黒夜行

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武器としての決断思考(瀧本哲史)

内容に入ろうと思います。
とその前に、著者の略歴みたいなものをざっと書いてみようかな。本書に書いてあるものをざっくり抜粋します。

『東京大学法学部を卒業後、大学院をスキップして直ちに助手に採用されるも、自分の人生を自分で決断できるような生き方を追求するという観点から、マッキンゼーに天職。3年で独立し、今世紀中には返済できないほどの借金を負ってしまった企業の債権などを手がける。また、他の投資家が見捨てた会社、ビジネスアイデアしかない会社への投資でも実績を上げる。京都大学では、「意思決定論」「起業論」「交渉論」の授業を担当し、教室から学生があふれるほどの人気鋼材になっている。(中略)星海社新書の「軍事顧問」も務め、本書が単著デビュー作となる。』

凄い人ですね、ホント。なんていうか、羨ましいです。東大とか京大とかマッキンゼーとかって経歴がどうこうってことじゃなくて、自分で道を切り拓ける辺りが。
本書はそんなとんでもない著者による、『決断思考』を養うための本です。基本的には、京都大学で行なっている「意思決定論」の授業の内容をベースにしているようです。
先に書いておくと、本書を読んでいる過程でドッグイヤーをしまくったんですけど、ドッグイヤーをした部分について全部引用したり内容に触れたりすると、本書の内容ほとんどについて書かないといけなくなってわけがわからなくなるので、本書の肝である『ディベート思考のやり方』の具体的な部分にはほぼ触れないことにします。
さて、ちょろっと名前を出してみましたけど、本書では『武器としての決断思考』を養うために、『ディベート思考』なるものが提示され、それについてかなり詳細に解説が加えられていきます。
『ディベート思考』というものがどんなものなのか、という話を書く前に、まず、何故『ディベート思考』が(というかどんなものであれ『決断思考』が)必要とされるのか、という話を先に書きます。これは、ガイダンス、と名付けられた、授業前の講義内容の説明みたいな章で書かれているものです。
これまでの日本は右肩上がりの成長をしていたので、誰しもが大体同じような未来を想定しながら自分の人生を設計することが出来ました。「みんなと同じ」「これまでのやり方」を選択しておけば、大きな問題はない、そんな時代でした。
でも今の日本は、もはや誰にも明確な未来予測が出来ない国になってしまいました。僕らはもう、過去のやり方が通用せず、未来予測も出来ないという状況の中で、自分の人生について、自分で決断をしていかなくてはならない、そういう時代の中にいます。
著者は自らの職業を『ゲリラである若者たちに武器を配る軍事顧問だ』と書いています。
中央政府が安泰だった時代であれば、その中央政府の言うことに従っていればよかった。でも今の時代は、中央政府が崩壊し、正規軍がいなくなってしまった。僕らは、なりたくなくてもゲリラとして戦場で戦わなくてはならなくなってしまった。
ただ僕達は、突然ゲリラになった(ならざるをえなかった)ので、いきなり最前線に立っても、あっという間に全滅させられてしまう。
軍事顧問というのは、様々な武器の選択肢を提示し、個々人がその中から自分にあった武器を選ぶのを手助けする役割を担います。まさに著者はそれをやろうとしている。
では、この時代に、ゲリラである僕達が持つべき価値のある『武器』にはどんなものがあるのか。
あらゆる場面で決断が必要とされる世の中だからこそ、著者は、『意思決定の方法』を最優先に身につけるべきだ、と言います。
さてそこで著者は本書で、『意思決定の方法』として『ディベート思考』という武器を僕達に提示し、その使い方を懇切丁寧に教えてくれます。本書の内容のほとんどは、『ディベート思考』という武器の使用方法であり、それについてはこのブログではほとんど触れないことにします。気になる人は是非本書を読んでみてください。
僕は実は、大学時代にディベートを少しだけかじったことがある。実際ほとんど使いこなせなかった(というか、僕はESSにいまして、ディベートそのものも英語でやってたのですよね。ディベートそのもの、というよりは、英語でディベートをする、という部分に僕には大きなハードルがあった気がします。ディベートって、かなり短い時間で自分の意見をまとめて、かなり早口で自分の意見を言わないといけないんですよね。無理ッス)ので、ディベート自体は身についていないのだけど、本書を読んで、まさに大学時代に教わったディベートの知識がかなりそのまま載っていて、僕は本書を、復習するような気分で読みました。
所詮復習だから、僕的に本書には価値がなかったか?いや、もちろんそんなことはありません。
本書は僕にとって、大きく二つの意味で非常に有益な本でした。
まず一つ目は、ディベートが実生活に使える実学である、ということをきちんと教えてくれたこと。
大学時代、ディベートのやり方はなんとなく学んだとは言え(本書を読んで、そういえばこんなことやったな、と思いだした程度なので、ほとんど覚えていなかったわけですけど)、それがじゃあどう役に立つのか、というのは、自分の中でほとんど理解できていませんでした。次でも詳しく書くけど、ディベートというのは『ディベートをする』ために必要な知識であって、ディベートなんてほとんどする機会がないんだから使い道ないよなぁ、と思っていた僕の考え方を変えてくれました。
本書の中で、非常に重要なことが書かれています。それは、実学には『知識・判断・行動』という三段階が存在すること。
例えば自動車の免許を取る時に教わる『認知・判断・動作』。道路にボールが転がってくる(認知)→子どもが飛び出してくるかもしれない(判断)→ブレーキを踏む(行動)という具合です。
実学もまさにそうで、知識として持っているだけでは武器にはならない。ある知識を持っていた時、それをまずなんらかの判断に繋げる。そしてその判断を通して、何かの行動に移す。そこまでやらないと、実学に価値はない、と本書では言います。
本書で使われている意味とは少し違うと思うけど、こんな風に言えるでしょう。僕は、ディベートのやり方という知識だけは持っていた。でもそれを、判断・行動に繋げる方法を知らなかった(というか、自分の実生活の中で、それが判断・行動に繋がる知識だという認識がなかった)。本書はそのきっかけになったのでした。
そしてもう一つ。こちらの方が圧倒的に重要ですが、ディベートを『一人でする思考』に応用することが出来るのだ、ということを教えてくれました。
さっきもちょっと書いたけど、僕の中でディベートというのは、『誰か相手がいる状況で議論を戦わせる』ためのもの、だと思っていました。議論をするツールであって、思考のためのツールではない、という思い込みがありました。
でも本書を読んで、ディベートの知識をきちんと使えば、『決断思考』をするための強力な武器になるのだ、ということが凄くよく分かりました。
ディベートの知識をあらかじめ持っていた僕でさえ、本書はこれだけ有益だったのだから、ディベートに触れたことがない人には、本当に隅々まで役に立つ作品ではないかと思います。
しかし僕は、大学時代になかなか面白いことやってたんだなぁ、と本書を読んで改めて思いました。本書には、『推論』についての話が出てくるんだけど、これもまさに大学時代まったく同じことを教わったのだよなぁ。
推論というのは、主張と根拠を繋ぐものです。とこれだけの説明ではよくわからないだろうか例を。
例えば、『Aさんは良い人だ』(主張)に対して、『お年寄り道案内をしていたから』(根拠)がある。これをもっと詳しく見ていくと、(主張)と(根拠)の間に、『人助けをすることは良い事だ』(推論)があることがわかります。相手の主張に反論するには、この推論の部分に突っ込むといいよ、というようなことが書いてあるんだけど、まあその辺は本書を読んでください。
僕はこれを大学時代にいたESSで、『ロジックの三角形』という名前で教わりました。主張を頂点にして、その下の左右に根拠と推論を配置した三角形。そしてこの三角形は、推論の部分を頂点とすることで、永遠にしたに同じような三角形を繋げることが出来る、みたいな感じで教わりました。大学時代にいたESSはかなり頭のおかしなところだったし、そこで学んだことが今どれだけ活かされているかと聞かれるとそれは困るけど、まあなかなかちゃんとしたことをやってはいたんだなぁ、と改めて認識しました。
ディベートのやり方についての詳細については書かないけど、僕は本当にこの部分をかなり真剣に読んだ。新書をこれだけ真剣に読んだのは久しぶりかもしれない。元々知っている知識はかなりあった。忘れていたものも多かったけど、僕にとっては復習的な意味合いが大きかった。でも、元々知っていたことでも、本書の説明をなるべく丁寧に読んだ。練習問題として提示されているものも、自分なりにちゃんと考えた。まだ本書を読んだだけでは、ディベート思考というのは僕の血肉にはなっていないだろうけど、僕自身が持つ具体的な問題についてディベート思考を使って考えてみることで、ディベート思考の考え方を見につけたいなぁ、と思っています。
別に本書は、仕事人だけに必要なものではありません。仕事以外の場でも、人生における重要な決断というのはたくさんあります。結婚するかどうか、家を買うかどうかなどなど。本書の巻末にはこんな風に書かれています。

『ディベートの手順なんて忘れてもいい。この本を読んで、一つだけ忘れずに心に留めておいてほしいのは、「自分の人生は、自分で考えて、自分で決めていく」ということ。』

これは、誰にでも当てはまることでしょう。特に、これから社会の中でいくつもの大きな決断にさらされるであろう20代30代の人たちには、どんな立場の人であれ必要な『武器』ではないかと思います。
僕は本書を読み始める前に別の本を読んでいて(鴻上尚史「孤独と不安のレッスン」という本です)、それを一旦読むのを止めて本書を読み始めたんだけど、その「孤独と不安のレッスン」の中に、『悩むことと考えることは別物』というような話が出てきて、ちょっと本書と通じるものがあるな、と思いました。悩んでいる状態というのは、具体的なことを何も思い浮かべないまま、ただどうしようと思っているだけです。でも本書で武器として渡された『ディベート思考』を使えば、悩んでいる事柄をディベートの俎上に載せるにはどういう論題にすればいいか、その論題に対して具体的にどう考えていけばいいのか、というのが分かるので、ただ悩んでいるだけの状態から脱しやすくなるのではないかと思います。
最後に、本書で繰り返し書かれていることに触れて終わろうと思います。それは、『ディベート思考は、正解ではなく、現時点での最善解を導き出す手法である』ということ。正解を導き出すとなると、結局どうしたらいいのかわからなくなって思考停止に陥りがち。そうではなくて、とにかくディベート思考を始めたら、何らかの結論を出すことを考える。ディベート思考に沿ってあらゆることを考えて、その結論として、唯一の正解かどうかはわからないけど、とりあえず今現時点での最善解を見つけ出そう、という発想です。だから、正解を導き出せる思考法ではない、ということはきっちりと頭に入れておくべきでしょう。
現時点での最善解をディベート思考によって導きだすことで、もしその導きだした最善解が結果的よくなかった時、議論の道筋は既に出来上がっているのだから、どこを修正し何を切り替えたらいいのかがはっきりわかるのだ、と本書では書かれています。何よりも、思考停止に陥ることは避けなくてはならない。具体的な様々なことを考え天秤に掛け、その結果最善解をとりあえず導き出し、それが結果的にダメであれば、議論の筋道を遡ってまた別の最善解を導き出せばいいのです。正解ではなく、最善解を導き出すための方法だ、というのは非常に重要です。
今日本で生きるということは、荒波の中出航する船にいるようなものかもしれません。その中にあって本書は、進むべき方向を決めるための手段である羅針盤のような役割を果たすのではないか、という気がします。これからの時代、本書で提示されるような武器(もちろん、本書で提示されるものだけがこれからの世の中に必要な唯一の武器というわけではないでしょう)を持たずに生きることは、羅針盤なしで荒海に立ち向かうようなものかもしれません。自分に必要な武器であるかどうかは、読んでから判断すればいい、と僕は思います。是非読んでみてください。

瀧本哲史「武器としての決断思考」



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13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
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コミック

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3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
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1位 千早茜「からまる
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
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新書
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
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小説以外
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