黒夜行

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女子校育ち(辛酸なめ子)

内容に入ろうと思います。
本書は、自身も女子校出身である著者による、女子校に関するあれこれを見聞きしたり取材したりしたものをまとめた作品です。
冒頭で著者はこんな風に書いています。

『ある時、「女子校出身者は生きづらそう」と知人に指摘されて、ハッとしたことがあります。思い返せば、共学出身の女性のゆおうに、自然体で女を武器にできないというか、女を出すことに抵抗を感じてしまうふしが。中高の六年間という多感な時期に、ほとんど異性と接する機会がなく、女子力を磨いてこなかった影響はかなり後を引いてしまうようです。女子のみの気の置けない環境で批判精神を発達させてきたので、可愛げのない女になってしまいました。ふつうに率直な感想を述べているだけでも「キツい」とか言われてしまいます。もっと女らしく、かわいいものにエモーショナルに反応したり、自然な女性フェロモンを出せれば、ラクに生きていけたかもしれません。でも、そんなデメリットを差し引いても、女子校で過ごした六年間は私にとってはかけがえのないものでした。』

もちろん、すべての女子校出身者がこの意見に賛同するかどうかはわかりませんが、本書を読んでみる限り、なるほど女子校というのがそういう場所であるならばそういう感じになってもおかしくないのかもな、という感じはしました。
僕自身は、女子校というものに特別これというイメージを持っていません。男の目が周りにないから、凄くだらしない感じになりそうだなーとか、男性教師はちょっと羨ましいけど大変そうだなー、みたいなイメージしか持っていませんでした。小説でも、女子校が舞台のものってあんまりないような気がします(百合的な小説を除き)。それは、本書を読んでなんとなくわかった気がします。女子校というのは、百合的な部分を除けば、なるほどなかなか物語の立ち上がりにくい環境なのだな、と思いました。女子校出身者が卒業して大学に行ったり社会に出たりという風になれば、それまでの価値観とのギャップから物語の生まれる余地はあるんだろうなという感じがしますけど、まさに女子校を舞台にした作品というのは、物語が生まれにくいのだろうと思いました。
本書は、とにかく辛酸なめ子が色んな人に話を聞いたり、あるいは自身で文化祭に行って見聞きしたりという作品です。統計的なデータはありません。基本的に辛酸なめ子の主観で女子校というものが分析されていきます。作中に、

『女性の種類は、思春期を過ごした学校で決まるような気がします。』

って表現があって、なるほど確かに、本書に描かれているような環境であるならば、共学か女子校かで、また女子校であってもどんなタイプの学校を選ぶのかによって、それから先の人生が大きく変わるような気がします。あくまでも辛酸なめ子の主観を通じた女子校の分析であることをきちんと頭に入れつつ読むのであれば、これから女子校に行こうかどうしようか迷っている首都圏周辺の中学生なんかが読んだら、結構参考になるんじゃないかなと思います。まあもちろん、親世代が子どもに行かせたい高校を選ぶ際にも、役立つかもしれませんけどね。
とはいえあくまでも本書で描かれているのは、『古き良き時代の女子校』です。というか、かつての女子校が古き良き時代だったかはさておいて、とにかく最近のデータはほとんどありません。ちょっとだけ、現役の女子校の生徒を読んで話を聞いている部分があるけど、他は基本的には、女子校の卒業生や先生、あるいは何らかの形で女子校の生徒と関わりのあった男性、と言った人たちです。本書では、様々な学校別に、それぞれの特色が結構面白く描かれているんですけど、でもそれらはあくまでも、現在ではない結構前の情報であるということを頭に入れて読むといいかと思います。
本書は、読んでてなかなか面白かったんだけど、個人的な感想を言うと、「これで820円はちと高いかな」という感じがしました。というのも本書は、「~な気がします」「~のようです。」「~かもしれません」みたいな表現が結構基本で、推定とか憶測とかがメインです。確かに、そういう部分が面白いし、断定しない形で辛酸なめ子の考察が各所に散りばめられていてクスリと笑わされる場面がたくさんあるんだけど、でもやっぱり値段的には500円ぐらいであって欲しいなぁ、という印象の作品でした。もう少し内容的にどうしたらよかったのか、という意見は特になくて、この内容のまま500円ぐらいで売ってくれると、内容と価格が結構釣り合うような気がするんだけどなぁ、という印象です。
本書には、実際に色んな人から話を聞いたのだろう、様々に面白いエピソードがあって楽しいです。こういう作品の場合(というか、こういうエピソードがよく載ってそうな雑誌の特集の場合、かな)、耳目を引くために(ちょっと表現が大袈裟ですけど、他の表現が思いつかなかった)大袈裟なエピソードが満載されるようなイメージがあるんですけど、本書には、もちろんそういうエピソードもあるけど、でもごくありきたりの、でも女子校という雰囲気をほどよく反映するようなエピソードも結構散りばめられていていい感じです。
僕はこれまで、女子校と共学で、まあ多少性格的なことに影響はあるかもしれないけど、全体をひっくるめてみればそこまで大差なかろうと思ってたんですけど、本書を読むと、なるほど女子校の中で育っていくということにこれほどのメリットとデメリットがあり、それが共学の女子とどれぐらい違うのかというのがなんとなくわかった気がします。女子校出身者が本書を読んだら(特にまさに今女子校に通う現役生が読んだら)どう感じるのかわかりませんけど、少なくともこういう時代があった、そしてこういう風に考えている人が決して少なくはないのだ、という記録として読んでみると、読み物としてなかなか面白く読めると思います。
本書には色んな女子校の話が出てきますけど、個人的に一番興味深かったのは、超進学校として有名らしい桜蔭学園。ここの文化祭の描写が出てくるんだけど、これがもうホント凄い!物理・化学・生物なんかの展示がかなり白熱しているのは当然のこと、数学のとある教室では、何故かペーパーテストが行われていて、桜蔭を受験するのだろう中学生たちが必死になって問題を解いていたとか。他にも桜蔭学園の生徒の話は、勉強ばっかりしてきた者ならではの「あはれさ」みたいなものがあって、学生時代勉強ばっかりしていた僕としてはなかなか共感できる感じでした。
あと、東京純心女子もちょっと興味アリです。ここは、掃除のハードさにかけては日本一と言ってもいいんじゃないかというレベルらしく、シスターから「あなたはこの便器を舐められるのか?」と聞かれたりするそう…。なんとなく女子校~お嬢様というイメージ(これは辛酸なめ子自身も、世間がそういうイメージを持っていると感じることは多いそうです)にはそぐわなくて、いいなと思いました。
他にも、いじめの話、制服の話、恋愛の話、金持ちの話、軽犯罪の話、男性教師の話などなど、女子校に通っていた人たちによる様々な話がすくい上げられていて、なるほどこういう世界なのかと興味深かったです。話題が色々ありすぎて感想には書きにくいですけど、色んな方向から女子校というものを見ています。
本書で気になった文章をいくつか抜き出して終わろうと思います。

『女子校出身者の男性への過剰な警戒心の根本は、いじめの対象であった男という生き物からいつか復讐されるのではないか、という恐怖もあるように思います。』

『以前共学出身の女性が「男性にモテたいというのが仕事の原動力」と言うのを聞いて、ギャップを感じたことがあります。女子校出身者の場合は、男受けよりも、女子にモテたい、嫌われたくない、という意識で言動に注意を払います』

『共学校の場合は、男子がいて男性的な麺を担っているので、女子は男子のサブ的な位置となり、自分の中の男性性を抑えて女性性を育むことになります。よって、共学の方が、女女した女子が多くなるような気がします。』

さらっと読むには楽しい読み物だと思います。身近に女子校出身者が多い、という男性にも是非。

辛酸なめ子「女子校育ち」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)