黒夜行

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暴力団(溝口敦)

内容に入ろうと思います。
本書は、社会畑を主とするノンフィクションライターである著者が、長年暴力団の世界の中でトップである山口組を見続けてきた経験を踏まえ、日本の暴力団という組織について、その来歴や構造や現場などについて余すところなくすくいとった、著者曰く暴力団ものの集大成のつもりで書いた作品、だそうです。これからどんどん落ち目になっていくだろう暴力団という組織の今を残す、という意味で、なかなか面白いノンフィクションになっているのではないかなと思います。
各章の章題に沿って、どんな内容が書かれているのかざっと追ってみます。
第一章は、「暴力団とは何か?」 ヤクザと暴力団の違い、指定暴力団とは何か、そもそもどんな仕組みで成り立っている組織なのか、共生者や暴力団関係者っていうのはどういう立ち位置の人を指すのかなどなど、とにかく暴力団という存在に対する基本的な知識が描かれていきます。
警察庁が22の指定暴力団を定めているそうなんですけど、その22の団体で全暴力団組員数の96.1%をカバーしてるんだそうです。また、トップの山口組だけで全体の半分弱ぐらいの組員数で、山口組って凄いですね。
第二章は「どのように稼いでいるか?」 一般的に「シノギ」と呼ばれる様々な稼業によってお金を稼ぎ、それを親分に上納するという仕組みでやっているわけですけど、暴力団というのは、組の名前を使うことを許可するだけで、どうやってお金を稼ぐかはそれぞれの才覚に拠っているわけです。
基本的なシノギは四つと言われていて、本書では覚醒剤・恐喝・賭博・ノミ行為の四つについて詳しく書かれます。
第三章は「人間関係はどうなっているか?」 どんな経緯で暴力団に入るのか、女性は入団できるのか、どうやったら出世出来るのか、刺青を入れたり指を詰めたりするのは何故か、というような、暴力団に入ること、そして入った後で絡む様々なことについて書かれます。
本書で何度も書かれることなんだけど、本章でも書かれていることに、「暴力団員は一般人を殴れない」というのがあります。これは何故かというと、裁判によって「使用者責任」というものが組長に対しても及ぶという判例が作られたからです。
どういうことかというと、例えば組員の誰かが暴力を振るったことで、そのトップである組長にも「組員を使用した」という責任を負わせる、というものです。この判例以降、山口組なんかでは組員に、絶対に喧嘩はするな、と忠告しているそうですし、山口組と刷られた名刺をすべて回収して破棄している、なんて話もあるそうです。
第四章は「海外のマフィアとどちらが怖いか?」 ここでは、日本の暴力団と、イタリアやアメリカのマフィア・香港の三合会・台湾や中国の流氓(リュウマン)などについて、それぞれどう違うのか、という比較がなされます。
それぞれ様々に違いはあるのだけど、一番の違いは公然性と非公然性だと言います。日本の暴力団は、その存在や成員が公にされている一方、諸外国のマフィアらは、完全に表に出てこない秘密組織です。これは、どんな犯罪をメインに金を稼いできたのか、という違いによるところが大きくて、後々の章で書かれるけども、日本でも最近は「半グレ集団」と著者が呼ぶグループが、そういう非公然性によってマフィア化しているんだそうです。
しかし凄いのは、アメリカと日本のマフィア・暴力団員数の違い。アメリカには26~27ぐらいのファミリーがあり、FBIは約2000人がマフィアのメンバーと見ている。一人のマフィアと行動を共にしているのが10人いると言われるようなので、約二万人という計算。一方日本の暴力団は、準構成員を含めずに構成員だけで3万6000人(2010年末現在)。人口の違いなんかも考えると、日本の暴力団の人数の多さを知ることができます。
第五章は「警察とのつながりとは?」 暴力団対策法はどれだけ効果を上げているのか、芸能人や政治家はなぜ暴力団と付き合うのか、そもそもどうして暴力団はなくならないのかなどなど、暴力団と関わりの深い組織や法律なんかの話が書かれます。
正直なところ、暴力団対策法は実効性という点であまり成果をあげることができていないようですけど、沖縄を除く全都道府県で制定されている暴力団排除条例にはかなり泣かされているそうです。これは、暴力団だと分かると、部屋も借りれないし銀行口座も作れないしという、暴力団は生活をするな、という条例で、不況の煽りを受けて落ち目な暴力団という業界をさらに厳しくさせているんだそうです。
第六章は「代替勢力「半グレ集団」とは?」 ここ最近、暴力団の力が弱まっているのに比例するように、この半グレ集団が幅を利かせているんだそうです。最近では、海老蔵事件で名を上げた関東連合なんかが半グレ集団だそうです。
半グレ集団は、犯罪によってお金を稼ぐという意味では暴力団と同じですけど、基本的には(つまり法律上は)堅気の人間です。そこまで大きく組織立ってもいないし、暴力団のようにその名前で相手を威圧する必要もないのであまりその存在は表には出て来ません。振り込め詐欺や出会い系サイトの運営、偽造クレジットカードの使用やペニーオークションの運営など多岐に渡っていて、生まれた時から様々な電子機器に囲まれて生きてきた世代が、ネットの世界で様々な隙間を見つけて詐欺行為をするというのが大体の彼らのやり方のようです。著者は、
『つまり暴力団は割に合わない稼業になりつつあり、半グレが似合う時代に入ってしまったのです』
と書いています。
最終章である第七章は「出会ったらどうしたらよいか?」 暴力団と関わらなければならなくなったらどうしたらいいか、という基本的なスタンスについて書かれています。基本彼らは一般人に暴力を振るうことができなくなりましたし、とにかく警察のことが怖いので、その辺りのことをきちんと認識しつつ、妥協しない自分を弱く見せない、というようなところが大事になってくるようです。
著者の立ち位置は、暴力団に肩入れするでもなく、かと言って暴力団を敵視するわけでもなく、かなりフラットなところにいるように感じます。そういう視点で書かれている作品なので、僕らが誤解しがちな部分なんかの認識を改めることが出来たり、過剰に怖さを感じずに済むんだなと思えたりする感じの作品でした。暴力団以上にタチの悪い半グレ集団についても結構詳しく書かれていて、これからの世渡りにとってなかなか実用的な作品なのではないかという気がします。
自分から暴力団と関わろうという人はそうはいないでしょうけど、いつ関わることになるかわからない世の中ですし、暴力団の力が弱まっているとはいえ、とりあえず読んでおいたらいいんじゃないかなと思える作品です。

溝口敦「暴力団」



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6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
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20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
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1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
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8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)