黒夜行

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公式本LIVE福島 風とロックSUPER野馬追 僕らは君たちの恋人になりに来た(講談社)

内容に入ろうと思います。
本書は、3.11の震災後の2011年9月14日から19日に掛けて、福島県を横断する形で六日間連続で毎日場所を変えてフェスを開くという「LIVE福島 風とロックSUPER野馬追」というイベントの公式本で、出演アーティストへのインタビューや観客たちの声や写真、企画した人間たちの想いなどが書かれている作品です。
この、フェスの常識を完全に無視した、六日間連続違う場所でフェスをやるという企画の言いだしっぺは、福島県出身であり、それまで「福島のことが嫌いだ」と公言しつつ、福島出身のアーティストとユニットを組んで活動してきた、クリエイティブディレクターの箭内道彦。それに多くの人が賛同し、箭内がそれを思いついた時は誰もが無理だと言ったとんでもないイベントを大成功させてしまった。
構成としては、半分から三分の二ぐらいまでが、出演アーティストたちへのインタビューであり、あとは観客の声や主催者やスポンサーらの想いなどがあれこれと書かれています。
音楽にまるで興味のない僕が何故この本を読んでいるかというと、それはちょっととある形で頂いたというわけなんですけど、僕の中では結構読んで良かったと思える作品でした。
先に書いておくと、本書は僕にとって、音楽の本でもタレント本でも原発の本でも震災の本でも福島の本でもありません。アーティストたちは、震災後の状況で音楽をやることの意味とか、原発の是非とか、故郷福島への想いとかあれこれ語るのですけど、その個々の具体的な話が僕の中で突き刺さったわけではありません(ただ、誤解のないように書いておくと、個々の具体的な話も、僕にとっては共感できるものが多かったです)。僕にとって本書は、『言葉の本』という感じがしました。
僕の中での最近の大きなテーマの一つが、『自分の頭で考えること』で、どんな本を読んでも、どんな考え方に触れても、そういう視点から物事を捉えてしまうようになっているのだけど、その観点から見て、本書は非常に良い作品だと僕は感じました。
というのも、特に福島に強く関わりのあるアーティストらの考え方や立ち位置が非常にはっきりしているからです。
本書で書かれる、様々なアーティストの考え方に合わなさを感じるという人はもちろんいるでしょう(一応何度も書いておきますけど、僕は結構賛同できる意見が多かったです)。でも、はっきり言って僕の中では、そこは重要ではない。僕にとって重要なのは、『彼らの言っていることの正しさ』ではなくて、『それが自分で考えた意見なのかどうか』ということだ。
恐らくこれは間違った考え方だと思うのだけど、最近僕は、『たとえどれだけ正しい意見であっても、自分の中で咀嚼しないでただ人の意見の受け売りで済ませている人よりは、たとえどれだけ間違った意見であっても、自分の中でひたすらに考えて考えて自分の立ち位置をはっきりさせている人の方が遥かにいいのではないか』と思えてしまう。本書で様々なアーティストが語る意見の正しさは僕には分からない。好き嫌いで言えば僕にとって好きな意見が多いけど、正しいかどうかと聞かれると、僕にははっきりと断定が出来るような背景や勇気や経験はない。でも、本書で語る人々は、それをはっきりと明確に語る。その語り口からは、どんなに激しく否定されようともその意見を手放すつもりはない、という強い意思を感じることが出来る。
とにかく思考停止してはいけない、考え続けなくてはいけない、というのが最近の僕の大きなテーマの一つであるので、そういう意味で本当に色々と考えさせる作品でした。
個人的に引用したいなと思わせる箇所はかなりあったのだけど、全部引用しても仕方ないと途中で判断したので、二つだけにします。

TOSHI-LOW(BRAHMAN)『いちばん初めに東北に電話したときに、「何持っていけばいい?」って電話したら、「いや、TOSHI-LOWくん、隣にいる大事な人たちを抱きしめて」って言われて。何もかも流された人たちが、「俺たちはそれができないやつが周りにいっぱいいるんだから」って。「『行ってきます』って送り出した子どもの『ただいま』を聞けかなったやつがいっぱいいるんだから」って。「だから今、TOSHI-LOWくんのできることは、俺らのところに来ることじゃなくて、抱きしめることだよ」って言われて。そうだなあと。そう言えるその人が、すばらしいなと思ってね。』

西田敏行『今、経済を優先してその後に儲かればいい暮らしができるんだっていう、そんなリスキーなところで走っている豊かさって、自分はほんとうの豊かさではないと思うし、恐らくLIVE福島に出てくれた、あるいは来てくれた人達の思いもそうだったんじゃないかなぁ。』

他にも共感できるフレーズは結構あったんですけど、特にこの二つは自分の琴線にバシバシ触れたんで引用してみました。
色んな考え方があっていいと思う。アーティストたちの意見を間違ってると思ったっていいし、偽善だって思ったっていいと思う。僕は、本当に大切なのは、自分で考えるということだと思うのだ。特に今はそう。様々な情報に踊らされて、お上の言うことに従順という姿勢は、これからの日本を生きていく中でかなり難しい立ち位置に立たされるのではないかと思う。手元に届く情報も、国を動かす人達の思考も信頼しにくくなっている今の日本の中で、せめて自分のこと、そして自分のちょっとした周りのことだけでも自分の頭で考えて行動しないと、もうダメなんじゃないかって凄く強く思うのだ。みんなと同じじゃなくたっていいし、将来笑われたっていい。結果的に間違うことを恐れずに、自分で導き出した結論にそって自分の人生を決めていくというのは、何よりも重要なことになっていくのではないかと思う。
だから僕は本書を、『自分の頭で考え自らの立ち位置を明確にしている人達が吐き出す言葉の塊』と捉えた。本書で書かれている様々な意見が正しいかどうかなんてことには、はっきり言って僕には興味がない。好き嫌いの判断はあるけど、それ自体もどうでもいい。そうではなくて、このとんでもない事態に対して、今だって自分の立ち位置をはっきりさせるのに多くの人が苦労している中で、大震災から半年、いやそれよりももっと前から自らの意見を明確にし、それを音楽やそれ以外の形で発信し続けたかれらのあり方を知り、そのあり方を見習おうと思えるようなそんな作品だと僕は思うのです。
そんな読み方をしているので、本書を音楽本とかフェス本とかアーティスト本とか原発本とか、そういう形で読んだ人がどう感じるのかは正直よくわかりません。僕は、『言葉の塊』として、本書は凄く良い作品だと感じました。
音楽というものに絶妙な距離感、というものもいいと思うんですね。多くのアーティストが書いているように、震災直後、音楽というものの無力さを感じたという意見が多かった。それは、音楽というものが直接的に震災や復興というものと結びつかないからだと思う。だから多くのアーティストが、今そんなことしている場合なのか、と感じた。
その距離感の中で、原発の問題を語る、というのが、僕には凄くいいなと感じられました。これが、小説とか映画だとまた違った形になるだろうと思う。もっと直接的に原発の問題とリンクするのではないかという気がします。でも、音楽ってちょっと違って、もう少し離れたところにいる感じがする。だから、原発っていう、今まさに生々しさを放っているものを語るには、いい距離感な気がする。
それでいて音楽って、リアルタイムのフィードバックがあるのが面白いんだろうなぁ、って気がします。昔筒井康隆が新聞連載で、読者からの反応を小説に取り入れつつ連載を進めていく、なんていうことをやってたはずだけど(タイトルは忘れた)、それにしたって相当無茶な企画だったと思う。小説や映画っていう表現だと、リアルタイムで相手の反応を取り入れるということが出来ない。でも、音楽のライブってそれが出来る。それがまた、まさに生々しさを放っている事柄に対してのリアクションとして、音楽というのはありなのかもしれないなぁ、と感じさせてくれました。
個人的には、凄くあれこれと考えるきっかけを与えてくれる、凄く良い『言葉の塊』だと思います。僕は、たまにつけるテレビと、店内で流れる有線以外では音楽をまったく聴かないという人間で、フェスももちろん行ったことがないんですけど、本書を『言葉の塊』として捉えるならば、凄く良い作品だと思いました。是非読んでみてください。

講談社「公式本LIVE福島 風とロックSUPER野馬追 僕らは君たちの恋人になりに来た」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)