黒夜行

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夜明けの図書館(埜納タオ)

内容に入ろうと思います。
本書は、僕が読むにしては珍しくコミックです。
舞台は暁月市立図書館。新米司書として配属された葵ひなこは、慣れない図書館業務にてんてこまいになりながら、難問であるレファレンス業務に力を入れている。
レファレンス業務というのは、利用者からの漠然とした問い合わせだ。本のタイトルや著者名などで本を探しにくるのではなく、こういうことが載っている本、こういうことに使える本、というような感じで問い合わせがくるものを、様々な形で対応していく業務です。市役所から出向で来ている、庶務経理担当の大野さん、情報サービス担当の石森さん、葵と同じく司書の小桜さんなどと共に、かなり難問のレファレンスに立ち向かう人々を描いた作品。

「記憶の町・わたしの町」
80年前の郵便局が写った写真が載っている本はないだろうか、という問い合わせ。かつて家の事情で叔母の家に預けられていたその人は、当時自分と遊んでくれた郵便局員のことをよく夢に見るのだという。

「父の恋文」
時田春恵50歳は、物置を整理中、亡き父が遺した手紙を発見する。迷惑ばかりかけ通しだった父。くずし字で書かれた手紙を解読してやろうと思い立って図書館に向かう。
くずし字の辞典で調べるも、冒頭だけで恋文だと分かってしまった春恵は、解読を放棄する。しかしその後、再度解読に当たることにした春恵から、葵はその手紙の解釈を問いかけられ…。

「虹色のひかり」
子どもが、というよりも、図書館業務全般が得意ではない大野は、「ぼく、嘘つきじゃない」という子どもの相手をすることに。なんでも、自分の影が光るのを見た、と言ったところ、クラスメートたちから嘘つき呼ばわりされたというのだ。真剣に取り合うつもりはなかった大野だったが…。

「今も昔も」
相野かなえは、ふと耳にした都市伝説に囚われている。あかつき橋で満月の夜に振り返ったら、あなたの大切な人が消えてしまう、という噂だ。その真偽を知りたい、という難問だったが、あっさりその元の話は見つかる。しかし、やっぱり噂通りのことが書かれていて落ち込むかなえを見た葵は…。

というような話です。
これは素敵なコミックでした。普段あんまりコミックは読まない人間なんで、コミックを結構読む人からしたらどうなのかはちょっと分からないんですけどね。
僕自身が書店員だから、というのも関係してくるかもしれません。書店員も司書と同じく、お客さんから色んな問い合わせを受けます。中には本書で描かれているような、こういう感じの本、というような問い合わせもあるんですね。
でも、言い訳だけど、これがなかなか難しい。質問に答えること、が難しいのではなくて、質問に答える時間を捻出するのが難しいんです。
司書の方も、そりゃあ他の時間に追われて時間はないでしょうけど、書店員もなかなか時間はない。毎日どっさりやってくる本を並べたり、他にも色んなことをしなくちゃいけない。だからこそ、問い合わせ一つに物凄く長い時間を割けるかというと、結構難しい。
もちろん、タイトルを言われて、その在庫の有無だけ答えているような仕事は嫌だなぁ、とよく思います。でもやっぱり、調べるのにも限界がある。それに、図書館の場合なら(もしかしたら違うかもしれないけど)、『図書館内にある本の中から最適なものを見つけ出す』ということではないかという気がするんです。ただ書店での問い合わせの場合、問い合わせの内容によっても変わるけど、『世の中に出版されているありとあらゆる本の中から最適なものを見つけ出す』という問いかけであることもあります(もちろん、今店内に在庫があるもので探す、という問い合わせもあるのだけど)。そうなると、もうどう探していいのかかなり難しいですよね。
また、これは本書を読んでからのイメージだからまた間違ってるかもしれないけど、図書館では『漠然とした問い合わせの場合、特定の本が聞かれていることは少ない』のではないかというイメージがあるんだけど(本書でも、くずし字が読めるようになる本など、特定の本を指しているわけではない問い合わせがほとんど)、書店の場合、『漠然とした問い合わせだけど特定の本が聞かれている』ってケースが結構あるんですね。タイトルも著者名も出版社も何も覚えてないけど、特定のある本を探している、というケースが。そうなると、これがまた難しい。
まあそんなわけで、司書と書店員ではちょっと問い合わせに対するスタンスみたいなのが違ったりするかもしれないけど、でも僕も、出来ればお客さんの問い合わせには答えてあげたいと思うんで、本書はなんか凄くよくわかるなぁ、という感じがしました。
話も、全部レファレンス業務なんだけど、少しずつ違っている。「記憶の町・わたしの町」では、探している本にたどり着くまでの過程を、「父の恋文」では、司書の仕事の範囲を逸脱した解釈の手伝いを、「虹色の光」では、それぞれの成長を、「今も昔も」では、本の持つ可能性や奥深さを伝えている感じで、話ごとに違った工夫をしていてよかったなと思います。
また、レファレンス業務だけではない部分での、図書館の細部みたいなものがちょろっと描かれていて、そういうのも面白いです。僕は、結構本を読んでるくせに、図書館に入り浸った経験ってのがあんまりなくて(本を借りて読むってのが苦手で、学校の図書館なんかにもほとんど行かなかった)、大学時代は調べ物とかで仕方なく行ったけど、大学の図書館って本書で描かれているような感じとちょっと違うから、図書館の裏側っぽいものが垣間見れてよかったなぁと思います。
どの話もかなりよかったんだけど、個人的に好きなのは「虹色のひかり」かな。この話で大野が子どもにバシッというセリフが凄くいいんだよなぁ。大野自身の葛藤も描かれていて、話としてはこれが一番好きだなと思います。
本が好きな人、図書館によく行く人、図書館や本屋で問い合わせをしたりする人なんかにはかなり面白く読めるんじゃないかな、という感じがします。是非読んでみてください。

埜納タオ「夜明けの図書館」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)