黒夜行

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ワン・モア(桜木紫乃)

内容に入ろうと思います。
本書は6編の短編が収録された連作短編集です。

「十六夜」
北の離島・加良古路島に、とある事情で飛ばされた女医・柿崎美和。役場から派遣されている保健師・鈴木清美と共に診療所を回していく日々。病気を発見することが目的で、治療が必要であればヘリと漁船で総合病院に運ばれる。治療は期待されていないのだ。
高校時代の同級生で同じく女医である滝澤鈴音から突然連絡がある。大腸ガンにおかされているという鈴音は、親から受け継いだ診療所を美和に託したいという。
美和は島で、既婚者であり元水泳選手の木坂昴と体の関係があった。そのことはもう、島中の人間が知っている…

「ワンダフル・ライフ」
鈴音は、自身の大腸がんを知って、診療所をどうするか考えた。市民病院にいた頃から一緒に働いていて、自身の診療所に来てもらった看護婦の浦田寿美子の意見をまず聞き、それを受けて美和に連絡を取ることに決めた。
今住んでいるのは、診療所と自宅を合わせた建物で、Mハウスの志田拓郎が担当してくれた。鈴音の、元夫だ…

「おでん」
トキワ書店の店長であり佐藤亮太は、今まで女性と付きあったことがない。今ではもう諦めている。
家に帰ると、部屋の前に坂木詩緒がいた。かつてトキワ書店のレンタルビデオコーナーでアルバイトをしていた、亮太が密かに思いを寄せていた女の子。恐ろしいぐらいに変形した顔を見て何も言えず、とりあえず部屋に通した。
詩緒はそれからしばらく亮太の部屋に住むことになるのだが…

「ラッキーカラー」
鈴音の診療所で看護婦として働く浦田は、結婚しているかどうかではなく、子どもがいるかどうか聞かれるようになった今も独身だ。既に良心も、浦田の結婚については諦めているようだ。
浦田は5年前のある約束を思い出す。ガンの治療でやってきた赤沢としたあの約束…

「感傷主義」
美和と鈴音と高校時代の同級生だった八木浩一は、自分の学力と家庭の事情により、医者になることを諦め放射線技師になった。病院で美和と鈴音と再会し、それからまた付き合いは続いている。
まさか自分が鈴音のガンのレントゲン写真を撮ることになるとは…。
ディーバというスナックに、かつて歌手を目指して東京に出て、うまく売れずに戻ってきた米倉レイナがいる。八木はディーバの常連だ。ある日八木は、レイナに相談事があると言われ…

「ワン・モア」
拓郎は、鈴音の友人であり、鈴音の診療所を引き継ぐことになった美和に頼まれたことをきっかけに、鈴音とまた一緒に暮らすことになった。厳しい治療にさらされる鈴音の、体の方はわたしがなんとかする。だからあなたには、心の支えになって欲しい。離婚した元夫に一体何を支えられるというのか。
長いこと男やもめで暮らしていた父親から、再婚するから実家の荷物を引きとってくれないかという連絡があった…

というような話です。
これはなかなか評価の難しい作品だなぁ。
僕が本書を読んで感じたことを素直に書くとこうなります。
とにかく巧い。だけど、僕には合わない。
とにかく、作品として全体的に、本当に巧いんです。淡々とした文章を読ませるだけの力があるし、かなり短い話なのに(6編入ってるのに200ページ弱)、登場人物を非常に濃く描き出している。ハッとさせる描写もあるし、どうにもならない宿命みたいなものを背負ってしまっている人達の、それでも必死で生きている姿を丁寧に描いているところなんかホントにいいと思う。
って具合に、良い部分は凄くたくさん見つかるんだけど、でもどうしても、読んでて僕にはあんまり合わないなぁ、という感じなんです。
これは、桜木紫乃作品で初めて読んだ「ラブレス」も似たような感じがしました。あの作品も、細かな要素に切り分けて評価するなら、あらゆる点で巧いと思う。でも何故か、作品全体から感じる印象は凄く良いというところまではいかないのですよね。
たまにこういう作品があって、でも自分の中でどうしてなのかうまく説明は出来ないんです。「ラブレス」についても本書にしても、読んで凄く良かったって感じる人のことは凄く明確に想像出来るんです。そういう力を持った作品だというのは分かる。でも、なんでだか僕にはそこまで合わないのですよね。不思議です。
なんとなく書いてみるんだけど、この著者、ちょっと明るい感じの作品を書いてみて欲しいかも、とか思ったりしました。「ラブレス」も本書も、ちょっとテーマ的にもちょっと重い感じだし、文章的にもなかなか重厚感がある感じで、ちょっとずっしり来ます。もちろん、そういう作品だから僕には合わないんだとかそんなことを言うつもりはないんだけど、もしこの作家の力量で書かれた明るい感じの作品を読んでもしダメだったら、やっぱりダメなのかなぁ、と思えるような気がします。なんか言ってることがよくわからなくなりましたけど。
本書の一番素敵だと思う点は、『ままならなさ』を非常にくっきりと描いている、ということではないかと思います。
本書で描かれる人々は、とにかく何かしらままならない状況を抱えている。それは、離島に飛ばされたことであったり、ガンを患ったことであったり、一方通行の恋であったり、年齢や結婚のことであったり、諦めなければならなかった夢であったり、素直に割り切ることが出来ない未来のことだったりと様々な形を取るんだけど、そのそれぞれのままならなさが本当に丁寧に描かれていく。音も痛みもないままメスで切り裂くようにして、鋭敏に輪郭を描き出していく。
人は色んな生き方を選びとるし、時には選ぶことさえ出来ないまま前に進むしかないこともある。その中で、諦めなくてはいけないこともあるし、見なかったフリをしなくてはいけないこともある。人生の積み重ねの中で避け切れないそれらの出来事は、作中の彼らに様々な感情を与えていく。それらを、直接的な言葉で暴力的に描き出してしまうわけではなく、間や空気を絶妙に配置することでほのかに伝える。それが巧いなぁ、と思います。
ままならなさの中に、ほのかに救いがあり、ラストでパッと明かりが灯るようにして色がつくような話が結構多い。僕らが生きているようなささやかな日常の中で繰り広げられる小さな、でも彼らにとっては濃く重要な出来事が、彼らの感情の揺らぎとともに染み渡ってくる。そんな感じの作品だと思います。
初めの方でも書きましたけど、僕は、本書を非常に巧い作品だと思うのだけど、その一方でどうしても強く自分に合う作品ではないなと思う、なかなか評価のしにくい作品でした。でも、この作品を読んで素晴らしいと感じる人のことは容易に想像できます。かなり実力のある、これからに期待の出来る新人ではないかと思います。読んでみてください。

桜木紫乃「ワン・モア」


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Comment

[7575]

こんばんは。

今回の台風は暴れん坊ですね。
日本中が翻弄されてしまいました(泣)。
特に紀伊半島と四国地方の方、本当にお気の毒です。
予報士の試験は、結局挫折してしまいました(汗)。
一部合格していた部分が免除されたのですが
予報士の試験日が泊りがけの出張と重なり受験できず
次回はまたゼロからのスタートとなってしまいました(泣)。
そこで、もういいかぁ、とあっさり諦めました。
お恥ずかしい次第です(笑)。
台風の予報を見ながら、強風圏は風速15m/sとか
暴風圏は25m/sだったなぁ、とほろ苦く思い出しました。
気象庁もスーパーコンピューターの導入で、精度が飛躍的に
伸びましたので、予報士は必要ないのかも?と思いました。

ところで、この悪天候で外出もままならない私は、今日この作品を
読みました。通りすがりさんが仰るように「ままならなさ」も
感じましたが、よく考えれば人間だれしも思い通りにはいかない
ものですよね(笑)。
こんなギリギリの設定はありえないかもしれませんが、
まぁ大なり小なり…身に覚えはあります。
桜木さんの作品は先日「星々たち」を読み、読後感が好かったので
別の作品も、と思ったわけです。

「ワン・モア」は連作短編という形になっていますので、一話ずつは
短いですが、全体で一つの物語の様に読めました。登場人物ごとに
恋愛話が用意されていて、なるほどなぁ、と思いました。
美和のキャラが際立っていましたね。愛なんか信じない、
という感じです。
虚無的な女性なのかなぁと思いながら読み進んでいくと、
鈴音のために最大限の努力を惜しまない姿を見せつけられて、
オヤッ意外!と驚きました。尖っただけではない人物ですよね。
私が感心したのは、子犬を巡って皆が繋がっていく最後です。
私にとっては、紆余曲折があっても、もう一度(ワン・モア)
という掛け声が聞こえてくるような作品でした。

記録的な暑さが戻ってきそうですが、ご無理のないように
短歌をお詠みくださいね。時々は小説もお願いします(笑)。

[7576]

こんばんはです~。

予報士、諦めてしまいましたか。
でも、仕事と重なったら、なんというか、無念ですが、
仕方ないと言えば仕方ないでしょうか。
まあ、資格そのものが取れなくても、
勉強したことは残りますからね。
どれだけ機械的なものが進化しても、
まあ最終的には人間が必要だろうと思っていたりしますけど、
ともかくも、これまでの試験勉強、お疲れ様でございました。

台風は凄かったですね。
僕のところは、全然直撃って感じじゃなかったのに、凄い風と雨でしたからね。
四国は特に災難でしたね。
四国は割と水不足になってるイメージがあるんで、そういう意味では悪くないのかもですけど、
ちょっとこれは行き過ぎですね。

感想にも書いてあるんだけど、桜木紫乃はなんでか分からないけど合わないのですよね。
巧いなぁ、とは思うんですけど、どうもうまく読み切れない。
なんとなく、僕自身があんまり真剣に生きてないからかもなぁ、なんて思ったりもします(笑)
人生に対して、普通の人はもっと真剣さがあるだろうし、そういう人が読めばずっしりくるのかもだけど、
僕はまあ適当に生きてるからなぁ。
桜木紫乃の描く世界観を、生理的に拒否しちゃってるのかもですね。
分かりませんけど。

昨日の夜から今日の午前中に掛けて、ゲラ(発売前の本)を読んでました。
なかなか面白かったです。
なかなか忙しくて読む時間が取れないですけど、
たまーに読みますんで、気長に待っていてくださいね~。
ドラさんも、夏の暑さにやられないようお気をつけください!

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「ワン・モア」桜木紫乃

直木賞作家、桜木による連作短編集。 質の高さはさすが。    【送料無料】ワン・モア [ 桜木紫乃 ]価格:1,575円(税5%込、送料込) 「十六夜」 北海道の加良古路島にやって来た医師、美和。 高校時代からの付き合いがある滝澤鈴音から電話をもらう。 鈴音は大腸ガン…

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