黒夜行

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なのはな(萩尾望都)

内容に入ろうと思います。
本書は、福島原発事故に対して、著者が抑えることの出来なかったザワザワしたものを漫画にした作品です。

「なのはな」
震災でばあちゃんを失った、福島に生きる小学六年生のナホ。ばあちゃんがいないという現実を認めることが出来ないまま日々を過ごす。
夢に、ばあちゃんが出てくる。見たことのない女の人と一緒に。

「プルート夫人」
美しさと余りある力を兼ね備えた女性・プルート夫人。人類は彼女の美しさに惑わされ、魅了されるが、今は彼女の存在を裁かなくてはいけない。
プルトニウムそのものであり、危険と隣り合わせでもあるプルート夫人の存在を。

「雨の夜―ウラノス伯爵―」
雨の降る夜。ウラノス伯爵という、かっこよくてどんな豪勢なものでも与えてくれる素敵な人物がやってくる。館の人々は彼にすぐに魅了されるが、アンはウラノス伯爵に警戒心を抱き続ける。
ウランの恐ろしさを知っているアンは、ウラノス伯爵を許容できない。

「サロメ20☓☓」
踊り子として最高の賞賛を浴びているサロメ。サロメが踊る場に、長いこと恋焦がれているヨカナーンが来てくれる。最高の踊りを見せようと張り切るサロメ。
しかしサロメは、謎の男たちに連れ去られて、幽閉される。10万年、ここに幽閉されるのだと…。

「なのはな―幻想『銀河鉄道の夜』」
ナホは、『銀河鉄道の夜』を読んだ。お兄ちゃんやお母さんに聞くと、そこに出てくる線路や駅は実在するらしい。
いつしかナホは、お兄ちゃんと一緒に電車の中にいた。そこで、ばあちゃんと再開する。

この本を読みながら僕は、作品の内容自体よりも、著者自身に思考が向かってしまった。
簡単に描けた作品ではもちろんないだろう。
何か描きたい、という気持ちになることはわかる。わかると思う。でも、それを発表することはまた別の話だ。結構勇気が要ったことだろうと思う。版元としても、結構悩んだかもしれない。そういう、作品の裏側であっただろう葛藤やなんかに自分の思考が向いてしまった。
本書は大きく分けて二種類にわけられる。
一つは「なのはな」の話。冒頭と最後の話だ。ばあちゃんを震災で亡くした小学六年生の女の子の物語。こちらは、もちろん色々深く考えさせる作品なのだけど、穏やかな話(と言ってはきっと語弊があるのだろうけど)だ。福島に住む多くの人々の一部を描き出したという作品で、自分に起こったことを未だに消化し切ることができない(もちろん、ずっと出来ないかもしれない)人たちの苦悩が描かれる。
もう一つは、帯に「放射性物質と人間との関係をシニカルに描いたSF三部作」と書かれている話だ。間の三つがこれ。こちらは、なかなかザワザワさせられる作品だと思う。
プルトニウムとウランを擬人化して描かれる作品は、人間の欲望と放射性物質との関係が、美しさや貢ぎ物という比喩とともに描かれていく。この描き方には、ザワザワさせられた。そして、描くのに勇気が要ったのではないかと想像したのも、こっちの三部作の方だ。
本作では、ウランやプルトニウムを、一方的に絶対的な悪にはしていない。
少し前に、山本弘「詩羽のいる街」という作品を読んだ。この作品は、別に原爆とかそういうこととは関係ないエンタメ作品なんだけど、その中のある一部で、原爆についての描写がある。そこで、詩羽はこんな感じのことを言う。
『原爆は悪くない。原爆を作り使った人間が悪い』
この箇所を読んで、なるほど確かにそうだ、と思いました。
本書でも、プルトニウムやウランはそういう扱われ方をしているように思う。
プルトニウムやウランそのものが悪いわけではない。それらは、ただ存在しているだけのものだし(プルトニウムは確か人類が人工的に生み出した元素だった気がするけど)、良いも悪いもない。しかし、それを使う人間の方がダメだった。プルトニウムやウランがもたらす良い部分だけを見て、褒めそやした。悪い部分が出てくると、一方的にプルトニウムやウランを悪に仕立て上げた。そういう、人間の愚かさや矮小さみたいなものが、放射性物質を擬人化することですごく良く描き出されているように思う。
描くのにかなり勇気が要った作品だろうと思う。描かずにはいられなかったのかもしれない、という部分も感じる。本書のメッセージをどう受け取るかは、きっと読み手次第なのだろう。僕たちはきっと、もっと多くのことを『自覚』しなくてはならないのだろうと思わされた。

萩尾望都「なのはな」




萩尾望都「なのはな」
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Comment

[4262]

はじめまして!
管理人さんに、ぜひ感想を書いていただきたい本があります。
よしながふみさんの『愛すべき娘たち』という漫画です。(ごめんなさい。小説ではありません。)

ぜひ、機会があれば手にとってみて下さい。
女性が中心の物語ですが、面白いですよ。

[4263]

はじめまして!
本をオススメしてくれるのは、あんまりない経験なんでいいですね!
でも、漫画はなかなか読まないのですよね。
嫌いなわけじゃないんですけど、
小説とかノンフィクションとかが溜まりまくってるのが大変です(笑)

でも、タイトルは頑張って頭に入れておきます!
気が向くことがあったら手にとるかもしれません。
オススメ、ありがとうございます~

[4284]

以前一度だけコメントを入れさせて頂いた者です。
相変わらず素晴らしい読書量とレビュー数ですが、
萩尾望都作品も読まれるのでしたら、故人ですが
同氏に師事されていた佐藤史生さんの『夢みる惑星』を
お勧めします。
正直、ご自身の抱えるイマジネーションを作画で表現
し切れていないという印象の作家さんでしたが、
選び抜かれた理知的な文章と、構築される世界が
卓越しており、寡作ながらも後世のクリエイターに
少なからぬ影響を与えた「SF作家」だと思っています。

作中「幻視能力者」という過去・未来・人の心の深淵を視る
能力を持つ者達が登場しますが、もう一つの代表作
『ワン・ゼロ』と併せて読むと、佐藤氏こそが幻視能力者
だったのでは、と思えてしまうのです。
古い作品ですが、日本が大きな震災の被害を被った
今読み返すと、とても考えさせられるものがあります。

[4285]

コメントありがとうございます!
そして、オススメもありがとうございます~。
なかなか僕に本のオススメをしてくれる人はいないので嬉しいです!
まあ、本を勧めてもらっても、読めるのか?ってところが大問題なんですけど…(積読的に)

「夢見る惑星」は気になりますけど、これ、
普段マンガをあんまり読まない人間でも大丈夫ですか?
あと僕、ファンタジーとかSFとか結構苦手分野なんですけど、そういう人間でもいけそうですか?
あと、amazonでちょっと見てみただけだからわからないけど、
これ、ちょっと絶版(あるいは版元品切れ)っぽい予感もなくもないかも…。

頭の中の、気になる本リストにはちゃんと入れておきますね!
今オススメしてもらったものを読んでもいないのに図々しいですけど、
また気が向いたら、何かオススメしてくださいね。
普段漫画をあまり読まない僕ですが、
「預言者ピッピ」って漫画には相当感動しました!

[4286] むしろ小説派の方にこそ

アマゾントップレビューが、作品概要を余すことなく語っていますね^^;)
惰眠を貪っていた脳細胞を活性化させる言語感覚が快く、むしろ
小説好きの方にこそ読んで欲しいです。
大変な知識量と深い洞察力に裏づけられた高度な内容とイマジネーション
を、難解な専門用語で読者をケムに巻くことなく、むしろ努めて解り易く
表現されています。
『スカイ・クロラ』森博嗣氏の萩尾作品傾倒は有名ですが、必ずこの方の
作品もご存知かと。
なにぶん古い作品ですので文庫版の入手も難しいでしょうか?
因みに発表された時代のせいか、サブカルチャー色は一切なく
王・科学者・神官は登場しますが魔法使いは存在しません。

[4287]

了解です!
とりあえず、手に入るかどうか、店で自分用に客注を出してみます。
手に入るなら、読んでみますね~。

イマジネーションは豊かな方ではないんでちょっと不安ですけど(でも、マンガなら絵が元からあるから大丈夫かなぁ)、
言語感覚が面白いってのは興味深いですね。
そういうのは、結構好きだったりします。

森博嗣は、萩尾望都の「トーマの心臓」のノベライズもしていましたね。
クリエイターとして最上級に褒めていたように思います。
森博嗣の飼い犬の名前も、確か「トーマ」ですしね。

魔法使いが出てくる話はたぶんあんまり得意じゃないんで、むしろ好都合です。
すぐ読めるかわかりませんけど、読んだら必ず感想を書きますね~

[4291]

こんばんはです。

「夢見る惑星」やっぱり出版社品切れでした!
無念です。
もしうまいことどこかで出会うようなことがあることを祈ります~

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)