黒夜行

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ルポ資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄(白戸圭一)

内容に入ろうと思います。
本書は、毎日新聞の記者として、2004年から2008年の4年間、南アフリカ共和国・ヨハネスブルグ特派員として、サハラ砂漠以南48カ国をたった一人で担当しながら、「暴力が結ぶ貧困と繁栄」をテーマに、かなりの危険を冒しつつ、アフリカに強く関心を持つことのない日本人に(これはかなり仕方のない部分があるのだけど)、アフリカにどうにか関心を持ってもらおうと奮闘し続けた記者によるノンフィクションです。

「格差が生み出す治安の崩壊 南アフリカ共和国・モザンビーク共和国」
南アは、かつて白人によるアパルトヘイトに支配された国であったが、アパルトヘイトは今はない。アパルトヘイト時代は、人種がすべてを決めた。その人種差別が撤廃され、南アに平和が訪れたかというとそうではない。南アは、日本とは比べ物にならないほどのとんでもない経済格差が存在し、それにより暴力や犯罪が飛躍的に増加しているのだ。
アパルトヘイト以後、黒人の間でもとんでもない経済格差が生じるようになった。アパルトヘイト時代にはそこまで広くはなかった低所得者たちが居住するキャンプは、アパルトヘイト以後その規模をどんどんと拡大し、キャンプは溢れかえった。そんな南アでは、富に最も容易にアクセスする手段として、暴力が氾濫した。個人による暴力だけではなく、組織犯罪も南アにはびこる大きな問題であり、強盗や人身売買が日常的に行われている。

「「油上の楼閣」からしみ出す組織犯罪 ナイジェリア連邦共和国」
ナイジェリアという国は、世界でも最も危険な国に挙げられている。FBIはナイジェリア人の犯罪組織を、「麻薬密売と金融詐欺を手がけるもっとも活動的かつ拡大傾向にある国際犯罪組織」として世界八十カ国以上でその活動を確認したと発表している。また「オンライン取引をおこなう上で最も危険な国はどこか?」という毎年行われている質問でも、31%という圧倒的多数の企業がナイジェリアを挙げている。今、ナイジェリア人による組織犯罪は、世界中に広がっている。
ナイジェリアの混乱の元になっているのが、油田だ。かつてナイジェリアは、輸出総額の25%をパーム油が占める世界最大のパーム油輸出国だった。しかし今は、輸出総額の90%以上を石油が占める、超石油依存の国に変貌している。
そのナイジェリアでは、自分たちの土地を勝手に掘られ油田にされ、用済みになれば見捨てられ、地元にはなんの恩恵ももたらさない油田開発に憎悪を抱く多くの貧しい人達と、石油産業によって莫大な利益を得る人々との間の格差や考え方の違いにより、様々な闘争が行われている。
複雑なのが、ナイジェリアの石油産業を批判し武力闘争をしているグループが、実は国や石油関連企業と手を組んで石油を密売して利益を得ているというような、複雑な事情だ。ナイジェリアの石油産業は、国内をズタズタにしている。

「「火薬庫」となった資源国 コンゴ民主共和国」
コンゴでは、武装集団による虐殺が絶えない。コンゴのありとあらゆる村に出没し、住民を虐殺していく。この虐殺の背景は、非常に複雑だ。この虐殺には、ルワンダ大虐殺に端を発する長い歴史が存在し、現在武装集団が住民虐殺を行う理由は、コンゴ内の情勢を不安定な状態で維持することで自分たちの利益を得るという、非常に不毛なものだ。
彼ら武装集団の資金源は一体なのか。そこに、アフリカと先進国を繋ぐ鍵がある。彼らの資金源となっているのは、コンゴに大量に埋蔵されている金などの鉱物資源だ。先進国で便利さや豊かさのために使われている様々な鉱物資源が、コンゴ国内における武装集団の資金源となっている。

「グローバリズムが支える出口なき紛争 スーダン共和国」
著者が任期中ずっと抱えていたテーマの一つが、スーダンのダルフール紛争だ。ダルフール地方の二つの反政府勢力が政府に反旗を翻したことから始まったこのダルフール紛争は、著者の任期中もずっと長いこと続いていた。
ダルフール紛争では、政府軍が民間兵の武装強化をし、住民を襲撃しているという事実がある。スーダン政府はその事実を公式には認めていないが、著者が実際にあった避難民たちは、スーダン政府が自分たちを襲撃していることは当然だと認識していたし、国際社会もそのように認識している。しかし著者を初め誰もが、なぜスーダン政府が大規模な住民への襲撃を行なっているのか、その理由についてはまるで理解出来ないでいた。
著者は、かなり危険な取材を決行する。なんと、密入国をし、スーダン政府と対立している反政府勢力と接触するというのだ。

「世界の「脅威」となった無政府国家 ソマリア民主共和国」
ソマリアという国が日本で問題になったのは、著者が南アでの駐在を終え日本で永田町での取材に追われるようになってからだ。ソマリア近海を通る船がソマリアの海賊に襲われるようになったというのだ。
ソマリアという国は、世界で唯一、中央政府が存在しない国、つまり無政府状態の国だ。国連なども撤退し、事実上地図上には存在しない国として扱われているような有様だ。国内は、様々な武装集団がはびこっており、暴力によって支配されている。
著者は、ソマリアの首都であるモガディシオに潜入取材を敢行することが出来た。そこで見た光景は、驚くべきものだった。政府が存在しない中民間で紙幣が刷られ、ネットカフェや携帯ショップが存在する。有志で集まった教師たちが学校を運営している一方で、世の中のありとあらゆる武器が露天で売られているという衝撃的な光景もあった。
ソマリアを取り巻く環境が激変した後、著者はもう一度モガディシオ入りを果たすことになる。

というような話です。
いやはや、これはちょっと凄すぎる作品でした!本書の凄い点は様々にあるのだけど、その中で一点だけ挙げるとすればこれだろう。それは、『恐らく、世界中に存在する本やメディアの中で、本書でしか知りえない事実が存在するだろう』という点だ。
著者は、『危険を顧みず』という表現が生ぬるく感じられるくらいの危険を冒し、普通行こうと思わないところに行き、普通会おうと思わない人に会いに言っている。著者はもちろん現地取材に加え、取材前に様々な資料を読むのだけど、どの資料をひっくり返してもどうしても書かれていない事柄を、あっさり取材相手から聞き出したりしている。本書で描かれていることの内、どの程度が「本書初の情報(というか正確には、毎日新聞誌上の連載初、なのだろうけど)」なのかはわからないけど、本書にはそういう情報が相当数あるのだろうと思います。
僕は先日、石井光太がナビゲーターを務め、ノンフィクション作家で元朝日新聞記者である松本仁一氏の話を聞く機会があった。松本氏もかつて朝日新聞記者としてアフリカに駐在したことがある人で、その当時の取材の様子などを色々聞くことが出来たのだけど、松本氏と本書の著者が共に共通しているのは、実際に現場を見る、という強い執念だ。
松本氏の話の中でも、その部分はかなり強調されていた。とにかく、現場を見なくては始まらない。本書でも著者は、普通だったらちょっと諦めるだろう様々な状況に乗り込み、果敢に取材をする。そこまで辿りつけさえすれば、それまで誰も知らなかった情報があっさり手に入る。しかし、まずそこまで行こうとも思わないし、行こうと思ったってひょいと簡単に行けるものでもない。時には国境を超えて密入国し、時には無政府状態の都市に入り込みギリギリの状態で取材をするという中で、著者はアフリカの現実を多数目にすることになる。
著者がアフリカを切り取るために用いた視点が、「暴力が結ぶ貧困と繁栄」だ。あとがきで著者は、この視点には限界があると告白している。確かにそうだろう。本書で描かれるような似たような環境にあるアフリカの国が、必ずしも同じ状況になっているわけではない、という事実がある。しかし著者は本書を書く上で、この視点にこだわった。それは一つには、僕ら日本人(だけではなく、基本的に世界全体)が、アフリカという国に関心を持っていないという事実がある。
著者はヨハネスブルグ特派員時代、あの手この手を駆使して紙上に自分の記事をねじ込む工夫をしなくてはならなかった。それは、やはり新聞紙面は国内・アメリカ・アジア地域の話が中心に載るわけで、アフリカの話に興味を抱く読者は少ない。そういう中では、世界で大きなニュースがあると、アフリカでどれだけ重大な出来事が起こっていても、アフリカのニュースは切られてしまう。そういう中で著者は、アフリカの現状が、どれだけ先進国と関わりを持っているのかということを切り口とすることで人々の関心を喚起できれば、と考えたのだ。
しかし、僕が本書を読んで一番に感じたことは、アフリカというのは国によってここまで違うのだな、という当たり前の事実だ。
僕は、新聞もテレビも全然見ない、情報はそれなりにネットから手に入れるという人間で、結構時事問題に関する知識は少ないという自覚がある。とはいえ、アフリカという国に関する知識度で言えば、日本人はそこまで誰も大差ないのではないかと思う。
どうしても、『アフリカ』という大きな単位で捉えてしまうことが多くて、個々の国でこれほどまでに違った現実があるのだと、本書を読んで初めて思い知らされた。アパルトヘイトによって解放されたはずの南アで、経済格差によって暴力が激増しているという事実は、南アでワールドカップが開催されたというごく一般的な認識からはかけ離れているものだし、僕らが生きていく中で使わないわけにはいかない石油や様々ま鉱物資源が、ナイジェリアやコンゴでの混乱や紛争を支えているという事実は、まるで知らなかったわけではないけど、本書で具体的にそれを知ることになってもの凄く驚かされた。スーダンが抱える内戦が、ルワンダ大虐殺という他国の出来事に端を発しているというのも驚くし、ソマリアという国が無政府状態であることも知らなければ、無政府状態下での人々の生活などはもちろん想像も及ばなかった。
しかも何よりも驚かされるのは、アフリカでこれだけとんでもない出来事が起こっているにも関わらず、日本に住む僕にはそれが情報としてまったく届いていないという事実だ。
もちろんこれは、僕自身の社会問題への無関心さもあるだろうけど、それに加えて、メディアがいかにアフリカについて報じないかというのが如実に現れるのだと思いました。エジプト革命の際、僕はネットでそれに関する情報を知ることは出来たけど、日本ではテレビでエジプト革命について報じられることはほとんどなかった、というような記述を見たような記憶があります。特に、石油や鉱物資源などが、アフリカの暴力と先進国の繁栄を直接的に繋げる存在であるという事実は、やっぱりもっと知られるべきだと思うのだけど、なかなか難しいのだろうと思います。
国際的に発表されている数字だけでは、あるいは僕らが普段見ているニュースだけではまったく想像も出来ないような現実が、アフリカを覆っています。本書を読んで思ったことは、僕らの生活を豊かにするものが、アフリカの人々を貧困や暴力においやっているのだ、ということです。正直なかなか、遠く離れたアフリカのことを意識することは難しいです。が、やはり無関心でいてはいけない、と痛感させられました。
最後に、全編に渡って非常に驚かされ、考えさせられる内容なのだけど、その中にあって、僕が一番気になった言葉を抜き出して終わろうと思います。これは、無政府状態のソマリアで、子どもに教育を施そうとギリギリのところで踏ん張っている校長の言葉。

『ソマリアの一番の問題は、子供たちが生まれた時から暴力の中で育つことです。ソマリアの子供たちは「法の支配」を知らない。意見の違いを銃撃戦で解決する社会で人間が育つということがどういうことなのか、あなたには想像できますか?』

凄いルポルタージュだと思います。是非読んでみて下さい。

白戸圭一「ルポ資源大陸アフリカ」



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