスタートしたことを皮切りに、それまでの米食から、日本人の主食に小麦が入り込んでいく過程を描く。

第二章「T型フォードとチキンラーメン」
この章では、「太平洋戦争に見る日本とアメリカのものづくり思想の差と安藤百福の挑戦」という感じでしょうか。日本のものづくりは「職人」が表に出やすいのに対して、アメリカでは大量生産を前提とした仕組みが早くから取られた。それが戦争の勝敗を決し、日米のものづくりの思想の差異にもなっている。そんな中で、「工業製品としてのラーメン」を最初から目論んでチキンラーメンを作り上げた安藤百福の挑戦も描く。

第三章「ラーメンと日本のノスタルジー」
この章では、「ラーメンがその時代とどう結びついていたのかとラーメンが国民食になっていく過程」という感じでしょうか。著者は昭和33年を境にして、一つ時代が区切られるという。その境目にラーメンは存在し、ドラマや漫画でも「貧しさの象徴」としてラーメンが頻繁に登場することを示す。その一方で、団塊の世代の受験期と深夜ラジオとラーメンの相性、あさま山荘事件の中継などを契機に、ラーメンの裾野がどんどんと広がっていく過程を描く。

第四章「国土開発とご当地ラーメン」
この章では、「田中角栄の作り上げた政治形態との関わりから見るご当地ラーメンの登場」という感じでしょうか。田中角栄は、中央と地方の関係を、また政治とお金の関係を大きく変えた人物であり、その田中角栄の盛衰の過程で地方の力が弱まることで、何か特色あるものを出さねばということで、ある種の必然としてご当地ラーメンが登場していった過程を描く。ご当地ラーメンはそういう背景を持つので、地方の独自色を反映して生まれていったものではない、という論考が面白い。

第五章「ラーメンとナショナリズム」
この章では、「メディアとラーメンの関わりと信仰としてのラーメン店」という感じでしょうか。ニュースでラーメンの特集が頻繁になされたり、バラエティ番組の企画でのラーメンの扱われ方などを通じて、ラーメンが国民的なブームになっていく過程を描きつつ、ラーメンが表層的なナショナリズムと結びついて、ある種信仰に近いような存在になっていく過程を描いていく。

というような話です。
なかなか評価の難しい作品ではあるのだけど、純粋に読んでて面白い作品でした。
評価が難しいなぁと思う点は、個人的には二点あります。
一点目は、タイトル。本書に相応しいタイトルが何かというのは、ちょっと僕自身は思いつかないんですけど、「ラーメンと愛国」ってタイトルは、ちょっと内容に合っていないような印象を受けました。というのも、確かに本書はラーメンの話がメインの軸として存在はしているのだけど、ラーメンとは直接結びつけにくい様々なトピックがかなり集結していて、そういう点で、なんとなくこのタイトルにはモヤモヤするものがあります。内容自体に文句があるとはそういうわけではないんだけど、なんかもっと相応しいタイトルがあるような気がするんだよなぁ。
もう一つは、本書で描かれている内容が、どの辺りまで信憑性があるのかな、という点。本書では、「札幌ラーメンと博多ラーメンは元々別々の食べ物だったけど…」とか、「田中角栄の政治が、間接的とは言えご当地ラーメンの登場の背景になっている」みたいな、確かに話としてはメチャクチャ面白いんだけど、実際のところ眉に唾をつけて読まなきゃいけないような気もしなくはないなぁという話も結構あったりしました。もちろん読めば、これは著者の仮説であって、そうだと断言しているわけではないって分かるんだけど、なんとなくそういう我田引水的な部分が結構多いような気がして(まあ、文献だのと言った証拠的なものを提示するのも難しい話ではあるんでしょうけど)、そこがなんとなくうーんと思ってしまったりしました。
とはいえ、やっぱり読ませる内容だし、面白いと思いました。ラーメンを主軸にしようとするあまり、ちょっとそれは持論に引っ張りすぎじゃあるまいか、というような論調を時々感じたりするんですけど、単純に読んでいる分にはやっぱり楽しい。特にさっきちょっと書いた、「札幌ラーメンと博多ラーメンは実は別々の食べ物だった」的な話は、もしホントにそうだとしたら面白いなぁと思わされました。著者曰く、札幌と博多にはそれぞれ、中国から別々にラーメン的な料理が入り込んで、それぞれの土地で発展していく。しかし、テレビが出来、チキンラーメンの存在により「ラーメン」という呼称が国民の間に定着したことで、元々別々の料理だった札幌ラーメン(的なもの)と博多ラーメン(的なもの)が共に「ラーメン」と呼ばれるようになったのではないか、という話が出てきて、ホントだったら面白いですよね?
ご当地ラーメンが登場してきた背景なんかも面白いかったなぁ。特に、「ご当地ラーメンは、地元の特色が反映されたものではなく、その地域のある店が出していたちょっと変わったラーメンが広まっていったのだ」的な話は、へぇーという感じでした。また、横浜ラーメン博物館の話も出てくるんだけど、そこがご当地ラーメンの「偽史」を収集することで、それぞれのラーメンの歴史が固着されていく、そうやってラーメンブームというのが出来上がっていった、なんて話も面白いです。
そんな感じの個別の話も面白いんだけど、でもやっぱり本書は、ラーメンというものを主軸として、戦前から現在までの日本及び日本人の変化、みたいなものをどうにか抽出しようとしていて、その試みが凄く面白いなと思いました。たかだか100年ぐらいの歴史しかないラーメンが、どういう過程で国民書にまでなり、僕らがラーメンの本場だと思っている中国人が「本場のラーメン」を求めて日本に観光にやってくるまでになったのか、という経緯は、ラーメンという特集な主軸を通すことで、凄く面白くなります。ラーメンとナショナリズムがどのようにして結びついていったのか(本書ではそれを「作務衣系」と呼んでいるのだけど)、また<ラーメンポエム>(店の壁面とかに書かれている、気合の入った文章)なんかがどのようにして生まれたのかなど、近視眼的な視点でしかラーメンというものを見ることがない(まあそれが当然ですけど)僕らには、なかなか面白い視点を提示してくれる作品だなという感じがしました。
また、最終章だけになってしまうけど、これからのビジネスを考える上で、ラーメン業界というのは凄く面白いんだなと感じました。外食産業で、ラーメン業界だけが唯一、平均価格が上がっているんだそうです。しかも、他の多くの外食産業が、低価格競争にさらされ、体力のある巨大資本しか生き残れなかったのに対し、ラーメン業界は個人商店が8割を超えること、またのれん分けなどの伝統的な日本の技の伝承が未だに活かされていること、また参考にはなりにくいけど「ラーメン二郎」というラーメン屋の特殊性など、こと最終章に限って言えば、ビジネス的な視点からも読むことが出来るな、と感じました。
書かれている内容の信憑性についてはちょっと留保をつけたいけれども、読み物としては抜群に面白いし、ラーメンという、日本や日本人を考える上でなかなか主軸にしないだろうものを敢えて真ん中に持ってくることで、普段持つことがない新しい視点で世の中を見ることが出来るので、面白いと思います。是非読んでみてください。

速水健朗「ラーメンと愛国」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)