黒夜行

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世界一退屈な授業(適菜収)

内容に入ろうと思います。
本書はどういう本かというと、一言で説明すれば、著:内村鑑三・新渡戸稲造・福沢諭吉・柳田国男・西田幾多郎、編訳・適菜収という感じです。
本書は、先に挙げた五名の先人たちの著作から一部抜き出したものを、適菜収が若干読みやすい文章に直し、明らかな間違いを訂正したものが収録されています。
内容に触れる前に、まず本書のコンセプトから。
本書は、師の見つからないこの時代に生きる人々に、本物の先生であり人生の師となるべき偉大なる先人たちの言葉を振り返り、教えを乞うべきではないのか、というスタンスです。
今の時代は、すぐに役立つ効率的な知識ばかりが求められている。そしてそれらが高く評価されている。本書は「世界一退屈な授業」というタイトルがつけられている。読んだところで、出世するわけでもなく年収がアップするわけでもない。そういう意味では、すぐに役立たない効率の悪い「退屈」な授業かもしれない。
でも、すぐには役に立たない知識、それこそ『教養』と呼ぶべき知識だけれども、まさに教養こそがこれからの武器になるのではないか。すぐには効かないけど、あとから効く。そして長期間にわたり効果が続く。簡単に全部飲み込めてしまうものなど、程度が知れている。
そういうコンセプトを持って、著者は本書を編訳することになりました。
本書に、師についてすごくいい文章があるんで抜き出してみます。

『最初にも言いましたが、今は師がいない時代です。
学校にも会社にも、見本となるような大人がいない。
そもそも、師弟関係そのものが成り立たなくなってきています。
師とは何か?
それは、なんでもかんでもわかりやすく教えてくれる先生ではありません。
効率よく知識を身につけさせてくれる便利な存在でもありません。
最後までわからない部分を残し、その立ち居振る舞いにより生き方を示してくれる存在です。
よって、師が品行方正である必要もないし、社会的成功者である必要もない。
そもそも、師と考え方を一致させる必要はありません。
師に必要なものは偉大さだと思います。』

この文章はいいなぁと思いました。
特に『最後までわからない部分を残し、その立ち居振る舞いにより生き方を示してくれる存在です。』という部分は素晴らしいですね。この一点だけでも、師と教師の違いが明確に伝わる。
確かに、ここで書かれているような師は、今の世の中にはなかなか見つかりそうにありません。じゃあ、本書に収録されているような人たちがかつてそういう存在であったのか、というと、僕はその時代に生きていないのでなんとも言えませんけど、きっとそうだったのでしょう。
本書は、著者がちょっと手を入れているとはいえ、やっぱりするっと読める内容ではない。昔の人が書いた文章だから、読みにくいところもあるし、すんなりの頭に入ってこない部分もある。僕も、基本的に昔の人が書いた文章を読むのは苦手なので、本書も難しい部分が結構ありました。
その点について著者はこう書いています。

『昔の人の文章なので、ごつごつしたところやわかりづらいところがあったかもしれません。
でも、それでいいんです。
大事なことは、飲み込めない部分を咀嚼することです。歯ごたえがあるもののほうが栄養があります。すぐには効かないけれど、あとから効きます。そして、長期間にわたって効果は続きます。
簡単にぜんぶ飲み込めてしまうものなど、程度がしれています。』

というわけで、新書にしてはなかなか読み応えのある作品です。
でも本書には、各編の最初と最後に、これからどういう話がされるのか、そしてここではどんな話がなされたのかという部分がきちんとある。だから、一度読んでわからなくても、何度も読んで咀嚼しやすいのではないかと思います。
って書いてたりするけど、少なくとも今の僕には、古典作品(に限らないけど本全般)を、ゆっくり丁寧に何度も咀嚼して読む、ってのはほぼ無理なんだよなぁ。第一講の新渡戸稲造の話がまさに読書についてで、やっぱり古典作品を何度も読むって話をしてるんだけど、まあ書店員じゃなくなったら僕も頑張ります(笑)
というわけで、各編がどの本から採られたもので、どんな内容なのかというのを書いていこうと思います。

第一講「読書について」(『新渡戸稲造全集 第11巻』(教文館)「読書と人生」より)

この講義は、1933年に早稲田大学の大隈講堂で行われたもの。適菜収曰く、正統派の中の正統、直球の中の直球、王道の中の王道とでも呼べる読書の本質が語られている、とのことです。
要するにざっくり言ってしまうと、古くから残っている名著を、出来る限り原著に近い形で何度も読みなさい、ってことで、こういう読書の仕方を学生時代にきちんと教えてくれる人がいたらなぁ、なんて思ったりします。少なくとも今の僕には、そういう読書のやり方が凄くいいということは分かっていても、書店員という仕事柄なかなかそれをやるのは難しいです。
いろいろ気になった文章を抜き出してみます。

『「読書をするのに良い物を選択せよ」ということを吾輩はここで述べたい』

『それを読むと、カフェなんかに行ってでらでらしていられなくなってくる。
とにかく、青年をカフェから引き出すというような力は、偉大なものではないか(笑声)』

『人の性格を見るには、その人間が一番なにも考えていないとき、ひょっと物を食っているとき、咳払いをしているときなどに「あれはあんな人間である」ということがわかる。
それを窺ってやるべきである(伝記をどう書くか、という話について)』

『かならずしもすべての真理がサイエンスのみで発見できるものではない』

『良い本と思ったものは大概、嫌になるものである。』

『「君、この本を読んだろうが、いったい何が書いてあったか」と尋ねられて答えのできない人がたくさんいる』

『だから、諸君が読書をするには遅くてもいいから、一日に何ページでもいいから、「この本にはこうあるけれども、どうか」というようにじっと考えてもらいたい。』

『読書にして人間をこしられることに貢献しないならば、これはただ漫談家を作るにすぎまい。』


第二講「仕事について」(『内村鑑三全集 第4巻』(岩波書店)「後世への最大遺物」より)

ここでは、『一番大切なものはなにか?それはカネである』という信念を元に、世の中を動かすためにカネを稼ぐこと、世の中を動かすためにカネを使うこと、そしてそれらを全部ひっくるめて、後世に一体自分は何を残すことが出来るのか。それこそが価値のある仕事であり生涯である、というようなことについて書かれています。
いや、本当に、ここで書かれているような志を持った金持ちが一杯出てきて欲しい、と思います。内村鑑三がこの話をした当時でも、カネを稼ぐことが美徳とされていたわけではなかったようですけど(特に内村鑑三はキリスト教徒だったようで、キリスト教徒としての発言としても異例だったようです)、ただやっぱり今の時代に「カネこそが一番大事だ」というと、どうしてもあまりよくないイメージがつきまとう。それは結局、どうカネを使うか、という部分に美学がないからだろうと思う。良くカネを使うために良くカネを稼ぐ。これは凄く良い話でした。
気になった文章を抜き出してみます。

『われわれが死ぬまでには、この世の中を少しなりともよくして死にたいではありませんぁ。なにか一つ事業を成し遂げて、できるならばわれわれの生まれたときよりも、この日本を少しなりともよくして逝きたいではありませんか。』

『金というのは、宇宙に浮いているようなものでおざいます。
しかしながら、それを一つにまとめて、構成の人がこれを用いることができるように溜めていこうという欲望が諸君のうちにあるならば、私は私の満腔の同情をもって、イエス=キリストの御名によって、父なる神の御名によって、精霊の御名によって、教会のために、国のために、世界のために、「君よ、金を溜めたまえ」といって、このことをその人に勧めるものです。』

『富というものを一つにまとめるということは、一大事業です。
われわれの今日の実際問題は、社会問題であろうと、教会問題であろうと、青年問題であろうと、教育問題であろうと、煎じつめてみれば、やはり金銭問題です。
ここにいたって誰が「金が不要だ」なぞというものがありますか。』

『私は、金のためにはアメリカ人はたいへん弱い、アメリカ人は金のためにはだいぶ侵害されたる民であるということも知っております。
けれども、アメリカ人のなかに金持ちがいて、彼らが清き目的をもって金を溜め、それを清きことのために用いるということは、アメリカの今日の盛大をいたした大原因であるということだけは、私もわかって帰ってきました。』

『それで、もしわれわれのなかにも、実業の従事するときにこういう目的をもって金を溜める人が出てこないときには、本当の実業家はわれわれnなかに起こらない。
そういう目的をもって実業家が起こらないなら、彼らはいくら起こっても国の益になりません。』

『そういう実業家が欲しい。
その100万両を国のために、社会のために残して逝こうという希望は、実に清い希望だと思います。』

『そればかりではない、金は後世への最大遺物の一つでございますけれども、残しようが悪いとずいぶん害をなす。
それゆえに、金を溜める力を持った人ばかりではなく、金を使う力を持った人が出てこなければならない。』

『それゆえに、金を遺物としようと思う人には、金を溜める力とまたその金を使う力とがなくてはならない。
この二つの考えのない人、この二つの考えについて十分に決心しない人が金を溜めるということは、はなはだ危険だと思います。』

『さて、私のように金を溜めることが下手なもの、あるいは溜めてもそれが使えない人は、後世の遺物に何を残そうか?
(中略)
それで、私が金よりもよい遺物はなんであるかと考えると、事業です。
事業とは、すなわち金を使うことです。』

『これらの大事業を考えてみるときに私が心のなかに起こる考えは、もし金を後世に残すことができないならば、私は事業を残したいとの考えです。』


第三講「お金について」(『福沢諭吉全集 第7巻』(岩波書店)「福翁自伝」より)

ここでは、福沢諭吉はお金について語る。
福沢諭吉のお金に対する考え方は、なかなか面白い。まず、とにかく何があっても絶対に借金だけはしない。その哲学はこうだ。

『人に借用すれば、かならず返済しなければならない。
当然のことでわかりきっているから、「その返済する金ができるくらいならば、できる時節まで待っていて借金はしない」と覚悟を決めて、そこで二朱や一分はさておき、100文の銭でも人に借りたことはない。ちゃんと自分の金のできるまで待っている。』

これはホントそうだなぁ、と僕も思っています。僕は、生涯で借金をしたことがない、とは言いませんが(返済しなければならない奨学金とかも、やっぱり借金ですしね)、クレジットカードも持たないし、キャッシングなんてもちろんしたことがない、基本的に金を借りない人間です。他にも福沢諭吉は、とにかく金のことになるとかなり強引に筋を通す男で、僕はさすがにそこまでストイックな人間ではないし、ってか全然ストイックではないけど、でも感覚としては凄くわかる。福沢諭吉は、自分はどういうことを考えてそういうお金に対するスタンスを取っているのか、ということを綴っている。
特に面白いなと思ったのは、子供二人を留学させたいと思っている福沢諭吉が、とある学校を監督する立ち位置に来てくれるなら、と先方から提示された条件を蹴った話。それは、今こちらの依頼を引き受けてくれたのなら、子供二人の留学については保証しましょう、という話だったのだけど、福沢諭吉はそれを、金のために自分の考えを翻すのはおかしい、子供が留学する時期になって自分に金があれば留学させるし、なければ諦めよう、と言ってその話を断ってしまう。ホントストイックだなぁ、と思いました。
というわけで、気になる部分の抜き出し。

『よろしい。今後もし私の子が金のないために十分の教育を受けることができなければ、これはその子の運命だ。幸いにして金ができれば教育してやる。できなければ無学文盲のままにしてうっちゃっておくと、私の心に決断した。』

『自分の金があろうとなかろうと、かならずしも他人に関係したことではない。
自分一身の利害を下らなく人に語るのは、独り言のようなもので、こんな馬鹿げたことはない。
私の流儀にすれば、金がなければ使わない。
あっても無駄に使わない。
多く使うも、少なく使うも、一切世間の人のお世話にならない。
使いたくなければ使わない。
使いたければ使う。
人に相談しようとも思わなければ、人に口出しさせようとも思わない。』


第四講「勉強について」(「定本柳田国男集 第25巻」(筑摩書房)「青年と学問」より)

第四講と第五項は正直、ちょっとあんまり集中して読めない時に無理矢理読んでしまったので、あんまりきちんと内容を理解できていないと思う。それまでの章より若干難しく感じられたんだけど、それは読んだ時の僕のコンディションの問題だったかなぁ。とりあえず第四講から、気になった文章を抜き出します。

『人はみなたがいに争っている。欺くことができるなら、欺こうとさえしえいる。
この形勢をもって押し進むならな、末は谷底であることは疑いの余地がない。
しかも、もはや打ち棄てては置けないということと、在来の治療法では不十分であったこととを、よほど多数の者が認めるようになったのである。』

『われわれがなにかしさえすれば、世の中が住みよくなるというのである。
だから、なにかしようというのである。』

第五講「物事の考え方について」(「定本西田幾多郎全集 第10巻」(岩波書店)「知識の客観性について」より)

第五講は、集中して読めなかった、ということもあるけど、やっぱりちょっと他の章と比べて段違いに難しかったような気がします。ここの章については何も書けないけど、哲学というのは興味があって、哲学の本も入門書的なのをいくつか読んでいたりするんで、ちょっとここの章とか、西田幾多郎って人の本は、いつか読んでみたいなと思いました。

正直僕は、こういう古典作品とかがすごく苦手で、学校の教科書に載っているような話もまるで受け付けない人間でした。だから、古典作品に触れる機会って全然ないんだけど、こうやって新書の形態にしてくれて、ちょっとは読みやすい編集をしてくれていると、すんなり手に取れる気がします。とりあえず、新渡戸稲造さんの言っているように、もう少し名著と呼ばれる古典的作品を読んでみようかなぁ。それは、来年の目標にしようかしらん。個人的には、「仕事について」の章が一番好きでした。是非読んでみてください。

適菜収「世界一退屈な授業」



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感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

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7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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